病理学

病理学 · C/39

結腸憩室症/腸閉塞

Colonic diverticulosis and bowel obstruction

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High-yield / ポイント
応用トピック
大腸疾患と機能性消化管疾患大腸憩室症と憩室炎イレウス(腸閉塞)の診断と治療大腸ポリープ・ポリポーシス症候群・憩室症の外科的側面大腸憩室症・憩室炎麻痺性イレウスと機械的腸閉塞下部消化管出血
疾患
S状結腸捻転憩室症・憩室炎大腸軸捻転腸重積症盲腸軸捻転

🧠 全体像:と腸閉塞はいずれも「内腔圧・」という共通軸で理解できる——はな内腔圧上昇が腸壁を筋層の脆弱部からヘルニアさせた結果であり(古典的には低繊維食が引き金とされてきたが、無症候性についてはこの関連がで確かめられなかった)、腸閉塞(特にヘルニア嵌頓)は急性の血流障害が絞扼・梗塞へと進行する時間との勝負である。

A)結腸憩室症

憩室 = 消化管の内腔と交通する盲嚢

  • 先天性憩室:腸壁の3層すべて(粘膜、、)、明らかに稀
  • 後天性憩室(最も多い型):を欠くか菲薄化、最多部位 = 結腸 →

病態機序

  • 古典的な説明:低繊維食 → 便量の減少+通過困難の増加 → 異常な内腔圧の上昇 → 解剖学的脆弱部を通る腸壁のヘルニア
  • :が不完全((taenia coli)に)、沿いに神経・血管がを貫く
  • 2つの重要因子:(1)誇張された+(2)

⚠️ 「低繊維食が原因」という古典的な説明は、近年の疫学研究では支持されていない。 外来を受けた2104例のでは、摂取が多いほどが少ないという関係は認められず、むしろ摂取量最高四分位のほうが最低四分位よりが高かった(比1.30、95%信頼区間1.13〜1.50)。総・穀物由来・水溶性・不溶性のどれで計算しても同じ向きで、便秘・運動不足・脂肪摂取・赤身肉摂取もいずれも危険因子ではなかった1。ただし旧来の機序モデル(内圧上昇+筋層脆弱部からのヘルニア)自体は否定されておらず、低繊維食がその引き金になるというの裏づけが乏しいという点が見直されている。

合併症

  • 憩室への便の貯留 → → 出血
  • :
    • 軽度:による → 内腔狭小化
    • 重度:穿孔 → 腹膜炎または膿瘍形成

臨床

  • 通常は無症状
  • 間欠的な差し込むような痛み、左下腹部の不快感、直腸の排出不完全感
  • :圧痛+発熱
  • 治療:講義では、便量を増やして内腔圧を下げる目的でを挙げる

💡 現行の推奨は「の予防」ではなく「の予防」の文脈で食事を勧める。 憩室の有無()との関連は上ので否定的だったが、の新規発症については、果物・野菜・・豆類由来のが多く赤身肉・の少ないや菜食がリスク低下と関連する(観察研究)。()の2021年臨床実践アップデート(レビュー)は、これをふまえ、の既往がある患者の再発予防としてこうした質のよい食事、正常なの維持、、禁煙、の定期使用の回避(心血管のアスピリンを除く)を挙げ、は質のよい食事の代わりにならないとしている。急性の非でも、免疫正常の軽症例では抗菌薬をルーチンではなく選択的に用いてよいとし、免疫不全・併存症・虚弱、 140 mg/L超や白血球1万5千/µL超、での液体貯留などがある例とでは抗菌薬を勧める2。

💡 の大多数は無症状のまま経過し、に進展するのは一部にとどまる。 で偶発的にと診断された2222例を追跡した米国の(11年間の観察期間、追跡期間の中央値6.75年)では、追跡期間中に急性を発症したのは4.3%(95例)にとどまり、画像・手術で厳密に確認された例に限れば1%(23例)で、従来ガイドラインが挙げていた「生涯で10〜25%が急性を発症する」という値より低かった3。

B)腸閉塞

  • 小腸が最も多く侵される(内腔が狭い)
  • がの単独最多原因で、全体の約60%を占める(癒着以外の病因には、良性・悪性の、胃石・・などの頻度の低い原因が含まれる)4

結果

  • 閉塞近位の腸:進行性拡張、壁の菲薄化、内腔が液体とガスで満たされる
  • うっ滞した物でのの過増殖
  • 絞扼による腸梗塞、腹膜炎
  • 横隔膜の挙上
  • 臨床:差し込むような腹痛+膨満、を伴わない便秘

腸閉塞の原因

1. ヘルニア

  • 腹壁の脆弱・欠損 → の漿膜に裏打ちされた嚢()の突出
  • 好発部位:鼠径・、臍、手術瘢痕
  • 嵌頓した内臓 → 頸部での圧迫 → 静脈還流の障害 → うっ滞+浮腫 → 嵌頓(永続的な閉じ込め)
  • 血流のさらなる障害 → 絞扼 → 梗塞
flowchart TD
    A["腹壁の脆弱・欠損部からの腸管ヘルニア"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hernial sac'>ヘルニア嚢</span>の頸部で腸管が圧迫"]
    B --> C["静脈還流の障害"]
    C --> D["うっ滞・浮腫"]
    D --> E["嵌頓(永続的な閉じ込め)"]
    E --> F["血流のさらなる障害"]
    F --> G["絞扼"]
    G --> H["梗塞"]

2.

