疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 腫瘍

大腸腺腫

Colorectal adenoma

別名
腺腫性ポリープ
臓器系
消化器腫瘍
科目
PathologySurgeryHistopathology
トピック
病理学 B/19:前癌病変の特徴と形態病理学 C/42:小腸・大腸の腫瘍外科学 B/18:大腸ポリープ・ポリポーシス症候群・憩室症の外科的側面組織病理 H1-072:大腸腺腫性ポリープ(HE染色)組織病理 H1-075:大腸ポリープ(肉眼標本)
合併症
大腸癌
関連疾患
家族性大腸腺腫症・リンチ症候群
症状
潜在性出血血便下痢
検査値
カリウム

🧠 全体像:大腸腺腫は「異形成を伴う上皮性腫瘍」であり、を越えない限りにとどまる。大きさ・絨毛成分・異形成度という3要素が「」という一線を引き、この一線が検診・間隔を左右する。発癌経路はAPC/WNT→KRAS→TP53という腺腫・と、BRAF・CIMP・MLH1メチル化によるという別系統の2本立てで、内視鏡診断・切除法・切除後の追加外科切除の要否はいずれもこの病理学的枠組みの上に組み立てられている。

定義と肉眼形態

大腸腺腫は、の腺上皮が異形成を伴って増殖する良性の上皮性腫瘍で、はあってもを越える浸潤はまだない状態を指す。の一分類であり、その本質は「基底膜()を破っていない異型」である。

肉眼形態は次の3型に大別される。

形態 特徴
細い茎を介して粘膜と連なる。がしやすい
広い基部で粘膜に接し、茎を欠く
表面型(平坦・陥凹型) 高さがほとんどない、または陥凹する病変。画像強調観察がないと見逃しやすい

は、この肉眼形態をさらに0-Ip()・0-Is(隆起)・0-IIa(軽度隆起)・0-IIb(平坦)・0-IIc(軽度陥凹)・0-III(陥凹・)に細分する。⚠️ 同じ大きさでも陥凹型(0-IIc)は隆起型より浸潤の頻度が高く、肉眼形態だけで浸潤の有無は確定できない。

組織型と異形成度

腺腫はによっての3型に分かれる。

組織型 頻度の目安 特徴
65〜80% 腺腫の中で最多。が多い
10〜25% ・絨毛の混合像
5〜15% 直腸に好発。・大型でのことが多く、出血・粘液分泌をきたしやすい

異形成度はの2段階で評価する。核の腫大・・偽重層化、極性の乱れ、腺管構築の複雑化が強いほどに近づく。⚠️ 腺腫内にどれほど強い異型や複雑な腺管があっても、病変が粘膜内に限局していれば浸潤癌とは呼ばない。を越えてへ浸潤した時点で初めてリンパ節転移能をもつ浸潤癌として扱う。

進行腺腫という概念

⭐ 米国Multi-Society Task Force(2020年改定)は、次のいずれかを満たす腺腫をと定義する。

  • 最大径10 mm以上
  • またはの組織像
  • 浸潤癌を含む

この一線は検診・そのものである。1〜2個・10 mm未満・(低リスク腺腫)は通常の検診間隔(内視鏡なら7〜10年)へ戻せるのに対し、が1個でもあれば短い間隔でのが必要になる。個々の間隔は大腸癌の「ポリープ切除後の」に譲るが、判断軸が「大きさ・絨毛成分・異形成度」の3点に集約される点は覚えておく。

発癌経路 — 腺腫・癌シーケンスと鋸歯状経路

flowchart TD
    A["正常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic mucosa'>大腸粘膜</span>"] --> B["APC/WNT経路の異常"]
    B --> C["腺腫(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular'>管状</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='villous'>絨毛状</span>)"]
    C --> D["KRASなど<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative signal'>増殖シグナル</span>の変異"]
    D --> E["18q欠失・SMAD4喪失"]
    E --> F["TP53変異の蓄積"]
    F --> G["浸潤性大腸癌(左側優位)"]
    H["正常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic mucosa'>大腸粘膜</span>"] --> I["BRAF V600E変異"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serrated'>鋸歯状</span>病変(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sessile serrated lesion'>無茎性鋸歯状病変</span>など)"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CpG island methylator phenotype'>CpG島メチル化形質</span>(CIMP)"]
    K --> L["MLH1プロモーターメチル化"]
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MSI-H'>マイクロサテライト不安定性</span>"]
    M --> N["浸潤性大腸癌(右側優位)"]

