疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)

Extranodal marginal zone lymphoma of MALT (MALT lymphoma)

別名
MALTリンパ腫節外性辺縁帯リンパ腫節外辺縁帯リンパ腫胃MALTリンパ腫
臓器系
腫瘍血液消化器
科目
PathologyHistopathologyInternal MedicineSurgery
トピック
病理学 C/13:濾胞性リンパ腫/マントル細胞リンパ腫/節外辺縁帯(MALT)リンパ腫組織病理 H2-015:胃MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)病理学 B/14:ウイルス・微生物による発がん(腫瘍形成)病理学 C/33:胃炎内科学 L-75:食道・胃の前癌病変と悪性腫瘍外科学 B/10:胃腫瘍(症状・診断・治療)
上位概念
非ホジキンリンパ腫
鑑別疾患
マントル細胞リンパ腫胃炎胃癌濾胞性リンパ腫
続発疾患
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
関連疾患
甲状腺機能低下症
治療薬
リツキシマブボノプラザンアモキシシリンクラリスロマイシン
原因微生物
ヘリコバクター・ピロリChlamydia psittaciBorrelia burgdorferiCampylobacter jejuni
症状
心窩部痛潜在性出血腫脹リンパ節腫脹
検査値
乳酸脱水素酵素血算
画像所見
超音波内視鏡
スコア
Ann Arbor分類
元疾患
シェーグレン症候群唾液腺炎・唾石症
適応薬
ボノプラザンラベプラゾール

🧠 全体像:MALTリンパ腫()は、遺伝子異常そのものが主因ではなくになる点で他のB細胞リンパ腫と一線を画す腫瘍である。学習の幹は「本来リンパ組織を持たない臓器に、感染や自己免疫による慢性炎症を背景として後天的MALTが形成される→そこでにB細胞クローンが増殖する→一部が遺伝子異常を獲得して自律的な腫瘍へ移行する」という一本の流れである。でH. pylori除菌だけでリンパ腫が退縮しうるのはこの機序の裏返しであり、逆にt(11;18)(q21;q21)で自律化した腫瘍は抗原を取り除いても退縮しない。

概要

MALTリンパ腫はの一亜型で、低悪性度()に分類される。名称のとおり(MALT)を場とする腫瘍だが、実際には胃・小腸などの消化管に限らず、唾液腺、眼付属器()、甲状腺、肺、皮膚など、本来は組織化されたリンパ組織を持たない臓器に生じる点が特徴である。発生部位別では胃が最も多い。診断時は限局期(病変が原発臓器とその近傍にとどまる)であることが多く、では改訂がより実用的とされる)でIE期に相当する例が大半を占める。

発生機序

中心的な理解は、正常では存在しない後天的MALTがによって形成され、そこで増殖するB細胞クローンの一部が遺伝子異常を獲得して自律化する、という2段階のである。

発生部位 背景となる慢性刺激
*Helicobacter pylori*感染による
唾液腺 症候群による腺組織への持続的
甲状腺 による
眼付属器( Chlamydia psittaci感染との関連が報告される(地域差が大きい)
皮膚 Borrelia burgdorferi感染との関連が報告される地域がある
小腸 Campylobacter jejuni感染を背景とする(ID)
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic antigenic stimulation'>慢性抗原刺激</span><br>(感染・自己免疫)"] --> B["後天的MALTの形成"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T-cell dependent'>T細胞依存性</span>のB細胞増殖"]
    C --> D["遺伝子異常の獲得"]
    D --> E["自律的な腫瘍クローン化"]
    E --> F["MALTリンパ腫"]

⭐ この経路の初期段階(抗原刺激に依存した増殖)にとどまるはH. pylori除菌だけで退縮しうるが、遺伝子異常を獲得して自律化した腫瘍は除菌に反応しない。

代表的なは3つある。

転座 融合遺伝子 臨床的意味
t(11;18)(q21;q21) API2(BIRC3)::MALT1 胃MALTで最多の転座異常。H. pylori除菌が無効であることを強く予測する
t(1;14)(p22;q32) BCL10::IGH 頻度は低いが同様に除菌抵抗性と関連しうる
t(14;18)(q32;q21) IGH::MALT1 唾液腺・眼付属器のMALTリンパ腫に比較的多い

⚠️ MALTリンパ腫のt(14;18)はMALT1をIGHに融合させる転座であり、のt(14;18)(BCL2をIGHに融合)とは融合パートナーが異なる別物である。同じ「t(14;18)」という表記だけで両者を混同しない。いずれの転座もNF-κB経路のを介してB細胞の生存・を自律化させる点は共通する。

病理形態・免疫表現型

腫瘍細胞は小型〜中型ので、辺縁帯を中心に反応性の周囲へ拡がるように増殖する。腺上皮に腫瘍細胞が浸潤して破壊する所見をと呼び、MALTリンパ腫に特徴的である。反応性のが腫瘍組織内に残存することも多く、この残存を混同しないことがの要点になる。形質細胞への分化を伴うことがあり、その部分で軽鎖の単クローン性を確認できる場合がある。

免疫マーカー 典型的所見 意味
CD20・PAX5 陽性 成熟B細胞由来であることを示す
CD5 陰性 陽性ならCLL/SLLやを疑う
CD10・BCL6 陰性 陽性ならを疑う
CD23 陰性 陽性ならCLL/SLLを疑う
cyclin D1 陰性 陽性ならを疑う(t(11;14))

