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Microbe Atlas · ウイルス

Crimean-Congo hemorrhagic fever virus

クリミア・コンゴ出血熱ウイルス

分類
ブニヤウイルス / Bunyavirales
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/21: Bunyaviruses (Hanta-, Crimean-Congo haemorrhagic fever virus)
作用する薬剤
リバビリン

🧠 全体像:CCHFVは旧群の中では「原則通り」のウイルス——げっ歯類の吸入で感染するハンタウイルス属とはこの一点で対照的である。臨床像も両者は「血管内皮の透過性亢進」という核心病態を共有するが、は全身のがより前景に立つ古典的な出血熱であり、かつ血液・体液を介した院内感染のリスクが際立って高いという、他の感染症にはあまり見られない性質を持つ。

微生物学的な特徴

(Orthonairovirus属)に属する。とは別の科だが、同じ系統に共通するゲノム構造を持つ。

項目 内容
ゲノム 環状、3分節(L・M・S)構成
エンベロープあり(宿主の由来)、
分布 アフリカ、バルカン半島、中東、中央〜南アジア——Hyalomma属マダニの生息域とほぼ一致1

⚠️ 分類の階層が動いている。 は2017年に Bunyaviridae 科を Bunyavirales 目へ拡大し、2024年4月にはその目自体を綱 Bunyaviricetes へ格上げした。綱の下は2目に分かれ、は Hareavirales 目、は Elliovirales 目に属する2。

💡 「節足動物を介さないのはハンタウイルスだけ」は、綱のレベルでは成り立たない。 旧 Bunyaviridae 科という狭い枠の中ではハンタウイルスが唯一の例外だったが、現行の綱 Bunyaviricetes にはげっ歯類媒介の(Lassaウイルスなど)がと同じ Hareavirales 目に含まれる2。「例外は1つ」という覚え方は旧分類の枠を前提にしていると理解しておく。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Hyalomma属マダニの刺咬<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zoonophilic'>感染動物</span>の血液・組織への曝露"] --> B["単球・マクロファージ・血管内皮での複製"]
    B --> C["大量のサイトカイン放出<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytokine storm'>サイトカインストーム</span>様の反応)"]
    C --> D["血管内皮の透過性亢進・機能障害"]
    D --> E["血漿・赤血球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet dysfunction'>血小板機能異常</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='consumption coagulopathy'>消費性凝固障害</span>"]
    E --> G["点状出血・皮下出血"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation (DIC)'>播種性血管内凝固症候群</span>"]
    G --> I["肝不全・腎障害・ショック"]
    H --> I

💡 血管内皮の透過性亢進という核心病態はハンタウイルス属と共通。 ただしCCHFでは・の要素がより強く前面に出るため、より古典的な「出血熱」らしい病像(点状出血、皮下出血、消化管出血)を呈しやすい。

感染経路と疫学

  • マダニ(Hyalomma属)媒介——このウイルスの主要なはHyalomma属である1
  • (・野生動物)の血液・組織との直接接触——と畜業者・獣医・牧畜業者がハイリスク
  • ⚠️ ⭐ 患者の血液・体液への曝露による院内感染のリスクが非常に高い。 ヒト-ヒト感染は感染者の血液・分泌物・臓器・体液との濃厚接触で成立し、医療器材の不備や注射も院内感染の原因になる1。1953〜2016年に20か国で報告された院内感染158例のレビューでは、92.4%が症候性で全体致死率は32.4%、86.1%が医療従事者(44.9%・32.3%・検査部門職員6.3%)で面会者が12.7%、入院患者が1.3%を占めた。伝播経路で最も多いのは経皮的接触(34.3%)——針刺しなど器材による曝露であり、次いで22.2%、近接による曝露18.2%、間接接触17.2%、患者環境への曝露8.1%だった3。は感染症の中で例外的にヒト-ヒト感染(主に医療現場)が臨床上重要な疾患である
  • はでウイルス血症を来すため、と畜直後の血液・組織が主要な感染源になる

起こす疾患

を起こす。

病期 特徴
突然の発熱、頭痛、筋肉痛、悪心・嘔吐、下痢、めまい
点状出血、皮下出血、・、消化管出血
合併症 肝不全、腎障害、、ショック
  • 致死率は10〜40%とされ、死亡率はおよそ30%である1——早期に重症化するほど予後が悪い

診断

  • が確定診断の中心(発症早期)、はIgM/
  • ⚠️ 検体は極度のバイオであり、最大限の生物学的封じ込め下でのみ扱う。 ただし不活化した検体は基本的な環境で扱えるため、施設の対応可否は「不活化前か後か」で分かれる1。マダニ刺咬歴・との接触歴・流行地への渡航歴の聴取が診断の糸口になる
  • :血小板減少、/上昇、凝固異常

