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Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 先天性疾患

原発性免疫不全症候群(重症複合免疫不全症・ディジョージ症候群・X連鎖無ガンマグロブリン血症・慢性肉芽腫症・選択的IgA欠損症)

Primary immunodeficiency syndromes (SCID, DiGeorge, X-linked agammaglobulinemia, CGD, selective IgA deficiency)

別名
PID原発性免疫不全症
臓器系
免疫・膠原病
科目
ImmunologyEmbryology
トピック
免疫学 6.2:免疫不全発生学 16.4:頭頸部:臨床
鑑別疾患
HIV感染症・AIDS
続発疾患
敗血症カンジダ症気管支拡張症
治療薬
スルファメトキサゾール+トリメトプリムイトラコナゾール
原因微生物
Staphylococcus aureusBurkholderia cepaciaSerratia marcescensAspergillus fumigatusNocardiaPneumocystis jiroveciiCandida albicansCytomegalovirus
症状
痙攣
検査値
血算カルシウム
下位分類
分類不能型免疫不全症慢性皮膚粘膜カンジダ症

🧠 全体像は、免疫系のどこか一段階が遺伝的に欠けることで生じる先天性であり、「欠けている部品」が「かかりやすい病原体」を決めるという一点さえ押さえれば、一見バラな5疾患を1つの地図に整理できる。B細胞()が欠ければ莢膜を持つ細菌への易感染性(XLA・)、T細胞(細胞性免疫)が欠ければウイルス・真菌・病原体への易感染性(SCID・)、の殺菌能が欠ければ菌・真菌による化膿性感染と膿瘍()というように、欠損部位ごとに驚くほど特徴的な感染パターンが決まる。この「病歴・感染パターンから欠損部位をする」思考は、を疑う最初の一歩であり、臨床で反復性感染症を診るときにそのまま使える。

原発性免疫不全を疑う臨床的手がかり

免疫不全は「感染症・腫瘍へのの増大」と定義され、遺伝子変異による原発性(先天性、全体の約10%)と、腫瘍・・加齢・(HIV等)により既存の免疫系が外部から損なわれる続発性(後天性、約90%)に大別される。本稿で扱う5疾患はいずれも原発性に属する。

以下のような臨床像は、を疑う典型的な手がかりになる。

⚠️ ボーイ」デビッド・ヴェッター(David Vetter, 1971–1984, テキサス)はSCIDの象徴的症例。 生涯のほぼすべてを無菌アイソレーター内で過ごし、12歳で死去した。抗体を作れず細胞性免疫も欠く患者が、ありふれた病原体への曝露だけで致死的になりうることを示す歴史的事例である。

分類の枠組み:欠損部位でみる4パターン

は、免疫系のどの構成要素が障害されるかによって大きく4つに分類される。この枠組みに5疾患を当てはめると、それぞれの立ち位置が明確になる。

欠損部位 代表疾患 易感染性のパターン
T細胞(細胞性免疫) SCID、 ウイルス、真菌(CandidaPneumocystis)、病原体、生そのものによる重症感染
B細胞( X連鎖無血症(XLA)、 莢膜を持つ化膿性細菌(肺炎球菌、等)による反復性の副鼻腔・肺・中耳感染
T細胞+B細胞の複合欠損 SCID(本態は複合免疫不全) 上記両方が重なった全身性の重症感染
(好中球・マクロファージ) 菌・真菌による化膿性感染・膿瘍・

💡 表のとおりSCIDは名前に「複合」を含む通り、T細胞とB細胞(時にNK細胞も)が同時に欠けるため、単一系統の欠損よりもはるかに重篤かつ緊急性が高い。一方、同じ「体の欠損」というくくりでも、XLAはB細胞そのものが存在しない完全欠損、はIgAという1つのだけが欠ける部分欠損であり、重症度は対照的である(なお、B細胞は存在してもCD40Lの欠損によりができないのような「もう一段別の欠け方」も存在するが、本稿の対象5疾患には含めない)。

各疾患の病態生理と遺伝形式

重症複合免疫不全症(SCID)

SCIDは単一疾患ではなく、T細胞の発生・機能に必須の遺伝子のいずれかが変異し、機能的なT細胞(多くはB細胞・NK細胞も)を欠く病態の総称である。は多岐にわたるが、代表的な機序として以下がある。

