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Disease Atlas · 精神 · 症候群

せん妄

Delirium

臓器系
精神神経
科目
PsychiatryInternal Medicine
トピック
精神医学 A-07:せん妄:病因・診断基準・臨床管理内科学 L-74:せん妄を来す内科的原因
鑑別疾患
アルツハイマー病統合失調症認知症
原因薬剤
アルデスロイキンビペリデンジメンヒドリナートファモチジンオセルタミビルオキシブチニンプロシクリジンラニチジン
症状
転倒
元疾患
大腿骨頸部・転子部骨折
原因となる疾患
アルコール使用障害抗コリン薬中毒脱水敗血症

🧠 全体像:せん妄は、数時間〜数日の経過で急性発症し、1日の中で変動する注意・意識の障害を中核とするの症候群である。単なる「興奮した患者」ではなく、静かで見逃されやすいが実際には多数を占める。せん妄そのものは診断名であって病名ではなく、背後に必ず身体的な原因(感染・代謝異常・薬剤・離脱など)が存在するという前提で、原因検索を最優先する身体救急として扱う。治療の主軸は原因治療と非薬物的介入であり、抗精神病薬のルーチン投与ではない。

定義

せん妄は次の特徴を満たす急性の脳機能障害である。

  1. 注意の障害(注意の方向づけ・集中・維持・転換が困難)と、周囲の状況への意識の低下
  2. 急性発症し、基準となる普段のから変化しており、1日の中で症状の程度が変動する
  3. 記憶、、言語、、知覚など、注意以外のにも追加の障害を伴う
  4. 既存の(認知症)だけでは説明できず、昏睡のような著しい覚醒低下の最中だけに生じているのではない
  5. 病歴・から、身体疾患・物質中毒/離脱・薬剤性・毒物、またはこれらのによって直接引き起こされたという証拠がある

⚠️ せん妄は「原因不明の急性変化」の状態像であり、これ自体が最終診断になることはない。 診断がついた時点で、必ず背後の身体的原因を能動的に探しにいく。

病型分類

臨床像は精神運動性の活動レベルによって3つに分類される。

病型 精神運動の特徴 臨床的な見え方
興奮、落ち着きのなさ、、時に攻撃性、を伴うことがある 目立つため気づかれやすく、対応も早い傾向
傾眠傾向、動作・反応の低下、、会話量の減少、引きこもるような様子 高齢者に多いが最も見逃されやすい。抑うつ、疲労、認知症の進行と誤認されやすい
混合型 が同一エピソード内で交代する 観察するタイミングによって印象が大きく変わる

💡 はベッドサイドで「大人しく静かにしている患者」に見えるため、系統的なスクリーニングを行わないと日常診療で高頻度に見落とされる。

危険因子

危険因子は、せん妄になりやすい素因(誘発因子準備状態)と、実際の発症を引き起こす誘因に分けて考えると整理しやすい。

分類 主な因子
素因(患者側の脆弱性) 高齢、既存の認知症・、複数の、視覚・聴覚障害、機能障害(ADL低下)、歴、、既往のせん妄エピソード
誘因(発症の引き金) 手術(特に大手術・緊急手術)、ICU入室・、感染症、代謝異常、新規薬剤や増量、・不要な、疼痛、睡眠遮断・、脱水、便秘・尿閉

素因が強い患者(高齢の認知症患者など)は、比較的軽微な誘因(軽い尿路感染や便秘など)だけでもせん妄を発症しうる。逆に素因が乏しい若年患者では、重篤な身体侵襲がなければせん妄化しにくい。

原因の探索

原因は身体疾患・薬剤性・にまたがり多岐にわたる。網羅的に検索する姿勢が重要である。

原因群 代表例
感染 肺炎、尿路感染、敗血症、髄膜炎・脳炎(敗血症は特に高頻度かつ見逃すと致死的)
代謝・内分泌 低酸素血症、低血糖・高血糖、Na/Ca異常、肝不全、腎不全、甲状腺機能異常、ビタミンB1欠乏(を含む)
中枢神経病変 脳卒中、、痙攣後状態(を含む)、
薬剤・中毒 、オピオイド、ベンゾジアゼピン、ステロイド、薬・違法薬物
)、ベンゾジアゼピン離脱。の既往・歴の聴取が鍵になる
循環・環境要因 循環不全・心不全、脱水、術後状態、強い疼痛、(暗い個室、・補聴器の未装着)
見落としやすい要因 尿閉、便秘・、不適切な・デバイス

⚠️ を安易にせん妄の原因と決めつけない。感染以外の原因を並行して検索する。

せん妄と認知症の鑑別

せん妄となどの認知症は合併しやすく、臨床像が重なるため鑑別が難しいことが多いが、対応方針が大きく異なるため区別が重要である。

項目 せん妄 認知症
急性、数時間〜数日 、月〜年単位
経過 急速かつ1日の中で著明に変動 通常は緩徐に進行し、は目立たない
変動し低下しうる 通常は清明(を除く)
注意 早期から障害され変動する 初期は比較的保たれることが多い
視覚性・触覚性のがしばしば出現 病型・によって出現(レビー小体型では初期から目立つ)
可逆性 原因治療により改善しうるが、遷延・部分的な後遺障害を残すこともある 多くは不可逆的に進行する

