病理学

病理学 · C/42

小腸・大腸の腫瘍

Tumors of the small and large intestines

応用トピック
大腸の悪性腫瘍小腸癌・大腸癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断直腸腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断大腸ポリープ・ポリポーシス症候群・憩室症の外科的側面大腸腫瘍(症状・診断・治療)大腸ポリープとポリポーシス症候群直腸・肛門腫瘍大腸の悪性疾患下部消化管出血
疾患
McKittrick-Wheelock症候群癌性腹膜炎脂肪腫小腸腺癌大腸癌大腸腺腫腸重積症
検査値
マイクロサテライト不安定性

🧠 全体像:は2つの軸で整理できる。発癌経路はAPC/β-カテニン(腺腫–、左側優位)と/MSI(はからの、右側優位、MSI-highは病期を揃えると予後良好)の2系統に分かれ、臨床像は病変の左右差(右=による貧血、左=閉塞症状)で説明できる。

ポリープの用語

  • ポリープ = へ突出する病変。
  • 形状:(細い茎)または(茎なし)。
  • 由来:
    • 異常成熟・炎症 → 非腫瘍性ポリープ
    • +異形成 → 腺腫(腫瘍性、前腫瘍性)
  • = 結腸・直腸で最も多いポリープ。

小腸腫瘍

💡 小腸は消化管の大半を占めるのに、腫瘍は大腸よりずっと少ない。 小腸は消化管の長さの75%・の90%を占めるが、は全体の約3%にとどまる。この差の仮説として、大腸に比べが短くとの接触時間が短いこと、の濃度やの基礎レベルが低いこと、を分解する酵素(など)を上皮細胞が備えることが挙げられている1。

A)Peutz-Jeghersポリープ(非腫瘍性、過誤腫性)

B)良性間葉系腫瘍

  • 、、線維腫。

C)腺癌

  • はナプキンの病変、またはポリープ状の隆起腫瘤として増殖。
  • 多くは十二指腸に生じる → ・膵炎。
  • 危険因子:慢性炎症(例:)。
  • 組織像:腺房性、、未分化。
  • 症状(後期):差し込むような痛み、悪心・嘔吐、体重減少。
  • 診断時には通常進行(壁貫通、腸間膜、、)— 後の5年生存は約46%で、リンパ節転移の有無で65%対21%と大きく分かれる2。

D)カルチノイド・神経内分泌腫瘍

  • 腸のから生じる、すべて潜在的に悪性(攻撃性は起源部位に依存)。
  • 虫垂 = 腸の最多部位。
  • 大量のセロトニン分泌 → :下痢、、、チアノーゼ、皮膚。
  • ⭐ は通常、が生じて初めて出現する。 セロトニンは通常、を介して肝臓で()へ不活化されるため、が腸管に限局する段階ではに届きにくい。肝(または肺)転移がありを介さず直接へセロトニンが分泌されるようになって初めて、の症状が前景に立つ3。
  • 主要産物でされることも(例:、)。

E)消化管リンパ腫

  • 最も多い腸リンパ腫、B細胞、辺縁帯 = 。
  • 診断時に肝・脾・なし(は関与しうる)。
  • :H. pylori → → 萎縮 → B/T細胞活性化 → 変異 → リンパ腫。
  • 緩徐、H. pylori除菌 → 退縮。
  • 他の原発性消化管腫瘍より一般に予後良好。

大腸腫瘍

A)非腫瘍性ポリープ

  • 異常成熟・炎症・構築により形成 → 悪性化能なし(下記の1例外を除く)。
  • :最多、小さく、直腸S状結腸、しばしば多発。
    • 例外 — :右結腸、大腸癌のとなりうる(MSI経路)。
    • 💡 現行の名称は「」である。 消化器腫瘍分類第5版(2019)は、この病変が隆起せず平坦なことがあるため「ポリープ/腺腫」から「病変」へ改称し、BRAF変異とKとの関連が2つの別々の腫瘍性経路を分けるとした4。と同じの見た目をもつが、非腫瘍性ポリープではなくの病変として扱う。
    • ⭐ は、腺腫–とは別の発癌経路である。 大腸癌の約15〜30%はこの経路を介して生じ、・・という3つの組織形態を経る。BRAFまたはKというと、メチル化表現型(CIMP)という後成的異常が特徴で、両者が協調してを駆動する5。
  • :、、5歳未満の小児、・有痛性梗塞を来す、悪性化なし。

