内科学

内科学 · S-30

大腸憩室症と憩室炎

Diverticulosis and Diverticulitis

前提:病態
結腸憩室症/腸閉塞
前提:正常
消化管:大腸
疾患
憩室症・憩室炎

🧠 全体像:大腸憩室は粘膜・が筋層の脆弱部から脱出するが多く、はその存在、は炎症・微小穿孔を伴う状態である。急性は造影CTで合併症を評価し、軽症非合併例の抗菌薬は一律必須ではない。

解剖と臨床像

病態 壁構造・特徴
全層を含む;Meckel憩室が代表
大腸 粘膜・がの貫通部からヘルニア状に脱出
無症候性 多くは
炎症・合併症なしで反復腹痛・
急性 通常は持続する左下腹部痛、発熱、圧痛、・白血球上昇

欧米ではS状結腸優位だが、アジアでは病変も多い。肥満、喫煙、低下、、などがリスクに関係する1。ナッツ・を避ける必要はない。

⚠️ 「ナッツ・・ポップコーンが憩室に詰まる」という指導には根拠がない。 米国男性47,228人を18年追跡した前向きコホート(801例・383例)では、ナッツ・コーン・ポップコーンの摂取はもも増やさず、むしろ摂取が最多の群(週2回以上)のほうがが少なかった(ナッツの0.80、ポップコーン0.72)2。長年の食事指導が観察研究1本で覆った典型例である。

診断

flowchart TD
    A["持続する下腹部痛+発熱/炎症反応"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contrast-enhanced CT of the abdomen and pelvis'>腹部・骨盤造影CT</span>"]
    B --> C{"膿瘍・穿孔・閉塞・瘻孔"}
    C -->|"なし"| D["非合併性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diverticulitis'>憩室炎</span>"]
    C -->|"あり"| E["合併性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diverticulitis'>憩室炎</span>"]
    D --> F["支持療法±選択的抗菌薬"]
    E --> G["入院、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV antibiotics'>静注抗菌薬</span>、ドレナージ/手術を評価"]

急性期のや注腸検査は穿孔リスクがあり診断目的に行わない。初回非合併性または合併性後は、大腸癌除外の必要性を既往検査とリスクで判断し、通常症状消失後6〜8週以降にを行う。直近1年以内の高品質検査があれば省略できる場合がある1。

💡 「の後は全例に」でもなくなった。 AGAは、1エピソード後にを行うかどうかを、既往・直近のの有無・重症度と経過によって決めるとする。まれに大腸悪性腫瘍がとされることが、この検査を残す理由である1。

治療

非合併性

外来可能なら鎮痛、短期間のとに応じた食事再開を行う。免疫正常で軽症なら抗菌薬を選択的に省略できる1。・併存症、免疫抑制、難治症状・嘔吐、著明な炎症反応、で広範炎症/液体貯留があれば、グラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーする抗菌薬を用いる。

⚠️ 抗菌薬の「省略が選択肢になった」根拠は2つの無作為化試験である。 AVOD(スウェーデン・アイスランド、で確認した非左側623例)では、穿孔・膿瘍などの合併症が抗菌薬なし群1.9%対あり群1.0%(P=0.302)、入院はともに3日、1年後のを要する再発はともに16%(P=0.881)で差がなかった3。DIABOLO(オランダ、初回非528例)でも回復までのが経過観察14日対抗菌薬12日(回復の0.91、P=0.151)で差がなく、への進展・再発・・・死亡のいずれにも有意差がなかった4。

💡 ただし「抗菌薬は無効」と読み替えてはいけない。 Cochraneレビューは無作為化試験が3件しかなく、短期合併症の差(0.89、95%CI 0.30〜2.62、1329例)も30日以内の緊急手術の差(0.47、95%CI 0.13〜1.71)もが広く確実性が低いことを指摘している5。「免疫正常・軽症・非」という条件を満たす患者にだけ省略できるのであって、免疫不全例には抗菌薬が強く推奨される1。

合併性

敗血症対応、絶食・輸液、を行う。膿瘍は大きさ・位置・臨床経過に応じを検討し、、、制御不能な敗血症、閉塞などでは緊急手術を行う。だけが選択肢ではなく、±などを生理状態とで選ぶ6。

再発予防

高品質食、、運動、禁煙を勧め、心血管以外の常用を避ける1。、、を再発予防目的にルーチンに使用しない。を発作回数だけで決めず、重症度、免疫状態、、本人希望で個別化する。

⚠️ 「2回目の発作で」という旧来の閾値は廃れた。 AGAはエピソード回数だけを根拠にを勧めるべきではないとし、重症度・患者の価値観・利益と害を個別に検討して決めるよう求めている。根拠のひとつは、になる危険が初回発症時に最も高い——つまり発作を重ねるほど危険が増すわけではない——という観察である1。

