疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 疾患

アルツハイマー病

Alzheimer disease

別名
ADアルツハイマー型認知症
臓器系
神経精神
科目
NeurologyPathologyPsychiatry
トピック
神経内科 G1-26:主要神経認知障害(認知症)の診断神経内科 G1-39:アルツハイマー病神経内科 G3-15:原発性神経変性性認知症病理学 C/107:神経変性疾患・プリオン病精神医学 A-06:重度・軽度神経認知障害(認知症):病因・診断基準・臨床管理
上位概念
認知症
鑑別疾患
せん妄パーキンソン病ハンチントン病プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病)血管性・レビー小体型・前頭側頭型認知症など非アルツハイマー型認知症大脳皮質基底核変性症
関連疾患
脳アミロイド血管症脳梗塞
治療薬
ドネペジルリバスチグミンメマンチンリスペリドン
症状
失行Gerstmann症候群Bálint症候群
検査値
血算
スコア
MMSEMoCA
原因となる疾患
ダウン症候群(21トリソミー)
適応薬
アデュカヌマブガランタミンドナネマブレカネマブ

🧠 全体像(AD)は(認知症)の最多原因であり、細胞外の(Aβ)斑と細胞内のによる(NFT)が海馬・内側(medial temporal lobe)を起点に蓄積し、シナプス障害と神経細胞喪失を進行性に引き起こすである。診断は単一検査ではなく、①以前より明らかな認知・生活機能低下を確認し、②せん妄・うつ・薬剤性など治療可能な原因を除外し、③必要な症例でによって病因を確証する、という段階を踏む。治療は症候を和らげると、病態そのものに介入する療法を軸に、生活・介護支援を組み合わせる。

病態

ADの中核病理は、で説明される。がβ・γ(β-secretase, γ-secretase)で切断されるとAβが産生され、凝集して細胞外のを形成する。Aβの蓄積はシナプス機能障害と微小を引き起こし、これが下流での異常リン酸化を促進すると考えられている。は細胞内でNFTを形成し、最終的に神経細胞を核ごとして死に至らせる。NFTの分布は(Braak staging)に従い、周囲(I/II期)→辺縁系(III/IV期)→(V/VI期)と進展し、この順序が臨床的に海馬・内側が最初に、次いでが侵される理由に対応する。

flowchart TD
    A["加齢・APOE ε4・家族歴などの危険因子<br>(まれに常染色体優性のAPP・PSEN1・PSEN2変異)"] --> B["APPのβ・γ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secretase'>セクレターゼ</span>切断"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid beta'>アミロイドβ</span>(Aβ)の産生・凝集"]
    C --> D["細胞外<span class='jp-term jp-term-diagram' title='senile plaques'>老人斑</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid plaque'>アミロイド斑</span>)の沈着"]
    D --> E["シナプス障害・微小<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuroinflammation'>神経炎症</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tau (protein)'>タウ</span>の異常リン酸化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NFT'>細胞内神経原線維変化</span>の形成"]
    G --> H["海馬・内側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal lobe'>側頭葉</span>を起点とする<br>シナプス喪失・神経細胞死"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='association cortex'>連合皮質</span>へ進展し認知・生活機能低下が顕在化"]

💡 は「AβがNFT形成の上流にある」という時間的順序を軸にした説明であり、実臨床でもこの順序を反映してAβ関連PET・CSF/血液Aβ42/40)が関連より早期に異常化する。

⭐ 危険因子の中で最も強いのは加齢である。APOE ε4アレルはAD(大多数を占める)の発症リスクを量的に高めるが、それ自体は確定診断のための遺伝子ではない。65歳未満で発症することが多いまれな性(early-onset)ADでは、APP・PSEN1・PSEN2の病的変異によるが原因となる。既往、難聴、運動不足なども関連するな因子として知られる。

⚠️ ・NFTという病理所見は、確定診断のための唯一の手がかりではない。高齢者では他の・血管性病理と混在すること()が単一病理より一般的であり、臨床像だけから病理を断定しない。

臨床像

病期

病期 主な所見
異常はあるが症状はない。研究・専門的評価の文脈で扱う
近時の低下が目立つが、日常生活の自立はおおむね保たれる
軽度認知症 、金銭・服薬管理などの低下
中等度認知症 ・言語・機能・が進み、行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)が目立ち、にも支援が増える
高度認知症 会話・認識・移動・嚥下が低下しを要し、感染・対策が課題となる

典型例はで発症する。障害から始まり、緩徐進行するを経て、後に言語・機能低下へ広がる。少数だが、言語優位(が前景に立つ)や優位で始まる非の非典型例も知られており、こうした症例では画像・による確認の意義がより大きい。

BPSDは、興奮、、抑うつ、、不眠、徘徊など多彩で、中等度以降に目立ちやすく介護負担の主要因となる。

⚠️ ・認知の変動・、早期の行動変化・状の経過、急速進行はADに典型的ではない。それぞれ型認知症、、自己免疫性・感染性の病態を再考する所見である。

主要な認知症の鑑別

項目 型認知症
早期の手がかり 緩徐進行する障害、 脳卒中との時間的関係、状または変動する経過、低下、局在徴候 認知の変動、反復する具体的、自然発症 早期の低下、または進行性
主な病理 脳血管病変(梗塞・ 、TDP-43等
経過 緩徐進行 状または変動しうる 変動しつつ緩徐進行 緩徐進行。認知症の重要な原因
治療上の注意 、適格例で 血管危険因子の管理が中心。全員への一律ではない が有効な場合があるがに注意 は通常用いない

💡 パーキンソン病の運動症状に続いて認知症が生じるParkinson病認知症は、型認知症と病理学的に連続したスペクトラムとして理解される(認知症と運動症状の時間関係で臨床上区別する)。またなどのと時間的・病理学的に結びつくため、通常はADとは別枠で扱うが、高齢者のとしてしばしば共存する。