B)腺腫(腫瘍性、前腫瘍性)

  • 大腸腺腫は(小)または(大)、ピーク60歳超。
  • すべて+異形成から生じる:腺腫 → 異形成 → 腺癌。
  • 亜型:
    • — 主に腺、最多
    • — 突起、出血が多い・有症状
    • — 混合
    • (現行名は)— 陰窩(MSI経路)。通常型の腺腫とは別系統の病変として扱われる
  • 悪性リスクはサイズ、構築、異形成の程度で増加。National Polyp Studyの(腺腫3371個・1867例)では、のは小型腺腫を基準に中型腺腫で3.3・大型腺腫で7.7、を基準に絨毛成分の少ない腺腫で2.7・中等度で3.4・多い腺腫で8.1であり、絨毛成分が多いほど・サイズが大きいほど段階的にリスクが上昇する6。
  • すべての腺腫は発見時に切除。

C)家族性大腸腺腫症(FAP)

  • AD遺伝、APC変異(5q21)。
  • 思春期:<100ポリープ → 30歳:粘膜を覆う500〜2500ポリープ。
  • 中年までに大腸癌リスク ≈ 100% → が必要。

D)大腸癌

発癌 — 2つの経路

特徴 APC / β-カテニン(腺腫–癌) (MSI)
順序 → 腺腫 → 異形成 → 癌 :正常 → (SSA)→ 癌
主なヒット APCの喪失 → β-カテニン↑ → K-Ras変異 → 18q21 LOH(SMAD2/4、TGF-β)→ p53喪失 MMR遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS1/2)の喪失 → 。の多くはMLH1プロモーターのによる不活化、遺伝性のはMMR遺伝子のによる
部位 通常左・遠位結腸 右結腸
予後 より悪い より良い

💡 MSIの大腸癌は2つの入口から生じる。 MSIを示す大腸癌のおよそ8割は、MLH1遺伝子のプロモーターが後成的にされて働かなくなったである。では、そのものは多くがBRAF変異・CIMP-highでもMLH1はメチル化されていない(MSS)が、異形成を伴う段階になるとMLH1のによってMSIを示すようになる。逆に、から生じる癌がすべてMSIになるわけではなく、MSSのままのBRAFやK型の亜型もある。残りのおよそ2割はMMR遺伝子のによる()で、こちらはMLH1のを特徴としない。このため、腫瘍にMSIを見つけたら、MLH1のメチル化とBRAF変異を調べてと遺伝性を振り分ける5。

⚠️ この「予後」は発癌経路()単位で見た場合の傾向で、解剖学的な左右差そのものとは向きが逆転しうる。 MSI-highの腫瘍は病期を揃えて比較すると予後良好という報告が積み重なっている一方、66研究・約144万例のでは、癌は癌に比べ集団レベルの死亡リスクがむしろ有意に高かった(左側の0.82、95%CI 0.79-0.84)。右側にはBRAF・低分化・などMSSでも予後不良な形質を伴う腫瘍も多く含まれるため、「右側=MSI-high=予後良好」と単純化しないほうがよい7。の違いは、などの薬剤感受性が左右で異なることにも関わる。

形態

  • 近位(右)結腸:盲腸・に沿ったポリープ状・隆起状腫瘤。
  • 遠位(左)結腸:の「ナプキンリング」狭窄、内腔狭小化。
  • いずれも腸壁を貫通する。

臨床像

診断

  • 、、注腸。
  • +生検 = 。
  • 転移の病期に・画像。

検診(無症状の平均リスク者)

症状のある人の診断と、無症状の人を拾い上げる検診は別の話である。現行の検診の枠組みは国によって違う。

項目 日本(市町村の) 米国( 2021)
対象年齢 40歳以上(特に推奨は40〜69歳) 50〜75歳はA推奨、45〜49歳はB推奨、76〜85歳は選択的に提供(C推奨)
検査と間隔 +免疫2日法を年1回 高感度グアヤック法またはFITを毎年、便-FITを1〜3年ごと、コロノグラフィー5年ごと、軟性S状結腸鏡5年ごと(または10年ごと+毎年FIT)、10年ごとのいずれか
陽性後の精密検査 が第一選択(困難ならS状結腸内視鏡+注腸エックス線検査)。の再検は精密検査にならない が陽性ならで追う
出典 厚生労働省の指針8 勧告9

