内科学

内科学 · L-73

内科領域のアルコール関連疾患

Alcohol-related diseases in internal medicine

前提:病態
アルコールの代謝アルコール・薬物性肝障害
疾患
アルコール性ケトアシドーシス

🧠 全体像:は肝臓だけでなく、消化管、膵、心血管、神経、血液、代謝、感染リスクへ影響する。治療はの指示だけで終わらず、離脱・を安全に治療し、薬物療法とで再発を予防する。

多臓器障害

系統 主な病態・所見
肝 アルコール関連脂肪性肝疾患、アルコール関連肝炎、線維化・肝硬変。黄疸、腹水、静脈瘤、肝性脳症
消化管・膵 、消化管出血、急性/、吸収不良
心血管 高血圧、心筋症、大量飲酒後の心房細動()
神経・筋 、Korsakoff症候群、末梢神経障害、小脳障害、筋障害
血液・栄養 、葉酸欠乏、骨髄抑制、血小板減少、凝固異常
代謝・感染 、、低血糖、、結核など
精神 AUD、抑うつ、不安、自殺リスク、

💡 AUDは「乱用か依存か」ではなく、1つの連続体である。 -IVはアルコール乱用とアルコール依存を別々の診断として並べていたが、(2013年)は20万人超のデータに基づく作業部会の勧告に従って両者を単一のへ統合し、重症度は満たした基準の数で表す連続体とした。同時に「法的問題」を基準から外し「」を基準に加えている1。旧来の乱用/依存という語は試験では今も出るが、現行の診断名はAUD一本である。

💡 アルコール関連肝疾患とは、排他ではなく重なる。 2023年の多学会Delphi合意は/NASHを廃して/MASHとし、概念をに置いた。そのうえで、の代謝リスク要件を満たしながら飲酒量が多い層(女性140〜350 g/週、男性210〜420 g/週)をMetALDという中間カテゴリーとして新設した2。これを超える飲酒量ならアルコール関連肝疾患として扱う。「代謝か酒か」の二者択一で分類しない。

アルコール関連肝炎では発熱、黄疸、圧痛性、優位のを来す。重症度はMaddreyのdiscriminant function(DF)やMELDで評価し、DF ≥32を重症の目安とする3。感染・消化管出血・腎障害を検索する。重症選択例では禁忌を除外して副腎皮質ステロイドを検討し、反応を再評価する。長期予後を最も左右するのはである。

⚠️ ステロイドの効果は「短期だけ、しかも境界域」である。 重症1103例のSTOPAH試験では、28日死亡率が17%に対し14%(0.72、95%CI 0.52〜1.01、P=0.06)と有意に達せず、90日・1年では群間差が無かった。同試験では無効であった(1.07)4。「重症なら必ずステロイド」ではなく、感染・出血・腎障害という禁忌を除外したうえでの選択肢である。

💡 Lilleスコアは、7日目にステロイドを続けるかを決める。 年齢・腎不全・アルブミン・・ビリルビンと7日目のビリルビン変化の6からなり、6か月死亡の予測で 0.89と(0.62)・Maddrey(0.66)・MELD(0.72)を上回った。0.45超が非反応例で、6か月は25%(0.45以下は85%)、これに該当するのが約40%である3。効かない相手にステロイドの感染リスクだけを負わせないためのである。

急性合併症

離脱症候群

最終飲酒後数時間から振戦、不安、発汗、頻脈、不眠が出現し、痙攣、、振戦せん妄へ進みうる。重症度に応じをで投与し、電解質、Mg、脱水を補正する。高リスク例は監視下でする。は固定用量方式より入院期間が短くも少ないためASAM 2020は前者を優先する。ただしは治療反応の監視用の尺度であって離脱の診断には用いない(意思疎通ができない患者では成立しない)5。

は意識変容、、失調の三徴が揃わないことが多い。疑えば検査結果を待たず非経口をブドウ糖投与前または同時に投与する。

⚠️ の治療量は、予防量とは桁が違う。 英国の現行指針はを疑う例に静注300〜500 mgを1日3回、3〜5日間とし、毎日反応を評価する6。従来よく書かれた「100 mg静注」は予防・維持の水準であり、発症を疑う場面ではこれでは足りない。

アルコール性ケトアシドーシス

大量飲酒後の嘔吐・を背景に、腹痛、頻呼吸、とケトン体上昇を来す。血糖は正常〜低値が多い。、ブドウ糖含有輸液、、K/Mg/P補正を行い、原則インスリンは不要である。

