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Microbe Atlas · ウイルス

Lassa virus

ラッサウイルス

分類
アレナウイルス / Arenaviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/20: Arenaviruses (LCM-, Lassa-, Machupovirus)5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
作用する薬剤
リバビリン

🧠 全体像:Lassa virusはの代表種で、げっ歯類のを介した人獣共通感染症という骨格はLCMVと共通するが、臨床像は対照的——LCMVが髄膜炎に向かうのに対し、Lassa virusはに向かう。西アフリカのとして毎年数万〜数十万人規模の感染を起こし続けているにもかかわらず、急性期の重症像だけでなく回復後の難聴というが臨床的に見過ごされやすい点も特徴である。

微生物学的な特徴

に属する。名称はラテン語の“arena”(砂)に由来し、下で内部にの構造(実体は取り込まれた宿主リボソーム)が観察されることによる。

項目 内容
ゲノム 環状(主に、分節ごとに・の両方のコード領域を持つ)
分節数 2分節(L・S)
エンベロープあり、

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Mastomys natalensis(マストミス)の<br>尿・便・唾液への曝露"] --> B["マクロファージ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendritic cell'>樹状細胞</span>への感染"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type I interferon'>I型インターフェロン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>放出"]
    C --> D["血管内皮の機能障害・透過性亢進"]
    B --> E["T細胞を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunopathological response'>免疫病理的反応</span>"]
    E --> D
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemic shock'>循環血漿量減少性ショック</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span>・点状出血"]

⚠️ は「出血熱=血管炎」という短絡的な理解が当てはまらない疾患である。 他の出血熱ウイルス(など)と異なり、血管内皮そのものへの炎症性破壊は目立たず、はである。

感染経路と疫学

  • はマストミス(Mastomys natalensis、)——西アフリカの家屋周辺に広く生息し、食品・水の汚染や糞塵の吸入を介してヒトに伝播する
  • ヒト-ヒト感染も体液(血液・分泌物)の直接接触で成立し、感染対策が不十分な医療現場での院内感染も報告される(ただしCCHFやほど頻繁ではない)。⚠️ ヒトからヒトへのを支持する疫学的証拠はない——対策が要で、麻疹のようなとは区別する1
  • 分布:西アフリカので、ベナン・ガーナ・ギニア・リベリア・マリ・ナイジェリア・シエラレオネでとされる(他の西アフリカ諸国にも存在する可能性が高い)1。乾季に感染が増加する季節性がある
  • 潜伏期は2〜21日1

起こす疾患

を起こす。

  • 感染者の約80%は無症状〜軽症で経過し、5人に1人が肝・脾・腎など複数臓器に及ぶ重症化を示す1
  • 重症例は発熱、咽頭炎、多臓器にわたる、に至る
  • ⭐ 感音難聴が特徴的な。 突然発症の性または両側性の感音難聴が回復者の最大25%に報告され、急性期にも回復後にも生じ、多くは永続的である1。総説ではの約1/3という推計が引かれ、完全に回復するのは一部にとどまる2
  • 💡 難聴の有無は「重症だったかどうか」では読めない。 発症・予後はウイルス量・値・疾患の重症度・投与のいずれとも相関せず、投与下でも残る。に発症するとあわせての機序が仮説として提唱されているが、直接のウイルス傷害か免疫傷害かは未確定である2
  • 妊娠中、特にの感染は転帰が著しく悪い——では胎児死亡率が80%、率が30%を超えうる1
  • 致死率は「どの母集団を数えたか」で桁が変わる。 全感染あたりでは約1%だが、重症例として入院した患者では15%以上で、致死例では通常発症から14日以内に死亡する1。1969〜2025年の観察研究35件を統合したの統合致死率は27%(95%CI 20-35)で、シエラレオネ48%・リベリア40%に対しナイジェリアは16%と国差が大きく、や病院ベースの設定ほど高く出る3。⚠️ 「全感染の致死率」と「入院例の致死率」を混同しない

