外科学

外科学 · A/09

イレウス(腸閉塞)の診断と治療

Ileus. Diagnosis and treatment

前提:病態
結腸憩室症・腸閉塞
前提:正常
体液区画とその測定
疾患
S状結腸捻転イレウス・腸閉塞悪性腸閉塞大腸軸捻転中毒性巨大結腸症盲腸軸捻転
症状
吃逆腹部膨満疝痛
画像所見
くちばし徴候コーヒー豆徴候気液面

ポッドキャスト

🧠 まず二択: 腸のは「詰まっている(mechanical、機械性)」か「動いていない(paralytic、機能性)」かをまず区別する。機械性は圧が上がって血流障害→壊死→穿孔まで一直線に進みうる怖いタイプ、機能性は基本的に保存的治療。判断がついたら「部分か完全か」「絞扼はあるか」を追加で詰めるのが診断の流れ。

1. 定義と分類

  • Bowel obstruction(腸閉塞) = 腸管内を通じた通常の内容物の流れが遮断された状態の総称。

  • Ileus(イレウス、paralytic ileus / functional ileus とも呼ばれる): 機械的な閉塞がないのに物の流れが低下・停止した状態(=による機能性の)。

  • Bowel obstruction(mechanical ileus、): 腫瘤・癒着・ヘルニアなどの物理的な障害物によって物の流れが機械的に遮断された状態。

⚠️ 用語がやや紛らわしい:英語では “ileus” 単独は本来「機能性(麻痺性)」を指すことが多いが、文脈によっては「腸閉塞全般」の意味で使われることもある。本ノートでは (機械性)と paralytic ileus(機能性)を明確に区別する。

閉塞部位による分類

  • Large bowel obstruction (LBO、): 盲腸・結腸・直腸レベルでの閉塞
  • Small bowel obstruction (SBO、): 十二指腸・空腸・回腸レベルでの閉塞
  • Gastric outlet obstruction (GOO、): または十二指腸レベルでの閉塞

機械性 vs 機能性イレウスの比較

項目
定義 構造的な障害物による通過遮断 のないの一時的障害
画像所見() 閉塞近位の腸管拡張と遠位の虚脱。では結腸内ガスが残りうる1 小腸から結腸まで、腸管全体にびまん性にガス
原因 癒着・ヘルニア・腫瘍(小腸)、大腸癌・(大腸) 後、腹腔内炎症、、(急性大腸偽閉塞)など
症状 、嘔吐、便秘、腹部膨満 びまん性・持続性腹痛、嘔吐、便秘、腹部膨満、消失
画像 閉塞近位で拡張・遠位で虚脱した腸管、直腸内ガスなし、原因(腫瘍など)を同定 の所見なし、小腸〜結腸〜直腸まで一様にガス拡張、直腸内ガスあり、蠕動消失

2. 病態生理

flowchart TD
  O["腸閉塞"] --> S["閉塞近位側での内容物・ガスの停滞"]
  S --> P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraluminal pressure'>管腔内圧上昇</span>"]
  P --> D["ガスによる腹部膨満"]
  D --> T["third spacing<br>(拡張腸管への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid retention'>体液貯留</span>)"]
  T --> H["脱水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>循環血液量減少</span>"]
  P --> V["嘔吐"]
  V --> E["体液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrolyte wasting'>電解質喪失</span>"]
  E --> HK["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypokalemia'>低カリウム血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic alkalosis'>代謝性アルカローシス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>循環血液量減少</span>"]
  P --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenteric vein'>腸間膜静脈</span>・リンパ管の圧迫"]
  C --> W["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bowel wall edema'>腸管壁浮腫</span>"]
  W --> A["腸間膜動脈・毛細血管の圧迫"]
  A --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bowel ischemia'>腸管虚血</span>"]
  I --> PM["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut wall'>腸管壁</span>の透過性亢進 → 腸内細菌の腹腔内移行 → 敗血症"]
  I --> N["壊死・穿孔 → 腹膜炎"]
  I --> LA["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic metabolism'>嫌気性代謝</span>・虚血細胞の崩壊 → 乳酸蓄積 + 細胞内K+放出"]
  LA --> MA["代謝性アシドーシス・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperkalemia'>高カリウム血症</span>"]

💡 の怖さは「圧上昇 → 静脈・リンパ管の圧迫が先に起こる → うっ血・浮腫 → 動脈まで圧迫されて初めて虚血」という順番にある。動脈が先に潰れるわけではないので、進行するまで気づきにくい。

