免疫学

免疫学 · 6.2

免疫不全

Immunodeficiencies

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W9Lecture / 講義
応用トピック
原発性・続発性免疫不全免疫不全症原発性・続発性免疫不全の症候
疾患
DOCK8欠損症LRBA欠損症原発性免疫不全症候群(重症複合免疫不全症・ディジョージ症候群・X連鎖無ガンマグロブリン血症・慢性肉芽腫症・選択的IgA欠損症)高IgE症候群高IgM症候群特発性CD4リンパ球減少症
検査値
リンパ球減少免疫グロブリン定量

🧠 免疫不全は「感染症・腫瘍へのの増大」と定義され、原発性(primary、約10%、先天性)と続発性(secondary、約90%、後天性)に大別される、と読む。 原発性は遺伝子変異により免疫系のどこか特定の部品(V(D)J組換え酵素、胸腺発生、B細胞分化、貪食機能など)が欠けることで生じ、欠損部位ごとに驚くほど特徴的な臨床像を示す。続発性は腫瘍・・・加齢・(等)など、既存の免疫系を「外side から」損なう要因による。

⚠️ 「」は「」へ置き換わりつつある。 (IUIS)の専門委員会は2年ごとに分類を改訂しており、2022年版が485疾患、2024年版(2025年公表)は508遺伝子+17のと、登録数は改訂のたびに増え続けている1。名称が変わった理由は数だけではない——IEIは「感染しやすい病気」に限らず、(自己免疫・自己炎症)・アレルギー・・悪性腫瘍として初発することがあるからである1。旧称のPIDは試験でも臨床でもなお通用するので捨てる必要はないが、疾患数や群数を暗記するときは「何年版のIUIS分類か」を必ず添える(本ノートの疾患一覧も網羅ではなく代表例である)。

💡 「」は IEI の枠の外に置かれている。 IUISはIEIの定義の軸を「単一遺伝子の生殖細胞系列の有害バリアント」に置いており、や抗サイトカインによって同じ臨床像を示すものは phenocopy として別枠で数える1。「508遺伝子」と「17の」が別々に数えられているのはこのためで、数字を引用するときは何を数えたものかを区別する。

原発性免疫不全を疑う徴候

抗菌薬を頻用する、乳児の、1歳以降も続く難治性の、でしか治癒しない感染症、の家族歴——これらがを疑う典型的な手がかりになる。

⚠️ 「ボーイ」デビッド・ヴェッター(David Vetter, 1971–1984, テキサス)はSCIDの象徴的症例。 生涯のほぼすべてをで過ごし、12歳で死去した。SCID(、severe combined immunodeficiency disease)を象徴する歴史的症例として知られる。

代表的な原発性免疫不全

疾患 遺伝形式 機序 臨床像 治療
SCID() 遺伝的に不均一。最多はX連鎖(IL2RG)、(AR)型としてRAG1/RAG2・ADA・・IL7Rなど RAG1・RAG2遺伝子の→V(D)J組換えがほぼ不能→機能的B/T細胞が存在しない(という亜型あり)。IL2RG/型はT−B+NK−、IL7R型はT−B+NK+という表現型をとる ・、、リンパ節・脾臓・肝臓の腫大 化学療法+、遺伝子治療
常染色体優性(AD) 先天性胸腺低形成(第3・4咽頭弓症候群)、22q11.2欠失(30〜40遺伝子)、頻度約1:4000 反復性感染、心・顔面・口蓋の奇形、——T細胞欠損症候群 —
(XLA、Bruton型) X連鎖 の分化障害→血中にB細胞・IgGが存在しない 反復性細菌感染。ワクチン接種でが誘導されない プールされた注射
(時にAR) T細胞のCD40Lが欠損→B細胞のCD40と結合できない→不能 IgMは正常〜高値だがIgG・IgA・IgEを産生できない。反復性化膿性感染 —
— 血清IgA低値(一般的な定義は4歳超で <7 mg/dL=0.07 g/L、他クラスは正常)、B細胞の欠損 呼吸器・消化管・尿生殖路の(85〜90%は無症候性、最も頻度の高い) 母乳栄養、自然に産生能を回復することもある
— 好中球のファゴサイトオキシダーゼ欠損→低下 全身性の化膿性感染・膿瘍 —

