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Symptoms · Published

錐体外路症状

Extrapyramidal symptoms

別名
EPS
臓器系
神経精神
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Neuroanatomy)PsychiatryNeurology
トピック
解剖学 22:錐体外路系(大脳基底核との関連)精神医学 A-03:精神薬理学I:抗精神病薬と抗不安薬の作用機序・適応・効果・副作用神経内科 G2-18:大脳基底核系の障害
関連疾患
統合失調症
起因薬
オキサトミドスルピリドピモジド

🧠 全体像:(EPS)という一つの言葉で呼ばれているものは、実は発症までの時間が違う4つの別の病態である。同じ遮断という原因から出発しながら、数時間で出る、数日〜数週で出る、数週〜数か月で出る、数か月以上かけて出る/へと、時間軸に沿って性質の異なる病態が現れる。EPSという括りは診療の入口として便利だが、個々の病型を見分けて初めて対応が決まる——この束ね方と分け方の両方を押さえることが、この症候群を理解する要になる。

定義と用語の整理

とは、抗精神病薬をはじめとするによって引き起こされるの総称である1。

発症までの時間で整理すると、4つの病型に分かれる。

病型 発症時期 中心となる所見 詳細ノート
数時間〜数日(48時間以内に50%、5日以内に90%) 持続性の筋収縮(頸部・眼球・顎など)
数日〜数週(多くは4週間以内) な内的()
数週〜数か月 ・・振戦、、
/ 数か月以上 口周囲・舌を中心とする反復性の不随意運動()、持続的な() 、

出典1。⚠️ 「EPS」という用語自体に境界の曖昧さがある。 とは解剖学的に互いに排他的な系ではなく、EPSという略語は個々の運動障害の性質・重症度を伝える特異性に欠けるという批判が運動障害のから提起されている2。臨床では便利な総称として使いつつ、実際の記載・評価は上表の具体的な病型名で行うという二段構えが実務的である。

病態生理

いずれの病型も出発点は同じの遮断だが、による神経系の応答の違いが、現れる病型を分けている。

  • 急性の平衡破綻():D2遮断が数時間〜数日という短時間で起こると、線条体のドパミン・アセチルコリンの平衡が代償の追いつく前に崩れ、相対的なアセチルコリン過剰として持続的な筋収縮が生じる。
  • 亜急性の反応():・(を含む)でのD2遮断、線条体のドパミン・アセチルコリンバランス、セロトニン・ノルアドレナリン系との相互作用が関与すると考えられているが、機序は完全には解明されていない。
  • 持続的な遮断への適応():のD2遮断が数週〜数か月続いた結果として、と類似した・・振戦が現れる。
  • 受容体側の適応後(・):数か月かけてドパミン受容体側の感受性が変化し、神経系がな遮断状態に適応し直した後に出現する。が平衡破綻の直後に起こる現象であるのに対し、遅発性の病型は適応が完了した後に出るという対比になる。

⚠️ 見逃してはいけないこと

  • ⚠️ 危険因子の分布が病型によって逆になる。 若年・男性はを起こしやすく、高齢・女性はとを起こしやすい1。同じ抗精神病薬を投与していても、患者背景によって身構えるべき病型が変わる。
  • ⚠️ 原因薬は抗精神病薬に限らない。 (・)、、、、でもEPSが生じうる1。精神科的な処方歴がないという理由だけで除外しない。
  • ⚠️ (NMS)はEPSの延長線上にある最重症型として区別する。 高熱・著明な・意識変容・を伴う場合はを疑い、薬剤中止と全身管理を要する救急疾患として扱う。
  • ⚠️ 主観症状が前景に立つ病型()は、精神症状の悪化とされやすい。 誤って原因薬を増量すると症状が悪化するという悪循環に陥るため、原因薬との時間的一致を必ず確認する。
  • ⚠️ 可逆性が病型によって大きく異なる。 ・・は原因薬の中止・減量で改善しうるが、・は長期使用後に生じ、減量でかえって悪化することがある。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dopamine receptor blocking agent'>ドパミン受容体遮断薬</span>投与中の新規運動症状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='agitation'>不穏</span>"] --> B["原因薬の開始・増量からの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='age'>経過時間</span>を確認"]
    B --> C{"数時間〜数日か"}
    C -->|"はい"| D["持続性の筋収縮・姿勢異常があれば<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute dystonia'>急性ジストニア</span>を疑う"]
    C -->|"いいえ"| E{"数日〜数週か"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Subjective'>主観的</span>な内的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='agitation'>不穏</span>があれば<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='akathisia'>アカシジア</span>を疑う"]
    E -->|"いいえ"| G{"数週〜数か月か"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypokinesia'>寡動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rigidity'>固縮</span>・振戦があれば<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug-induced parkinsonism'>薬剤性パーキンソニズム</span>を疑う"]
    G -->|"いいえ・数か月以上の長期使用後"| I["口周囲の反復運動・持続性の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal posturing'>異常姿勢</span>があれば遅発性の病型を疑う"]
    D --> J["高熱・意識変容・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic instability'>自律神経不安定</span>を<br>伴えば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuroleptic malignant syndrome'>悪性症候群</span>として救急対応"]
    F --> J
    H --> J
    I --> J

