内科学

内科学 · S-31

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

Clostridioides difficile Infection

前提:病態
ボツリヌス菌とクロストリジオイデス・ディフィシル消化管の常在菌叢とその意義
疾患
クロストリディオイデス・ディフィシル感染症中毒性巨大結腸症

🧠 全体像:は、抗菌薬などによる破綻後に毒素産生菌が増殖して起こる下痢・大腸炎である。症状のある患者だけを適切なで診断する。初発治療の第一選択は国で違い、米国・欧州はを優先してバンコマイシンを代替とするが、日本は非重症の初発にメトロニダゾールを残している。イレウス、ショック、を伴う劇症型は内科・外科の緊急病態である。

リスクと臨床像

、とくにクリンダマイシン、、、広域ペニシリン、入院・施設、65歳以上、免疫抑制、既往がリスクとなる。、腹痛、発熱、を呈し、重症化すると低アルブミン、AKI、イレウス、、穿孔、敗血症を来す。血性下痢は典型的ではなく、他の大腸炎も考える。

診断

flowchart TD
    A["新規の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unformed stool'>未成形便</span>:通常24時間に3回以上"] --> B["下剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube feeding (enteral feeding)'>経管栄養</span>・他原因を評価"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unformed stool'>未成形便</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxin enzyme immunoassay'>毒素EIA</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate dehydrogenase'>GDH</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid amplification test'>NAAT</span>の多段階検査"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical manifestation'>臨床症状</span>と検査が整合"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Clostridioides difficile infection'>CDI</span>を診断し重症度判定"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asymptomatic carriage'>無症候性保菌</span>・他原因を再評価"]

単独は毒素遺伝子保有を検出し、を過剰診断し得る1。形成便、無症候者、治癒確認目的の再検査は行わない。内視鏡はルーチンではなく、検体が得られないイレウスや診断不明例で確認に用いる。

⚠️ どの単独検査もを確定できない。 のは、が低い状況では もトキシンA/B もも単独ではが不十分であるとして、2段階アルゴリズムを推奨した。 ・・毒素産生培養が陽性でもトキシンで遊離毒素が検出されない検体は、かかを臨床的に判別しなければならない1。「陽性=」と読んだ瞬間にを治療してしまう。

重症度と治療

病型 目安 治療
非重症 WBC ≤15,000/μLかつクレアチニン <1.5 mg/dL 米国・欧州:を優先、も可23。日本:メトロニダゾール500 mg 1日3回10日間が第一選択、再発リスクがあれば4
重症 WBC >15,000/μLまたはクレアチニン ≥1.5 mg/dL または、厳密監視(日本も同じく、両者が使えない場合に限りメトロニダゾール)4
劇症型 低血圧/ショック、イレウス、 高用量経口/経管バンコマイシン+静注メトロニダゾール;イレウスなら直腸内バンコマイシンを検討、早期

可能なら誘因抗菌薬・不要なを中止し、輸液・電解質を補正する。劇症型ではまたは+結腸洗浄などを病態に応じ検討する。単独は毒素貯留を悪化させ得るため避ける。

💡 重症度の線引きには国内外で統一された分類が無く4、上の目安は海外のガイドラインで使われてきた基準の一例である。

⚠️ 欧米ではの序列が入れ替わった。 ヨーロッパの 2021改訂は、またはバンコマイシンが使用できる状況ではメトロニダゾールを治療に推奨しないと明記し、を初回と初回再発の第一選択に据えた2。米国の/も同年、との位置づけを主題とする焦点改訂を出している3。欧米では「非重症=メトロニダゾール、重症=バンコマイシン」という旧来の整理はもう現行ではなく、メトロニダゾールが残るのは/バンコマイシンが使えない場合と、劇症型でに静注メトロニダゾールをする場合である。

⚠️ 日本ではこの整理が今も現行である。 日本化学療法学会・日本感染症学会の2022年ガイドラインは、非重症の初発にメトロニダゾール500 mg 1日3回10日間を第一選択とし(強い推奨)、重症はバンコマイシン125 mg 1日4回または、再発リスクがあればとする。非重症例ではバンコマイシンと治療成績に有意差がなく、が安く、バンコマイシンの使用量が増えるとが増えうることが理由である4。どの国の指針に従っているかを明示して読む。

💡 治療戦略を決める軸が「重症度」から「再発リスク」へ移った。 2021は、前版と異なり個々の患者のを決める因子としてではなく再発リスクを重視すると明言している2。上の重症度表は残しつつ、「この人は再発しやすいか」を並行して問う。