3. 機能性イレウス

  • 病因: 開腹手術後(特に長時間手術)、腹膜炎、、、電解質異常、遷延する低血圧・低酸素

  • 臨床像: 悪心・嘔吐、、腹部膨満、〜の音

  • 治療:

    • で胃内容物(液体・ガス)を排出
    • 輸液
    • オピオイドの減量、の促進

4. 機械性イレウス

原因(部位別)

分類 原因
異物、、胆石
腫瘍、、狭窄、
腫瘍、癒着(術後性・先天性)、、ヘルニア、膿瘍

閉塞部位別の症状

  • /近位: 頻回の嘔吐、膨満なし、
  • : 中等度の嘔吐+膨満、free interval のある(疝痛様)
  • /遠位: 嘔吐は遅く便臭を伴う、著明な膨満、痛みは様々で古典的な漸増型疝痛にならないこともある

部分閉塞 vs 完全閉塞

項目
通過 癒着などにより一部内容物は通過する 完全な排便停止
保存的治療での軽快 60〜80%が非治療で軽快 —
ガス あり で早期完全型と高度を鑑別できることがある
X線 よりに残存する結腸ガスあり 腹部X線で結腸ガスの残存なし
絞扼・虚血がなければ保存的に治療し、通常は72時間以内に改善を評価。が24時間で結腸に到達しなければ手術を考慮 手術が必要となる可能性が高い。虚血・絞扼・腹膜炎・や改善不良があれば速やかに手術1

💡 授業資料の目安とガイドラインの目安は数字が違う。 授業資料は「では48時間でな改善がなければ手術を検討」「はほぼ全例24時間以内に手術」という覚えやすい2つの線を示す。ガイドラインの線は下のとおり72時間で、についても「24時間以内に全例」という一律の基準は置いていない。数字を覚えるより「改善のな指標を決めて追い、改善しなければ待たない」という運用を覚えるほうが安全である。

💡 「72時間」は上限であって目標ではない。 Bologna ガイドラインの立場は「腹膜炎・絞扼・の徴候がなければ、の全例でまず保存的治療を試みる」であり、期間については「最適な期間を示すエビデンスは存在しないが、大半の著者とパネルは72時間までを安全かつ妥当と考える」という弱い推奨(Level IIB)にとどまる。からのが多いまま72時間を超えて保存治療を続けてよいかは、現在も議論が続いている。手術の遅れが合併症と死亡を増やすことは複数のが示しているため、「72時間までは待てる」ではなく「改善がなければ72時間を待たずに切り替える」と読む1。

絞扼性イレウス

  • 小腸への外部からの圧迫閉塞により、腸間膜動脈の血流が障害され、虚血と蠕動消失をきたす病態。

⚠️ 絞扼の古典的4徴候 — 発熱、頻脈、限局した腹部圧痛、。絞扼例で高頻度にみられる所見だが、単独でも組み合わせても感度・特異度は低く、そろわなくても絞扼を否定できない。熟練したが行っても、が絞扼を検出する感度は48%にとどまる1。緊急手術の判断はだけに頼らず、造影CT(腸管造影不良、、腸間膜浮腫・き、腹水、・)や乳酸・代謝性アシドーシスなどを総合して行う。

5. 診断

診断で決めるべき4つのポイント。

  1. 機械性か機能性か
  2. 閉塞の原因(病因)
  3. かか
  4. 絞扼(組織破壊)の有無

病歴聴取

  • 既往:手術瘢痕、癒着の可能性
  • 既知の腹腔内疾患:腫瘍、
  • 小児:異物の可能性

身体診察

  • ヘルニア: 鼠径・(肥満女性で見落としやすい)
  • :
    • 早期: 蠕動亢進、金属音様
    • 後期: 蠕動低下〜無音の腹部、(:胃内にガスと液体が貯留している)
  • 触診: (S状結腸型)は触知できることがある、腹部膨満
  • :
  • — 直腸内腫瘤、血便、Douglas窩の異常、直腸の空虚などを評価する。⚠️ 授業資料はを「必須」としている。 一方で Bologna ガイドラインの全文にはへの言及そのものが無い(digital rectal・rectal examination とも0件、strangulation は10件・physical examination は6件が陽性対照)。同ガイドラインがについて述べているのは、絞扼の検出感度が48%と低いことと、腹壁・鼠径のヘルニアの有無を評価できることである。「ガイドラインに書かれていない=省いてよい」とは読まない。直腸内腫瘤・血便は原因診断を直接変えうる所見である1

血液検査

初期評価では最低限、血算・乳酸・電解質・・/クレアチニンを測る。加えての評価も行う1。

  • 腹膜炎を示唆する値: 75 超(原文は単位を付さず CRP > 75 と記す。では mg/L、日本の一般的な表記では 7.5 mg/dL にあたる)、 10,000/mm³ 超。⚠️ ただしこの2つの感度・特異度はいずれも比較的低く、正常でも絞扼を否定できない
  • 電解質: の頻度が高く、補正が必要
  • /クレアチニン: 脱水によるを拾う

画像診断(重要!)

