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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

Clostridioides difficile infection (pseudomembranous colitis)

別名
CDIPseudomembranous colitis偽膜性大腸炎
臓器系
感染症消化器
科目
Medical MicrobiologyInternal MedicinePathology
トピック
微生物学 2/27:ボツリヌス菌とクロストリジオイデス・ディフィシル内科学 S-31:クロストリディオイデス・ディフィシル感染症病理学 C/38:腸炎(Enterocolitis)
鑑別疾患
好中球減少性腸炎免疫関連大腸炎
続発疾患
敗血症中毒性巨大結腸症
関連疾患
細菌性急性胃腸炎
治療薬
フィダキソマイシンバンコマイシンメトロニダゾールリファキシミンベズロトクスマブ
原因薬剤
クリンダマイシンアモキシシリンアンピシリンアジスロマイシンセフェピムセフィデロコルセフィキシムセフォタキシムセフォキシチンセフタロリンホサミルセフタジジムセフタジジム+アビバクタムセフトロザン+タゾバクタムセフトリアキソンセフロキシム(-アキセチル)セファレキシンセファゾリンシプロフロキサシンクラリスロマイシンドリペネムエルタペネムフルクロキサシリンイミペネムシラスタチンレファムリンレボフロキサシンメロペネムモキシフロキサシンペニシリンVピペラシリンタゾバクタム(エス)オメプラゾールパントプラゾールラベプラゾール
原因微生物
Clostridioides difficile
症状
下痢血便発熱腹痛
適応薬
テイコプラニンベズロトクスマブ
禁忌薬
ロペラミド

🧠 全体像:は「毒素で神経を狙う」他のクロストリジウム属(破傷風・ボツリヌス)とは全く異なり、がを一掃した後のとして発症する院内感染性の下痢・大腸炎である。A毒素とB毒素はどちらもRhoタンパク質を不活化してを直接破壊し、B毒素だけでも発症しうる。診断は症状のあるだけを多段階検査で調べ、を治療しないことが鉄則。初発治療の第一選択は国によって違う——米国・欧州ではメトロニダゾールが第一選択から外れて優先(代替は)になったが、日本のガイドラインは非重症の初発にメトロニダゾールを残している。どの国の指針かを確かめずに「メトロニダゾールはもう使わない」と覚えると、日本の実臨床とずれる。

病原体と発症機序

*Clostridioides difficile*はグラム陽性・のである。芽胞は環境中で長期間生存しにも強く、医療従事者の不十分なを介して院内で容易に伝播する。通常はに競合排除されているが、(特にクリンダマイシン、、、広域ペニシリン)投与により正常フローラが一掃されると異常増殖するリスクが高まる。

無症候性の定着は年齢と環境で大きく違う。1

対象 定着率
新生児〜乳児 20%程度〜高いもので90%
2〜3歳 1〜3%まで低下
医療機関の受診歴がない成人 2%未満〜15%
入院中の患者 約30%まで
長期介護施設の入所者 約50%まで

💡 乳児は定着率が高いのにほとんど発症しない。トキシンAが結合するの受容体が十分に発現していないためと考えられているが、十分には解明されていない1。

毒素 機序 効果
A毒素(古典的には) 細胞内でとして働き、Rhoタンパク質をグルコシル化して不活化する 細胞骨格が保てず上皮細胞が傷害され、が緩む。古典的には下痢を誘導する作用が強調された
B毒素(古典的には) A毒素と同じくRhoタンパク質を不活化する 強い細胞傷害性。A毒素陰性・B毒素陽性の株でも発症し、で病原性を示すにはB毒素が必須
アクチンをADPする 細胞骨格を不安定にし、菌の付着を助ける。一部の菌株だけが産生する