再発と感染対策

初回再発は、またはバンコマイシンの・法を用いる2。日本のガイドラインは再発にまたはバンコマイシンを弱く推奨し、再発が何度も続く場合はバンコマイシンのパルス・療法を考慮するとする4。多回再発では、バンコマイシンの・法、バンコマイシン後、厳格にスクリーニングされた/などを選ぶ5。直近6か月の再発または高リスク例では併用を検討するが6、心不全既往では有益性とリスクを慎重に判断する7。⚠️ 日本では(ジーンプ)は販売中止となり、2024年4月以降は保険請求できない8。を一律に再発予防へ用いる根拠は不十分である。

💡 「便を移植する」は、いまや承認された製剤としても存在する。 のに加え、米国は糞便微生物叢由来の製剤 fecal microbiota live-jslm(、Rebyota)と fecal microbiota spores live-brpk(経口、Vowst)を承認しており、 2024はこれらを含めて推奨を組み立てている5。ESCMID 2021も2回目以降の再発では標準治療の抗菌薬に加えてまたはを優先するとした2。

⚠️ は誰にでも使えるわけではない。 は、免疫正常の成人の再発性では標準治療の抗菌薬終了後に選択的に用いることを提案し、軽度〜中等度の免疫抑制例ではを提案する一方、高度免疫抑制例には糞便微生物叢由来治療を用いないことを提案している。標準治療に反応しない重症・劇症で入院中の成人にはを補助的に用いてよい5。

💡 は「治療薬」ではなく「再発抑制の」である。 抗菌薬ではないため、必ず抗菌薬治療と併用して10 mg/kgを60分かけて単回する7。MODIFY I/II(30か国322施設、成人2,655例)で再発率を16.5%対26.6%へ低下させた6。ただし既往例では心不全の発現率(12.7%対4.8%)と死亡率(19.5%対12.5%)がより高かった7。

、手袋・ガウン、石鹸と流水による手洗い、芽胞に有効な消毒を行う。アルコール手指消毒だけでは芽胞を十分除去できない。

まとめ

  • 症状のあるだけを多段階検査し、を治療しない。
  • 初回治療は国で違う。米国・欧州はを優先してバンコマイシンを代替とし、日本は非重症の初発にメトロニダゾールを第一選択として残す。
  • は再発抑制ので治療薬ではない。日本では販売中止となっている。
  • ショック・イレウス・では高用量バンコマイシン+静注メトロニダゾールと早期外科評価を行う。