検査 診断能 所見・特徴
感度 約70% 近位小腸の拡張、遠位小腸の虚脱、状の。多数の・・結腸ガス消失の三徴がそろえば高度閉塞に特異的だが、腹膜炎・絞扼の早期徴候は写らず閉塞の原因も分からない。Bologna ガイドラインは初期検索としての単純X線を「有用性は限定的で推奨しない」(Level IB)と明記している。 一方、投与後24時間の腹部X線は保存治療の成否判定として推奨される。では結腸内ガスが残りうる1
()による消化管造影 — 再発性・慢性閉塞に有用、閉塞部位・壁性病変の同定、機械性/機能性の鑑別に有用。投与後24時間の腹部X線で造影剤が結腸に達していなければ、保存的治療の失敗を強く示唆する。 手術の必要性を正確に予測しを短縮する。造影剤自体にな作用があるとする報告もある(最良の下剤代わりになる)。transition point(点)の同定が鍵1
絞扼と緊急手術の必要性の予測で約90%の正確度 急性腸閉塞の画像診断の主役で、経口を併用した造影CTが初期評価で推奨される画像法。閉塞の部位・程度・原因、虚血、遊離ガス・液体貯留を評価する。癒着そのものはでも直接描出できないが、他の原因を除外することで癒着性と判断できる。後も24時間後のX線で造影剤の到達を追える1。⚠️ 造影CTの前に全身状態が安定していること・腎不全がないこと・へのアレルギー歴がないことを確認する
超音波 依存 熟練者なら単純X線より多くの情報が得られる。腸管拡張に加えて腹腔内遊離液(緊急手術の必要性を示唆)や脱水の程度を評価できる。を避けたい妊婦や、が使えない環境で価値が高い1
— 急性腸閉塞の第一選択ではなく、やが使いにくい場合に検討する。超音波で閉塞が確認された妊婦に、解剖学的情報を足す目的で併用されることがある1

💡 授業資料の数字と、その読み替え。 授業資料は各検査に感度を添えている——単純X線60〜90%、 88%、 93%——そして「はより感度が高いが急性期には使われない」と書く。この並べ方は「のほうが良い検査だが使いにくいだけ」と読めてしまうが、Bologna ガイドラインはとの感度を比較しておらず、を診断の第一選択とし、超音波とは「特定の場面で有用でありうる」(妊娠、低所得国でが使えないとき)と位置づけている。⚠️ 覚えるべきは感度の数字の大小ではなく、「が主役、は代替」という使い分けのほうである。

同じく授業資料はを「・経口・経直腸の3種併用(triple contrast)」と書くが、Bologna の全文に rectal contrast も triple も0件で、同ガイドラインが求めるのは CT scan in the assessment and water soluble **oral** contrast(Level IB)=静注造影+経口である。経直腸造影は標準ではない1。

6. 治療

一般療法

  • 輸液・電解質・の補正:
    • 拡張とへ大量の体液・電解質が third space として失われる
    • 部位・によって傾向が異なる
      • 近位閉塞: 嘔吐が早期に出現 → 脱水、、アルカローシス
      • 遠位閉塞: 膨満が強く嘔吐は遅れる → 脱水は高度だが電解質異常は少ない

⭐ 輸液の考え方は 必要量 = + + 進行中の の式で覚える。

  • 消化管減圧 →
  • 抗菌薬 → ルーチンでは使用せず、虚血・壊死・穿孔の徴候があるときのみ投与
  • 尿量などによる厳重なモニタリング

手術適応

⭐ このうち 腹膜炎・絞扼・の3つは、Bologna ガイドラインが保存的治療の禁忌として名指ししている項目である。裏返せば「この3つがなければ、では全例でまず保存的治療を試みる」のが現在の推奨である1。