💡 「A毒素=水様性下痢、B毒素=」という分け方は古典的な説明である。 両者はの約半分が共通し、同じ仕組み(Rhoタンパク質の不活化)で上皮を壊す。病態形成への関わり方の違いにはが出ておらず、臨床的に確かなのはB毒素だけでも病気を起こせるという点である1。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum antibiotics'>広域抗菌薬</span>投与により<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normal intestinal flora (normal gut microbiota)'>正常腸内フローラ</span>が一掃"] --> B["C. difficile が異常増殖"]
  B --> C["A毒素・B毒素が上皮細胞に取り込まれる"]
  C --> D["Rhoタンパク質が不活化され<br>細胞骨格が崩れる"]
  D --> E["上皮細胞の傷害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tight junction'>密着結合</span>の破綻"]
  E --> F["炎症・体液分泌<br>水様性下痢"]
  E --> G["壊死物と滲出物が粘膜を覆う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembrane formation'>偽膜形成</span>"]
  F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembranous colitis'>偽膜性大腸炎</span>"]
  G --> H
  H --> I["劇症化:イレウス・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic megacolon'>中毒性巨大結腸症</span>・穿孔・敗血症"]

臨床像

使用歴、65歳以上、入院・施設入所、免疫抑制、既往がリスク因子。・腹痛・発熱・を呈し、重症化すると、、イレウス、、穿孔、敗血症を来す。

⚠️ 血性下痢は典型的ではない。 で血便を見た場合は他の大腸炎(虚血性、など)も鑑別に挙げる。

診断

症状のある新規の(通常24時間に3回以上)のみを検査対象とし、多段階検査(+/)でと整合するかを確認する。

flowchart TD
  A["新規の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unformed stool'>未成形便</span>:通常24時間に3回以上"] --> B["下剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube feeding (enteral feeding)'>経管栄養</span>など他原因を評価"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unformed stool'>未成形便</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxin enzyme immunoassay'>毒素EIA</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate dehydrogenase'>GDH</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid amplification test'>NAAT</span>の多段階検査"]
  C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical manifestation'>臨床症状</span>と検査が整合するか"}
  D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Clostridioides difficile infection'>CDI</span>と診断し重症度を判定"]
  D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asymptomatic carriage'>無症候性保菌</span>・他原因を再評価"]

⚠️ 単独は毒素遺伝子保有を検出するだけで、を過剰診断しうる。 形成便、無症候者、治癒確認目的での再検査は行わない。内視鏡はルーチンではなく、検体が得られないイレウスや診断不明例で確認に用いる。

治療

可能なら誘因抗菌薬・不要なを中止し、輸液・電解質を補正する。単独は毒素貯留を悪化させうるため避ける。

重症度の線引きは統一されていない。 日本のガイドラインは国内外で統一されたはないとしたうえで各国の基準を並べている。米国/・欧州などの基準はいずれも白血球15,000/μL以上との上昇を重症の項目に含め、イレウス・低血圧・などを伴うものを劇症型として別に扱う1。

⚠️ 初発治療の第一選択は国によって違う。

場面 欧州( 2021) 日本(日本化学療法学会・日本感染症学会 2022)
初発 2017年改訂でバンコマイシンかをメトロニダゾールより優先とし、メトロニダゾールは両剤が入手しにくい非重症例に限った2。2021年の焦点改訂でさらにを標準的なより優先(条件付き推奨)とし、バンコマイシンは許容できる代替とした3 が望ましく、かバンコマイシンが使えるならメトロニダゾールは推奨しない4 非重症はメトロニダゾール500 mg 1日3回10日間が第一選択(強い推奨)。使えない場合や妊婦・はバンコマイシン125 mg 1日4回、再発リスクがあれば200 mg 1日2回。重症はバンコマイシン125 mg 1日4回または(再発リスクがあれば)1
再発 (標準または延長パルス法)を優先。初回再発ではバンコマイシンの・パルス法や標準投与も代替3 初回再発はが望ましく、2回目以降は抗菌薬にかを加える4 またはバンコマイシン(弱い推奨)。再発が何度も続くならバンコマイシンのパルス・療法を考慮1

💡 日本がメトロニダゾールを残している理由。 非重症例ではバンコマイシンとに有意差がなく、が安く、バンコマイシンの使用量が増えるとが増えうると判断したためである。一方、重症例ではバンコマイシンのが有意に高く、メトロニダゾールは高用量・長期投与で副作用が出やすいので、非重症の初発例に限っている1。米国でメトロニダゾールが第一選択から外れたのは2017年改訂であり、2021年の焦点改訂はとだけを扱った23。