腺腫・APC喪失→β-活性化→KRAS変異→18q(SMAD4など)欠失→TP53喪失という順で進み、通常型腺腫()をとして左側結腸に多い。

一方、は通常型腺腫とはまったく別系統のから出発する。⚠️ 病変()は腺腫の亜型ではない。WHO分類第5版(2019年)以降、かつての「」はという名称に整理され、に好発し、BRAF V600E変異→(CIMP)→MLH1プロモーターメチル化→という経路で癌化する。はKRAS変異が関与する少数派の経路をとる。

💡 名前に「腺腫」を含むであっても、由来細胞・は通常型腺腫と異なる。通常型腺腫(APC/WNT系)と病変(BRAF/CIMP系)は別系統のとして区別する。

臨床像

大半の腺腫は無症状で、検診のや内視鏡検査で発見される。大型・の病変では血便、粘液排出をきたすことがある。

⚠️ まれに大型のが大量の粘液を分泌し、水様性の下痢を来すことがある()。この粘液にはカリウムが豊富に含まれるため、原因不明のに持続する下痢を伴えば大腸病変を疑う。

に多発する腺腫、とくに若年発症や100個を超える多発例では、などの遺伝性を疑い、家族歴の聴取と遺伝を検討する。

内視鏡診断

に加え、などの画像強調観察を組み合わせることで、表面型・陥凹型病変の検出率と質的診断の精度が上がる。

  • (Kudo分類):拡大内視鏡で観察した陰窩開口部の形態から腫瘍性・非腫瘍性を鑑別する古典的な枠組み。
  • :血管・表面模様の見え方でType 1(病変相当)、Type 2A(腺腫相当)、Type 2B(腺腫・表層浸潤癌相当)、Type 3(深部浸潤癌相当)に分類する。
  • :上記の肉眼形態(0-Ip〜0-III)で記載する。

⭐ Type 2Bは腺腫とへの表層浸潤癌が混在する境界域で、を併用してを追加評価する。Type 3は特異度が高く、深部浸潤癌を強く示唆する所見である。

治療 — 内視鏡的切除

大きさ・形態 推奨される切除法
5 mm以下(微小)
6〜9 mm
10〜19 mm・
20 mm以上
表層浸潤が疑われる病変、一括EMRが困難な大型病変

⚠️ 従来主流だったを伴う法は遅発性出血・不完全切除のリスクから、微小〜小型病変ではへ置き換わってきている。ポリープは茎の太さに応じてを伴う切除が基本となる。

切除後の病理評価と追加外科切除

浸潤癌(pT1)が判明した場合、すべてを追加外科切除の対象にするのではなく、リンパ節転移リスクを規定する病理所見で判断する。

高リスク因子 内容
浸潤の深さ 1,000 μm以上
リンパ管・陽性
組織学的 低分化腺癌・などの不良な組織型
グレード2〜3(高グレード)
垂直断端陽性

⭐ これらすべてが陰性であればリンパ節転移リスクは低く、内視鏡切除のみで根治とみなせる。一つでも該当すれば、リンパ節郭清を伴う追加外科切除を検討する。

サーベイランス

切除後の内視鏡間隔は、腺腫の個数・大きさ・組織型・異形成度で層別化する。詳細な間隔表は大腸癌の「ポリープ切除後の」に譲るが、要点は次の2軸に集約される。

  • 低リスク(1〜4個、10 mm未満の腺腫)→ 通常の検診間隔へ戻す
  • ・5個以上の多発→ 短縮した間隔(多くは3年後)で再検

胃腺腫・十二指腸腺腫

胃・十二指腸にも組織学的に同様の病変が生じる。胃腺腫は多くがを背景に生じ、胃癌となりうるため、とくにではが推奨される。十二指腸腺腫のほか、に伴う十二指腸として多発することがあり、後者ではでポリープ数・大きさ・組織型・異形成度を統合して間隔と切除の要否を決める。

まとめ

  • 大腸腺腫は異形成を伴う上皮性腫瘍で、を越えない限りにとどまる。肉眼形態は・表面型、組織型はに分かれる。
  • (10 mm以上、絨毛成分、のいずれか)は検診・間隔を分けるである。
  • 発癌経路は、通常型腺腫をとするAPC/WNT→KRAS→TP53の腺腫・(左側優位)と、とするBRAF→CIMP→MLH1メチル化→MSI-Hの(右側優位)という2系統に分かれ、後者は腺腫とは別系統のである。
  • 内視鏡診断はNBIなどの画像強調観察とを組み合わせ、切除は大きさに応じて・EMR・ESDを使い分ける。
  • でpT1癌が判明した場合は、浸潤1,000 μm以上・・低分化組織型・高グレード・垂直断端陽性のいずれかがあれば追加外科切除を検討する。
  • 大腸以外にも胃腺腫・十二指腸腺腫が存在し、いずれも各臓器の癌のとして扱われる。