免疫学

免疫学 · 6.1

感染症における免疫応答

Immune response in infections

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W9Lecture / 講義

🧠 病原体の種類ごとに「どこにいるか(細胞外・細胞内)」で免疫系の主力部隊が変わる、と読む。 細胞外細菌には抗体・補体・貪食が、細胞内細菌・ウイルスにはTh1・CD8+ T細胞が、寄生虫にはIgE・好酸球が主役になる。そして病原体側も、それぞれの防御をかいくぐるを進化させている——免疫と病原体の軍拡競争として読むと全体が繋がる。

💡 すべての細菌・ウイルス・真菌が病原性をもつわけではない。 多くは宿主と共進化した微生物=の一部。

細胞外細菌への免疫

例:ブドウ球菌、レンサ球菌、髄膜炎菌

段階 内容
自然免疫 補体(C3b・)、PRR(TLR1,2,4,5,6)、(好中球)、細胞外トラップ
獲得免疫 IgM(多糖への強い反応)、IgG(血液・リンパ・で・中和・)、IgA(上皮表面)
炎症、敗血症性ショック
病原体側の ①細菌によるIgA分解、②莢膜の(阻害・貪食阻害)、③の可変性、④の形成
血中(症:・幼若型出現)、上昇

細胞内細菌への免疫

段階 内容
自然免疫 細胞質のNOD様受容体、NK細胞(直接活性化、またはマクロファージ・好中球由来IL-12を介した間接活性化)
獲得免疫 Th1サイトカインがマクロファージを活性化、CD8+ T細胞がアポトーシスを誘導
Th1駆動性のマクロファージ活性化→マクロファージ・(例: Mycobacterium tuberculosis)
病原体側の ①の阻害、②産生によるマクロファージの阻害
、

寄生虫への免疫

原虫・蠕虫が対象。

段階 内容
自然免疫 PRRによる認識、球(eosinophil granulocyte:=好酸球、ECP=好酸球タンパク、EDN=好酸球由来、MBP=を含む)
獲得免疫 。細胞内寄生する一部の原虫はCD8+ T細胞を刺激しうる
寄生虫がCD4+ Th1細胞を刺激→マクロファージ活性化・(DTH:delayed type hypersensitivity)誘導・
病原体側の 細胞内増殖、嚢胞形成、による抗体・補体・CD8+T細胞への抵抗、M2マクロファージの誘導
好酸球増多(・ではも)、血漿IgE上昇

真菌への免疫

真菌感染は主に免疫不全患者(例:患者のカンジダ症)で重症化する。

段階 内容
自然免疫 好中球(・リソソーム酵素による貪食・)、PRR認識(TLR、=等)
獲得免疫 細胞内真菌に対するCD8+ T細胞・マクロファージ、Th1・(例: Cryptococcus neoformans)
常在菌であるカンジダも、重症の浸潤性糸状型感染ではという毒素を産生し、に孔を形成する
、慢性例では

ウイルスへの免疫

段階 内容
自然免疫 (TLR、ウイルスを検出する細胞質内RIG-I様受容体)、産生(I型:白血球・線維芽細胞由来、II型:NK細胞由来のIFN-γ、III型:リンパ球・DC由来)、、NK細胞
獲得免疫 Th2→抗体(急性感染中のウイルス拡散防止・予防)、CD8+ T細胞・Th1細胞、というな現象も存在する
は直接傷害するが、ではむしろCD8+ T細胞がの主因になることが多い
、CD8+ T細胞の関与

⚠️ (ADE)は「抗体が多いほど良い」という直感を壊す。ヒトで最もよく実証されているのはである。 ニカラグアの小児長期コホートでは、重症のリスクは既存の抗が狭い範囲にあるときに最大になり、逆にが高ければ症候性そのものから防御されていた1。つまり「防御の相関」と「重症化の相関」は別々に評価しなければならない——ワクチン開発では「効かない」だけでなく「増悪させる」ことが問題になる。⚠️ 一方で、抗体・T細胞・宿主応答のどれを測っても、重症ウイルス感染とによる疾患を臨床で区別できるは今のところ存在しない2。「この重症化はADEだ」と断定するのは、現状では検査で裏づけられない主張である。

ウイルスのエスケープ戦略(4パターン)

⚠️ ——drift(漸進的)とshift(劇的)の違い。 は宿主内でのに伴うのわずかな変化、は複数ウイルス間の遺伝子交換によるな新規抗原の出現(が典型)。ただし例外もある——は変異が少なく、いったん成立した血清型特異的な免疫は終生持続するとされる。

⚠️ 「1回の接種で」と言い切らない——ポリオワクチンは回数が要る。 抗原が安定していることと、1回の接種で十分な免疫がつくことは別問題である。(IPV)の率は初回接種の時期と接種回数に強く依存し、1回接種では2型に対するのギャップが残る——初回シリーズの後半に2回目を接種して初めてそのギャップが埋まる(1型・3型はどのスケジュールでも高い免疫が得られる)3。「変異が少ないので追加のを毎年打つ必要がない」というのが正しい対比で、インフルエンザとの違いはそこにある。

