脳神経内科学

脳神経内科学 · G2-18

大脳基底核系の障害

G2-18: Disorders of the basal ganglia system

前提:病態
神経変性疾患・プリオン病
前提:正常
大脳基底核の微細構造錐体外路系(大脳基底核との関連)
疾患
McLeod症候群Meige症候群ジストニアジストニア重積ハンチントン病遅発性ジスキネジア妊娠性舞踏病有棘赤血球舞踏病
症状
ジスキネジアバリズム眼瞼痙攣錐体外路症状遅発性ジストニア
スコア
異常不随意運動評価尺度

🧠 全体像:大脳基底核は運動を直接駆動するのではなく、望ましい運動を選択し、不要な運動を抑える。・・ハイパーの均衡が崩れると、運動減少または不随意運動が現れる。

構成と回路

名称 構成 解剖学的位置・役割
線条体 、 。大脳皮質からの主要入力部
、 。形態学的な総称
、 はとともに主要出力部
。を興奮させる
黒質 緻密部、網様部 中脳。緻密部は線条体へドパミンを送る

解剖学的には・はいずれもに属し、両者を合わせてと呼ぶ。は、黒質は中脳に属する。

flowchart TD
    A["大脳皮質"] --> B["線条体"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct pathway'>直接路</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='globus pallidus internus (GPi)'>淡蒼球内節</span>の抑制を弱める"]
    C --> D["視床の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>"]
    D --> E["選択された運動を促進"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect pathway'>間接路</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='subthalamic nucleus'>視床下核</span>を介して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='globus pallidus internus (GPi)'>淡蒼球内節</span>を活性化"]
    F --> G["視床を抑制"]
    G --> H["競合する運動を抑える"]

⚠️ ・モデル(rate model)は、試験で問われる古典的枠組みとしては有用だが、実際の神経活動はより複雑である。 マウスの線条体に遺伝子コードカルシウムインジケーター(GCaMP3)を発現させで蛍光をする手法(fiber photometry)を用いた研究では、オペラント課題で運動を開始する際、・いずれのにも一過性の活動増加がみられ、両経路が同時に活性化することが対側性の運動開始に先行して観察された(マウスの実験)1。「=運動促進、=運動抑制」という単純なは旧来のモデルとして消さずに理解しつつ、実際の活動様式はこのモデルほど単純ではないと踏まえておく。

運動減少性疾患

病態 機序・特徴
Parkinson病 ドパミン神経の変性。を中核に、、、を示す
など。比較的左右対称なことが多いが例外あり
MSA、PSP、など。早期転倒、麻痺、重度などが
下半身・歩行優位、脳血管病変を背景に生じうる

Parkinson病は便秘、、、睡眠障害、抑うつ、など非運動症状も多い。

💡 療法(DBS)は(STN)または(GPi)を標的とする。 パーキンソン病患者299例(刺激147例・刺激152例)を対象にしたでは、24か月後の運動スコア(UPDRS-III)の改善に両標的間で有意差はなかった一方、刺激群はの必要量がより少なく視覚運動の低下が目立ち、刺激群では抑うつが改善する傾向がみられた——標的の選択は運動症状だけでなく認知・気分などの非運動要因も踏まえて行われる(薬剤自体の詳細はこのノートの範囲外)2。

運動過多性疾患

運動 特徴 代表的原因
不規則で予測不能、流れるように部位が変わる 、薬剤、代謝・自己免疫疾患
の緩徐な捻転運動 、基底核障害など。と重なることが多い
持続または間欠的な筋収縮による反復運動・ 原発性、薬剤性、構造病変、遺伝性
や四肢の反復運動 への曝露後。中止後も持続しうる
片側近位肢の大きく投げ出す運動 対側または関連回路の脳卒中など
抑制可能性とを伴う突然・反復性の運動や発声 Tourette症候群などの障害

💡 ・・・は、律動性・速度・持続性・分布で見分ける不随意運動の記述的分類である。 国際コンセンサスでは、は「持続性または間欠的な筋収縮により生じる、異常でしばしば反復性の運動・姿勢(またはその両方)」で、により誘発・増悪し、しばしば動作のあふれ(overflow)を伴うと定義し直された3。は不規則で非定型・予測不能な流れるような不随意運動で、近位・大振幅になったものをと呼ぶ4。