⚠️ が陽性だったのに「もう一度を出して陰性だったから大丈夫」とするのは誤り。 日本の指針は、のみによる精密検査は大腸癌の見落としを増やすとして行わないと明記している8。

💡 ポイント: = 最多(直腸S状結腸、良性)。SSA(現行名は)= 右結腸、大腸癌のMSI。腺腫–:APC → KRAS → 18q(SMAD/DCC)→ p53。FAP(AD、APC、約100%の癌リスク)→ 。CRCの病態:右 = 貧血(ポリープ状)、左 = 閉塞(ナプキンリング)。虫垂 = 腸の第1部位、にはを回避するが必要。はH. pylori除菌で退縮。

まとめ

  • ポリープは形状(/)と由来(非腫瘍性/)で分類し、腺腫はすべて+異形成から生じる前腫瘍性病変である。
  • の多くは十二指腸に発生し・膵炎を呈し、診断時には進行していることが多い。後の5年生存は約46%で、リンパ節転移の有無で65%対21%と大きく分かれる。
  • ()はすべて潜在的悪性で、虫垂が腸の最多部位。には(の回避)が必要。
  • 大腸のは最多だが悪性化能はない。例外は(現行名は)で、右結腸に生じ、(MLH1のメチル化によるMSIを含む)で大腸癌のとなる。
  • FAPはAPC変異(AD)による大腸腺腫症で、中年までの大腸癌リスクは約100%のためを要する。
  • 大腸癌の発癌経路はAPC/β-カテニン(腺腫–、左側優位)とMMR/MSI(右側優位。はMLH1の、は)の2系統で、臨床像は右側=による、左側=閉塞症状とのという左右差で説明できる。
  • 無症状の人の検診は国で枠組みが違う。日本のは40歳以上に免疫2日法を年1回で、陽性ならへ進む。米国は45〜75歳に・内視鏡などから選ぶ方式を推奨する。
  • はH. pylori除菌で退縮しうる、予後良好な原発性消化管腫瘍である。