劇症型(ショック・低血圧・イレウス・)は米国と日本でほぼ同じ扱いである。

  • 米国/:500 mg 1日4回。イレウスがあれば注腸も加え、静注メトロニダゾール500 mg 8時間ごとを併用する2
  • 日本:バンコマイシン500 mg 1日4回を経口・または注腸で投与し、メトロニダゾールの併用を考慮する(弱い推奨)1
  • 病態に応じてまたは+結腸洗浄を検討し、早期に外科へ相談する

多回再発:米国では、、バンコマイシンの・パルス法、バンコマイシン後の、抗菌薬治療に失敗した場合のが選択肢になる2。米国/は過去6か月以内に再発した患者に抗菌薬へのとしてを提案するが、心不全の既往がある患者では有益性が危険を上回る場合に限る3。⚠️ 日本では(ジーンプ)は販売中止となり、2024年4月以降は保険請求できない5。

感染対策は・手袋・ガウン・石鹸と流水による手洗いを徹底する——アルコール手指消毒だけでは芽胞を十分除去できない。

まとめ

  • はによる破壊を契機にC. difficileが異常増殖する院内感染。A毒素・B毒素はどちらもRhoタンパク質を不活化して上皮を壊し、B毒素だけでも発症しうる。
  • 無症候性の定着は乳児で高く、成人でも入院・長期介護施設で高くなる。症状のあるだけを多段階検査(+/)で調べ、を治療しない。
  • 初発の第一選択は国で違う。米国・欧州は優先でが代替、メトロニダゾールは他剤が使えない場合に限る。日本は非重症の初発にメトロニダゾールを第一選択として残し、重症はバンコマイシンかとする。
  • 劇症型(ショック・イレウス・)では高用量バンコマイシン+静注メトロニダゾールと早期外科評価を要する。
  • 多回再発ではや併用が海外の指針に挙がるが、は日本では販売中止となっている。感染対策では芽胞に有効な石鹸・流水手洗いが必須(アルコール単独では不十分)。