発症までの時間を確認するだけで、多くの症例はこの段階で病型が絞り込める。複数の病型が同時に存在することもあり、その場合は鑑別を一つに絞り込めなくても対応の方向性(原因薬の是正)は共通する。

対応の考え方

対応は病型によって異なるため、詳細は各ノートに譲るが、共通する原則は次のとおりである。

  • 原因薬の減量・変更が全病型に共通する第一の対応である3。
  • 急性の病型(・・)ほど、原因薬の是正で改善しやすい。 遅発性の病型は必ずしもこの原則に従わず、むしろ減量が悪化因子になることがある。
  • 重症度の記録には標準化尺度を用いる。 診断そのものよりも重症度の記録と治療反応の追跡に、()などの尺度が使われる1。

まとめ

  • EPSは単一の病態ではなく、発症までの時間で・・・/に分かれる4つの病型の総称である。
  • いずれものD2受容体遮断が出発点だが、急性の平衡破綻か、持続的な遮断への適応か、受容体側の適応後かで現れる病型が異なる。
  • 危険因子は病型で逆の分布を示し(若年男性→、高齢女性→・)、原因薬は抗精神病薬以外の・・などにも及ぶ。
  • はEPSの最重症型として区別し、救急疾患として扱う。
  • 「EPS」という用語自体は解剖学的・臨床的な境界が曖昧だと指摘されており、総称として使いつつ実際の記載は具体的な病型名で行う。

出典

  1. 1.Extrapyramidal Side Effects(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)錐体外路症状(薬剤誘発性運動障害)が抗精神病薬・ドパミンD2受容体遮断薬による重大な有害反応であること、急性ジストニアが投与開始から48時間以内に50%・5日以内に90%で発症すること、アカシジアが通常4週間以内に内的不穏として現れ誤診されやすいこと、薬剤性パーキンソニズムが振戦・筋強剛・運動減弱・仮面様顔貌・小刻み歩行を呈すること、遅発性ジスキネジアが慢性の舞踏病様・アテトーゼ様不随意運動で口周囲と舌に特徴的であること、原因薬が抗精神病薬に限らずメトクロプラミド・プロクロルペラジンなどの制吐薬・SSRI・リチウム・中枢刺激薬・三環系抗うつ薬にも及ぶこと、危険因子として過去のEPS既往・高用量投与・高齢女性(パーキンソニズム・遅発性ジスキネジア)・若年男性(ジストニア反応)が挙げられること、評価に異常不随意運動評価尺度(AIMS)やMaryland Psychiatric Research Center不随意運動尺度などの標準化尺度を用いること、遅発性ジスキネジアにVMAT2阻害薬(バルベナジン・デューテトラベナジン)が初めて承認された治療薬であることを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Extrapyramidal System/Symptoms/Signs Should Be Retired(Neurology. Clinical Practice・2024)「錐体外路系/症状/徴候」という用語とEPSという略語が100年以上にわたり神経学・精神医学の文献で使われ続けてきたが明確な臨床的・解剖学的・生理学的定義を欠くという批判が運動障害の専門家から高まっていること、錐体路系と錐体外路系は互いに排他的な系ではないこと、薬剤性運動障害を指すEPSという略語は個々の運動障害の性質・重症度を伝える特異性に欠けることを指摘し、この用語を学術文献から退けて具体的な現象学的記述を用いるべきだと提言したことを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.The American Psychiatric Association Practice Guideline for the Treatment of Patients With Schizophrenia(American Psychiatric Association・2020)抗精神病薬に伴う錐体外路症状への基本対応が、原因薬の減量・変更を軸に、症状の型に応じて抗コリン薬・β遮断薬・ベンゾジアゼピンなどを使い分けることであることを確認した。閲覧 2026-09-05