診断

臨床診断は、本人・家族から以前より明らかなと生活機能障害を確認し、せん妄・うつ・薬剤性・感覚障害・代謝性疾患などの治療可能な原因を除外したうえで、必要な症例に限りで病因を確証するという段階を踏む。

  • 認知スクリーニングで大まかな障害度を評価するが、・言語・感覚障害の影響を受けるため単独では確定しない。必要に応じて領域別のを追加する。
  • 血液検査:血算、電解質、腎肝機能、甲状腺機能、ビタミンB12などで可逆的原因を検索する。
  • 構造MRI/CT:海馬・内側の萎縮パターンを評価するとともに、脳卒中、腫瘍、など他のを除外する。通常の構造画像ではそのものは描出されない。
  • PET、髄液のAβ42/40・、および検証された血液は、病因の確証が診療方針を変える場合(若年発症、非典型例、療法の適格性評価など)に選択する。

⭐ 2024年Alzheimer’s Association改訂基準は、ADをとしてではなく生物学的に定義する枠組みを示し、Aβ・などのの組み合わせによる(biological staging)を提案した。ただしこれは無症候者への検査を一律に推奨するものではなく、現時点の臨床使用は症候性の個人の評価を主眼としており、が正常な人への適用は研究目的に限られる。

flowchart TD
    A["本人・家族から認知・生活機能低下の経過を聴取"] --> B["せん妄・うつ・薬剤性・感覚障害・代謝性原因を除外"]
    B --> C["認知スクリーニング(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mini-Mental State Examination'>MMSE</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Montreal Cognitive Assessment'>MoCA</span>)と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropsychological testing'>神経心理検査</span>"]
    C --> D["構造MRI/CTで萎縮パターン・血管病変・腫瘍・水頭症を評価"]
    D --> E{"病因の確証が診療方針を変えるか"}
    E -->|"はい(若年発症・非典型例・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-amyloid antibody'>抗アミロイド抗体</span>の適格性評価など)"| F["髄液または血液<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Biomarkers'>バイオマーカー</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid'>アミロイド</span>PETで確証"]
    E -->|"いいえ"| G["臨床診断+縦断的な経過観察"]
    F --> H["病期・併存症・本人の価値観に応じた治療"]
    G --> H

治療

症候治療

軽度〜中等度では)が第一選択で、消化器症状、徐脈、失神などの副作用を評価しながら用いる。中等度〜高度、またはに不耐の場合はを単独または併用で検討する。めまい、便秘、に注意する。いずれも症状を緩和する対症療法であり、の進行そのものを止めるものではない。

抗アミロイド抗体療法

レカネマブ・ドナネマブなどのは、病理がで確認された〜軽度認知症の適格例に対し、病態そのものに作用して進行を緩徐化しうるである。ただし治癒薬ではなく、地域の承認内容・保険適用・施設の投与に従って適応を判断する。

⚠️ 最大の安全性上の懸念は関連画像異常(ARIA:amyloid-related imaging abnormalities、浮腫/滲出=ARIA-E、=ARIA-H)である。ARIAリスクはAPOE ε4アレル数とに相関するため、投与開始前に必ずAPOE遺伝子型を確認し、では特にリスクが高いことを説明する。開始前と治療期間中はMRIによる定期モニタリングを行い、特に投与開始後の一定期間は臨床的な警戒を強める。抗凝固薬・の併用やを示唆する所見がある場合は、重篤なのリスクを踏まえて慎重に適応を判断する。

非薬物療法・生活支援

  • 運動、の管理、聴力・視力の補正、十分な睡眠、
  • 安全管理(火気、転倒、服薬、金銭管理、運転の見直し)
  • 教育、、地域資源の活用、支援
  • が保たれる早期からのの話し合い

BPSDの管理

BPSDへの対応は非薬物的介入を第一選択とする。・興奮の背景にある疼痛、感染、便秘、環境要因(・混乱を招く環境変化)、介護負担、不足をまず評価し、環境調整・行動的アプローチ・支援で対応する。

⚠️ 抗精神病薬(など)は、認知症関連に対する使用で死亡率上昇のがFDAにより設けられており、このは定型・非定型を問わず抗精神病薬クラス全体に及ぶ。非薬物的介入で改善せず、本人または周囲に深刻な苦痛・危険が及ぶ重症例に限り、可能な限り低用量・短期間で使用し、有効性と副作用を頻回に再評価する。ではは通常用いない。

まとめ

  • ADはの最多原因で、AβのNFTが海馬・内側からへ進展し、シナプス・神経細胞喪失を来す。
  • 最大の危険因子は加齢、次いでAPOE ε4。性ADはAPP・PSEN1・PSEN2の常染色体優性変異によるまれな病型。
  • →軽度・中等度・高度認知症と進み、典型はで発症する。
  • 診断はせん妄・うつ・薬剤性などの可逆的原因を除外したうえで、/、構造MRI、必要例でPET・髄液/血液を組み合わせる。2024年AA改訂基準はADを生物学的に定義するが、無症候者への一律検査は推奨されない。
  • 型認知症、との鑑別が重要で、・変動・早期行動変化・状経過はAD以外を再考させる所見である。
  • 症候治療は(軽度〜中等度)と(中等度〜高度)が中心。
  • 適格例では(レカネマブ・ドナネマブ)が進行を緩徐化しうるが、APOE ε4遺伝子型評価とMRIによるARIAモニタリングが必須である。
  • BPSDは非薬物的介入を第一選択とし、抗精神病薬は死亡率上昇のを踏まえて最小量・最短期間・慎重な再評価のもとでのみ用いる。