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Disease Atlas · 神経 · 疾患

ハンチントン病

Huntington disease

別名
HDハンチントン舞踏病
臓器系
神経精神
科目
Neurology
トピック
神経内科 G3-12:運動過多性運動障害神経内科 G2-18:大脳基底核系の障害
鑑別疾患
McLeod症候群アルツハイマー病歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症遅発性ジスキネジア有棘赤血球舞踏病
合併症
認知症
関連疾患
パーキンソン病
治療薬
リスペリドンオランザピンセルトラリンテトラベナジンデューテトラベナジンバルベナジン
症状
体重減少不安嚥下障害構音障害眼球運動失行舞踏運動動作緩慢易刺激性
検査値
HTT遺伝子CAG反復数検査
画像所見
尾状核萎縮
スコア
UHDRS
適応薬
デューテトラベナジンバルベナジン
禁忌薬
ピラセタム

🧠 全体像:はHTT遺伝子のが異常に伸長するのである。線条体のを担うが最初に脱落するため、初期は視床のによるが前景に立つが、病気が進むにつれてや大脳皮質も変性し、・、、精神症状が加わる三位一体の疾患である。運動症状だけの疾患と誤解せず、精神症状と自殺リスクを診断早期から評価する。

病態と遺伝

HTT遺伝子(4番染色体)のCAG数で発症・が決まる1。

CAG反復数 意味
26以下 正常
27〜35 。大多数は生涯発症しないが、⚠️ 稀に軽微な認知・行動・運動の所見と関連すると報告されており「絶対に発症しない」ではない。生殖細胞系列の不安定性により、発症域の反復数をもつ子が生まれうる
36〜39 。発症するリスクを負うが、発症しないこともある。この範囲で無症候のまま経過する人は珍しくない
40以上

反復数が多いほど発症年齢は早く、父親からの伝達で反復数がさらに伸びやすい(、anticipation)。反復数が非常に多い若年発症型()では、よりも・・けいれんが前景となることが多い。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='HTT gene'>HTT遺伝子</span>のCAG反復異常伸長"] --> B["変異<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Huntingtin'>ハンチンチン</span>蛋白の蓄積"]
    B --> C["線条体の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect pathway'>間接路</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='medium spiny neuron'>中型有棘ニューロン</span>が最初に変性"]
    C --> D["視床の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorea'>舞踏運動</span>が前景化"]
    B --> F["病期進行に伴い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct pathway'>直接路</span>・大脳皮質も変性"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rigidity'>固縮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bradykinesia'>動作緩慢</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive decline'>認知機能低下</span>・精神症状"]

💡 初期にニューロンが選択的に脱落するため「動きを抑える経路が弱る」→という説明は、Parkinson病でが弱ってになる機序と対をなす関係にある。

臨床像

領域 症候
運動 、後期の・・、()、と嚥下障害
認知 中心の認知症。記憶の障害はあるが、のような著明なの完全脱落は目立ちにくい
精神 、抑うつ、不安、、。自殺リスクは一般人口より明らかに高く、診断前後・機能喪失期に特に注意する
その他 体重減少、睡眠障害。は主要な死因の一つ

⚠️ 精神症状は運動症状に先行することが多く、やとしてされやすい。家族歴があれば精神科的な変化だけでもHDを鑑別に挙げる。

診断

臨床的にと家族歴・進行性の認知/精神症状を認めたら、HTT遺伝子のCAG反復数を調べる遺伝学的検査で確定する。で萎縮とそれに伴うのを認めることがあるが、これは支持所見であり診断確定には遺伝学的検査を要する。

flowchart TD
    A["進行性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorea'>舞踏運動</span>+認知・精神症状"] --> B["家族歴を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological examination'>神経診察</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='caudate nucleus'>尾状核</span>萎縮を評価"]
    C --> D["遺伝カウンセリングを行った上で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CAG repeat testing'>CAG反復数検査</span>"]
    D --> E["発症者:診断確定"]
    D --> F["無症候の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood relative'>血縁者</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presymptomatic testing'>発症前検査</span>は本人の希望と心理的支援<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body plan'>体制</span>を確認してから行う"]

⚠️ HTT のCAG反復数が正常だったには、を考える。 の()とX連鎖性のがその代表で、末梢血のと上昇が手がかりになる。⭐ では重篤な心筋症・不整脈を伴いうる点が、対応を分ける。

