内科学

内科学 · L-75

食道・胃の前癌病変と悪性腫瘍

Pre-cancerous states and malignancies of the esophagus and the stomach

前提:病態
食道の病理胃炎
疾患
MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)バレット食道胃癌食道癌
画像所見
内視鏡的萎縮性胃炎(木村・竹本分類)
スコア
ABC分類

🧠 全体像:食道ではから腺癌、飲酒・喫煙やを背景に扁平上皮癌が生じる。胃ではによる萎縮・・異形成から腺癌へ進みうる。内視鏡+生検で診断し、・リンパ節・遠隔転移に応じ、手術、薬物・放射線治療を組み合わせる。

食道の前癌・関連病態

バレット食道

により下部食道のがを伴う円柱上皮へ化生する。長期GERD、男性、50歳超、、喫煙、家族歴が危険因子である。

内視鏡で範囲を記録して系統的に生検する。非異形成例はで逆流を管理し、長さなどに応じ概ね3〜5年ごとに監視する。異形成は専門病理医が確認する。ではまたは厳密監視、/では可視病変の+残存粘膜のなどが標準で、を一律には行わない。 2022は・については「術よりを推奨」(強い推奨、エビデンスの質は中等度)とする一方、確認済みのについてはを「提案」するにとどめ、を許容される代替として並記している(条件付き推奨、エビデンスの質は中等度)。あわせて成功後の監視間隔をベースラインの異形成の程度で構造化し、短いの監視間隔を緩め、スクリーニング手段を内視鏡以外の方法にも広げている1。

⚠️ を「推奨」と書かない。 強さを1段上げると、自身が並記している厳密監視という選択肢が消える。は病理医間の判定が低く(42%・異形成不確定23%に対し、非異形成79%・71%)、市中診断の293例を専門病理医パネルが再判定した研究では73%が格下げされ、が確認されたのは27%にとどまった。専門病理医の確認を経ていないに療法を当てると、多くが過剰治療になる1。

アカラシアと好酸球性食道炎

はの抑制性神経消失により、と蠕動消失を来す。固形・液体双方の、逆流、体重減少を認める。内視鏡でを除外し、で確定、で鳥のくちばし像(bird-beak appearance)をみる。治療は、+、()を病型・リスクで選ぶ。高リスク例ではを用いる。の原因であるTrypanosoma cruziは主に中南米に分布する。

はと関連する抗原駆動性炎症で、・を来す。食道生検で一般にあたり好酸球 ≥15個を確認し、、除去食、を選択する。狭窄には拡張を追加するがも継続する。

食道癌

型 部位・リスク 要点
腺癌 下部食道、、GERD、肥満 進行性、体重減少。北欧・西欧、北米、オセアニアに集中(世界の腺癌の46%)
扁平上皮癌 中〜上部が多い、喫煙、飲酒、、狭窄 ・。東南アジア・中央アジアに集中(世界の扁平上皮癌の79%)

💡 「といえばどちらか」は、どこで診療しているかで逆になる。 世界全体では扁平上皮癌が圧倒的に多く(2012年で推定398,000例対腺癌52,000例、10万人あたり5.2対0.7)、東南アジア・中央アジアに集中する。一方で高所得国では腺癌が主体で、北欧・西欧、北米、オセアニアが世界の腺癌の46%を占める2。ハンガリーを含む欧州の教科書が由来の腺癌を前面に置くのはこのためで、世界全体の構成比とは違う。

後、EUS、造影CT、などで病期を決める。粘膜内の低リスク病変は内視鏡切除、局所進行例は術前化学放射線または+、・転移例は組織型とPD-L1、、MSI/MMRなどに基づく全身治療を行う。

胃の前癌病変と悪性腫瘍

flowchart TD
    A["H. pylori / <span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune gastritis'>自己免疫性胃炎</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic atrophic gastritis'>慢性萎縮性胃炎</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal metaplasia'>腸上皮化生</span>"]
    C --> D["異形成"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric adenocarcinoma'>胃腺癌</span>"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric MALT lymphoma'>胃MALTリンパ腫</span>"]