診断

  • 急性期はRT-PCR、はIgM/による血清学的検査
  • でのの外観はに共通する所見
  • ⚠️ 検体は「極度の生物災害リスク」として扱う。 は不活化していない検体の検査を最大の生物学的封じ込め条件下で行うよう求め、国内外への搬送には三重梱包を用いるとしている1。渡航歴・げっ歯類曝露歴の聴取が診断の糸口になるが、疑った時点で検査室へ事前連絡する
  • ⭐ 日本ではは一類感染症で、診断したがただちに最寄りのへ届け出る——エボラ出血熱・・と同じ区分である4

治療と予防

  • ⭐ 治療の土台は支持療法である。 輸液管理と症状に応じた治療を早期に集中的に行うことがを改善する1
  • ⚠️ に承認された抗ウイルス薬はない。 は長く標準治療として推奨されてきたが、は有効性と最適な用量の双方に相当な不確実性があるとし、可能なら無作為化試験へ登録するよう求めている1
  • ⚠️ 「には」と反射的に覚えない。 有効性データを与える研究は6件しかなく、後ろ向き症例集積を除けば重大なを持つ単一のにほぼ依存する。その試験では上昇例で死亡が減った一方(OR 0.41、95%CI 0.23-0.73)、非上昇例=比較的軽症の患者ではむしろ死亡が増えていた(OR 2.37、95%CI 1.07-5.25)ため、現行の推奨が軽症例の死亡リスクを高めている可能性が指摘され、緊急の再評価が求められている5
  • 承認されたワクチンはない——複数の候補ワクチンが開発段階にある1
  • 予防:マストミスとの接触回避(穀物・食品をネズミが入れない容器で保管、生ごみを家から離して処分、十分な加熱調理、家屋周辺のネズミ対策)。マストミスは流行地に極めて多く、環境からすることはできない1
  • ⚠️ 医療現場ではだけでは足りない。 は全患者に(・呼吸器衛生・・安全な注射手技)を適用したうえで、・では血液・体液や汚染された衣類・寝具との接触を防ぐ追加の感染対策を求め、・は早期に隔離して指定治療施設へ搬送するとしている1

まとめ

  • Lassa virusはの代表種——・2分節・エンベロープを持つウイルスで、はマストミス()。
  • 病態はマクロファージ感染→サイトカイン放出→血管内皮の機能障害によるで、血管炎を伴わない点が他の出血熱と異なる。
  • 西アフリカので、感染者の約80%は無症状〜軽症、5人に1人が重症化する。致死率は全感染あたり約1%、入院例では15%以上、の統合値では27%と母集団によって桁が変わる。
  • ⭐ 感音難聴が特徴的なで、回復者の最大25%(総説の推計では約1/3)に永続的に残り、重症度・ウイルス量・投与とは相関しない。
  • ⚠️ 治療の土台は早期の集中的な支持療法で、承認された抗ウイルス薬はない。は標準治療とされてきたが有効性の根拠が揺らいでおり、軽症例では有害の可能性が指摘されている。承認されたワクチンもまだない。