  • X連鎖共通(IL2RG)欠損:最も頻度の高い病型。複数の(IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21の各受容体)に共通するが機能しないため、T細胞・NK細胞の発生シグナルが完全に途絶える。
  • 欠損:代謝性の(AR)SCID。ADA欠損によりデオキシアデノシンが蓄積し、リンパ球に強い毒性を示すことでT・B・NK細胞すべてが障害される。
  • RAG1・RAG2遺伝子変異(AR)。V(D)J組換え酵素であるRAG1/RAG2が機能を失い、・B細胞受容体の再構成がほぼ不能となる結果、機能的なB細胞・T細胞が存在しない。RAG1/2の部分機能を残す低活性型(hypomorphic)変異では、少数のクローンが増殖するという特異な亜型を来す。

臨床像は、生後数か月以内に始まる重症・難治性の感染症(肺炎、敗血症、遷延性下痢)、感染(Pneumocystis jirovecii肺炎、播種性Candida感染、感染)である。では、リンパ節・脾臓・肝臓の腫大、好酸球増多という特徴的な所見を呈する。

DiGeorge症候群(22q11.2欠失症候群)

は、第3・第4の分化不全により胸腺と副甲状腺が低形成・欠損する疾患で、多くは22q11.2領域(30〜40遺伝子を含む)のが原因である。頻度は約1:4000と比較的高く、多くはだが、常染色体優性(AD)で伝わりうる。

で胸腺低形成・副が同時にみられるのは、いずれも「の移動異常」という共通の原因で説明できる。 周囲の間葉も、心臓の隆起も由来であり、1つの発生学的機序で3系統の異常をまとめて記憶できる好例である。

障害される構造 臨床像
胸腺(第3腹側翼) T細胞欠乏による反復性・
副甲状腺(第3・4 欠乏による(しばしばの痙攣で発見される)
由来) などの

T細胞欠損の程度は症例ごとに幅があり、部分型(大多数)では残存する胸腺組織が徐々に機能を代償し、年齢とともに免疫能が改善することが多い。一方、胸腺が完全に欠如する完全型(complete 、まれ)はT細胞をほぼ完全に欠き、SCIDに準じる重症の細胞性免疫不全として扱われる。・特徴的耳、眼間開離、等)・学習障害を伴うことが多く、これらを合わせてCATCH-22(Cardiac defects, Abnormal facies, Thymic hypoplasia, Cleft palate, Hypocalcemia, 22q11.2欠失)と総称することがある。

X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA、Bruton型)

XLAは、BTK遺伝子(X連鎖)の変異によりB細胞受容体シグナルに必須のBruton型チロシンキナーゼが機能を失い、からB細胞への分化がほぼ完全に停止する疾患である。結果として末梢血・リンパ組織にB細胞がほとんど存在せず、すべてのクラスの免疫グロブリン(IgG・IgA・IgM・IgE)が著明に低下する。X連鎖のためほぼ男児のみに発症する。

母体由来のIgGが消退する生後6か月前後から、莢膜を持つ化膿性細菌(肺炎球菌、等)による反復性の副鼻腔炎・中耳炎・肺炎で発症することが多い。扁桃・リンパ節などのリンパ組織が触知しにくい(形成不全)ことも特徴的で、ワクチン接種を行っても抗体応答が誘導されない。

⚠️ XLA患者への生ワクチン接種は禁忌であり、実際に重篤な合併症が報告されている。 生後22か月のXLA患児が)接種部位にを発症した症例のほか、由来のや、による遷延性の中枢神経感染(慢性、進行性様症候群を伴うこともある)が知られている。抗体を産生できない患者では、株そのものが体内から排除されず増殖を続けてしまうことが機序である。

慢性肉芽腫症(CGD)

CGDは、好中球・マクロファージのNADPH oxidase(ファゴサイトオキシダーゼ)複合体の欠損により、貪食した病原体を破壊するための)を産生できなくなる疾患である。最も多いのはgp91phoxをコードするCYBB遺伝子のX連鎖劣性型で、残りはCYBANCF1NCF2NCF4等の変異による(AR)型である。

は病原体を取り込むことはできても殺菌できないため、の細菌・真菌Staphylococcus aureusBurkholderia cepacia複合体、Serratia marcescensAspergillus fumigatusNocardia等)に選択的に易感染性となる(菌は自身が産生するをNADPH oxidaseに依存せず利用できるため障害されにくい)。慢性の抗原刺激が持続することで、リンパ節・肝臓・肺などに腫が形成され、リンパ節炎、、骨髄炎、肺炎を反復するのが特徴である。

