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Microbe Atlas · 真菌

Pneumocystis jirovecii

分類
酵母 / YeastsPneumocystis
科目
Medical Microbiology
トピック
4/9: Cryptococcus neoformans, Pneumocystis jirovecii (carinii)1/13: Chemoprophylaxis: its importance and examples
自然耐性薬
フルコナゾールイトラコナゾールボリコナゾールポサコナゾールイサブコナゾニウムアンフォテリシンB
原因となる疾患
HIV感染症・AIDSニューモシスチス肺炎原発性免疫不全症候群(重症複合免疫不全症・ディジョージ症候群・X連鎖無ガンマグロブリン血症・慢性肉芽腫症・選択的IgA欠損症)高IgE症候群高IgM症候群
作用する薬剤
アトバコンスルファメトキサゾール+トリメトプリムダプソンペンタミジン

🧠 全体像:Pneumocystis jiroveciiは分類上こそ真菌だが、薬への反応は原虫のように振る舞う——この一点がすべてを説明する。細胞膜にを持たずコレステロールを使うため、真菌の主力薬であるもも標的を持たず無効で、代わりにを狙う・(ST合剤)が第一選択という、他のとは薬の選び方がまるで違う例外である。かつて原虫と誤分類されていたのもではなく、この菌自体が真菌の標準からいくつも外れた性質を持っている。

培養形態と生活環

  • 標準的なでは発育しない——in vitroでの持続培養が確立されておらず、診断は培養ではなく直接検出(染色・)に頼る。この点だけでも他の真菌と一線を画す。
  • 生活環は栄養型(薄壁・)→接合→シスト(厚壁、内部に最大8個のを含む)→シスト破裂による新たな栄養型の放出という経過をたどる。
  • シスト壁にはβ-1,3-D-が含まれる——これが血清(1→3)-検査が陽性になる理由であり、を持たないにもかかわらず「真菌」としての血清学的検出が可能な根拠でもある。
  • かつては形態学的類似性から原虫に分類されていたが、配列の解析により真菌であることが確立された。分類は真菌でも、薬剤反応性は次節のとおり真菌の標準から外れる。

⚠️ なぜ・が効かないのか。 真菌の細胞膜はふつうを主要ステロールとし、はその合成経路(CYP51/)を、はそのものを標的にする。ところがP. jiroveciiは独自の合成経路の一部を欠き、宿主からコレステロールを取り込んで細胞膜に利用する——標的分子そのものが存在しないため、これらの薬は種として本来的に無効になる。真菌の中でも際立った例外である。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Pneumocystis jirovecii の吸入<br>(伝播経路は未確定、気道からの侵入)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type I alveolar epithelial cell'>肺胞I型上皮細胞</span>への接着<br>(栄養型が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar space'>肺胞腔</span>で増殖)"]
    B --> C{"宿主の細胞性免疫は保たれているか"}
    C -->|"保たれている"| D["無症候のまま排除・保菌にとどまる"]
    C -->|"高度に障害<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acquired immunodeficiency syndrome'>AIDS</span>・CD4<200、移植後、ステロイド長期使用)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar space'>肺胞腔</span>内で増殖<br>菌体自体は組織侵入しない(細胞外寄生)"]
    E --> F["宿主の炎症反応(CD4/CD8 T細胞・マクロファージ)が<br>肺胞を傷害"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse alveolar damage (DAD)'>びまん性肺胞傷害</span><br>泡沫状の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eosinophilic exudate'>好酸性滲出液</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Pneumocystis pneumonia'>ニューモシスチス肺炎</span><br>低酸素血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ground-glass opacity'>すりガラス影</span>"]

💡 なぜ組織侵入しない菌でここまで重篤な肺炎が起こるのか。 P. jiroveciiは肺胞上皮に接着して増殖するだけで血管や組織へ侵入しないだが、宿主の炎症反応そのものが肺胞傷害の主因になる。そのため患者でCD4が急速に回復するの場面や、非免疫不全患者(より強い炎症反応を起こしやすい)では、菌体量が少なくてもかえって急激で重篤な経過をたどることがある——を決めるのは菌の量より宿主の免疫応答の強さという、この菌の病態理解の核心になる。