発症前(無症候)遺伝学的検査は、本人の自己決定に基づき、検査前後の遺伝カウンセリングと心理的支援を整えた上で行う。への影響が大きいため、家族の意向だけで代理決定しない。

治療

現時点でそのものを止める根本治療()は確立していない。変異mRNAを標的とするの経過は、この分野で何が確かめられ、何が確かめられていないかを整理する材料になる。

期を対象とした第III相GENERATION HD1試験は、791例を120mgの8週ごと投与・16週ごと投与・へ1対1対1で割り付けた。⚠️ 2つの群は用量が同じでだけが違う(「高用量群」という分け方ではない)。独立データモニタリング委員会が全体の・リスクを評価した結果、2021年3月に投与が中止され、第69週でのが行われた。8週ごと群は複合UHDRS(cUHDRS)の変化がより有意に悪く(-0.54点、調整後P=0.001)、有害事象もこの群で最も多かった。16週ごと群はcUHDRS・総合機能能力(TFC)とも有意差が無かった。ただし著者らは、これがであるため慎重な解釈を要すると明記している2。

このから「より若く負担の小さい患者なら利益を得られるのではないか」という仮説が立ち、それを検証したのが第II相GENERATION HD2試験(25〜50歳の・早期301例、最低16か月)である。⚠️ 用量については資料が揃っていない——ClinicalTrials.gov(NCT05686551)の登録アームは16週ごとの60 mg・100 mg・の3本で、原著のレターもこれをと呼ぶ一方、Roche自身の中止告知は100 mgを年3回投与した試験として記述している。⚠️ この試験は全例が16か月の投与期間を完了しており、途中で打ち切られたのではない。 そのうえで2026年7月9日、試験であるRoche/Genentech自身が開発プログラムの中止を発表した。は良好で新たな安全性シグナルは無く、変異蛋白と(NfL)をと比べ有意に低下させたが、cUHDRS/TFCでに意味のある差を示せなかったためである3。

💡 「標的には届いたが臨床効果が出なかった」というのが、この2試験から言えることである。 変異蛋白を下げられること自体はヒトで証明されており、証明されていないのは「下げれば臨床経過が変わる」という前提のほうである。が確立していない現状は変わらず、対症療法が治療の中心となる。

症状 治療の要点
・・の3剤が承認された阻害薬で、治療の中心となる4。は1日3回投与で依存のの問題が相対的に大きく、(1〜2回/日)5・(1日1回、2023年承認)6は用法が簡便でに優れる傾向がある。3剤とも抑うつ・のある患者では慎重に用いる
・が強い 、などのをと精神症状の両方に用いることがある
抑うつ・不安 などのを中心に治療し、自殺リスクを定期的に評価する
嚥下・栄養 、調整、の予防を行う
理学・作業・、遺伝カウンセリング、、家族支援を病期に応じて組み合わせる

⚠️ 阻害薬は抑うつ・を悪化させうるため、精神症状を評価しながら導入・増量する。さらに米国添付文書は「阻害薬は気分・認知・・機能能力を悪化させうる」と別項を立てている。 有害事象とそのものの進行は区別しにくいので、減量や中止で確かめるしかない場面がある5。

⚠️ 上の「承認」は米国の話で、欧州では適応がそろっていない。 (Austedo)はでも中央審査で販売承認を受けているが、その適応は成人の中等症〜重症のだけで、のは含まれない7。一方は加盟国の国内承認薬として「に伴う運動障害」を適応に掲げている(スペインの。開始25mgを1日3回、3〜4日ごとに1日25mgずつ増量し最大200mg/日)8。⭐ どの薬をのに使えるかは国で違う。

⚠️ 成人発症で+認知症+精神症状がそろっても、とは限らない。 DRPLAは同じ組み合わせを取りうるの病で、⭐ 画像で分けられる——がの萎縮を示すのに対し、DRPLAは小脳と脳幹()の萎縮が前景に立つ。日本人に多い点も手がかりになる。

