内科学

内科学 · S-29

吸収不良と消化不良

Malabsorption and Maldigestion

前提:正常
膵外分泌と肝臓の胆汁産生栄養素の分解と吸収
疾患
小腸内細菌異常増殖短腸症候群蛋白漏出性胃腸症腸リンパ管拡張症膵外分泌不全
症状
脂肪便
検査値
便中エラスターゼ-1

🧠 全体像:は栄養素の分解が不十分な状態、吸収不良は分解後の栄養素がから取り込まれない状態である。、、体重減少、貧血・骨疾患・浮腫から疑い、欠乏パターンと病態部位を対応させる。

病態別分類

段階 代表原因 手掛かり
、胆汁酸不足 、欠乏、低値
欠損 乳糖摂取後の膨満・、呼気H₂上昇
セリアック病、Crohn病、感染・薬剤性腸症 鉄・葉酸欠乏、異常
表面積減少 、広範切除 下痢、脱水、部位特異的欠乏
輸送障害 低アルブミン、、浮腫
細菌過増殖 解剖異常・によるSIBO 膨満、下痢、B12欠乏、重症例で

💡 どの段階を疑うかで検査が決まる、という原則は欧州コンセンサスでも同じである。 2025年の欧州吸収不良コンセンサス(10学会共同)は、病歴とで危険因子を同定したうえで内視鏡+・非侵襲的・画像検査を組み合わせる方針を示し、「他に明らかな説明のつかない吸収不良と高リスク者では、常にセリアック病を検索する」ことを求めている1。

回腸障害ではビタミンB12・、近位小腸障害では鉄・葉酸・Ca欠乏を来しやすい。

診断アプローチ

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic diarrhea'>慢性下痢</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>・体重減少"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete blood count'>CBC</span>、アルブミン、鉄、B12、葉酸、Ca/Mg/P、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>"]
    B --> C{"膵疾患リスク+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>"}
    C -->|"はい"| D["固形便で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal elastase'>便エラスターゼ</span>"]
    C -->|"いいえ"| E{"セリアック病を疑う"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluten'>グルテン</span>摂取中にtTG-IgA+総IgA→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenal biopsy'>十二指腸生検</span>"]
    E -->|"いいえ"| G["病歴別に呼気試験、内視鏡、画像、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool examination'>便検査</span>"]

<100 μg/gはを強く支持し、100〜200 μg/gは境界域である2。ではに注意する(半固形または固形便で提出する)2。//EUSは膵疾患を描出するが、そのものを確定しない2。セリアック病検査前に除去を始めると血清学的検査・生検が偽陰性となる。

💡 を試しに投与して効いたかどうかで診断してはいけない。 の投与に対する反応は診断根拠として信頼できず、が必要になることもまれである。は中でも施行できる2。

⚠️ セリアック病の血清学的検査はtTG-IgA+総IgAで始める。 DGP(ペプチド)抗体は初期検査として推奨されない——tTG-IgA陰性でDGP-IgGのみ陽性となった小児26例では、セリアック病と確定したのは1例のみ(3.9%、95%CI 0.7〜18.9%)だった3。

⚠️ 生検を省略できるのは小児の一部だけである。 ESPGHAN 2020は、tTG-IgAが基準値上限の10倍以上かつ別検体のEMA陽性という条件を満たす小児に限っての省略を認めた4。成人では大半の症例でが必要で、生検省略は「選ばれた小児」に限る、というのが 2023の立場である5。

治療

  • セリアック病:生涯の厳格な、支援、欠乏補充と血清学的検査追跡。
  • :食事中にを投与し、症状・体重・で調整する。極端なは避ける。
  • ラクトース不耐:許容量に合わせ制限し、補充やCa/ビタミンD確保を行う。
  • SIBO:解剖・運動性原因を是正し、欠乏補充と選択的抗菌薬を行う6。
  • :経口補水、栄養・電解質、薬物、必要時を腸管リハビリチームで調整する。

低胃酸症にさらに酸分泌抑制を行うのは治療原則ではない。は、非PERTの効果補助や適切量PERTでも反応不十分な選択例に限って検討する2。

⚠️ SIBOの呼気試験は「陽性=SIBO」と読めるほど信頼できない。 2020はとして75 gブドウ糖または10 g負荷後90分以内の呼気水素20 ppm以上(メタンは10 ppm以上)の上昇を示すが、症候性SIBOへの抗菌薬治療は条件付き推奨・エビデンスの質は低いにとどまる6。呼気試験の特異度には限界があり、標準化されたが確立していないため過剰診断と過小診断がどちらも起こる——臨床背景と統合して解釈する7。

💡 の初期用量は「食事中にリパーゼ40,000 USP単位以上、間食はその半量」である。 食後ではなく食事中に飲む。極端なを避けて低〜中等度脂肪のとし、を補充・監視し、を基準時に撮って1〜2年ごとに繰り返す2。