⚠️ 判断に迷う場合は、まずせん妄として扱い原因検索・治療を優先する。既存の認知症患者にせん妄が重なって発症することも多く、「もともと認知症だから」と急性の変化を見過ごさない。

診断アプローチ

一般病棟・長期療養施設では4AT、ICU・術後ではCAM-ICUまたはICDSCのようなスクリーニングツールを用いるが、最終的な診断は臨床的総合判断による。

CAM(Confusion Assessment Method)の構造

  1. 急性発症で変動する経過
  2. 注意の障害
  3. の変化
  4. 思考のまとまりのなさ

特徴1・2が存在し、さらに3または4のいずれかが存在すればCAM陽性と判定する。

flowchart TD
    A["急性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive function'>認知機能</span>・行動変化に気づく"] --> B["4AT/CAM等で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired attention'>注意障害</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluctuating'>変動性</span>を確認"]
    B --> C["ABCDE評価、血糖・SpO2・体温・薬剤リストを確認"]
    C --> D["家族・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='caregiver'>介護者</span>から普段の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive function'>認知機能</span>と発症時期を聴取"]
    D --> E["感染・代謝異常・薬剤・離脱・疼痛・尿閉/便秘を系統的に検索"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal neurologic sign'>局在神経徴候</span>、外傷、非典型経過はあるか"}
    F -->|"ある"| G["頭部画像検査・EEG・必要時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>を追加"]
    F -->|"ない"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical signs'>臨床所見</span>に応じた基本検査(血算・電解質・肝腎機能・尿検査等)に絞る"]
    G --> I["原因治療の開始と並行して非薬物的介入を実施"]
    H --> I

血液検査・尿検査はに応じて選択し、画像検査・培養・検査は局在徴候、外傷歴、感染徴候、が疑われる場合に絞って行う。

治療

原則:原因治療と非薬物的介入が中心

flowchart TD
    A["せん妄の診断"] --> B["原因となる身体疾患・薬剤を治療/中止・調整"]
    B --> C["疼痛・脱水・便秘・尿閉を是正"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reorientation'>再定向</span>、家族の付き添い、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>・補聴器の装用、昼夜リズムの調整"]
    D --> E{"強い苦痛や<span class='jp-term jp-term-diagram' title='self-harm'>自傷</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='harm to others'>他害</span>の危険が非薬物的対応で制御できないか"}
    E -->|"いいえ"| F["非薬物的管理を継続し、頻回に再評価する"]
    E -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='de-escalation'>デエスカレーション</span>を尽くしたうえで、最小量・短期間の薬物療法を慎重に検討"]
  • 非薬物的多面的介入が第一選択である:日中の離床・光曝露、夜間の静穏環境と睡眠の確保、時計・カレンダーによるづけ、家族・見慣れたスタッフの関与、・補聴器の使用、十分な水分・栄養摂取、とリハビリテーション。
  • 不要な、カテーテル類、のある薬剤、ベンゾジアゼピンは可能な限り減らす。
  • 抗精神病薬(等)はせん妄そのものを治癒・短縮する目的でルーチンに使用しない。 危険な興奮や強い苦痛があり非薬物的対応で制御できない場合に限り、QT延長リスクやを確認したうえで最小量・短期間の使用を検討する。パーキンソン病・では抗精神病薬への感受性が高く、原則として避けるか専門医判断を仰ぐ。
  • ベンゾジアゼピンは一般のせん妄をむしろ悪化させうる。 ・ベンゾジアゼピン離脱、痙攣を伴う場合など、特定の適応に限って使用する。
  • 薬物療法のエビデンスには限界がある。抗精神病薬がせん妄の・重症度・死亡率を明確に改善するという質の高いエビデンスは確立しておらず、あくまで危険な症状への対症的な例外対応として位置づける。

支持療法

領域 内容
全身管理 十分な水分・栄養、、酸素化・循環の維持
合併症予防 転倒予防、予防、誤嚥・肺炎予防、予防、予防
早期からの離床・リハビリテーション、退院後の再評価、原因薬剤の見直し

予防

せん妄はハイリスク患者(高齢、既存の認知症、重症患者、大手術予定患者など)では予測して予防的に介入することが可能な症候群である。多因子介入(づけ、、視覚・聴覚補助具の使用、睡眠の確保、脱水・便秘・疼痛の予防的管理、不要な薬剤の見直し)を組み合わせたプログラムは、発症率を下げることが示されている。ハイリスク患者では入院時からこれらの介入を系統的に組み込む。

まとめ

  • せん妄は急性発症・変動する経過をとる注意・意識の障害であり、・混合型に分類される。は見逃されやすく、系統的なスクリーニング(4AT、CAM-ICU等)が欠かせない。
  • 危険因子は高齢・認知症などの素因と、感染・手術・薬剤・ICU入室などの誘因に分けて考える。原因は感染、代謝異常、薬剤性、など多岐にわたり、複数が重なることも多い。
  • 認知症との鑑別は急性発症・の変化で行うが、判断に迷えばせん妄として原因検索・治療を優先し、両者の合併も念頭に置く。
  • 治療の中心は原因治療と非薬物的多面的介入であり、抗精神病薬・ベンゾジアゼピンのルーチン投与ではない。薬物療法は危険な興奮・苦痛への最小限・短期間の例外的対応であり、そのエビデンスには限界がある。
  • ハイリスク患者では予防的な多因子介入によって発症を減らせる可能性がある。