出典

  1. 1.Epidemiology, Risk Factors and Diagnosis of Small Bowel Adenocarcinoma(Cancers・2022)小腸は消化管の長さの75%・粘膜表面積の90%を占めるにもかかわらず、小腸癌は消化管癌全体の約3%にとどまることを確認した。この希少性の仮説として、大腸に比べ通過時間が短く食事性発癌物質・異物との接触時間が短いこと、好気性グラム陽性菌の濃度が低いこと、活性酸素種の基礎レベルと抗酸化酵素活性が低いこと、ベンゾピレン水酸化酵素などの発癌物質を分解する酵素装備を上皮細胞が備えることを挙げた閲覧 2026-08-27
  2. 2.Small bowel adenocarcinoma: An overview(World Journal of Gastrointestinal Oncology・2022)26の観察研究のメタアナリシスで小腸腺癌の根治切除後の5年全生存が46%であり、リンパ節転移陽性例21%に対し陰性例65%であったこと、切除後も予後不良で5年生存率が20〜50%と報告されることを確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.A guide to midgut neuroendocrine tumours (NETs) and carcinoid syndrome(Frontline Gastroenterology・2015)セロトニンはトリプトファンから作られ、通常は肝臓で5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)へ酵素的に不活化されるため、原発巣が中腸に限局する段階では全身循環に到達しにくい。カルチノイド症候群は主に、肝(または肺)転移があり腫瘍が門脈系を介さず直接セロトニンを全身循環へ分泌する場合に生じることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.The 2019 WHO classification of tumours of the digestive system(Histopathology・2020)WHO消化器腫瘍分類第5版(2019)の要約で、無茎性鋸歯状ポリープ/腺腫(sessile serrated polyp/adenoma)が無茎性鋸歯状病変(sessile serrated lesion)へ改称されたこと、その理由として病変が隆起せず平坦なことがあること、BRAF変異とKRAS変異との関連が2つの別々の腫瘍性経路を分けることを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.The Molecular Hallmarks of the Serrated Pathway in Colorectal Cancer(Cancers・2019)大腸癌の約15〜30%は、過形成性ポリープ・無茎性鋸歯状腺腫(sessile serrated adenoma/polyp)・伝統的鋸歯状腺腫という3つの組織形態に分類される鋸歯状ポリープから生じる「鋸歯状経路」を介して発生することを確認した。鋸歯状ポリープはBRAFまたはKRAS変異という遺伝的異常と、CpGアイランドメチル化表現型(CIMP)という後成的異常を特徴とし、これらが協調して正常大腸粘膜からポリープ、大腸癌への悪性転化を開始・駆動することを確認した。あわせて全文で、MSIを示す大腸癌の約80%はMLH1の後成的高メチル化、約20%はMMR遺伝子変異(遺伝性非ポリポーシス大腸癌=HNPCC)によること、HNPCCはMLH1の高メチル化を特徴とせず、MSI解析にMLH1評価とBRAF変異解析を加えることがその診断の最初の段階の一つであること、無茎性鋸歯状腺腫/ポリープは主にBRAF変異・MSS・CIMP-high・MLH1非メチル化で、異形成を伴うとMLH1のプロモーター高メチル化によるMSIを示すこと、鋸歯状病変に対応する分子亜型にはMSIのほかMSSのBRAF変異型・KRAS変異型があることを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.The National Polyp Study. Patient and polyp characteristics associated with high-grade dysplasia in colorectal adenomas(Gastroenterology・1990)1867例から得られた大腸腺腫3371個を対象にしたNational Polyp Studyの多変量解析で、腺腫のサイズと絨毛成分の割合が高異型度異形成(high-grade dysplasia)の独立した主要リスク因子であることを確認した。調整オッズ比は、小型腺腫を基準に中型腺腫で3.3・大型腺腫で7.7、管状腺腫を基準に絨毛成分Aの腺腫で2.7・Bで3.4・C/Dで8.1であり、絨毛成分が多いほど・サイズが大きいほど高異型度異形成のリスクが段階的に上昇することを示した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Prognostic Survival Associated With Left-Sided vs Right-Sided Colon Cancer: A Systematic Review and Meta-analysis(JAMA Oncology・2017)66研究・1,437,846例(追跡中央値65か月)を統合した系統的レビューとメタアナリシスで、左側結腸癌は右側結腸癌に比べ死亡リスクが有意に低く(ハザード比0.82、95%CI 0.79-0.84、P<0.001)、この関連は病期、人種、補助化学療法、発表年、研究の質から独立していたことを確認した。解剖学的な左右差で見た集団レベルの予後は、MSI-highが多い右側の方がむしろ悪い閲覧 2026-08-27
  8. 8.がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(健発第0331058号 平成20年3月31日 厚生労働省健康局長通知別添、令和6年2月14日一部改正)(厚生労働省・2024)厚生労働省のPDF本文で、市町村の大腸がん検診は40歳以上を対象とし(受診を特に推奨する者は40歳以上69歳以下)、原則として同一人について年1回、問診と免疫便潜血検査2日法で行うこと、精密検査の第一選択は全大腸内視鏡検査で、困難な場合はS状結腸内視鏡と注腸エックス線検査の併用とし、便潜血検査のみによる精密検査は見落としにつながるため行わないことを確認した閲覧 2026-09-24
  9. 9.Screening for Colorectal Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement(JAMA(US Preventive Services Task Force)・2021)抄録の逐語で、平均リスクの無症状成人について50〜75歳の大腸癌検診をA推奨、45〜49歳をB推奨、76〜85歳は選択的に提供するC推奨としたこと。検査法と間隔は、同じ勧告を掲載したUSPSTF公式ページの記載で、高感度グアヤック法便潜血検査または便免疫化学検査(FIT)を毎年、便DNA-FITを1〜3年ごと、CTコロノグラフィーを5年ごと、軟性S状結腸鏡を5年ごと(または10年ごと+毎年FIT)、大腸内視鏡を10年ごとと確認した閲覧 2026-09-24