まとめ

  • HDはHTT遺伝子のCAG反復異常伸長による疾患で、・・精神症状の三徴を来す。
  • 反復数が多いほど発症は早く、父の伝達でさらに伸長しうる()。
  • 診断は臨床像とで確定し、無症候者へのは遺伝カウンセリングを伴って行う。
  • 根本治療は未確立で、阻害薬・抗精神病薬・・を組み合わせた対症療法が中心となる。
  • は変異蛋白を下げられることをヒトで示したが、GENERATION HD1ではの短い群がより悪化し、HD2では16か月をしても臨床的な差が出ず、2026年7月に開発が中止された。「標的への到達」と「臨床効果」を分けて覚える。
  • ⚠️ 阻害薬の適応は国で違う。 3剤ともに承認しているのは米国で、の中央審査を通っているの適応はだけ、ヨーロッパでに適応を持つのは加盟国承認のである。

出典

  1. 1.Huntington Disease(GeneReviews(University of Washington, Seattle / NCBI Bookshelf)・2026)2026年2月12日最終更新の章を読み直した。HTT遺伝子のCAG反復数の区分(26以下は正常、27〜35は中間、36〜39は浸透率減弱、40以上は完全浸透)が変わっていないこと、中間アリルについて原文が「大多数の保有者は非発症のままだが、稀に軽微な認知・行動・運動の所見と関連する」と書き「発症しない」と断定していないこと、中間アリルの保有者はCAG反復の生殖細胞系列不安定性により発症域のアリルを持つ子をもうけるリスクがありうること、浸透率減弱アリルについて「この範囲のアリルを持つ人はハンチントン病を発症するリスクを負うが発症しないこともあり、この範囲で無症候の人は珍しくない」と書かれていること、伸長は父性伝達で、短縮は母性伝達ではるかに多いことを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Tominersen in Adults with Manifest Huntington's Disease(New England Journal of Medicine(GENERATION HD1 Investigators)・2023)UCL Discovery が公開する誌上版PDFで全文を読んだ。第III相GENERATION HD1が顕性期ハンチントン病791例を髄腔内トミナーセン120mgの8週ごと投与・16週ごと投与・プラセボへ1対1対1で無作為化した試験であり、2群は用量が同じで投与間隔だけが違うこと、主要評価項目が第101週のcUHDRSまたはTFCの変化であること、独立データモニタリング委員会による全体のベネフィット・リスク評価に基づき2021年3月に投与が中止され第69週での事後解析が行われたこと、8週ごと群のcUHDRSの変化がプラセボより有意に悪く(マイナス0.54点、調整後P=0.001)TFCの差は有意でなかった(マイナス0.40点、P=0.09)こと、16週ごと群はcUHDRS・TFCとも有意差が無かったこと、有害事象が8週ごと群でプラセボ群・16週ごと群より多かったこと、髄液中の変異ハンチンチン蛋白が投与レジメン依存的に低下する一方で脳室容積が増加したこと、著者らが事後解析であるため慎重な解釈を要すると明記していること、より若く病勢負担の小さい患者が利益を得るという仮説を第II相GENERATION HD2(NCT05686551)で検証中と述べていることを確認した閲覧 2026-09-08
  3. 3.Update on Two Clinical Studies: GENERATION HD2 (tominersen) and POINT-HD (RG6496)(F. Hoffmann-La Roche / Genentech(Global Patient Partnership。European Huntington's Disease Network が掲載)・2026)試験実施者であるRoche・Genentech自身が2026年7月9日付で患者コミュニティへ出した文書の全文(3頁、文書番号M-XX-00024351)を読んだ。GENERATION HD2とPOINT-HDの2つの開発プログラムを中止すること、GENERATION HD2は全例が16か月の投与期間を完了したうえでの中止であり試験の途中打ち切りではないこと、トップラインで安全性とバイオマーカーの目的は達成したが有効性の目的は達成しなかったこと、トミナーセンは忍容性良好で新たな安全性シグナルが無く変異ハンチンチン蛋白と神経フィラメント軽鎖をプラセボと比べ有意に低下させたが臨床的有効性に意味のある影響が無かったこと、同試験が25〜50歳の早期ハンチントン病成人301例を15か国で組み入れ100mgを年3回髄腔内投与して最低16か月のcUHDRSまたはTFCで評価した第II相試験であること、POINT-HDの中止理由は人での安全性の問題ではなく反復投与を支える非臨床試験の新データであること、RocheのSPK-101(RG6662、NCT06826612)の第I/II相遺伝子治療試験は予定どおり継続することを確認した閲覧 2026-09-08