感染経路と疫学

  • 主なは呼吸器。は完全には解明されていないが、気道を介した人-人伝播が有力視されており、健常者への無症候性の一過性感染・を繰り返している可能性が示唆されている。環境リザーバーは確立されていない。
  • 高リスク群:/患者(数200/µL未満、本菌による肺炎は指標疾患)、・臓器移植後、、長期高用量ステロイド使用(の予防指針は4週間を超える投与を主な予防適応に挙げる1。用量の目安として換算20 mg/日以上がよく用いられる)、抗抗体薬・リツキシマブなどの生物学的製剤使用者、の乳児。

起こす疾患

病型 特徴
健常者は無症候。免疫不全者に発熱・で発症。関連例は数週かけて緩徐に進行するのに対し、非免疫不全例はより急速・重篤な経過をたどりやすい

診断

  • 培養ができないため、(第一選択)、(感度は劣る)、まれにからの直接検出に頼る。
  • 染色:で(卵形)のシスト壁を染め出す。・Diff-Quik染色は栄養型・シスト内を、は従来の染色より高感度・高特異度とされる。
  • PCRは最も高感度だが、無症候の保菌も検出してしまうため陽性のみで感染と断定せず臨床像と統合する。
  • 血清(1→3)-:シスト壁のを反映して上昇する。非特異的だが陰性であれば除外に有用(が高い)。
  • 上昇:肺傷害の非特異的マーカーだが、重症度や予後との相関が報告されており補助的に用いられる。
  • 胸部X線・:両側びまん性・周囲の間質性陰影からへの進展が典型的。早期は正常像のこともある。
  • ⚠️ 陽性・培養不能という組み合わせは、コロニゼーション(無症候の保菌)と真の感染の境界を曖昧にする。 特に非患者では臨床像・画像・宿主リスク因子との統合が診断に不可欠。

治療と予防

状況 対応
第一選択 (高用量)。中等症〜重症は静注で始め、改善後に経口へ。治療期間は関連例で21日間2、非感染の患者でも通常3週間3
ST合剤が使えない場合(軽症〜中等症) +、+クリンダマイシン、(ST合剤より効果は劣るが副作用は少なく、吸収のばらつきが大きい)2
ST合剤が使えない場合(中等症〜重症) +クリンダマイシン(静注)、または静注(膵炎・低血糖・腎毒性・QT延長など毒性が強い)。有効性が高く毒性が少ないとして前者を好む臨床医もいる2。非感染の患者でも第一の代替は+クリンダマイシン3
・ ⚠️ 無効——を持たないため使用しない

⚠️ ・は投与前にを検査する。 欠損があると溶血やを起こすため、欠損があれば別の薬を選ぶ2。

⚠️ 重症例へのステロイド併用は「効くかどうか」ではなく「適応基準を満たすかどうか」で判断する。 でPaO₂<70 mmHg(またはA-aO₂較差≥35 mmHg)の関連では、などの全身性ステロイドをできるだけ早く、遅くとも本症の治療開始後72時間以内に併用する2。のでは、1か月時点の死亡のが0.56、人工呼吸を要するが0.38だった4。これは治療薬による菌体崩壊が引き起こす炎症の急激な悪化を、あらかじめ免疫抑制で緩和する発想である。⚠️ エビデンスは集団で確立されたもので、非感染の患者では症例ごとに判断するとされる3。

予防の開始基準は、感染者とそれ以外で別々に定められている。

対象 予防を始める基準 やめる・再開する基準
感染者() を受けていない、または開始する時点でCD4数200/µL未満2 療法でCD4数200/µL以上が3か月以上続けば中止し、CD4数100〜200/µLでも が3〜6か月以上未満なら中止を考慮できる。療法中にCD4数が100/µL未満、または100〜200/µLで が検出され続ければ再開2
感染者() の既往。治療完了後ただちに開始2 と同じく、療法でCD4数200/µL以上が3か月以上続けば中止できる2
非感染の・ 、、、・・リツキシマブ併用、4週間を超えるステロイド投与、小児のなど1 リスクのある期間中は継続1
  • 予防薬の第一選択はST合剤。感染者ではDS錠またはSS錠を1日1錠2、患者では週2〜3回投与が第一選択とされる1。
  • ST合剤が使えない場合の代替は、、、吸入または静注など2。ST合剤はの予防も兼ねるが、単独とにはへの効果が示されていない2。