出典

  1. 1.Lassa fever(World Health Organization・2024)2024年12月5日更新の版を取得して確認した。感染者の約80%が無症状または軽症で「5人に1人」が肝・脾・腎など複数臓器に及ぶ重症化を示すこと、潜伏期が2〜21日であること、全体の致死率が1%で重症例として入院した患者では15%以上であること、致死例では発症から14日以内に死亡するのが通常であること、妊娠第3三半期では胎児死亡率が80%・母体死亡率が30%を超えうること、突然の難聴が回復者の最大25%に報告され急性期にも回復後にも生じ多くは永続的であること、ラッサ熱に承認された抗ウイルス薬は存在せずリバビリンは使われてきたが有効性と最適な用量に相当な不確実性があり可能なら無作為化試験へ登録すべきとされること、輸液を含む早期の集中的な支持療法が生存率を改善すること、承認されたワクチンは無く複数の候補が開発中であること、ヒト間の空気感染を支持する疫学的証拠は無いこと、風土病国としてベナン・ガーナ・ギニア・リベリア・マリ・ナイジェリア・シエラレオネが挙げられていることを確認した。2026-09-27に再取得し、次も確認した。患者検体は「an extreme biohazard risk」で不活化していない検体の検査は最大の生物学的封じ込め条件下で行い、搬送には三重梱包を用いること。医療現場では推定診断にかかわらず全患者に標準予防策(手指衛生・呼吸器衛生・個人防護具・安全な注射手技)を適用し、疑い例・確定例を診療する医療従事者は血液・体液や汚染された衣類・寝具などの物品との接触を防ぐ**追加の**感染対策を適用すること、疑い例・確定例は早期に指定治療施設へ紹介して早期に隔離・診療すること。げっ歯類対策として穀物・食品をネズミの入れない容器で保管し、生ごみを家から離して処分し、十分に加熱調理すること、ただし流行地ではマストミスが極めて多く環境から完全に除去することはできないこと。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Lassa fever-induced sensorineural hearing loss: A neglected public health and social burden(PLOS Neglected Tropical Diseases・2018)PMCのオープンアクセス全文で確認した。突然発症の感音難聴が生存者の約1/3に一側性または両側性に生じ完全に回復するのは一部にとどまること、難聴の発症・予後がウイルス量・肝酵素値・疾患の重症度・リバビリン投与のいずれとも相関しないこと、リバビリン投与下でも難聴が残ることからウイルス血症を抑えても難聴は防げないと考えられること、これらと回復期に発症する時間経過から免疫介在性の機序が仮説として提唱されているが直接のウイルス傷害か免疫傷害かは未確定であることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Lassa fever in West Africa: a systematic review and meta-analysis of attack rates, case fatality rates and risk factors(BMC Public Health・2025)抄録で、1969〜2025年の観察研究35件を統合したメタ解析の統合発病率が21.0%(95%CI 18.0-24.0)、統合致死率が27.0%(95%CI 20.0-35.0)で、いずれも異質性が極めて大きいこと(I²=98.6%・99.4%)、致死率がシエラレオネ48%・リベリア40%に対しナイジェリアは16%であること、コホート研究と病院ベースの設定では発病率・致死率がいずれも著しく高く出ること、RT-PCRで診断した研究は血清学・混合法の研究より低い致死率を報告したこと、環境曝露(げっ歯類の侵入・住居の質)の関連が最も強かったこと(OR 2.18)を確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.感染症法に基づく医師の届出のお願い(厚生労働省(令和八年四月六日施行の届出基準)・2026)全数報告対象の一覧本文を取得し、ラッサ熱が一類感染症の7疾患(エボラ出血熱・クリミア・コンゴ出血熱・痘そう・南米出血熱・ペスト・マールブルグ病・ラッサ熱)の一つに掲げられ、一類はいずれも診断した医師が「ただちに」最寄りの保健所へ届け出る区分であることを確認した閲覧 2026-09-28
  5. 5.Ribavirin for the treatment of Lassa fever: A systematic review and meta-analysis(International Journal of Infectious Diseases(Eberhardt KA, et al.)・2019)抄録で、リバビリンが国内・国際のガイドラインでラッサ熱の標準治療として推奨されてきた一方その根拠が最近問われていること、有効性データを与える研究が6件しかなく、後ろ向き症例集積を除けば重大なバイアスリスクを持つ単一の前向き臨床試験にほぼ依存すること、その試験ではAST上昇例で死亡が減少した(OR 0.41、95%CI 0.23-0.73)一方、AST非上昇例では死亡が増加していたこと(OR 2.37、95%CI 1.07-5.25)、したがって現行の治療ガイドラインが軽症例の死亡リスクをかえって高めている可能性があり、ラッサ熱治療におけるリバビリンの位置づけは緊急の再評価を要すると結論されていることを確認した(抄録のみを閲覧し全文は未取得)。閲覧 2026-09-27