症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

バリズム

Ballism

別名
バリスム片側バリズムヘミバリスムスヘミバリズム
臓器系
神経
科目
AnatomyNeuroanatomyNeurology
トピック
解剖学 9.4:中枢神経・神経解剖:間脳解剖学 9.8:中枢神経・神経解剖:機能系神経解剖学 15:大脳基底核の微細構造(顕微鏡解剖)神経内科 G2-18:大脳基底核系の障害神経学 G3-12:運動過多性運動障害
関連疾患
糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群脳梗塞脳内出血(非外傷性)

🧠 全体像は近位の関節を中心に腕や脚を投げ出すような、大振幅で激しい不である。片側だけに出るが臨床上遭遇するほとんどの形で、多くは対側のまたはその線維連絡の急性病変によって生じる。運動の性質はと連続的であり、振幅が大きく近位優位であるほど側に寄る。急性発症であればまず脳卒中として画像へ急ぐ一方、血糖との確認を怠らないことが、治せる原因を見逃さないになる。

定義と用語の整理

は、可動域の大きい近位筋が主体となって生じる、で投げ出すような不である。表記には/バリスムの揺れがあり、同じ現象を指す。片側性に出るものを(hemiballismus、、ヘミと呼び、実地で遭遇するのほとんどはこの片側性の形である。

と病態生理を共有する連続体であり、両者を分ける境界は厳密ではない。慣習的には、が遠位優位・小振幅で部位を移りながら流れるように生じるのに対し、は近位優位・大振幅で、四肢全体を投げ出すように動く点で区別される。同一症例の経過中にからへ、あるいはその逆へ移行することも珍しくない。そのものの原因整理(変性疾患を筆頭に、感染後・薬剤性・代謝性など)は本ノートでは扱わず、など個別疾患のノートに委ねる。

比較軸
振幅 小〜中等度 大きい
部位優位性 遠位優位、部位を移りながら流れるように出現 近位優位、四肢全体を投げ出す
典型的な広がり 両側性のことが多い 片側性()が典型的
代表的な病変局在 線条体を中心とした基底核の広範な変性 対側のに限局した急性病変

💡 同じの破綻でも、線条体レベルで広く起こればとして、STNというより下流の一点に限局して起これば大振幅のとして現れると理解すると、両者が連続体である理由が腑に落ちる。

病態生理

の典型的な機序は、対側のまたはその入出力線維の病変によるの破綻である。

flowchart TD
  A["対側 <span class='jp-term jp-term-diagram' title='STN'>視床下核</span>または<br>その入出力線維の病変"] --> B["STNからGPi/SNrへの<br>興奮性(グルタミン酸)駆動が失われる"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect pathway'>間接路</span>が機能しなくなる<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect pathway'>間接路</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>"]
  C --> D["GPi/SNrの抑制性出力が低下する"]
  D --> E["視床VA/VLが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperactivity'>過活動</span>になる"]
  E --> F["視床-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cortical'>皮質性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor pathways'>運動路</span>が過剰に興奮する"]
  F --> G["対側近位肢の大振幅な<br>投げ出し運動=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemiballismus'>片側バリズム</span>"]

STNはとして、通常はGPi/SNrを興奮させ、視床を強く抑制し続けることで不要な運動を抑えている。この抑制のブレーキ役が失われると、視床から皮質への出力が制御を離れてになり、意図しない大振幅の運動が対側の近位肢に生じる。

原因の内訳は次の通りである。

原因 特徴
対側STN領域の脳卒中 最も頻度が高い。領域の梗塞または出血
線条体のCT・MRI T1高信号を伴う。血糖是正で可逆的
血管炎・を背景にした基底核病変
HIV関連(など) 免疫不全下の基底核感染
腫瘍・外傷 STN周囲の損傷
周術期 電極留置や刺激条件の調整に伴う一過性の出現
誘発性 Parkinson病治療中のの一型として出ることがある