治療と予防

  • 治療は支持療法が中心(輸液・循環管理、必要に応じてによる補充)
  • ⚠️ の有効性は確立していない。 系統的レビューは、1件(136例)と非研究4件(612例)を主解析に組み入れたうえで、死亡に対する効果がでRR 1.13(95%CI 0.29〜4.32)、非研究3件でRR 0.72(95%CI 0.41〜1.28、549例)とどちらも有意差を示さず、エビデンスの確実性は very low だったと報告し、を「がの治療に有効かどうかは分からない」としている。「効果あり」として引用されることの多い非研究はの調整がなくのリスクが高い4。も有効性に相当な不確実性があるとし、使うならへの登録を勧めている1
  • ヒト用の安全で有効なワクチンとして広く利用できるものはない——不活化のマウス脳由来ワクチンが東欧で小規模に使用されたことがあるのみである1
  • 予防:マダニ対策(防護服、、刺咬後の速やかな除去)、と畜作業時のの使用
  • ⚠️ ⭐ 医療現場での感染対策が特に重要。 は・の診療と検体取り扱いに(、、安全な注射手技、安全な埋葬)を求めており1、院内感染158例のレビューは標準的な・バリア・に対するを適用すべきだとしている3。(手袋・ガウン・ゴーグル・フェイスド)を徹底し、最多の経路が経皮的接触であることから器材の取り扱いと医療器材の・使い捨ての運用に最大限の注意を払う

まとめ

  • CCHFVはに属し、環状・3分節・由来のエンベロープを持つHyalomma属のウイルス。分類は2024年に綱 Bunyaviricetes へ格上げされ、は Hareavirales 目、は Elliovirales 目に分かれた。
  • 病態の核心は血管内皮の透過性亢進と・で、全身のが前景に立つ古典的な出血熱を呈する。
  • のと畜作業・マダニ刺咬が感染源となり、致死率は10〜40%(死亡率およそ30%)。
  • ⚠️ ⭐ 患者の血液・体液への曝露による院内感染リスクが極めて高い——報告された院内感染158例では86.1%が医療従事者で、全体致死率は32.4%だった。感染症の中では例外的に医療従事者への伝播が臨床上の重大な懸念になる。
  • 治療は支持療法が中心。の有効性は確立しておらず、系統的レビューは「有効かどうか分からない」とし、は使用時の登録を勧めている。広く利用できるワクチンはなく、医療現場での厳重な感染対策が予防の要になる。

出典

  1. 1.Crimean-Congo haemorrhagic fever(World Health Organization・2025)2025年2月20日更新のファクトシートで、致死率が10〜40%、死亡率がおよそ30%とされること、Hyalomma属マダニが主要な媒介者であること、ヒト-ヒト感染は感染者の血液・分泌物・臓器・体液との濃厚接触で起こり、医療器材の滅菌不備や注射針の再使用が院内感染の原因になりうること、リバビリンについては有効性に相当な不確実性があり臨床的エビデンスが不足しているため使用時は無作為化臨床試験への登録を勧めること、ヒト用の安全で有効なワクチンは広く利用できるものが存在せず、不活化のマウス脳由来ワクチンが東欧で小規模に使用されたことがあるだけであること、検査は極度のバイオハザードであり最大限の生物学的封じ込め下でのみ実施すべきだが不活化した検体は基本的なバイオセーフティ環境で扱えること、CCHFの疑い例・確定例を診療しその検体を扱う医療従事者には標準的な感染対策(基本的な手指衛生、個人防護具の使用、安全な注射手技、安全な埋葬手技)の実施を求めていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Promotion of order Bunyavirales to class Bunyaviricetes to accommodate a rapidly increasing number of related polyploviricotine viruses(Journal of Virology(International Committee on Taxonomy of Viruses)・2024)2017年にICTVが Bunyaviridae 科を Bunyavirales 目へ拡大し、2024年4月にその目をさらに class Bunyaviricetes(綱)へ格上げしたこと、この綱が2目からなり、Elliovirales に Hantaviridae などが、Hareavirales に Nairoviridae と Arenaviridae などが含まれることを確認した——げっ歯類媒介の Arenaviridae が Nairoviridae と同じ目に置かれているため、「節足動物を介さないのはハンタウイルスだけ」は綱のレベルでは成り立たない。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Nosocomial infections caused by Crimean-Congo haemorrhagic fever virus(Journal of Hospital Infection(Tsergouli K, et al.)・2020)1953〜2016年にアフリカ・アジア・欧州の20か国で報告されたCCHFウイルスの院内感染158例のレビュー(抄録)で、92.4%が症候性、全体致死率が32.4%だったこと、発生場所は病院の診療部門92.0%・検査室8.0%だったこと、86.1%が医療従事者(看護師44.9%・医師32.3%・検査部門職員6.3%)、12.7%が面会者、1.3%が入院患者だったこと、伝播経路の内訳が経皮的接触34.3%(最多)・皮膚接触22.2%・近接によるエアロゾル曝露18.2%・間接接触17.2%・患者環境への曝露8.1%だったこと、著者らが逐語で「standard contact precautions, barrier precautions and airborne preventive measures should be applied」と述べていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Ribavirin for treating Crimean Congo haemorrhagic fever(Cochrane Database of Systematic Reviews(Johnson S, Henschke N, Maayan N, et al.)・2018)主解析に組み入れられたのは無作為化比較試験1件(136例)と非無作為化研究4件(612例)で、交絡を調整していない critical risk of bias の非無作為化研究18件は除外されたこと、死亡に対する効果は無作為化比較試験でRR 1.13(95%CI 0.29〜4.32、136例)、非無作為化研究3件でRR 0.72(95%CI 0.41〜1.28、549例)でいずれもエビデンスの確実性が very low だったこと、在院日数・血小板輸血の必要性でも差が示されなかったこと、著者らの結論が逐語「We do not know if ribavirin is effective for treating Crimean Congo haemorrhagic fever. Non-randomized studies are often cited as evidence of an effect, but the risk of bias in these studies is high.」であることを抄録の全文で確認した。書誌はCrossrefで照合した。閲覧 2026-09-27