AUDの長期治療

flowchart TD
    A["AUDをスクリーニングし重症度を評価"] --> B["安全な離脱管理・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thiamine'>チアミン</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motivational interviewing'>動機づけ面接</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive behavioral therapy, CBT'>認知行動療法</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mutual support'>相互支援</span>"]
    C --> D["薬物療法を個別選択"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='naltrexone'>ナルトレキソン</span> / <span class='jp-term jp-term-diagram' title='acamprosate'>アカンプロサート</span>など"]
    E --> F["再発、肝機能、精神・社会問題を継続支援"]

はオピオイド使用中・などで避け、は腎機能に応じ調整する。外来AUDのでは、あらゆる飲酒への回帰を1人防ぐためのが12、経口(50 mg/日)20で、両者の直接比較4試験では飲酒量に有意差が無かった7。は飲酒時反応と肝障害、を考慮した限定例で用いる。AUDと肝疾患を同時に治療し、評価を一律の期間だけで遅らせない。

まとめ

  • アルコールは肝、膵、心、神経、血液、代謝、感染、精神のを起こす。
  • 離脱とを見逃さず、を早期投与する。
  • 長期治療は薬物療法とを組み合わせる。

出典

  1. 1.DSM-5 criteria for substance use disorders: recommendations and rationale(The American Journal of Psychiatry・2013)DSM-5の物質関連障害作業部会は、20万人を超える研究参加者からの一貫した所見に基づき、DSM-IVの「乱用」と「依存」という2分法をやめて単一の物質使用障害へ統合することを勧告した。あわせて「法的問題」を基準から削除し「渇望(craving)」を基準に追加した。重症度は該当した基準数で表す連続体として扱う。閲覧 2026-08-25
  2. 2.A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature(Hepatology・2023)56か国236名によるDelphi合意で、NAFLD/NASHという呼称を「非アルコール性」「脂肪」という除外的・スティグマ的表現ゆえに廃し、上位概念を脂肪性肝疾患(steatotic liver disease)、NAFLDの後継をMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、心血管代謝リスク因子5項目のうち1つ以上を要件とする)とした。純粋なMASLDの外側に、MASLDの要件を満たしつつ飲酒量が多い層(女性140〜350 g/週、男性210〜420 g/週)を指す新カテゴリーMetALDを設けた。閲覧 2026-08-25
  3. 3.The Lille model: a new tool for therapeutic strategy in patients with severe alcoholic hepatitis treated with steroids(Hepatology・2007)重症アルコール性肝炎(Maddreyのdiscriminant function 32以上)でステロイド治療を受けた320例から導出し118例で検証したモデル。年齢・腎不全・アルブミン・プロトロンビン時間・ビリルビンと7日目のビリルビン変化の6変数からなり、6か月死亡の予測でAUROC 0.89とChild-Pugh(0.62)・Maddrey(0.66)・MELD(0.72)を上回った。カットオフ0.45を超える例の6か月生存率は25%で、0.45以下の85%と大きく異なり、この群を「非反応例」と定義できる(全体の約40%)。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Prednisolone or Pentoxifylline for Alcoholic Hepatitis(The New England Journal of Medicine・2015)重症アルコール性肝炎1103例を対象とした2×2要因デザインの多施設二重盲検無作為化試験(STOPAH)。28日死亡率はプラセボ群17%、プレドニゾロン群14%で、プレドニゾロンのオッズ比は0.72(95%CI 0.52〜1.01、P=0.06)と有意に達しなかった。90日および1年の死亡・肝移植では群間差が無かった。ペントキシフィリンはオッズ比1.07(95%CI 0.77〜1.49、P=0.69)で無効であった。閲覧 2026-08-25
  5. 5.The ASAM Clinical Practice Guideline on Alcohol Withdrawal Management(Journal of Addiction Medicine(American Society of Addiction Medicine)・2020)CIWA-Arは治療反応をモニタリングするために開発された尺度であり離脱症候群そのものの診断には用いない。症状駆動型(症状トリガー方式)のベンゾジアゼピン投与は固定用量投与と比べ入院期間の短縮・総投与量の減少と関連し、優先される。閲覧 2026-08-25
  6. 6.Using and prescribing thiamine in alcohol dependence(NHS Specialist Pharmacy Service(英国OHID専門家会議のアルコール関連指針を要約)・2025)英国における現行のWernicke脳症治療指針は、静注チアミン300〜500 mgを1日3回、3〜5日間投与し毎日評価するという用量幅を推奨している。予防目的の経口100 mg/日といった旧来の少量とは桁が違う。閲覧 2026-08-25
  7. 7.Pharmacotherapy for Adults With Alcohol Use Disorders in Outpatient Settings: A Systematic Review and Meta-analysis(JAMA・2014)アカンプロサートはあらゆる飲酒への回帰を1人防ぐためのNNTが12、経口ナルトレキソン(50 mg/日)はNNT 20であった。両者を直接比較した4件の試験では飲酒量アウトカムに有意差が示されなかった。閲覧 2026-08-25