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ 急性発症は対側領域の脳卒中として時間枠を優先する。 突然出現したは、による局所神経症候でありうる。の時間枠に乗るかどうかを最優先で判断し、不という一見奇異な所見の解釈に時間をかけて画像検査を遅らせない。

⚠️ 血糖とを必ず測定する。 によるは、血糖是正だけで数日〜数週で軽快しうる治せる原因であり、脳卒中と誤認して見逃すと不要な精査や治療機会の逸失につながる。線条体のCT・MRI T1高信号という特徴的な画像所見を知っておく。

⚠️ 若年発症では自己免疫性・感染性・代謝性の原因を検討する。 HIV感染症に伴うなどの感染、を含む代謝性疾患は、脳卒中や高血糖という「典型」に当てはまらない若年例で特にすべき鑑別である。

⚠️ 激しい不そのものが二次的な身体を招く。 持続する大振幅の投げ出し運動は、脱水、転倒・による外傷、睡眠不足によるを来しうる。原因検索と並行して、症状そのものへの支持療法・保護が必要になる場合がある。

鑑別の進め方

flowchart TD
  A["大振幅で投げ出すような<br>近位肢の不<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voluntary motor function (voluntary movement)'>随意運動</span>"] --> B{"急性発症か"}
  B -->|"急性"| C["対側STN領域の脳卒中として<br>画像検査を急ぐ"]
  B -->|"亜急性〜慢性"| D["血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma osmolality'>血漿浸透圧</span>を確認する"]
  C --> D
  D --> E{"高血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperosmolality'>高浸透圧</span>があるか"}
  E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-ketotic hyperglycemia'>非ケトン性高血糖</span>による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemiballismus'>片側バリズム</span>を考慮する"]
  E -->|"なし"| G["若年例では自己免疫・感染・代謝性を検索する"]
  G --> H{"近位優位・大振幅か<br>遠位優位・部位が流れるか"}
  H -->|"近位優位・大振幅"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemiballismus'>バリズム</span>と判定する"]
  H -->|"遠位優位・部位が流れる"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorea'>舞踏運動</span>として評価する"]

との区別に加え、持続性の異常姿勢を伴う、突発的で短いとも運動の・律動性で鑑別する。は律動性を欠き、一連の投げ出し動作が数百ミリ秒以上続く点でと区別できる。

運動 律動性 部位優位性
数百ミリ秒〜数秒の投げ出し動作 律動性を欠く 近位優位、片側性が典型的
より短く、部位を移りながら連続する 律動性を欠く 遠位優位、部位が流れる
持続性または間欠性で秒単位以上続く 律動性を欠く 異常姿勢として固定されやすい
で一瞬(100ミリ秒未満のことが多い) 律動性を欠く 単発または反復するが姿勢は残らない

対応の考え方

原因治療が第一である。脳卒中であれば急性期脳卒中治療とであれば緩徐な血糖是正と補液、であれば免疫、HIV関連であれば抗治療とを組み合わせる。

症状そのものへの対応が必要な場合は、など)や)が症状を軽減させる。原因治療によっても改善が乏しい難治例では、へのを検討する。多くのは、原因病変そのものが残っていても数週間〜数か月の経過で自然に軽快することが多く、症状抑制薬は漫然と継続せず、経過に応じて減量・中止を検討する。

まとめ

  • は近位優位・大振幅の投げ出すような不で、片側性のものをと呼ぶ。
  • と連続体をなし、振幅と近位優位性で区別する。そのものの原因整理はなどのノートに委ねる。
  • 機序は対側STNまたはその線維連絡の病変によるの破綻で、GPi/SNr出力の低下から視床-皮質路がされる。
  • 最多の原因は対側STN領域の脳卒中で、急性発症は時間枠を優先して画像検査へ進む。
  • は血糖是正で可逆的な、見逃してはいけない治せる原因である。
  • 若年例では・HIV関連感染・を検討する。
  • 持続する激しい運動は・脱水・外傷などの二次的を招きうる。
  • 対応は原因治療が中心で、症状抑制にはを用い、多くはで軽快する。