選択的IgA欠損症

は、血清IgA濃度が著明に低下する(一般に<7 mg/dL程度、他の免疫グロブリンクラスは正常)、B細胞の部分的な障害による疾患で、明確な単一遺伝子原因は同定されていないことが多い。の中で最も頻度が高く、一般人口の数百人に1人という高頻度でみられる。

85〜90%は無症候性であり、の血液検査で発見されることが多い。症候性の症例では、呼吸器・消化管・尿生殖路の(副鼻腔炎、中耳炎、肺炎、等の腸管感染)がみられる。また、セリアック病・・関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連が知られており、ごく一部は経過中に免疫グロブリンクラス全般の低下を伴う(CVID)へ移行する。

⚠️ では、IgAを含むの輸血が生命を脅かすアナフィラキシーを起こしうる。 一部の患者は抗IgA抗体を保有しており、血漿を含む輸血製剤(等)を投与されるとIgAに対するアナフィラキシー型反応を起こす。既知の患者には洗浄赤血球IgA欠乏ドナー由来のを用いる。

5疾患の比較

疾患 遺伝形式 主な欠損・機序 主要な 特徴的な感染症 治療
SCID 多くはAR(X連鎖のIL2RG欠損型も高頻度) T細胞(±B・NK細胞)の発生・機能に必須の遺伝子の変異(IL2RG、ADA、RAG1/2等) 、TREC低下、T細胞増殖応答の消失 感染(PJP、CMV、播種性カンジダ)、重症ウイルス感染、生による重症感染 感染予防、、ADA-SCIDでは・遺伝子治療
AD(多くは22q11.2の新規欠失) 第3・4の分化不全による胸腺・副 22q11.2欠失(FISH・)、CD3陽性T細胞数低下、 T細胞欠損の程度に応じた反復性感染(重症例は感染) の管理、重症例は胸腺移植、生ワクチンは免疫能に応じ判断
XLA(Bruton型) X連鎖劣性 BTK変異によるからの分化停止 B細胞(CD19陽性)ほぼ消失、全クラスの免疫グロブリン低値、ワクチン応答なし による反復性副鼻腔炎・中耳炎・肺炎 生涯にわたる免疫グロブリン補充療法(IVIG/SCIG)、生ワクチン禁忌
X連鎖劣性(多くはAR型も存在) NADPH oxidase複合体欠損による不全 DHR・NBT試験の異常低下 菌・真菌による膿瘍、リンパ節炎、 抗菌薬・抗真菌薬の予防投与、IFN-γ、根治的にはHSCT
多くは(家族内発症例あり) B細胞の部分障害による血清IgA単独低下 血清IgA著明低値、他の免疫グロブリンは正常 副鼻腔・呼吸器・消化管の(85〜90%は無症候性) 多くは経過観察のみ、IgA含有は回避(アナフィラキシーリスク)

診断

診断の出発点は、発症年齢・感染部位・原因病原体のパターンから欠損部位を推定し、それに応じたを選ぶことにある。

  • 一般的スクリーニング:末梢血算・分画(リンパ球絶対数)、血清(IgG・IgA・IgM)、リンパ球サブセット(CD3・CD4・CD8・CD19・CD16/56)の
  • T細胞機能刺激によるリンパ球増殖反応
  • 機能(CGD疑い)試験、試験
  • 染色体・:22q11.2欠失を検出するFISH・疑い)、BTK・RAG1/2・IL2RG等の検査

のSCIDスクリーニング(TREC assay)の際に生じる副産物であるT-cell receptor excision circle(TREC)を新生児乾燥血液からで測定する検査で、SCIDおよび重度のT細胞減少症に対する感度がきわめて高い。米国では全州でに組み込まれており、症候性の重症感染が出現する前に無症候の段階でSCIDを発見できるようになったことで、未治療なら致死的なSCIDのは大きく改善している。