  • 手術、感染、 → 限局性またはの腹膜の炎症(腹膜炎)→ その治癒過程でが形成される
  • 癒着がを作る → 腸が滑り込み閉じ込められる(内ヘルニア)

3.

  • 近位腸分節が遠位分節に陥入(「入れ子」)する
  • 小児:時に特発性(過剰な蠕動活動)
  • 成人:しばしば内腔腫瘤(腫瘍)を示唆
  • 閉塞+血流障害を来しうる → 梗塞

4.

  • 腸ループが付着基部の周りで捻れる → の絞扼
  • 多くはS状結腸
  • 腸閉塞と梗塞に至りうる

💡 ポイント: = 後天性、結腸、内圧上昇+筋層の脆弱部(低繊維食原因説は無症候性ので支持されず)、合併症 = 出血++穿孔。腸閉塞 = 小腸が最多。ヘルニア:嵌頓(閉じ込め)→ 絞扼(梗塞)。 = 入れ子、小児 = 特発性、成人 = 腫瘍。 = 捻れ、S状結腸。

まとめ

  • は内腔圧上昇が沿いの脆弱部から腸壁をヘルニアさせて生じ(低繊維食を原因とする古典的説明は、無症候性のでは支持されなかった)、出血や(穿孔・膿瘍)を合併しうる。
  • の既往がある患者の再発予防としては、の多い質のよい食事・体重管理・運動・禁煙・定期使用の回避が勧められ、軽症の非では抗菌薬を選択的に用いる( 2021)。
  • 腸閉塞は内腔の狭い小腸に最も多く、近位腸の拡張・の過増殖・絞扼による腸梗塞を来す。
  • ヘルニアは嵌頓(によるうっ滞・浮腫での永続的な閉じ込め)から絞扼・梗塞へと進行しうる。
  • は小児で特発性、成人では腫瘍を示唆することが多い。
  • はS状結腸に多く、の絞扼から腸閉塞・梗塞に至る。

出典

  1. 1.A high-fiber diet does not protect against asymptomatic diverticulosis(Gastroenterology・2012)外来大腸内視鏡を受けた30〜80歳の2104例を対象とした横断研究。憩室症の有病率は加齢とともに上昇したが、食物繊維の摂取が多いほど憩室症が減るという関係は認められず、むしろ摂取量最高四分位は最低四分位より有病率が高かった(有病率比1.30、95%信頼区間1.13〜1.50)。便秘は危険因子ではなく、排便回数が週15回を超える群はむしろ憩室症の危険が70%高かった(有病率比1.70)。運動不足・脂肪摂取・赤身肉摂取のいずれも憩室症と関連しなかった閲覧 2026-08-27
  2. 2.AGA Clinical Practice Update on Medical Management of Colonic Diverticulitis: Expert Review(American Gastroenterological Association・2021)結腸憩室炎の内科的管理に関するAGAの臨床実践アップデート(専門家レビュー、PMC全文で確認)。食物繊維の多い慎重な食事パターンと菜食が憩室炎の新規発症リスク低下と関連すること、免疫正常で軽症の非複雑性憩室炎では抗菌薬をルーチンではなく選択的に用いてよく、併存症・虚弱、難治症状や嘔吐、CRP 140 mg/L超、白血球1万5千/µL超、CTでの液体貯留や長い炎症区間がある例や複雑性憩室炎では抗菌薬を勧めること、再発予防には質のよい食事・正常な体格指数・身体活動・禁煙と、心血管二次予防のアスピリンを除く非ステロイド性抗炎症薬の定期使用(週2回以上)を避けることを挙げ、ここでの質のよい食事とは果物・野菜・全粒穀物・豆類由来の食物繊維が多く赤身肉と甘味が少ない食事で、食物繊維サプリメントは質のよい食事の代わりにならないとしていることを確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.Long-term Risk of Acute Diverticulitis Among Patients With Incidental Diverticulosis Found During Colonoscopy(Clinical Gastroenterology and Hepatology・2013)大腸内視鏡で偶発的に憩室症と診断された2222例を追跡した後方視的コホート研究(米国VA Greater Los Angeles、11年間の観察期間で追跡期間の中央値6.75年・最長15年)。追跡期間中に憩室炎を発症したのは95例(4.3%、1000人年あたり6件)にとどまり、画像・手術で厳密に確認された例に限ると23例(1%)で、従来ガイドラインが挙げていた「生涯で10〜25%が急性憩室炎を発症する」という値とは一致しなかった。年齢が10歳上がるごとに憩室炎リスクは24%低下した(ハザード比0.76)閲覧 2026-08-27
  4. 4.Bologna guidelines for diagnosis and management of adhesive small bowel obstruction (ASBO): 2017 update of the evidence-based guidelines from the world society of emergency surgery ASBO working group(World Journal of Emergency Surgery(World Society of Emergency Surgery)・2018)世界緊急外科学会(WSES)ASBOワーキンググループによるエビデンスに基づく診療指針の改訂版。術後癒着が小腸閉塞の主因で全体の60%を占め単独で最多の原因であること、癒着以外(非癒着性)の病因には嵌頓ヘルニア・閉塞性病変(良性・悪性)と、胃石・炎症性腸疾患・腸捻転などの頻度の低い原因が含まれることを確認した閲覧 2026-08-27