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Microbe Atlas · 真菌

Rhizopus oryzae

分類
ムーコル / MucoralesRhizopus
科目
Medical Microbiology
トピック
4/10: Zygo- (phyco-) mycoses. Aspergillus species and Penicillium genus
自然耐性薬
フルコナゾールイトラコナゾールボリコナゾール
原因となる疾患
ムーコル症眼窩尖端症候群
作用する薬剤
アンフォテリシンBイサブコナゾニウムポサコナゾール

🧠 全体像:Rhizopus oryzae(=R. arrhizus)は、の起因菌として最も多く報告されるRhizopus属の代表種であり、全体の代表として読むとよい。組織では幅広くで、隔壁がないか乏しく、不規則に分岐する菌糸として見え、細く規則的に隔壁を持つAspergillus fumigatusとの区別がに直結する——にはが効かないからである。

微生物学的な特徴

  • に属するの1種。同じ目にはMucor indicus・Rhizomucor pusillusなどがある
  • 菌糸の形態:幅6〜16 μm(最大25 μm)と太く、隔壁がないか乏しく、で不規則に分岐する1
  • 分岐角度は古典的に「は直角に近い(約90度)、Aspergillusは鋭角(約45度)」と教えられるが、組織内では組織の圧や標本作製の影響で判別しにくい。菌糸の太さと不規則な分岐のほうが信頼できる鑑別点である1
  • 属の同定:を伴うがの直上から生じる点がRhizopus属の特徴(Mucor indicusはを欠く)
  • 起因菌として最も多く報告されるのはRhizopus属・Mucor属・Lichtheimia属で1、R. oryzaeはそのうちRhizopus属の主要な種である
項目 (Rhizopus・Mucor・Rhizomucor) Aspergillus属
菌糸の幅 6〜16 μm(最大25 μm) 3〜5 μm
隔壁 ないか乏しい 規則的にある
分岐 不規則(古典的には直角に近いとされる) 規則的な二分岐(古典的には約45度の鋭角)
きわめて高い 高い(重症例)
無効 第一選択
治療の柱 +外科的切除・

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporangiospores'>胞子嚢胞子</span>の吸入・接種"] --> B{"宿主の状態"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic ketoacidosis, DKA'>糖尿病性ケトアシドーシス</span><br>鉄過剰・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deferoxamine'>デフェロキサミン</span>投与"| C["血管壁への急速な浸潤"]
    B -->|"好中球減少・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematologic malignancy'>血液悪性腫瘍</span>"| C
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue ischemia'>組織虚血</span>"]
    D --> E["鼻腔・副鼻腔から<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cribriform plate'>篩板</span>を貫通し眼窩・脳へ進展"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhinocerebral mucormycosis'>鼻脳型ムーコル症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='black necrotic eschar'>黒色壊死痂皮</span>"]

⚠️ がなぜ最大の危険因子なのか。 は酸性・高血糖環境で鉄が高まる性質を持ち、でが増える状態は菌の増殖を直接後押しする。同じ理由で、の治療薬(鉄とを作るが、その体自体を菌が鉄源として利用してしまう)もリスク因子になる。

感染経路と疫学

  • 土壌・腐敗有機物中に広く分布し、の吸入または創傷からので感染する
  • 高リスク群:糖尿病(とくに)、(治療中)、好中球減少症、、後、長期ステロイド使用
  • 基礎疾患によって病型が偏る:文献929例の集計では、糖尿病患者は副鼻腔病変、悪性腫瘍患者は肺病変が多かった2
  • ヒト-ヒト感染はない

起こす疾患

病型 特徴
最も。・鼻腔の、頭痛、眼窩痛、。を越えて脳へ進展しうる。糖尿病患者に多い
高度の好中球減少やの患者に多い1。血管侵襲による梗塞・
外傷・熱傷・からの。免疫正常者で最も多い病型で1、急速に拡大する壊死性病変をつくり、深部へ進展・播種しうる
まれ。ただし新生児ではで最も多い病型で、死亡率が高い1。穿孔・出血を伴いうる
肺などから血行性に広がる。文献集計で死亡率が最も高い病型(96%)2

診断

  • (標本、蛍光染色)・:幅広くで隔壁の乏しい菌糸が不規則に分岐する。組織形態でので最も多いのはAspergillus属との取り違えで、形態だけで両者を見分ける精度を示したデータは無いため、培養または分子学的・組織内同定法での確認が強く推奨される1
  • 血清・(1→3)-はAspergillus症の補助診断に用いる検査で、の検出には役立たない——これらが陰性でもは除外できない
  • 培養は感度が低く、のすり潰し操作で菌体が破壊されやすいため陰性でも否定しない
  • 画像:副鼻腔・眼窩・脳の/で進展範囲を評価する
  • ⚠️ 免疫不全患者でを疑ったら、診断確定を待たずに直ちに治療を始める。診断のための検体採取は治療開始と同時に行う1

