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Lab values · Published

マイクロサテライト不安定性

Microsatellite instability

別名
MSIMSI-HMSI-highdMMRミスマッチ修復欠損
臓器系
腫瘍消化器生殖・産婦人科
科目
PathologyOncologyInternal MedicineGynecology
トピック
病理学 B/10:DNA修復遺伝子(DNA修復機構)病理学 B/13:遺伝性腫瘍症候群(遺伝性がん症候群)病理学 C/42:小腸・大腸の腫瘍病理学 C/73:子宮内膜・筋層の腫瘍腫瘍学 I-07:腫瘍の分子病理腫瘍学 I-27:がん免疫療法の基礎内科学 L-76:大腸の悪性腫瘍婦人科学 23:子宮体癌の病期・治療・病理
関連疾患
胃癌家族性大腸腺腫症・リンチ症候群子宮体癌大腸癌膵癌

🧠 全体像(microsatellite instability、MSI)は血液検査ではなく、腫瘍組織そのものを調べる分子検査である。DNA複製のたびに(短い)で起こる小さな)を、(mismatch repair、MMR)機構——MLH1・PMS2・MSH2・MSH6という4つの蛋白——が正しているかどうかを、の長さのばらつきとして間接的に読み取る。MSI-high(MSI-H)と分かっても、それだけでは「生まれつき」()か「後天的」(性、多くはMLH1メチル化)かは決まらない——この切り分けの手順こそが、この検査を理解する核心になる。

何を測っているか

は、ゲノム中に散在する1〜数塩基単位の(例:(A)n、(CA)n)で、DNAポリメラーゼによる複製時に鋳型鎖と新生鎖がずれて再結合するを起こしやすい。正常細胞ではこの一時的な機構が検出し修正する。MSH2とMSH6が対をなす部位を認識し、MLH1とPMS2が対をなすが動員されて誤った鎖を切除・再合成する。MLH1・PMS2・MSH2・MSH6のいずれか1つでも機能を失う(、dMMR)とが修正されないまま蓄積し、同じ遺伝子座でも細胞ごとにの長さがばらつくようになる。これがMSIとして検出される実体である。

flowchart TD
    A["DNA複製時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microsatellite'>マイクロサテライト</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='replication slippage'>複製スリップ</span>が発生"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MutS alpha complex'>MutSα</span>(MSH2+MSH6)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mismatch (base-pair mismatch)'>ミスマッチ</span>を認識"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MutL alpha complex'>MutLα</span>(MLH1+PMS2)が動員され切除・再合成"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repetitive sequence'>反復配列</span>の長さが保たれる(MSS)"]
    E["MLH1・PMS2・MSH2・MSH6のいずれかが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dMMR'>機能喪失</span>"] --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='replication slippage'>複製スリップ</span>が修復されず蓄積"]
    F --> G["細胞ごとに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repetitive sequence'>反復配列</span>長がばらつく"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MSI'>マイクロサテライト不安定性</span>として検出"]

MLH1とPMS2、MSH2とMSH6はそれぞれとして働くため、片方の蛋白が失われるともう片方も不安定化し発現が消える。この対構造が、後述する免疫染色(immunohistochemistry、IHC)の解釈パターンの根拠になる。dMMR腫瘍はゲノム全体に変異が蓄積する「」となり、(tumor mutational burden、TMB)が高くを多く提示するため、が効きやすいという、診断以上の臨床的意味を持つ。

判定区分と検査法

MSIの判定は、座(マーカー)のうちいくつが不安定かで区分する。代表的なのは5つの(BAT-25、BAT-26、NR-21、NR-24、NR-27)を用いる(pentaplex PCR)で、2座以上が不安定ならMSI-H、1座のみ不安定ならMSI-L、0座ならMSS(安定)と判定する。NGSパネルのように多数の座を評価するアッセイでは、不安定な座の割合(目安30%前後)で判定する。臨床的にはMSI-LはMSSに準じて扱われることが多い。

もともとは単塩基反復2座+二塩基反復3座からなる旧Bethesdaパネルが使われていたが、二塩基反復マーカーは(多型)の影響を受けやすく判定がぶれやすいため、現在は単塩基反復のみで構成するペンタプレックスパネルに置き換わっている。

検査法 何を見るか 特徴
PCRマーカーパネル 5〜7座の長さを腫瘍検体(可能なら対応する正常組織)で比較 座数が少なく迅速。腫瘍細胞含有率が低いと感度が落ちる
MMR蛋白の MLH1・PMS2・MSH2・MSH6の核染色の有無 通常MLH1+PMS2、MSH2+MSH6のペアで同時に消失し、消失パターンからを推定できる。多くの病理検査室で標準的に実施される
NGS( ゲノム全体の数百〜数千の座を解析 感度が高く対照組織が不要なアッセイもある。検査に組み込め、他のと同時に評価できる