憩室出血

無痛性大量を来し得る。循環を安定化し、または持続出血時ので局在し、内視鏡止血、、手術を段階的に選ぶ。

まとめ

  • 急性はで非合併性と膿瘍・穿孔などの合併性に分ける。
  • 軽症非合併例では抗菌薬を選択的に用い、急性期を避ける。
  • 緊急手術・とも一律ではなく個別化する。

出典

  1. 1.AGA Clinical Practice Update on Medical Management of Colonic Diverticulitis: Expert Review(American Gastroenterological Association・2021)結腸憩室炎の内科的管理に関するAGAの14項目の推奨。診断にはしばしばCTが必要で、まれに大腸悪性腫瘍が憩室炎と誤診される。1エピソード後に大腸内視鏡を行うかは、既往・直近の大腸内視鏡・重症度と経過によって決める。免疫正常で軽症の非複雑性急性憩室炎では抗菌薬をルーチンではなく選択的に用いてよいが、免疫不全例には強く推奨される。複雑性憩室炎になる危険は初回発症時が最も高い。待機的S状結腸切除をエピソード回数だけを根拠に勧めるべきではなく、重症度・患者の価値観・利益と害を個別に検討して決める。再発予防には質のよい食事・正常な体格指数・身体活動・禁煙・(心血管二次予防のアスピリンを除く)非ステロイド性抗炎症薬の回避が挙げられる閲覧 2026-08-25
  2. 2.Nut, corn, and popcorn consumption and the incidence of diverticular disease(JAMA・2008)米国の40〜75歳男性47,228人を1986年から2004年まで18年間追跡したHealth Professionals Follow-up Studyの前向きコホート。憩室炎801例・憩室出血383例が発生したが、ナッツ・コーン・ポップコーンの摂取は憩室炎も憩室出血も増やさなかった。むしろ摂取が最も多い群(週2回以上)は最も少ない群(月1回未満)に比べ憩室炎の多変量ハザード比がナッツ0.80(95%CI 0.63〜1.01、傾向P=0.04)、ポップコーン0.72(95%CI 0.56〜0.92、傾向P=0.007)と低かった。これらの食品を避けよという指導は見直すべきである閲覧 2026-08-25
  3. 3.Randomized clinical trial of antibiotics in acute uncomplicated diverticulitis(The British Journal of Surgery・2012)スウェーデン10施設とアイスランド1施設で、CTで確認した急性非複雑性左側憩室炎623例を抗菌薬あり314例・なし309例に無作為化したAVOD試験。穿孔・膿瘍形成などの合併症は抗菌薬なし群6例(1.9%)対あり群3例(1.0%)で有意差なく(P=0.302)、入院期間中央値は両群とも3日、1年後の再入院を要する再発も両群16%で差がなかった(P=0.881)。非複雑性憩室炎への抗菌薬は回復を早めず合併症も再発も防がず、抗菌薬は複雑性憩室炎の治療に取っておくべきだと結論した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Randomized clinical trial of observational versus antibiotic treatment for a first episode of CT-proven uncomplicated acute diverticulitis(The British Journal of Surgery・2017)CTで確認した初回・左側・非複雑性急性憩室炎528例をオランダ22施設で経過観察群と抗菌薬群に無作為に割り付けた試験(DIABOLO)。回復までの期間中央値は経過観察14日対抗菌薬12日で有意差がなく(回復のハザード比0.91、P=0.151)、複雑性憩室炎3.8%対2.6%、遷延性憩室炎7.3%対4.1%、再発3.4%対3.0%、S状結腸切除3.8%対2.3%、再入院17.6%対12.0%、死亡1.1%対0.4%といずれの副次評価項目にも有意差がなかった。入院期間は経過観察群のほうが有意に短かった(2日対3日、P=0.006)閲覧 2026-08-25
  5. 5.Antibiotics for uncomplicated diverticulitis(Cochrane Database of Systematic Reviews・2022)非複雑性急性憩室炎に対する抗菌薬のCochraneシステマティックレビュー。抗菌薬あり・なしを比較した無作為化比較試験は3件のみで、短期合併症にはほとんど差がない可能性があり(リスク比0.89、95%信頼区間0.30〜2.62、1329例、確実性は低い)、30日以内の緊急手術も差が不確実だった(リスク比0.47、95%信頼区間0.13〜1.71)。合併症・緊急手術・再発・待機的結腸切除・晩期合併症のいずれについても抗菌薬の効果は不確実で、エビデンスの質は低い閲覧 2026-08-25
  6. 6.Surgical management of complicated diverticulitis: systematic review and individual patient data network meta-analysis(Surgical Endoscopy・2025)穿孔性憩室炎の術式は全身状態と病態に応じて個別化すること閲覧 2026-08-25