  4. 4.Efficacy and safety of vesicular monoamine transporter 2 inhibitors for Huntington's disease chorea based on network meta-analysis(Frontiers in Pharmacology・2025)テトラベナジン・デューテトラベナジン・バルベナジンの3剤は、舞踏運動スコア改善はテトラベナジンが最大だが有害事象発現率も最も高く、バルベナジンは重篤有害事象・脱落率で、デューテトラベナジンは全体的な忍容性で優れるという相対的な位置づけを確認した閲覧 2026-08-03
  5. 5.AUSTEDO / AUSTEDO XR (deutetrabenazine) tablets — full prescribing information(米国FDA / DailyMed(Teva Pharmaceuticals)・2025)デューテトラベナジンがハンチントン病の舞踏運動に対しFDA承認されたVMAT2阻害薬であり、1日1〜2回投与でCYP2D6阻害薬併用時は1日最大36mgに制限されること、枠組み警告の見出しが「ハンチントン病患者における抑うつと自殺傾向」でありハンチントン病集団に限定されていること、5.2に独立した項目として「VMAT2阻害薬(本剤を含む)は気分・認知・固縮・機能能力の悪化を起こしうる」「有害事象と原疾患の進行は区別が難しく、減量または中止が両者の区別に役立つことがある」と書かれていることを確認した(閲覧した添付文書の改訂は2025年2月)閲覧 2026-08-03
  6. 6.INGREZZA (valbenazine) and INGREZZA SPRINKLE capsules, for oral use — full prescribing information(米国FDA / DailyMed(Neurocrine Biosciences)・2026)バルベナジンがハンチントン病の舞踏運動に対しFDA承認されたVMAT2阻害薬であり、40mg/日から2週毎に20mgずつ80mg/日まで漸増すること、抑うつ・自殺念慮のリスクがあることを確認した閲覧 2026-09-08
  7. 7.Austedo 12 mg, 24 mg, 30 mg, 36 mg, 42 mg, 48 mg prolonged-release tablets — Summary of Product Characteristics (Annex I)(European Medicines Agency(EMEA/H/C/006371、EU/1/25/1956、販売承認取得者 Teva GmbH)・2026)製品概要の全文を読んだ。4.1の適応が「成人の中等症から重症の遅発性ジスキネジアの治療」の1項目だけでハンチントン病の舞踏運動を含まないこと、EUで承認されている剤形が徐放錠(12・24・30・36・42・48mg)だけで1日1回投与であること、4.2が12mgを1日1回で1週間、次いで24mgを1日1回で1週間、その後は週ごとに6mgずつ漸増し有効用量域を24〜48mg・最大48mg/日とすること、強いCYP2D6阻害薬併用時とCYP2D6低代謝能者では36mg/日を超えないこと、漸減せずに中止できること、4.3の禁忌が過敏症・肝機能障害・レセルピン併用・MAO阻害薬併用・他のVMAT2阻害薬併用の5項目でありうつ病や自殺念慮は禁忌に入っていないこと、4.4が抑うつ・QTc延長・悪性症候群・アカシジア・傾眠・パーキンソニズム・メラニン含有組織への結合を扱うこと、テトラベナジンからの切替はテトラベナジン1日量の約半量で翌日から開始することを確認した。なお本PDFの10項(改訂日)は空欄で、EPARページが販売承認の発効を2026年1月8日、CHMP意見採択を2025年11月5日と記載している閲覧 2026-09-08
  8. 8.Nitoman 25 mg comprimidos — Ficha Técnica(Agencia Española de Medicamentos y Productos Sanitarios(CIMA、登録番号70.142)・2022)スペインの製品概要の全文を読んだ(本文の改訂表示は2022年8月、初回承認は2008年10月)。4.1の適応が「ハンチントン舞踏病に伴う運動障害」であること、4.2が成人で25mgを1日3回から開始し3〜4日ごとに1日25mgずつ増量して最大200mg/日または忍容限界までとし、最大用量で7日以内に改善が無ければ増量も継続も有益となる見込みは小さいとすること、小児への使用推奨が無いこと、4.3の禁忌に自殺企図の既往・未治療または管理不良のうつ病・授乳中・MAO阻害薬中止後2週間以内・Child-Pugh 5〜9の肝機能障害・レボドパおよびドパミン作動性抗パーキンソン薬との併用・レセルピン投与中・パーキンソニズムおよび低運動性固縮症候群・小児での使用が挙がることを確認した閲覧 2026-09-08