H. pyloriを検査し陽性なら除菌後に治癒確認する。除菌は非萎縮性を治癒させ、を退縮させうるほか、これらの病態にある患者の胃癌リスクを下げる3。萎縮・の範囲、家族歴、出身地域などから内視鏡監視を個別化する。

💡 の層別は「OLGA/OLGIMの」で決める。 欧州のMAPS IIIは、内視鏡的に広範(Kimura C3以上、EGGIM 5以上)または組織学的に進行した(高度の萎縮・、前庭部と体部の両方に及ぶ変化、あるいはOLGA/OLGIM III/IV)を出身国を問わず3年ごとに追跡し、逆に前庭部に限局した軽度〜中等度の萎縮・には監視を行わない(家族歴、不完全型、H. pylori感染の持続が無い場合。臨床で見つかる大半がこの群)とした4。生検は前庭部・体部の少なくとも2部位から採り、別々の容器で提出する3。集団スクリーニングは高リスク地域(10万人年あたり20超)で2〜3年ごと、低リスク地域(10未満)では行わない4。はでとに分かれ、早期には(ESD)、例にはリンパ節郭清を伴う胃切除と病期に応じを行う。ESDの適応は分化型で異形成または(潰瘍が無ければ大きさを問わず、潰瘍があれば30 mm以下)が基本で、深部浸潤を疑う所見が無ければ切除前のEUS・・・はルーチンには行わない4。進行例は、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18.2などを評価し全身治療を選ぶ。CLDN18.2陽性(腫瘍細胞の75%以上に中等度〜強い膜性染色)かつ陰性の未治療進行例では、をmFOLFOX6にすると無増悪生存・とも0.75で改善した(無増悪生存中央値10.61か月対8.67か月)5。は互いに排他的な順序で並べるのではなく、・PD-L1・MSI/MMR・CLDN18.2をまとめて調べたうえで治療を組む。

胃MALTリンパ腫はH. pyloriと強く関連し、限局例では陽性・一部陰性例とも除菌を初期治療として検討する。反応不十分・進行例は放射線、を含む薬物療法などを選ぶ。

まとめ

  • 異形成はが中心で、が一律の第一選択ではない。ただし推奨の強さは2段に分かれ、・は「術よりを推奨」(強い推奨)、確認済みのはを「提案」しつつ厳密なも許容される代替である(いずれもエビデンスの質は中等度)。1
  • ・EoEも慢性の重要鑑別である。
  • 胃癌予防ではH. pylori除菌、では病期とが重要である。

