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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

短腸症候群

Short bowel syndrome

別名
SBS腸管不全
臓器系
消化器内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePediatricsSurgeryPathology
トピック
内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良内科学 S-29:吸収不良と消化不良小児科 2-14:小児急性腹症:イレウス・軸捻転・腸重積・虫垂炎・嵌頓ヘルニア・短腸症候群外科学 G-12:腸管ストーマの種類と適応外科学 B/20:炎症性腸疾患の外科的側面病理学 C/67:尿路結石・尿路閉塞
鑑別疾患
セリアック病膵外分泌不全
続発疾患
腸管不全関連肝疾患胆石症尿路結石症骨粗鬆症敗血症
治療薬
テデュグルチドロペラミドパントプラゾールビタミンB12
症状
下痢体重減少
検査値
亜鉛マグネシウム
元疾患
クローン病
原因となる疾患
ヒルシュスプルング病壊死性腸炎腸回転異常・中腸軸捻転
適応薬
テデュグルチド

🧠 全体像は「残った腸の長さ」だけでは語れない病態である。広範な小腸切除や先天的な短腸により吸収面積そのものが不足して生じるが、予後を決めるのは残存長の数字より、・結腸が残っているか、腸管がどこまで適応するか、基礎疾患は何かという3点である。同じ残存長でも解剖型が違えば、水・電解質管理もも薬物療法も別物になる——まず「どの型か」を確定することが臨床対応の出発点になる。

定義

は、広範な小腸切除(後天性)または先天性の短腸・機能喪失により腸管の吸収面積がに不足し、水・電解質・栄養素を経腸摂取だけでは維持できなくなった状態である。成人ではから測った残存小腸長が200 cm未満であることを一つの目安とするが1、これは疫学的な定義であって、実際にを要するかどうかは残存長だけで決まらない。

💡 残存長が200 cmを超えても、腸管運動亢進や粘膜病変により吸収能力が期待より低い場合があり、これは「」と呼ばれる1。長さの数字だけで吸収能力を推定しないことが実務上の要点になる。

原因

⚠️ では、切除範囲を広げても疾患そのものは再発するため合併症を治療できるだけであり、繰り返す切除がそのままのリスクを積み上げる。切除は必要最小限にとどめる。

解剖型と重症度

の重症度は、残存長ではなく次の解剖型でまず整理する。

解剖型 構成 特徴
1型: 空腸を体外へ誘導し、回腸・結腸を欠く 水・ナトリウム喪失が最大。からの離脱確率が最も低い
2型:空腸-結腸吻合 空腸が結腸の一部(多くは左側結腸)と吻合し、回腸・を欠く 結腸により水分・エネルギー回収がある程度働く
3型:空腸-回腸-結腸吻合 と結腸を温存する の余地が最も大きく、離脱確率も最も高い

腸管が健常であれば、からの離脱確率は1型で約20%、2型で約40%、3型で約80%とされ、残存小腸長が1型で100 cm、2型(結腸50%以上温存)で65 cm、3型で30 cmを超えると離脱確率がさらに高くなる1

⚠️ この長さは統計的な予測の目安であって、個々の患者を「離脱不能」と判定する診断閾値ではない。 同じ残存長でもの程度や基礎疾患によって転帰は大きく異なり、数字だけで長期の適応を決めない。

結腸温存の利益と不利益

利益 不利益
水・ナトリウムを再吸収する と結合するとが進み、)のリスクが上がる
未吸収糖質をへ変換しエネルギーを回収する 未吸収炭水化物の細菌発酵が過剰になるとを来しうる

回腸切除に特有の帰結

は胆汁酸のビタミンB12吸収を担う唯一の部位であり、その切除範囲によって帰結が変わる。

  • 限局した回腸切除:肝臓での胆汁酸合成が代償し、増えた胆汁酸が結腸を刺激してを起こす。明らかなを伴わないことがある。
  • 広範な回腸切除:を維持できず不全となり、A・D・E・K欠乏を来す。胆汁中のコレステロールも進みを来しやすい。
  • の障害は範囲を問わずビタミンB12欠乏の原因になる。

吸収不良症候群としての位置づけ

は「吸収面積そのものの減少」が本質であり、同じでも機序が異なる疾患と鑑別する。不足による障害、セリアック病は免疫反応によるが本質であり、いずれも腸管の長さは保たれている。⭐ の有無と便性状の推移が、この3者を鑑別する最初の手掛かりになる。