IHCとMSI検査(PCR/NGS)は原理は異なるが、臨床的にはおおむね等価な代替検査であり、施設のに応じてどちらを一次検査に使ってもよい。 ただしは100%ではない。MSH6のは蛋白発現を保ったままMMR機能だけを失うことがあり、IHCは正常なのにMSI検査は陽性という食い違いが起こり得る。結果が臨床像と合わないときは、もう一方の検査で確認する。

MSI-Highの意味

MSI-H(またはdMMR)と判定されても、それだけでは原因は分からない。原因は大きく3つの機序に分かれる。

機序 代表 特徴
生殖細胞系列のMMR遺伝子 MLH1MSH2MSH6PMS2いずれかの 若年発症、多発・大腸癌などLynch関連腫瘍。MSH2・MSH6・PMS2単独の蛋白消失はメチル化で説明できないためを強く疑う
性(後天性) MLH1、しばしばBRAF V600Eを伴う 高齢発症、女性にやや多い。MLH1蛋白消失にBRAF V600E陽性が揃えば性とほぼ確定できる
その他 体細胞の二重(両アレル)MMR変異など でもMLH1メチル化でもない残余群(Lynch-like)。頻度は低い

MSI-H判定だけでと確定してはいけない。 実務での順序は次のとおりである。IHCでMLH1蛋白の消失がみられた場合、まずMLH1プロモーターの検査とBRAF V600E変異検査を行う。両方が陽性なら性としてほぼ確定でき、生殖細胞系列検査は通常不要である。どちらかが陰性、あるいは最初からMSH2・MSH6・PMS2単独の消失であれば、MLH1メチル化という「性の説明」が成り立たないため、遺伝のうえで生殖細胞系列のMMRに進む。

測定上の注意

  • ⚠️ PMS2によるでは、腫瘍のMSIシグナルがMLH1・MSH2関連の腫瘍より弱く、MSI-LやMSS相当にとどまることがある。 MSI検査が陰性でも、臨床像(若年発症・家族歴)が強ければを除外しない。
  • ⚠️ IHCの偽陰性は、蛋白発現を保ったまま機能だけを失うで起こる。 染色パターンが正常に見えても臨床的な疑いが強ければ、MSI検査(PCR/NGS)を追加する。
  • PCR法は腫瘍細胞含有率が低い検体(少量の生検、後の検体など)で感度が落ちる。可能なら腫瘍細胞の多い部位から検体を採取する。
  • NGSベースの判定は使用するアッセイ・パネル・によって結果が変わり得るため、施設間で数値をそのまま比較しない。

臨床での使いどころ

MSIは一回きりの断面を見る検査で、CA19-9のようにな推移を追う指標ではない。使いどころは大きく3つに分かれる。

  1. の拾い上げ:現行の推奨は家族歴の有無にかかわらず、新規診断の大腸癌全例でMMR免疫染色またはMSI検査を行う(universal tumor testing)。以前の・Bethesdaガイドラインのような家族歴・年齢による選別は見逃しが多く、現在は主流の入り口ではない。dMMR/MSI-Hが見つかれば、上記の順序でMLH1メチル化・BRAF V600Eを確認したうえで、必要例を遺伝・生殖細胞系列検査へつなぐ。
  2. の適応判定:dMMR/MSI-Hが高くを多く提示するため、が効きやすい。は2017年、・転移性のdMMR/MSI-Hに対し原発臓器を問わない承認を米国で取得した最初の薬剤であり、その後複数のを統合した結果が正式承認へ切り替わっている。
  3. 病期別の予後・への影響:MSI-H/dMMRの大腸癌は一般に予後良好だが、IIでは単剤の術後補助化学療法による効果に乏しいとされ、化学療法の適応は慎重に検討する。III以降やな局所進行大腸癌では、術前(周術期)の投与で高いが得られる報告が増えており、標準治療の位置づけが変わりつつある領域である。

まとめ

  • MSIは腫瘍組織の分子検査で、を正す(MLH1・PMS2・MSH2・MSH6)が壊れているかを長のばらつきとして検出する。
  • 判定はPCR(5座中2座以上でMSI-H)、MMR蛋白の免疫染色(4蛋白)、NGSの3法があり、IHCとMSI検査はおおむね等価だが完全には一致しない。
  • MSI-H/dMMRの原因は、)、MLH1メチル化+BRAF V600Eを伴う性、その他に分かれ、MSI-H判定だけではどれかを決められない。
  • MLH1蛋白消失例ではメチル化・BRAF V600E検査で性を除外してから生殖細胞系列検査に進むという順序が重要である。
  • 臨床では、大腸癌・の全例スクリーニングによるの拾い上げ、など)の適応判定、病期別の選択という3つの場面で使われる。