まとめ

  • 分類上は真菌だが、を持たずコレステロールを利用するため、・が無効という真菌の中で例外的な性質を持つ。
  • 培養不能・偏性細胞外寄生という生態も特殊で、生活環は栄養型⇄シスト(β-1,3-D-を含む壁)を繰り返す。
  • 指標疾患(CD4<200)であり、・長期高用量ステロイドなど非免疫不全でも発症する。
  • 病態の主体は菌の組織侵入ではなく宿主の炎症反応による肺胞傷害——非患者でより急激・重篤になりやすい。
  • 診断はでの・、補助として(1→3)-・上昇、の。
  • 第一選択はST合剤(関連例は21日間)。関連例でPaO₂<70 mmHg(またはA-aO₂較差≥35 mmHg)なら、72時間以内に全身性ステロイドを併用して炎症反応による急激な悪化を防ぐ。非感染者では症例ごとに判断する。
  • 予防はST合剤が第一選択。感染者ではCD4数200/µL未満がの基準で、療法によるCD4数回復で中止できる。

出典

  1. 1.ECIL guidelines for preventing Pneumocystis jirovecii pneumonia in patients with haematological malignancies and stem cell transplant recipients(Journal of Antimicrobial Chemotherapy・2016)抄録で確認した。HIV非感染の血液疾患患者・同種造血幹細胞移植患者では、週2〜3回のST合剤が一次予防の第一選択(成人A-II・小児A-I)でリスク期間中は継続すること、ペンタミジン・アトバコン・ダプソンはST合剤が使えない場合の二次選択であること、予防の主な適応が急性リンパ性白血病、同種造血幹細胞移植、アレムツズマブ、フルダラビン・シクロホスファミド・リツキシマブ併用、4週間を超える副腎皮質ステロイド投与、小児の原発性免疫不全であること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Pneumocystis Pneumonia: Adult and Adolescent Opportunistic Infections Guidelines(National Institutes of Health・2026)2026年5月27日更新版(ライブページはbot判定で403のため、2026年7月27日のWayback保存版の全文)で確認した。一次予防は抗レトロウイルス療法未実施または開始時のCD4数200/µL未満で行い、治療中の人ではCD4数が100/µL未満に下がった場合と、100〜200/µLでHIV RNAが検出され続ける場合に再開すること、療法によってCD4数200/µL以上が3か月以上続けば中止すること、予防薬の第一選択はST合剤(DS錠またはSS錠を1日1錠)で、代替はダプソン、ダプソン+ピリメタミン+ロイコボリン、アトバコン、吸入または静注ペンタミジンであり、ダプソン単独とペンタミジンはトキソプラズマへの活性が示されていないこと。中等症〜重症例の第一選択は静注ST合剤、代替はプリマキン+クリンダマイシンまたは静注ペンタミジン(毒性が少なく有効性が高いとしてプリマキン+クリンダマイシンを好む臨床医もいる)、軽症〜中等症の代替はダプソン+トリメトプリム、プリマキン+クリンダマイシン、アトバコン(ST合剤より効果は劣るが副作用が少なく、吸収のばらつきが大きい)で、治療期間は薬剤によらず21日間、その後ただちに二次予防を始めること。室内気でPaO2 70 mmHg未満またはA-aDO2 35 mmHg以上の中等症〜重症例には、できるだけ早く、遅くとも治療開始72時間以内に副腎皮質ステロイドを併用すること(AI)。ダプソン・プリマキンの投与前にG6PDを検査し、欠損があれば別の薬を使うこと。閲覧 2026-09-27
  3. 3.ECIL guidelines for treatment of Pneumocystis jirovecii pneumonia in non-HIV-infected haematology patients(Journal of Antimicrobial Chemotherapy・2016)抄録で確認した。HIV非感染の血液疾患患者のPCPでは、気管支肺胞洗浄による確定を待たずに治療を始め、多くが重症で発症するため静注で開始すること、高用量ST合剤が第一選択で、不耐例の第一の代替はプリマキン+クリンダマイシンであること、治療期間は通常3週間でその後は全例で二次予防を行うこと、副腎皮質ステロイドの併用は症例ごとに判断すべきとしていること。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Adjunctive corticosteroids for Pneumocystis jiroveci pneumonia in patients with HIV infection(Cochrane Database of Systematic Reviews・2015)抄録で確認した。室内気でPaO2 70 mmHg未満またはA-a較差35 mmHg超の低酸素血症を伴うHIV関連PCPを対象としたRCTの系統的レビューで、補助ステロイドにより全死亡のリスク比が1か月時点0.56(95%CI 0.32〜0.98)、3〜4か月時点0.59(0.41〜0.85)となり、人工呼吸を要するリスク比は0.38(0.20〜0.73)だったこと。乳児での生存への効果はエビデンス不十分としていること。閲覧 2026-09-27