出典

  1. 1.Clostridioides difficile感染症診療ガイドライン2022(日本化学療法学会・日本感染症学会(感染症学雑誌 97巻 Supplement 01、2023年1月24日)・2023)日本感染症学会サイトの全文PDF(guideline_cdi_230125.pdf)で確認した。S11が、トキシンA・Bはいずれもグルコシルトランスフェラーゼ活性を持ちRhoタンパク質をグルコシル化して不活化し、上皮細胞の細胞骨格が保てず細胞傷害と密着結合の脆弱化を起こすこと、古典的にAはエンテロトキシン(下痢誘導性)・Bはサイトトキシン(細胞傷害性)とされたが両者はアミノ酸レベルで約48%相同であること、発症に関わるのはA+B+とA-B+の株で、病態形成への関わり方の違いには結論が出ていないが動物モデルで病原性を示すにはトキシンBが必須であること、バイナリートキシンはアクチンをADPリボシル化することを述べる。S22が、無症候性定着率を新生児〜乳児で20%程度から高いもので90%、2〜3歳までに1〜3%、医療機関の受診歴がない成人で2%未満〜15%、入院環境で約30%まで、長期介護施設で約50%までとする。S42は国内外で統一された重症度分類はないとし、S43の表1(重症度一覧)はIDSA/SHEA(2018)・ACG(2021)・ESCMID(2021)・WSES(2019)がいずれも白血球15,000/μL以上と血清クレアチニン上昇を重症CDIの項目に、イレウスと低血圧などの血行動態不安定を劇症型CDIの項目に含めることを示す(クレアチニンの閾値の書き方は基準ごとに異なる)。S50の表1は、非重症の初発にメトロニダゾール500 mg 1日3回10日間(強い推奨・A。使えない場合や妊婦・授乳婦はバンコマイシン125 mg 1日4回、再発リスクを有する場合などはフィダキソマイシン200 mg 1日2回10日間)、重症にバンコマイシン125 mg 1日4回10日間、再発リスクを有する場合はフィダキソマイシン(強い推奨・A)、ショック・低血圧・中毒性巨大結腸症・麻痺性イレウスにバンコマイシン500 mg 1日4回の経口・経鼻胃管または注腸とメトロニダゾール点滴静注の併用考慮(弱い推奨・C)、再発にフィダキソマイシンまたはバンコマイシン(弱い推奨・B)、再発が何度も続く場合にバンコマイシンのパルス・漸減療法を考慮(弱い推奨・C)とする。S51の本文は、非重症例ではメトロニダゾールとバンコマイシンの治療成功率に有意差がなく重症例ではバンコマイシンが有意に高かった2018年のメタ解析、メトロニダゾールの薬価の安さ、バンコマイシン使用量の増加がVREを増やしうること、メトロニダゾールは高用量・長期投与で副作用が出やすいため非重症の初発例に限ったことを理由に挙げ、重症例ではフィダキソマイシンをバンコマイシンと同様に第一選択薬として推奨したと述べる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Practice Guidelines for Clostridium difficile Infection in Adults and Children: 2017 Update by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA)(Clinical Infectious Diseases(IDSA / SHEA)・2018)発行元(IDSA)の推奨ページで、成人の初発には「Either vancomycin or fidaxomicin is recommended over metronidazole」とし(バンコマイシン125 mg 1日4回またはフィダキソマイシン200 mg 1日2回10日間)、メトロニダゾールはバンコマイシン・フィダキソマイシンへのアクセスが限られる場合の非重症例に限ること、劇症型では経口バンコマイシン500 mg 1日4回を選択し、イレウスがあれば約100 mLの生理食塩水に溶いた500 mgを6時間ごとに注腸でき、特にイレウスがあれば静注メトロニダゾール500 mg 8時間ごとを併用すること、初回再発はバンコマイシンの漸減・パルス法、フィダキソマイシン10日間、または初発をメトロニダゾールで治療していた場合のバンコマイシン標準投与、2回目以降の再発はバンコマイシンの漸減・パルス法、バンコマイシン後のリファキシミン、フィダキソマイシンで、適切な抗菌薬治療に失敗した多回再発には糞便移植を推奨することを確認した閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Practice Guideline by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA): 2021 Focused Update Guidelines on Management of Clostridioides difficile Infection in Adults(Clinical Infectious Diseases(IDSA / SHEA)・2021)発行元(IDSA)の推奨ページで、本改訂がフィダキソマイシンとベズロトクスマブの使用に絞った焦点改訂であること、初発に「we suggest using fidaxomicin rather than a standard course of vancomycin (conditional recommendation, moderate certainty of evidence)」、再発に「we suggest fidaxomicin (standard or extended-pulsed regimen) rather than a standard course of vancomycin (conditional recommendation, low certainty evidence)」、過去6か月以内に再発した患者に標準抗菌薬への上乗せとしてベズロトクスマブを提案すること(条件付き推奨・非常に低い確実性)を確認した閲覧 2026-09-27
  4. 4.European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases: 2021 update on the treatment guidance document for Clostridioides difficile infection in adults(Clinical Microbiology and Infection(ESCMID Study Group on Clostridioides difficile)・2021)抄録(Europe PMC、PMID 34678515)の Recommendations で、前版からの主な変更として、フィダキソマイシンかバンコマイシンが使えるならメトロニダゾールはCDI治療に推奨されないこと、フィダキソマイシンが利用可能で実施できるなら初発と初回再発に望ましい薬であること、2回目以降の再発には標準抗菌薬に加えて糞便移植かベズロトクスマブが望ましいこと、治療方針を重症度より再発リスクで決める方針に重心を移したことを確認した(抄録の範囲のみ)閲覧 2026-09-27
  5. 5.「ジーンプラバ®点滴静注 625mg」 販売中止に関するお知らせ(MSD株式会社(医療関係者向けのお知らせ)・2023)2023年5月付の医療関係者向けのお知らせ(ウェブアーカイブの保存版PDF)で、ジーンプラバ点滴静注625mgを世界的な需要減少による供給体制の再編により販売中止とし、販売中止時期(予定)を2023年12月末、経過措置期間(予定)を2024年3月31日までとし、2024年4月1日以降は保険請求できないと記していることを確認した閲覧 2026-09-27