治療と予防

  • :全身抗真菌薬に加えて、可能な限り早期に完全な切除・を行い、必要に応じて繰り返すことが強く推奨される1
  • 一次治療の抗真菌薬:の製剤 5〜10 mg/kg/日(中枢神経病変では10 mg/kg/日)。少量から数日かけて増量せず、初日から全量を投与する1
  • (活性体)と(遅延放出錠・静注)も一次治療として中等度の強さで推奨され、が効かない・使えないときのとしては強く推奨される。静注で病状が安定したあとの経口への切り替えにも、この2剤が用いられる1
  • ⚠️ は無効。予防投与中の患者でブレイクスルー・が報告されており、「糸状菌感染だから」と決め打ちしない
  • 基礎疾患の是正(血糖・アシドーシスの補正、の中止、可能なら好中球減少の解除)を並行して行う
  • 💡 なぜ外科と薬の両方が要るのか。 血管侵襲で虚血・壊死に陥った組織には薬剤が届きにくい。文献症例の集計では、は無治療3%、で治療された例61%、外科単独57%、抗真菌薬と外科を併用した例70%で2、無治療ではほぼ救命できず、併用例の成績が最もよかった(治療法を比べた試験ではなく、報告例の集積である点に注意)

まとめ

  • は幅広くで隔壁の乏しい菌糸が不規則に分岐するのが特徴で、細く規則的な隔壁を持つAspergillusと区別する。古典的な分岐角(直角対45度)は組織内では当てにならず、培養・分子学的手法での確認が勧められる。
  • の有無がRhizopus属(あり)とMucor属(なし)を分ける属レベルの鑑別点。Rhizopus属はで最も多く報告される起因菌の1つで、R. oryzaeはその主要な種である。
  • ・鉄過剰()・好中球減少・が主要な危険因子。
  • は血管侵襲により急速に眼窩・脳へ進展し、を特徴とする。
  • は無効。治療の柱は早期の外科的切除・と、初日から全量の。・は一次治療の選択肢かつ救済・経口切り替えの薬である。
  • ・はの検出に役立たないため、これらの陰性でを除外できない。

出典

  1. 1.Global guideline for the diagnosis and management of mucormycosis: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the Mycoses Study Group Education and Research Consortium(European Confederation of Medical Mycology (ECMM) / Mycoses Study Group Education and Research Consortium (MSG-ERC)・2019)PMCの著者稿全文(PMC8559573)で、最も多く報告される起因菌がRhizopus属・Mucor属・Lichtheimia属であること、組織内のムーコル目菌糸は幅6〜16 μm(最大25 μm)で隔壁がないか乏しくリボン状で不規則に分岐し、古典的な「90度対45度」の分岐角は組織内では判別しにくいため幅と不規則な分岐の方が信頼できる鑑別点であり、形態での鑑別精度のデータは無いので培養または分子学的手法での確認が強く推奨されること、組織形態による誤診で最も多いのがAspergillus属との取り違えであること、肺ムーコル症は高度の好中球減少や移植片対宿主病の患者、鼻眼窩型は糖尿病患者に典型的であること、皮膚・軟部組織ムーコル症は免疫正常者で最も多い病型であること、消化管ムーコル症はまれだが新生児では最も多い病型で死亡率が高いこと、免疫不全患者でムーコル症を疑ったら診断を待たず直ちに治療を始めることが強く推奨されること、可能な限り早期の完全な外科的治療(必要に応じて反復)が強く推奨されること、一次治療はリポソーマルアムホテリシンB 5〜10 mg/kg/日(初日から全量、中枢神経病変では10 mg/kg/日)が強く推奨され、イサブコナゾールと遅延放出錠・静注のポサコナゾールは一次治療として中等度、救済治療として強く推奨されること、経口への切り替えにはイサブコナゾールまたはポサコナゾール遅延放出錠が強く推奨されることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Epidemiology and Outcome of Zygomycosis: A Review of 929 Reported Cases(Clinical Infectious Diseases・2005)抄録で、1885年以降の英語文献929例の集計で、基礎疾患は糖尿病36%・悪性腫瘍17%・基礎疾患なし19%、病型は副鼻腔39%・肺24%・皮膚19%で23%が播種したこと、死亡率は病型で異なり播種例の96%が死亡したこと、悪性腫瘍では肺病変、糖尿病では副鼻腔病変が多かったこと、生存率は無治療3%、アムホテリシンBデオキシコール酸塩61%、外科単独57%、抗真菌薬+外科70%であったことを確認した(文献症例の集積で、治療法を比べた試験ではない)。閲覧 2026-09-27