⚠️ SCIDは「RAG1/2の」ではない——遺伝的に最も不均一な免疫不全である。 上の表の遺伝形式欄はRAG型だけを見たときの記述で、実際には最も頻度が高いのはX連鎖のIL2RG(共通)欠損である2。IL2RG(およびその下流の)が壊れるとT細胞とNK細胞が減りB細胞は残る(T−B+NK−)、IL7Rが壊れるとNK細胞は残る(T−B+NK+)、RAG1/2やArtemisが壊れるとB細胞も作れない(T−B−)——「T・B・NKのどれが残るか」でを絞り込むのがSCIDの臨床推論の型である。RAG変異はさらに、残存する組換え活性の量に応じてSCID→→軽症複合免疫不全→自己免疫優位型という連続したスペクトラムを作る3。

⭐ SCIDはで無症状のうちに拾える——TRECアッセイ。 T細胞がTCR遺伝子を再構成する際に切り出される環状(TREC:除去環)を、通常の新生児からで定量する。米国11プログラム・306万人の集計では、典型的SCID・leaky SCID・が新生児58,000人に1人(95%信頼区間 1/46,000〜1/80,000)の頻度で検出され、診断からまでのは87%(移植・酵素補充・遺伝子治療を受けた例では92%)だった4。⚠️ 感染が起きる前に見つけて移植することがを決めるというのが、この病気で「症状が出てから診断する」のでは遅い理由である。

⭐ とXLAは「同じT/B細胞欠損でも欠ける段階が違う」好対照。 DGSは胸腺そのものの形成不全でT細胞系列全体が育たないのに対し、XLAはからの分化過程というより下流の1点が障害される。同じ「感染しやすい」という結果でも、DGSは細胞性免疫全体の欠落、XLAはB細胞・だけの欠落という違いが、それぞれの臨床像(DGSでは等の随伴奇形、XLAではワクチン不応答という体液性免疫特有の所見)を説明する。

⚠️ のは「4歳を超えて、血清IgA <7 mg/dL(0.07 g/L)、IgG・IgMは正常」。 この 7 mg/dL という値は多くの検査室の検出下限に由来する5。7 mg/dL は超えるが年齢基準の-2SDを下回るものは部分IgA欠損と呼んで区別する。4歳という年齢の下限は、乳幼児期の一過性の低値を「欠損症」と早合点しないために置かれている5。

💡 「最も頻度の高い」は人種によって桁が違う——日本ではまれ。 報告されている頻度はアラビア半島 1:143、スペイン 1:163、ナイジェリア 1:252、英国 1:875 に対し、中国 1:2,600〜1:5,300、日本 1:14,840〜1:18,500と東アジアでは著しく低い5。「最多のPID」という定石は白人集団のデータに基づく記述であり、日本の臨床でそのままとして使うと過大評価になる。

⚠️ XLA患者へのワクチン接種は禁忌に近い——生ワクチンによる合併症の実例。 生後22か月のXLA患児が()接種部位にを発症した症例が知られる。抗体産生ができない患者に生ワクチンを接種することの危険性を示す教訓的事例。

続発性(後天性)免疫不全の原因

分類 例
腫瘍 白血病、リンパ腫、
、DMARDs()、化学療法、放射線照射
—
加齢 —
症 例:(AIDS)

HIV/AIDS

(、human immunodeficiency virus)はレトロウイルスで、そのエンベロープは宿主細胞の細胞膜に由来し、gp160・gp120・gp41という3つの糖タンパクをもつ。CD4・CCR5・CXCR4を介してT細胞・単球に侵入する。