出典

  1. 1.European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases: update of the diagnostic guidance document for Clostridium difficile infection(Clinical Microbiology and Infection(ESCMID)・2016)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)EIA、トキシンA/B EIA、核酸増幅検査(NAAT)を対照法と比較したメタ解析に基づき、CDI有病率が低い状況では陽性的中率が不十分なため、**単独で診断を確定できる市販検査は存在しない**と結論し、2段階アルゴリズムの使用を推奨した。GDH EIA・NAAT・毒素産生培養が陽性でトキシンA/B EIAで遊離毒素が検出されない検体は、CDIか無症候性保菌かを臨床的に評価して判別する必要がある閲覧 2026-08-25
  2. 2.European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases: 2021 update on the treatment guidance document for Clostridioides difficile infection in adults(Clinical Microbiology and Infection(ESCMID Study Group on Clostridioides difficile)・2021)2014年版からの主な変更点として、フィダキソマイシンまたはバンコマイシンが使用できる状況ではメトロニダゾールをCDI治療に推奨しないこと、フィダキソマイシンが初回CDIおよび初回再発の第一選択薬であること、2回目以降の再発には標準治療の抗菌薬に加えて糞便微生物叢移植(FMT)またはベズロトクスマブを優先すること、初回エピソードをフィダキソマイシンで治療した場合の初回再発には標準治療+ベズロトクスマブを推奨すること、フィダキソマイシンが入手できない場合は再発リスクの高いエピソードでバンコマイシンの補助としてベズロトクスマブを検討することが挙げられる。前版と異なり、治療戦略を決める因子として重症度ではなく再発リスクが重視されている閲覧 2026-08-25
  3. 3.Clinical Practice Guideline by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA): 2021 Focused Update Guidelines on Management of Clostridioides difficile Infection in Adults(Clinical Infectious Diseases(IDSA / SHEA)・2021)成人CDI管理のIDSA/SHEA 2021焦点改訂で、フィダキソマイシンとベズロトクスマブの位置づけを主題として扱った。多分野合同パネルが主題別の系統的文献レビューに基づき、GRADE法で推奨の強さとエビデンスの確実性を評定している閲覧 2026-08-25
  4. 4.Clostridioides difficile感染症診療ガイドライン2022(日本化学療法学会・日本感染症学会(感染症学雑誌 97巻 Supplement 01、2023年1月24日)・2023)日本感染症学会サイトの全文PDF(guideline_cdi_230125.pdf)で確認した。S50の表1は、非重症の初発にメトロニダゾール500 mg 1日3回10日間(強い推奨・A。使えない場合や妊婦・授乳婦はバンコマイシン125 mg 1日4回、再発リスクを有する場合などはフィダキソマイシン200 mg 1日2回10日間)、重症にバンコマイシン125 mg 1日4回10日間、再発リスクを有する場合はフィダキソマイシン(強い推奨・A)、ショック・低血圧・中毒性巨大結腸症・麻痺性イレウスにバンコマイシン500 mg 1日4回の経口・経鼻胃管または注腸とメトロニダゾール点滴静注の併用考慮(弱い推奨・C)、再発にフィダキソマイシンまたはバンコマイシン(弱い推奨・B)、再発が何度も続く場合にバンコマイシンのパルス・漸減療法を考慮(弱い推奨・C)とする。S51の本文は、2018年版は海外のガイドラインと異なり非重症例でメトロニダゾールを推奨したこと、国内の後方視的研究2件で非重症例のバンコマイシンとメトロニダゾールの治療成功率・再発率に有意差がなかったこと、薬価の安さとバンコマイシン使用量の増加がVREを増やしうることから今回も非重症例でメトロニダゾールを第一選択薬として推奨したことを述べる。S42は国内外で統一された重症度分類はないとする。閲覧 2026-09-27
  5. 5.AGA Clinical Practice Guideline on Fecal Microbiota-Based Therapies for Select Gastrointestinal Diseases(Gastroenterology(American Gastroenterological Association)・2024)糞便微生物叢由来治療には従来の糞便微生物叢移植(FMT)に加え、米国FDAが承認した fecal microbiota live-jslm と fecal microbiota spores live-brpk が含まれる。GRADE法による7つの推奨のうち、免疫正常の成人の再発性CDIでは標準治療の抗菌薬終了後に糞便微生物叢由来治療を選択的に用いて再発を予防することを提案し、軽度〜中等度の免疫抑制例では従来型FMTの選択的使用を提案する一方、**高度免疫抑制例には糞便微生物叢由来治療を用いないこと**を提案する。標準治療の抗菌薬に反応しない重症・劇症CDIで入院中の成人には従来型FMTの選択的使用を提案する。炎症性腸疾患・過敏性腸症候群への従来型FMTは臨床試験以外では推奨しない閲覧 2026-08-25
  6. 6.Bezlotoxumab for Prevention of Recurrent Clostridium difficile Infection(New England Journal of Medicine・2017)MODIFY I/II試験(第III相、30か国322施設、成人2,655例)でベズロトクスマブ単回投与群がプラセボ群に比べCDI再発率を有意に低下させたこと(16.5%対26.6%)閲覧 2026-08-25
  7. 7.ZINPLAVA (bezlotoxumab) injection, solution — Prescribing Information(FDA / DailyMed・2024)ベズロトクスマブはCDIの治療薬ではなく抗菌薬でもないため抗菌薬治療との併用でのみ用いること、用法は10 mg/kgを60分かけて単回点滴静注すること、うっ血性心不全既往患者では心不全の発現率(12.7%=15/118対4.8%=5/104)と死亡率(19.5%=23/118対12.5%=13/104)がプラセボより高かったこと閲覧 2026-08-25
  8. 8.「ジーンプラバ®点滴静注 625mg」 販売中止に関するお知らせ(MSD株式会社(医療関係者向けのお知らせ)・2023)2023年5月付の医療関係者向けのお知らせ(ウェブアーカイブの保存版PDF)で、ジーンプラバ点滴静注625mgを世界的な需要減少による供給体制の再編により販売中止とし、販売中止時期(予定)を2023年12月末、経過措置期間(予定)を2024年3月31日までとし、2024年4月1日以降は保険請求できないと記していることを確認した閲覧 2026-09-27