⭐ CD5陰性・CD10陰性・CD23陰性・cyclin D1陰性という「陰性づくし」の免疫形質が、他の小型B細胞リンパ腫(CLL/SLL、)を除外しMALTリンパ腫を積極的に支持する決め手になる。

臨床像

多くは無症候か軽微な局所症状にとどまり、発熱・・体重減少などのB症状は乏しい。胃MALTではや不快感、時に慢性のによる貧血を来す。唾液腺では無痛性の腫脹、眼付属器ではの充血や眼窩腫瘤、甲状腺では無痛性の腫大として気づかれることが多い。診断時の病期は限局期が大半を占め、播種性・症候性でリンパ節腫脹を伴う症例は少数派である。(DLBCL)への形質転換は10%未満とされ、急速な腫瘤増大や上昇を認めたときに疑う。

診断

では表在性の発赤・びらん・粘膜肥厚など非特異的な所見にとどまることが多く、確定診断には複数部位からの生検が必須である。

flowchart TD
    A["内視鏡・生検でMALTリンパ腫を確定"] --> B["H. pylori検査<br>(生検・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea breath test (UBT)'>尿素呼気試験</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool antigen'>便中抗原</span>)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic ultrasonography, EUS'>超音波内視鏡</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='depth of invasion'>深達度</span>を評価"]
    C --> D["造影CTで病期・節外病変を確認"]
    D --> E["t(11;18)などの染色体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>"]
    E --> F["除菌反応性を予測し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

💡 生検が単発だと、腫瘍内に残る反応性濾胞や乏しい腫瘍細胞密度のために偽陰性になりやすい。H. pylori検査も同様に偽陰性がありうるため、複数部位・複数手法での確認が必要である。全身の血算は播種性病変での・血球減少の評価に用いる。

治療

では、H. pylori陽性の限局期例にをまず行う。陰性例の一部でも、除菌がする可能性があるとして試みられることがある。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric MALT lymphoma'>胃MALTリンパ腫</span>・限局期"] --> B["H. pylori陽性、または陰性の一部例"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eradication therapy'>除菌治療</span>"]
    C --> D["内視鏡・生検で退縮を確認"]
    D --> E{"組織学的退縮が得られたか"}
    E -->|"得られた"| F["内視鏡による長期<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surveillance'>サーベイランス</span>"]
    E -->|"得られない・t(11;18)陽性"| G["放射線治療(限局期)"]
    G --> H["進行・症候性なら"]
    H --> I["リツキシマブを含む薬物療法"]

⚠️ 除菌後の組織学的退縮には数か月から1年以上を要することがあり、早期の生検で腫瘍細胞が残っていても直ちに「除菌無効」と判定しない。t(11;18)(q21;q21)陽性例は除菌単独に反応しにくいため、初めから放射線治療や薬物療法を計画に組み込む。除菌不応例・進行例・播種例では、限局期なら病変部位への放射線治療、症候性・播種性ならリツキシマブを含む治療を選ぶ。胃切除を診断・治療の一律な第一選択とはしない。

唾液腺・眼付属器・甲状腺・皮膚など胃以外のMALTリンパ腫では、限局期なら病変部位への放射線治療が中心となる。眼付属器MALTでChlamydia psittaci関連が疑われる例では抗菌薬が試みられることがあるが、反応率は胃MALTの除菌ほど確立していない。DLBCLへ形質転換した部分は、MALTリンパ腫としてではなくDLBCLとして評価・治療する。

鑑別

疾患 ・起源 免疫形質の特徴 主な遺伝子異常 治療の要点
MALTリンパ腫 下の CD5陰性・CD10陰性・CD23陰性・cyclin D1陰性 t(11;18) API2::MALT1など H. pylori陽性の胃例は除菌が第一選択
胃癌 胃腺上皮 上皮性マーカー陽性、リンパ球マーカー陰性 萎縮→→異形成→癌という多段階カスケード 内視鏡切除または胃切除+
の反応性炎症 のリンパ球・形質細胞浸潤 特異的な遺伝子異常なし H. pylori除菌のみで治癒しうる
CD10陽性・BCL6陽性・BCL2陽性 t(14;18) IGH::BCL2 無症候なら経過観察、症候性ならリツキシマブ併用療法
B細胞 CD5陽性・cyclin D1陽性 t(11;14) IGH::CCND1 で発見されやすく治癒は困難

まとめ

  • MALTリンパ腫は遺伝子異常が主因ではなく、H. pylori感染・症候群・などのを背景に後天的MALTが形成され、そこでB細胞クローンが増殖・自律化して生じる。
  • とCD5陰性・CD10陰性・CD23陰性・cyclin D1陰性という「陰性づくし」の免疫形質が診断の要点で、これによりCLL/SLL・と鑑別する。
  • t(11;18)(q21;q21) API2::MALT1は胃MALTで最多の転座であり、H. pylori除菌が無効であることを強く予測する。t(14;18)はと同じ表記でもが異なる別の転座である。
  • はH. pylori陽性・限局期ならを第一選択とし、内視鏡・生検で退縮を確認する。除菌不応例・t(11;18)陽性例・進行例では放射線治療やリツキシマブを含む薬物療法を選ぶ。
  • 10%未満とされるDLBCLへの形質転換は、急速な腫瘤増大やLDH上昇を契機に疑い、DLBCLとして治療する。