⚠️ を、それだけで手術適応にしない。 「がないなら癒着ではありえず、悪性腫瘍・内ヘルニア・食物塊などが原因だから開腹探索が必須」という古い前提は、現在の資料に支持されていない。の2021年ポジションペーパーは、のない(SBO-VA)でも約半数は癒着が原因であり(先天性の癒着や、気づかれていない腹腔内炎症の後遺として生じる)、悪性腫瘍が原因だったのは4〜13%にとどまると報告している。実臨床では報告により39〜83%が手術されていたが、保存的治療を試みた例ではおおむね成功しており、「全例に手術探索を行う必要は取り下げてよい」というのがである。ただし約10例に1例は悪性腫瘍が原因なので、精度の高い非侵襲的検査(造影CT)による腫瘍の検索と、軽快後のな原因検索は必須である。として、のない患者も既存の・ガイドラインに従って治療してよい2。

保存的治療でよい場合

  • 絞扼・腹膜炎・の徴候がない場合
  • 癒着が疑われる。の有無は前提条件ではない — でも約半数は癒着が原因であり、保存的治療の対象になる2

まとめ

  • まず「機械性 vs 機能性」を区別する。機械性は構造的障害物、機能性は蠕動麻痺で機序が異なりも違う。
  • 病態生理は「 → 膨満・third spacing・嘔吐 → 静脈/迫 → 浮腫 → 動脈圧迫 → 虚血 → 壊死・穿孔(腹膜炎)or 透過性亢進(敗血症)」の一直線で理解する。
  • 絞扼の古典的4徴候(発熱・頻脈・限局圧痛・)は絞扼を疑う手掛かりだが感度・特異度は低く(の感度48%)、単独で緊急手術を決めず造影CT・と併せて判断する。
  • 画像診断の主役は経口を併用した造影CTで、閉塞部位・原因・虚血徴候を評価する。単純X線は初期検索としては推奨されないが、造影剤投与後24時間のX線は保存治療の成否予測に使う。
  • 治療の骨格は「輸液+消化管減圧+必要時抗菌薬」。・・絞扼疑い・腹膜炎・・は手術適応で、腹膜炎・絞扼・は保存的治療の禁忌にあたる。
  • は、それ自体では手術適応にならない。約半数は癒着が原因で保存的治療の対象になる一方、約10例に1例は悪性腫瘍が原因なので画像による腫瘍検索は省けない。

出典

  1. 1.Bologna guidelines for diagnosis and management of adhesive small bowel obstruction (ASBO): 2017 update of the evidence-based guidelines from the world society of emergency surgery ASBO working group(World Journal of Emergency Surgery(World Society of Emergency Surgery)・2018)Europe PMC の全文(PMC6006983)で確認した。①保存的治療の禁忌は腹膜炎・絞扼・腸管虚血の3つで、これらが無ければ癒着性小腸閉塞の全例で保存的治療を試みる(Level IIC)②保存的治療は72時間まで安全に継続できる(Level IIB)が、最適な期間を示すエビデンスは無くパネルの合意である③単純X線は検索での価値が限定的で推奨されない(Level IB)、感度は約70%④初期評価では経口水溶性造影剤を併用したCTが推奨される画像法で、絞扼と緊急手術の必要性の予測に約90%の正確度をもつ⑤造影剤投与後24時間のX線で結腸に到達していなければ保存的治療の失敗を強く示唆する⑥身体診察が絞扼を検出する感度は熟練者でも48%⑦最低限の血液検査は血算・乳酸・電解質・C反応性蛋白・尿素窒素/クレアチニンで、腹膜炎を示唆する値は CRP > 75(原文は単位の記載なし)と白血球 10,000/mm³ 超だが感度・特異度は低い閲覧 2026-09-21
  2. 2.Diagnosis and management of small bowel obstruction in virgin abdomen: a WSES position paper(World Society of Emergency Surgery・2021)Europe PMC の全文(PMC8254282)で確認した。手術歴のない腹部の小腸閉塞(SBO-VA)を扱う7つの後ろ向きコホート(各44〜103例)を対象としたスコーピングレビューで、閉塞の原因の約半数は癒着であり、悪性腫瘍が原因だったのは4〜13%、報告では39〜83%が手術されていたが保存的治療を試みた例ではおおむね成功したと述べる。逐語で「SBO-VA の全例に外科的探索を行う必要は取り下げてよい」「ただし約10例に1例は悪性腫瘍が原因なので高精度の非侵襲的検査による悪性腫瘍の検出または経過観察は必須」「手術歴のない患者も既存の小腸閉塞・癒着性小腸閉塞のガイドラインに従って治療してよい」と結論している閲覧 2026-09-21