内科学

内科学 · L-74

せん妄を来す内科的原因

General medical etiologies of delirium

前提:正常
網様体とモノアミン作動系
疾患
せん妄
症状
転倒

🧠 全体像:せん妄(delirium)は急性〜亜急性に出現し、する注意・意識障害を中核とする脳症候群である。単なる興奮ではなく、も多い。原因疾患の緊急評価と非薬物的介入が治療の中心である。

原因

分類 例
感染 肺炎、尿路感染、敗血症、髄膜炎
代謝・内分泌 低酸素、低/高血糖、Na/Ca異常、肝・腎不全、、
中枢神経 脳卒中、、痙攣後、、外傷
薬剤・毒物 、鎮静薬、オピオイド、ステロイド、、アルコール/離脱
循環・環境 ショック、心不全、脱水、術後、疼痛、、
見落としやすいもの 尿閉、便秘、、不適切なデバイス・

診断

flowchart TD
    A["急性の認知・行動変化"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired attention'>注意障害</span>と変動を確認:4AT/CAM"]
    B --> C["ABCDE、血糖、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral oxygen saturation'>SpO2</span>、体温、薬剤確認"]
    C --> D["感染・代謝・離脱・疼痛・尿閉などを検索"]
    D --> E["原因治療+多面的非薬物介入"]

CAMでは急性発症/変動とを必須とし、さらに思考のまとまりのなさまたは意識水準変化を確認する。原著の検証では感度100%・94%、特異度95%・90%、観察者間一致κ 0.81〜1.0で、5分未満で精神科医でなくても実施できる1。人工呼吸中でできない患者には非言語的課題に置き換えたCAM-を用いるが、深い鎮静・昏睡の患者では成立しない(呼びかけに何らかの反応があるが前提)2。病歴は家族・から平常時と発症時期を聴取する。血糖、血算、電解質、腎肝機能、酸素化、尿検査などはに応じて行い、画像、培養、、EEGは局在徴候、外傷、感染、非痙攣性てんかん重積状態などの疑いに絞る。をせん妄の原因と即断しない。

特徴 せん妄 認知症
発症・経過 急性、時間〜日、 、月〜年で進行
注意 早期から障害 初期は比較的保たれることが多い
意識水準 変動 通常清明
思考・知覚 まとまり低下、視覚/ 進行例で障害
可逆性 原因治療で改善しうるが遷延もある 多くは進行性。認知症患者にもせん妄は重なる

治療

原因治療とともに、・補聴器、時計と日付、家族による再、昼間の離床、夜間睡眠、十分な水分・栄養、、不要なカテーテル・拘束の解除を組み合わせる。

💡 最も確実な手は薬ではなく、多因子の非薬物介入である。 70歳以上の内科入院患者852例で、・・不動・・聴覚障害・脱水の6因子に標準化プロトコルで介入したところ、せん妄発症は9.9%対15.0%(マッチド0.60)に下がった3。上に並べた項目はこの6因子の実装であり、思いつきの気配りではない。

抗精神病薬はせん妄そのものを治癒・短縮する目的でルーチン使用しない。患者または周囲に危険があり、で制御できない強い苦痛・興奮に限り、QT延長、Parkinson病/などを確認して最小量・短期間使用する。はせん妄を悪化させうるため、アルコール/離脱や痙攣を除き避ける。

⚠️ 抗精神病薬は「効かない」と示されているのであって、単に慎重に使うべき薬ではない。 無作為化試験16件・観察研究10件の系統的レビューでは、もも、と比べて鎮静状態・せん妄持続期間・・死亡のいずれにも差が無かった。一方で心臓へのは抗精神病薬群で多い傾向にあった4。したがって使う理由は「せん妄を治すため」ではなく「今この場の危険を下げるため」に限られる。

💡 ベンゾジアゼピン回避も、一律の禁止ではない。 65歳以上の非心臓手術では、術直前の単回と術後1日目のせん妄増加との関連は認められなかった5。避けるべきなのは主に持続的・蓄積的な鎮静であり、と痙攣ではベンゾジアゼピンがむしろ第一選択である。

まとめ

  • 急性・のを捉え、もスクリーニングする。
  • 原因検索と非薬物的多面的介入が中心である。
  • 抗精神病薬は危険な興奮への短期的な例外対応である。

出典

  1. 1.Clarifying confusion: the confusion assessment method. A new method for detection of delirium(Annals of Internal Medicine・1990)CAMのアルゴリズムは、(1)急性発症と変動する経過、(2)注意障害の2つを必須とし、加えて(3)思考のまとまりのなさ、または(4)意識水準の変化のいずれかを要する。精神科医の診断を基準とした2施設の検証で、感度100%・94%、特異度95%・90%、陽性的中率91%・94%、陰性的中率100%・90%、観察者間一致はκ 0.81〜1.0であった。5分未満で実施でき、精神科医でない臨床医が使えるよう設計されている。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Delirium in Mechanically Ventilated Patients: Validity and Reliability of the Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit (CAM-ICU)(JAMA(Ely EW, et al.)・2001)CAM-ICUによるせん妄評価は、患者が呼びかけに何らかの反応を示す覚醒レベル(深い鎮静・昏睡ではない状態)にあることを前提として組み立てられている。人工呼吸中で発語できない患者にも使えるよう非言語的課題で置き換えたCAMの派生版である。閲覧 2026-08-25
  3. 3.A multicomponent intervention to prevent delirium in hospitalized older patients(The New England Journal of Medicine・1999)70歳以上の一般内科入院患者852例を対象に、認知障害・睡眠剥奪・不動・視覚障害・聴覚障害・脱水という6つの危険因子へ標準化プロトコルで介入した(Hospital Elder Life Programの原型)。せん妄発症は介入群9.9%対通常ケア群15.0%(マッチドオッズ比0.60)で、非薬物的多因子介入がせん妄を一次予防できることを示した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Antipsychotics for Treating Delirium in Hospitalized Adults: A Systematic Review(Annals of Internal Medicine・2019)入院成人を対象とした無作為化試験16件・観察研究10件の系統的レビュー。ハロペリドールおよび第二世代抗精神病薬はプラセボと比べ、鎮静状態、せん妄持続期間、在院日数、死亡のいずれにも差を示さなかった(中等度〜低いエビデンスの強さ)。短期使用による神経学的有害事象の証拠は乏しかったが、心臓への有害作用は抗精神病薬群で多い傾向にあった。結論として、成人入院患者のせん妄治療にハロペリドールや第二世代抗精神病薬をルーチンに用いることを現在のエビデンスは支持しない。閲覧 2026-08-25
  5. 5.Midazolam Premedication Immediately Before Surgery Is Not Associated With Early Postoperative Delirium(Anesthesia & Analgesia・2021)65歳以上の待機非心臓手術患者では、術直前のミダゾラム前投薬と術後1日目のせん妄増加との関連を認めなかった。閲覧 2026-08-25