出典

  1. 1.Diagnosis and Management of Barrett's Esophagus: An Updated ACG Guideline(American College of Gastroenterology・2022)全文(PMC10259184のHTML。ブラウザUA付きcurlで200。Europe PMCのfullTextXMLは500を返す)で確認した。バレット食道の改訂ガイドライン。前版からの主な変更は、スクリーニング手段を内視鏡以外の方法にも広げたこと、短いバレット食道(short-segment BE)の監視間隔を緩めたこと、内視鏡治療施設の症例数基準を設けたことである。⚠️ 異形成への内視鏡治療は推奨の強さが2段に分かれる——推奨17は逐語で "We recommend EET compared with esophagectomy in patients with BE with HGD or IMC (strength of recommendation: strong; quality of evidence: moderate)"、推奨18は逐語で "We suggest endoscopic therapy in patients with BE with confirmed LGD to reduce the risk of progression to HGD/EAC, with endoscopic surveillance of confirmed LGD as an acceptable alternative (strength of recommendation: conditional; quality of evidence: moderate)" であり、低異型度異形成は suggest(条件付き推奨・エビデンスの質は中等度)で、内視鏡サーベイランスが許容される代替として並記されている。焼灼成功後の監視間隔はベースラインの異形成の程度に応じて構造化する。化学予防やバイオマーカーの日常使用についてはデータ不足で推奨を出せなかった。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Global incidence of oesophageal cancer by histological subtype in 2012(Gut・2015)2012年の世界の食道癌は扁平上皮癌が推定398,000例、腺癌が52,000例で、罹患率はそれぞれ10万人あたり5.2と0.7であった。扁平上皮癌は東南アジア・中央アジアに集中し(世界の扁平上皮癌の79%)、腺癌は北欧・西欧、北米、オセアニアで最も多かった(世界の腺癌の46%)。男女比は腺癌4.4、扁平上皮癌2.7で、とくに腺癌で男性に偏る。閲覧 2026-08-25
  3. 3.Management of epithelial precancerous conditions and lesions in the stomach (MAPS II): European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE), European Helicobacter and Microbiota Study Group (EHMSG), European Society of Pathology (ESP), and Sociedade Portuguesa de Endoscopia Digestiva (SPED) guideline update 2019(Endoscopy(ESGE / EHMSG / ESP / SPED)・2019)慢性萎縮性胃炎・腸上皮化生の患者は胃腺癌のリスクがある。生検は前庭部と体部の少なくとも2部位から採り、別々の容器に入れて提出する。前庭部に限局した軽度〜中等度の萎縮では監視を推奨する根拠が無い。進行した萎縮性胃炎では3年ごとに質の高い内視鏡で追跡する。H. pylori除菌は非萎縮性慢性胃炎を治癒させ、萎縮性胃炎を退縮させうるほか、これらの病態にある患者の胃癌リスクを下げるため推奨される。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Management of epithelial precancerous conditions and early neoplasia of the stomach (MAPS III): European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE), European Helicobacter and Microbiota Study Group (EHMSG) and European Society of Pathology (ESP) Guideline update 2025(Endoscopy(ESGE / EHMSG / ESP)・2025)内視鏡的範囲(Kimura C3以上、EGGIM 5以上)または組織学的に進行した萎縮性胃炎(高度の萎縮・腸上皮化生、前庭部と体部の両方に及ぶ変化、あるいはOLGA/OLGIM III/IV)の患者は、出身国を問わず3年ごとに質の高い内視鏡で追跡する。前庭部に限局した軽度〜中等度の萎縮・腸上皮化生で、広範な病変の内視鏡所見も他のリスク因子(家族歴、不完全型腸上皮化生、H. pylori感染の持続)も無い患者には監視を行わない(臨床で見つかる大半がこの群である)。集団レベルの内視鏡スクリーニングは高リスク地域(年齢調整罹患率10万人年あたり20超)で2〜3年ごと、中間リスク地域(10〜20)は費用対効果が示されれば5年ごと、低リスク地域(10未満)では行わない。分化型で異形成または粘膜内癌と臨床病期診断された病変にはESDを推奨する(潰瘍が無ければ大きさを問わず、潰瘍があれば30 mm以下)。H. pylori除菌は前癌病態のある患者と内視鏡・外科治療後の患者に推奨する。閲覧 2026-08-25
  5. 5.Zolbetuximab plus mFOLFOX6 in patients with CLDN18.2-positive, HER2-negative, untreated, locally advanced unresectable or metastatic gastric or gastro-oesophageal junction adenocarcinoma (SPOTLIGHT): a multicentre, randomised, double-blind, phase 3 trial(The Lancet・2023)20か国215施設の第3相試験で、CLDN18.2陽性(腫瘍細胞の75%以上に中等度〜強い膜性染色)かつHER2陰性の未治療進行胃・食道胃接合部腺癌565例を対象に、ゾルベツキシマブ+mFOLFOX6とプラセボ+mFOLFOX6を比較した。無増悪生存はハザード比0.75(95%CI 0.60〜0.94、P=0.0066)、中央値10.61か月対8.67か月、全生存もハザード比0.75(95%CI 0.60〜0.94、P=0.0053)で有意に改善した。グレード3以上の治療下発現有害事象は87%対78%であった。閲覧 2026-08-25