⭐ の進行はCD4+細胞数の推移そのものでモニタリングされる。 病期が進むにつれCD4+細胞数は減少し続け、免疫全体が変化する。合併症としてはと腫瘍(例:、Kaposi sarcoma)が代表的。

まとめ

  • 免疫不全は感染・腫瘍へので定義され、原発性(約10%、遺伝性)と続発性(約90%、後天性)に大別される。は現在の国際分類では(IEI)と呼ばれ、IUIS 2024年版で508遺伝子+17のが登録されている(2022年版は485疾患)——疾患数を書くときは版を添える1。
  • SCID(遺伝的に不均一。最多はX連鎖IL2RG欠損、にRAG1/2変異によるV(D)J組換え不能などがある。TRECを用いたで58,000人に1人の頻度で無症状期に検出できる)・(胸腺低形成、22q11.2欠失)・XLA(分化障害)・(CD40L欠損、不能)・(最多の、多くは無症候性)・(オキシダーゼ欠損)が代表的な。
  • 続発性免疫不全は腫瘍・・・加齢・(等)により、既存の免疫系が外部から損なわれることで生じる。
  • はCD4・CCR5・CXCR4を介してT細胞・単球に侵入するレトロウイルスで、CD4+細胞数の減少とともに日和見感染・腫瘍()を合併する。

出典

  1. 1.Human inborn errors of immunity: 2024 update on the classification from the International Union of Immunological Societies Expert Committee(International Union of Immunological Societies / Journal of Human Immunity・2025)IUISの2024年遺伝学的分類が508遺伝子に関連する先天性免疫異常症(inborn errors of immunity)と17の表現型模倣(phenocopy)を収載し、2022年6月の前回更新(485疾患)以降に67の新規単一遺伝子病と2つの表現型模倣が追加されたこと、IEIは感染だけでなく免疫調節異常・アレルギー・自己免疫・悪性腫瘍としても発症することを確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.Defective IL7R expression in T(-)B(+)NK(+) severe combined immunodeficiency(Nature Genetics・1998)SCIDは複数の遺伝子異常により起こり、最も頻度の高い病型はIL2RG(IL-2・IL-4・IL-7・IL-9・IL-15受容体に共通するγ鎖)の変異によるX連鎖SCIDであること、IL2RG変異とJAK3変異ではT細胞とNK細胞が減少しB細胞は正常(T−B+NK−)となり、IL7R発現異常はT−B+NK+型SCIDを起こすことを確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Human RAG mutations: biochemistry and clinical implications(Nature Reviews Immunology・2016)RAG1/RAG2がV(D)J組換えを開始すること、ヒトのRAG遺伝子変異が重症複合免疫不全症から自己免疫までの広い臨床スペクトラムを示すこと、残存する組換え活性の程度が表現型の幅を説明することを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Newborn screening for severe combined immunodeficiency in 11 screening programs in the United States(JAMA・2014)TREC(T細胞受容体除去環)を用いた新生児スクリーニングで306万人を検査し、典型的SCID・leaky SCID・Omenn症候群が52例(新生児58,000人に1人、95%信頼区間 1/46,000〜1/80,000)検出されたこと、診断から免疫再構築までの生存率が87%(52例中45例)、移植・酵素補充・遺伝子治療を受けた例では92%(49例中45例)であったことを確認した閲覧 2026-08-25
  5. 5.Selective IgA deficiency(Journal of Clinical Immunology・2010)選択的IgA欠損症は「4歳を超えた患者で、他の免疫グロブリンクラスが正常なまま血清IgAが7 mg/dL(0.07 g/L)未満」と定義され、7 mg/dLを超えるが年齢基準の-2SD未満のものは部分IgA欠損と呼ぶこと、頻度は人種差が大きく、アラビア半島1:143・スペイン1:163・英国1:875に対し中国1:2,600〜1:5,300、日本1:14,840〜1:18,500と東アジアでは著しくまれであることを確認した閲覧 2026-08-25