⚠️ 一部のウイルスは「攻撃してきたCD8+T細胞そのものを殺す」逆襲戦略をとる。 活性化CD8+ T細胞はFasLを発現するが、などのウイルスは感染細胞表面のFasL発現を増加させ、攻撃側のCD8+T細胞にアポトーシスを誘導し返す。

⚠️ の手薄な組織に感染する、または抗原提示そのものを妨害する。 バリア組織(皮膚・粘膜)はの閾値が高く、(immunoprivileged site:中枢神経系・眼)は炎症から保護されているため、ウイルスのが起こりやすい。また一部のウイルスタンパク(例:のNef)はMHC-IIによる抗原提示を修飾し、MHC-Iによる提示も阻害する。

症例:重症COVID-19における免疫応答

重症例では(IL-1・IL-6・・IL-17A・IFN等の上昇)と著明なT細胞数減少(CD8+ T細胞を含む)がみられる。年齢層による転帰の違い(24歳未満 vs 60歳超)も報告されている。

⚠️ 「」という呼び方には有力な反論がある——他の重症病態と比べると、のサイトカイン上昇はむしろ小さい。 重症・重篤の25研究1,245人を集めた系統的レビュー/では、血清IL-6の統合平均は36.7 pg/mL(95%信頼区間 21.6〜62.3)にとどまり、同じ指標で比べるとでは約100倍(3,110.5 pg/mL)、敗血症では約27倍(983.6 pg/mL)、以外のでも約12倍(460 pg/mL)高かった4。著者らはこの結果からの臓器障害における「」の役割そのものに疑問を呈している。用語を捨てる必要はないが、「=サイトカインが極端に高い」という含意で使うと事実と合わないことは押さえておく(抗IL-6療法の適応をこの言葉から導かない)。

まとめ

  • 細胞外細菌には補体・貪食・IgM/IgG/IgAが、細胞内細菌にはTh1-マクロファージ軸とCD8+T細胞が、寄生虫にはIgE・好酸球が、真菌には好中球・Th1/Th17が、ウイルスには・CD8+T細胞・抗体が、それぞれ主要な防御機構になる。
  • 病原体は、莢膜の、、細胞の直接殺傷、への感染、抗原提示阻害など、多様なを進化させている。
  • (漸進的)と(劇的、複数ウイルス間の遺伝子交換)の違いはインフルエンザで典型的だが、のように変異が少なくが成立する例外もある。
  • 重症はとT細胞減少を特徴とし、年齢による転帰差が顕著。ただし「」という呼称には反論があり、重症のIL-6はの約1/100・敗血症の約1/27・非COVID の約1/12にとどまる4。

出典

  1. 1.Antibody-dependent enhancement of severe dengue disease in humans(Science・2017)ニカラグアの小児長期コホートで、重症デング熱のリスクは既存の抗デングウイルス抗体価が狭い範囲にあるときに最も高く、抗体価が高い場合はすべての症候性デング熱から防御されたこと、したがって重症化の免疫学的相関と防御の相関は別に評価しなければならないことを確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.A perspective on potential antibody-dependent enhancement of SARS-CoV-2(Nature・2020)抗体依存性感染増強(ADE)はウイルスに対する抗体防御の機構が理論上つねに感染を増幅したり免疫病理を引き起こしたりしうるために生じる一般的な懸念であること、現時点では抗体・T細胞・宿主応答のいずれを測っても重症ウイルス感染と免疫増強による疾患を区別できる臨床所見・免疫学的検査・バイオマーカーは知られていないことを確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Immunogenicity of New Primary Immunization Schedules With Inactivated Poliovirus Vaccine and Bivalent Oral Polio Vaccine for the Polio Endgame: A Review(Clinical Infectious Diseases・2018)不活化ポリオワクチンの血清転換率は初回接種の時期と接種回数に強く依存すること、1回接種では2型に対する液性免疫のギャップが残り、初回シリーズの後半に2回目を接種することでそのギャップが埋まること、1型・3型はどの接種スケジュールでも高い免疫が得られることを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Cytokine elevation in severe and critical COVID-19: a rapid systematic review, meta-analysis, and comparison with other inflammatory syndromes(The Lancet Respiratory Medicine・2020)重症・重篤COVID-19の25研究1,245人でIL-6の統合平均は36.7 pg/mL(95%信頼区間 21.6〜62.3)にとどまり、サイトカイン放出症候群(3,110.5 pg/mL、約100倍)・敗血症(983.6 pg/mL、約27倍)・COVID-19以外のARDS(460 pg/mL、約12倍)よりはるかに低かったこと、この結果はCOVID-19の臓器障害における「サイトカインストーム」の役割に疑問を投げかけることを確認した閲覧 2026-08-25