flowchart TD
    A["反復性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='severe infection'>重症感染症</span>、または新生児TRECスクリーニング陽性"] --> B{"感染パターン・年齢・随伴所見は?"}
    B -->|"生後早期の重症<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opportunistic'>日和見</span>感染<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth failure'>成長障害</span>・遷延性下痢"| C["リンパ球サブセット・TRECでT/B/NK細胞欠損を確認<br>→SCIDを疑う"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypocalcemia'>低カルシウム血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac defects'>心奇形</span>・特徴的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leontiasis ossea'>顔貌</span>"| D["22q11.2欠失をFISH/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microarray'>マイクロアレイ</span>で確認<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='DiGeorge syndrome'>DiGeorge症候群</span>を疑う"]
    B -->|"生後6か月以降の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encapsulated bacteria'>莢膜形成菌</span>感染<br>リンパ組織が触れない・男児"| E["B細胞数・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quantitative immunoglobulin measurement'>免疫グロブリン定量</span>、BTK<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span><br>→XLAを疑う"]
    B -->|"皮膚・リンパ節・肝の膿瘍、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>腫"| F["DHR/NBT試験でNADPH oxidase機能を評価<br>→CGDを疑う"]
    B -->|"反復する副鼻腔・呼吸器感染、多くは無症候"| G["血清IgA単独低値を確認<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='selective IgA deficiency'>選択的IgA欠損症</span>を疑う"]
    C --> H["確定診断は各疾患の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>で行う"]
    D --> H
    E --> H
    F --> H
    G --> H

治療

治療は疾患ごとに大きく異なるが、T細胞欠損を伴う疾患(SCID、重症の)では生ワクチン接種がな危険因子になるという一点は共通の注意点である。

疾患 治療の柱
SCID 診断確定後は感染予防(無菌的環境管理、の回避、によるPJP予防)を直ちに開始し、可能な限り早期にを行う。感染症を発症する前、生後早期にHLAドナーで移植できた場合にが最も高く、適合ドナーが得られない場合でも・非血縁ドナー移植を含め移植を遅らせない方針が重視される。ADA欠損型ではADAによる、および自己造血幹細胞へのによる遺伝子治療も選択肢となる。
の補正、に対する、部分型では多くが年齢とともに免疫能が改善するため経過観察でよいことが多い。まれな完全型(athymic)は重症の細胞性免疫不全としてSCIDに準じた管理を要し、胸腺移植が検討される。生ワクチンの可否はT細胞数・機能の評価に基づいて個別に判断する。
XLA 生涯にわたる免疫グロブリン補充療法(IVIG/皮下注SCIG、通常3〜4週ごと)が治療の中心で、感染症には積極的な抗菌薬治療を行う。生ワクチン(特に経口生ポリオワクチン)は禁忌であり、慢性からのへの進展を長期的に監視する。
による細菌感染予防、による抗真菌予防、の定期投与という3本柱のを生涯続けるのが従来の標準治療である。感染症は積極的に治療し、根治を目指す場合はHSCTが選択肢となる(遺伝子治療は研究段階)。
多くは無治療で経過観察でよい。症候性のには対症的な抗菌薬治療を行うが、IgAを含む・標準的IVIG製剤は抗IgA抗体保有者にアナフィラキシーを起こしうるため、必要時は洗浄赤血球やIgA欠乏血漿由来製剤を選択する。セリアック病等の自己免疫疾患合併を疑う症状があれば併せて評価し、経過中のCVIDへの移行がないか免疫グロブリン値を定期的に確認する。

まとめ

  • は先天性の遺伝子変異により免疫系の特定部位が欠損するで、欠損部位(T細胞・B細胞・複合・)ごとに特徴的な感染パターンを示す。
  • SCIDはIL2RG・ADA・RAG1/2等の変異でT細胞(±B・NK細胞)が機能的に欠如する複合免疫不全で、感染により生後早期から重症化する。新生児TRECスクリーニングで無症候のうちに発見し、早期のHSCTにつなげることがを左右する。
  • は22q11.2欠失による第3・4の分化不全で、胸腺低形成(T細胞欠損)・副)・の移動異常という共通機序で同時にみられる。
  • XLA(Bruton型)はBTK変異によりB細胞がほぼ完全に欠如し、へのを来す。生涯にわたる免疫グロブリン補充療法が治療の中心で、生ワクチンは禁忌である。
  • はNADPH oxidase欠損によりの殺菌能が失われ、菌・真菌による化膿性感染とを来す。抗菌薬・抗真菌薬・IFN-γによる予防投与が治療の柱で、根治にはHSCTを要する。
  • は最も頻度の高いで、大多数(85〜90%)は無症候性だが、IgAを含むによるアナフィラキシーのリスクには常に注意する。
  • T細胞欠損を伴う病態(SCID、重症の)とXLAでは、生そのものが重篤な感染を起こしうるため、生ワクチン接種は禁忌または慎重な個別判断を要する。