⚠️ 「=病変」という古典的対応づけは、画像検査で系統的に確認すると必ずしも成立しない。 23例・両側2例の症例集積では、脳画像での病変を確認できたのはわずか6例にとどまり、残りは他の皮質下構造の病変や画像上の異常なしで、「純粋な」はわずか2例、多くはなど他の不随意運動を合併していた(症例シリーズ)5。はの古典的なとして教えられるが、実際にはのより広い範囲の障害でも同様の症候が生じうる。

はのによる疾患で、だけでなく認知・精神症状を伴う。

非運動症状

基底核ループは運動だけでなく、眼球運動、、、情動にも関与する。このため、抑うつ・不安、、自律神経症状が併存しうる。

まとめ

  • 線条体は入力、・は出力、は抑制側回路の重要部位である。
  • Parkinson病は運動減少性、・・などはに分類される。
  • 不随意運動は速度、律動性、持続性、抑制可能性、分布で記述してから病名を考える。

出典

  1. 1.Concurrent activation of striatal direct and indirect pathways during action initiation(Nature・2013)マウスの背側線条体にCre依存性に遺伝子コードカルシウムインジケーターGCaMP3を発現させ光ファイバーで蛍光変化を計測する手法(fiber photometry)を用いた実験で、自由行動下のマウスがオペラント課題で運動を開始する際、直接路・間接路いずれの投射ニューロン(それぞれD1-Cre・A2A-Creマウスで標識)にも一過性の活動増加がみられ、同側の両経路が同時に活性化することが対側性の運動開始に先行して観察され、その後500ミリ秒以内に特定の運動が生じることを予測できたことを確認した(マウスの実験)閲覧 2026-08-27
  2. 2.Pallidal versus subthalamic deep-brain stimulation for Parkinson's disease(The New England Journal of Medicine・2010)進行期パーキンソン病患者299例(淡蒼球内節刺激152例・視床下核刺激147例)を対象にした無作為化比較試験で、24か月後の運動スコア(UPDRS-III、薬物非服用時)の改善に両群間で有意差が無かったこと(P=0.50)、視床下核群は淡蒼球群よりドパミン作動薬の必要量が少なかったこと、視覚運動系の処理速度低下は視床下核群でより大きく、抑うつは視床下核群で悪化し淡蒼球群で改善したこと、重篤な有害事象の頻度は両群で有意差が無かったことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Phenomenology and classification of dystonia: a consensus update(Movement Disorders・2013)運動障害領域の専門家による国際パネルの合意として、ジストニアを「持続性または間欠的な筋収縮により生じる、異常でしばしば反復性の運動・姿勢(またはその両方)」と定義し直したこと、ジストニア運動は典型的にはパターン化された捻転性で振戦様のこともあること、随意運動により誘発・増悪しうまた動作のあふれ(overflow muscle activation)を伴うこと、臨床的特徴(発症年齢・分布・時間パターン・随伴所見)と病因(神経系病理・遺伝形式)という2軸で分類することを提案したことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Chorea and related disorders(Postgraduate Medical Journal・2004)舞踏運動を「不規則で流れるような、非定型・予測不能な不随意運動」と定義し、近位で大振幅になったものをバリズムと呼ぶこと、バリズムは片側バリズムとして対側の視床下核またはその求心路・遠心路の構造病変により生じることが最も多い一方、舞踏運動は代謝性・感染性・炎症性・血管性・神経変性疾患や薬剤性など幅広い病態の表現でありうることを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Hemiballism: report of 25 cases(Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry・1994)片側バリズム23例・両側バリズム2例(計25例)の症例集積で、脳梗塞・出血が最多の原因であったが神経画像検査で視床下核の病変を確認できたのはわずか6例にとどまり、他の症例では異なる皮質下構造が関与するか画像所見が正常であったこと、「純粋な」バリズムはわずか2例で残りの多くは舞踏運動など他の型のジスキネジアを合併していた(16例)ことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27