まとめ

  • と吸収不良を分け、欠乏パターンから障害部位を推定する。
  • の初期検査は固形便の、セリアック病検査は摂取中に行う。
  • 原因治療と同時にエネルギー、蛋白、、骨量を補正・監視する。

出典

  1. 1.European Consensus on Malabsorption—UEG & SIGE, LGA, SPG, SRGH, CGS, ESPCG, EAGEN, ESPEN, and ESPGHAN. Part 1: Definitions, Clinical Phenotypes, and Diagnostic Testing for Malabsorption(United European Gastroenterology Journal・2025)10学会が参加した吸収不良の欧州コンセンサス。吸収不良は栄養素が血流・リンパ流へ移行しない状態と定義され、嚢胞性線維症、膵外分泌不全、セリアック病その他の腸症、ラクターゼ欠損、小腸内細菌異常増殖、自己免疫性萎縮性胃炎、Crohn病、胃・小腸切除後などが選択的または全般的な吸収不良を起こす。病歴と薬歴による危険因子の同定が診断の出発点で、内視鏡+小腸生検、非侵襲的機能検査、画像検査を組み合わせる。有病率が高いためセリアック病は、他に明らかな説明のつかない吸収不良例と高リスク者では常に検索すべきである。短腸症候群ではテデュグルチドが経静脈栄養の必要量を減らすことが示されている閲覧 2026-08-25
  2. 2.AGA Clinical Practice Update on the Epidemiology, Evaluation, and Management of Exocrine Pancreatic Insufficiency: Expert Review(Gastroenterology(American Gastroenterological Association)・2023)膵外分泌不全に関するAGAの15項目のBest Practice Advice。便エラスターゼ検査が最も適切な初期検査で、半固形または固形便で行わねばならず、100 μg/g未満は膵外分泌不全の良好な証拠、100〜200 μg/gは判定保留である(膵酵素補充療法中でも施行できる)。便中脂肪定量検査が必要になることはまれで、膵酵素の治療的投与に対する反応をもって診断することは信頼できない。CT・MRI・超音波内視鏡は膵の良性・悪性疾患の診断には重要だが膵外分泌不全そのものは同定できない。診断後は膵酵素補充療法が必須で、成人では食事中に少なくともリパーゼ40,000 USP単位、間食ではその半量から開始する。非腸溶性製剤ではH2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬の併用が必要である。食事は低〜中等度脂肪の少量頻回とし、極端な低脂肪食は避ける。脂溶性ビタミンの補充と監視を行い、DXAを基準時に撮って1〜2年ごとに繰り返す閲覧 2026-08-25
  3. 3.Isolated positive deamidated gliadin peptide-IgG has limited diagnostic utility in coeliac disease(Journal of Paediatrics and Child Health・2022)tTG-IgA陰性でDGP-IgGのみ陽性となり胃十二指腸内視鏡を受けた小児26例の後ろ向きコホートで、セリアック病と診断されたのは1例のみ(陽性的中率3.9%、95%CI 0.7〜18.9%)だった。DGP-IgG単独陽性はセリアック病の診断収量が非常に低く、むしろ他の消化管病変を示唆しうる閲覧 2026-08-25
  4. 4.European Society Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition Guidelines for Diagnosing Coeliac Disease 2020(European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition / Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition・2020)小児セリアック病の初期血清学的検査は総IgAとtTG-IgAで、tTG-IgAが基準値上限の10倍以上でかつ別検体のEMA陽性であれば、条件を満たす小児では十二指腸生検を省略して診断できること閲覧 2026-08-25
  5. 5.American College of Gastroenterology Guidelines Update: Diagnosis and Management of Celiac Disease(The American Journal of Gastroenterology・2023)2013年版を改訂した米国消化器病学会のセリアック病ガイドライン。血清中の抗組織トランスグルタミナーゼ抗体などセリアック病特異抗体は初期スクリーニングに有用だが、確定診断には大半の患者で小腸生検を要するとし、生検を省略する方針は「選ばれた小児」に限って提案される。治療は生涯の厳格なグルテン除去食で、除去食下でも症状が続く不応性セリアック病では意図しないグルテン混入をはじめ原因を系統的に検索する閲覧 2026-08-25
  6. 6.ACG Clinical Guideline: Small Intestinal Bacterial Overgrowth(American College of Gastroenterology (ACG)・2020)小腸内細菌異常増殖(SIBO)の呼気試験診断基準(75gブドウ糖または10gラクツロース負荷後90分以内に呼気水素20 ppm以上上昇、メタンは10 ppm以上)、症候性SIBOへの抗菌薬治療の推奨が条件付き推奨・エビデンスの質は低いにとどまること、リファキシミン550 mgを1日3回投与した場合の有効率が61〜78%と報告されていること閲覧 2026-08-25
  7. 7.Small Intestinal Bacterial Overgrowth—Pathophysiology and Its Implications for Definition and Management(Gastroenterology・2022)SIBO呼気試験の特異度に限界があり、臨床的背景と統合して解釈すべきこと。標準化された診断基準が確立していないため過剰診断・過小診断のいずれも起こりうること閲覧 2026-08-25