臨床像

  • 下痢・、脱水、体重減少。
  • ・ビタミンB12・の欠乏症状。
  • 高排出のでは、口渇・など脱水徴候が先行しやすい。

診断

手術記録や画像・内視鏡所見から、残存小腸長・解剖型・と結腸の有無を確定することが評価の起点になる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short bowel syndrome, SBS'>短腸症候群</span>と診断"] --> B["手術記録で残存長・解剖型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ileocecal valve'>回盲弁</span>の有無を確認"]
    B --> C["水・Na<span class='jp-term jp-term-diagram' title='net yield'>収支</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malnutrition or obesity'>栄養状態</span>、肝機能、骨密度を評価"]
    C --> D{"経口・経腸摂取だけで水分・栄養を維持できるか"}
    D -->|"できる"| E["解剖型に応じた食事調整と欠乏補充で経過観察"]
    D -->|"できない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal failure'>腸管不全</span>)"| F["等張高Na<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ORS, oral rehydration solution'>経口補水液</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='set-shifting'>切替え</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypotonic'>低張</span>飲料を制限"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loperamide'>ロペラミド</span>・PPIなどで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drainage (fluid)'>排液</span>量を減らす"]
    G --> H{"なお<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenteral nutrition, PN'>静脈栄養</span>が必要か"}
    H -->|"はい・長期化"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central vein'>中心静脈</span>カテーテルで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='home parenteral nutrition'>在宅静脈栄養</span>を確立"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stable phase (of a chronic disease)'>安定期</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='GLP-2 analog'>GLP-2アナログ</span>で離脱を試みる"]
    H -->|"いいえ"| E
  • 24時間の摂取量・量・尿量、排泄で水・Naを評価する。
  • 栄養評価(体重、血算、微量)、肝機能(の指標)、骨密度を定期的に確認する。

治療

経口補水と食事

⚠️ 水だけを大量に飲むと空腸内へナトリウムが引き込まれ、かえってが増える。飲料(水・茶・コーヒー・アルコール)と高張飲料(果汁・炭酸飲料)はいずれも制限し、ナトリウム濃度約90〜100 mmol/Lのを少量頻回に摂取する1。結腸温存例では複合炭水化物を増やし脂肪を抑えて結石を予防し、例では高ナトリウム食を優先するというように、食事戦略は解剖型で分ける。

薬物療法

  • 量を減らす目的で食前にを投与し、効果を量そのもので確認する。
  • 術後早期や胃酸過分泌が関与する高排出例では、などのを併用する。
  • が主体で明らかなを伴わない例に限りを検討する。広範回腸切除例ではがさらに減りを悪化させるため適応を誤らない。

静脈栄養とGLP-2アナログ

経口・経腸摂取だけで水分・栄養を維持できないでは、カテーテルによるを確立する。⭐ 病態が安定した患者では、が腸管増殖治療の第一選択となる1。米国添付文書も「に依存する患者」を適応として明記しており2、その位置づけは経口補水・食事調整・薬物療法を最適化してもなおに依存する患者への追加治療である。GLP-2はの増殖を促す作用を持つため、投与前後のによる腫瘍性病変の評価を怠らない。

外科治療

難治例では〈STEP〉など)やを専門施設で検討する。

合併症

まとめ

  • は広範小腸切除または先天性短腸により吸収面積が不足した状態で、重症度は残存長だけでなく・結腸の有無、、基礎疾患で決まる。
  • 解剖型は・空腸-結腸吻合・空腸-回腸-結腸吻合の3型に分け、残存長の目安(100/65/30 cm)は離脱確率の統計的な予測であって診断閾値ではない。
  • 回腸切除はを減らし、限局すれば、広範なら欠乏・胆石を来し、依存のビタミンB12欠乏にも注意する。
  • 治療は等張高Naの・食事調整・やPPIから始め、離脱できないにはを組み合わせる。
  • 、腎結石、胆石、代謝性骨疾患、といった合併症を定期的に監視する。

出典

  1. 1.ESPEN guideline on chronic intestinal failure in adults – Update 2023(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism (ESPEN)・2023)経口補水液は等張の高Na製剤を用い低張飲料を制限すべきこと(ストーマ排液のNa濃度は平均約88〜100 mmol/Lに達する)、短腸症候群の解剖型(終末空腸瘻・空腸-結腸吻合・空腸-回腸-結腸吻合)別に残存小腸長が長いほど静脈栄養離脱の確率が高まること(>100/>65/>30 cmは統計的な目安であり診断閾値ではない)、GLP-2アナログのテデュグルチドが腸管増殖治療の第一選択であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.GATTEX (teduglutide) prescribing information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed・2025)テデュグルチドの適応が「静脈栄養に依存する短腸症候群患者(成人および1歳以上の小児)」であることを添付文書(2025年9月改訂)で確認した。閲覧 2026-08-02