神経解剖学

神経解剖学 · 22

錐体外路系(大脳基底核との関連)

Extrapyramidal system (related to basal ganglia)

応用トピック
意識消失の病因と無反応患者の診察大脳基底核系の障害パーキンソン症候群を呈する疾患パーキンソン病の治療運動過多性運動障害振戦の鑑別診断強迫症:病因・疫学・診断・経過・鑑別・治療
症状
振戦錐体外路症状

🧠 錐体外路は筋を直接動かすのではなく、大脳基底核ループを介して「錐体路の出力そのものを調整するブレーキとアクセル」として働く。 2つのループ(線条体・ループ/小脳ループ)はどちらも視床(VA/VL)で合流し、を介してそのものへフィードバックする——つまり錐体外路の主戦場は脊髄ではなく大脳皮質への「上流での調整」であり、などの脳幹からのは、その調整結果をへ伝える補助的な出口にすぎない。

錐体外路系の全体像

錐体路が意識的・な運動を制御するのに対し、は自動的・学習性の運動過程(歩行、走行、自転車運転など)に必要である。

⚠️ 「」という用語そのものが、解剖学的な括りとしては批判されている。 100年以上使われ続けてきたこの用語は、明確な臨床的・解剖学的・生理学的定義を欠くこと、とは実際には互いに排他的ではないことなどを理由に、運動障害のから批判されている1。ただし臨床の現場では今も広く使われ続けており、試験や臨床の場でこの用語自体は問われうる。用語は消さず、このような位置づけの上で理解すること。

構成要素は以下の通り。

  • 小脳
  • 大脳基底核(cf. 大脳基底核の微細構造)
  • 視床のVA核・VL核
  • 脳幹の

運動系で導入したUMN(錐体路)/LMN()の枠組みの上に、このはさらに上流から加わるとして位置づけられる。

2つのループ構造

は本質的に2つのループからなる。

ループ 経路 終止部位
ループ①(線条体・系) 線条体→ 視床(VA/VL)
ループ②(小脳系) →→小脳深部核の 視床(VA/VL)

両ループの活動はによって統合され、へ伝達される。

flowchart TD
  A["線条体"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='globus pallidus'>淡蒼球</span>"]
  B --> E["視床 VA/VL核"]
  C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pontine nuclei'>橋核</span>"] --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar cortex'>小脳皮質</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dentate nucleus'>歯状核</span><br>(dentate nucleus)"]
  D --> E
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thalamocortical neurons'>視床皮質ニューロン</span><br>(thalamocortical neurons)"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor cortex'>運動皮質</span>"]

脊髄への下行路

が運動ニューロンへ及ぼす作用は、複数のを介してされる。線維は介在ニューロンで終止し、そこからα・γ運動ニューロン双方へシナプスする。これらのの活動は主に小脳遠心性線維によって影響を受ける。

伝導路 第1ニューロンの起始核 交叉 脊髄内の走行位置 終止部位 機能
中脳の 起始直後に交叉(背側交叉, dorsal tegmental decussation) 、に近接 の前角(介在ニューロン経由) 視覚刺激に対する反射性の姿勢運動
2 中脳の 起始直後に交叉(腹側交叉, ventral tegmental decussation) (橋・延髄を経て進入) 前角(介在ニューロン経由) 屈筋活動の促進、伸筋()活動の抑制
橋・延髄の網様体 大部分は ・(・) 前角(α・γ運動ニューロンを促進 or 抑制) ・反射活動への関与
(脊髄全長を下行) 前角(介在ニューロン経由) 伸筋活動の促進、屈筋活動の抑制
  • 網様体とは、中脳・橋・延髄にわたり散在する神経細胞・群の総称である
  • 橋由来の軸索はを、延髄由来の軸索はを形成する
  • 図中にはも錐体外路のの一つとして挙げられているが、本文中に詳細な記載はない

⚠️ はヒトでは的(小規模)であるという報告がある。 ヒト剖検例の検討では、の大細胞部から起こる古典的な線維の数は少なく、脊髄まで達する線維もごくわずかで、通常はより尾側へは追跡できないと報告されている2。上表の機能(屈筋促進・伸筋抑制)はネコ・サルなどに由来する記述であり、ヒトでこの経路が実際にどの程度寄与しているかは限定的と考えられる。

💡 屈筋と伸筋、逆方向に働く2つの。 (屈筋促進・伸筋抑制)と(伸筋促進・屈筋抑制)は作用が完全に逆——両者のバランスが姿勢との緊張を決める。

障害時の症状

のニューロン障害は、異常な筋緊張と運動障害を引き起こす。

  • 筋緊張の亢進:()。・で、速度に依存しない
  • 不随意な強制運動の出現:振戦
  • 急速な運動の障害:実行が困難または不可能になる

⚠️ の徴候は錐体路障害の徴候と混同しやすい。 はのうち(速度非依存性・・)・振戦・急速運動の障害を特徴とし、そのものの麻痺と(・)を主徴とする錐体路障害とは病態が異なる。を錐体外路の徴候に数えないこと。

まとめ

  • (小脳・大脳基底核・視床VA/VL核・・)は、を担う錐体路とは異なり、自動的・学習性の運動(歩行など)を担う。
  • 線条体・ループと、・・ループの2ループが視床(VA/VL)で合流し、を介してへフィードバックする。
  • 脊髄への出力は・・・(および図にのみ記載の)を介し、いずれも介在ニューロンを経てα・γ運動ニューロンへ終止する。これらの活動は主に小脳遠心性線維に影響される。
  • は屈筋促進・伸筋抑制、は伸筋促進・屈筋抑制と、互いに逆の作用を持つ。
  • の障害はのうち(速度非依存性)、振戦、急速運動障害を特徴とし、麻痺と()を主徴とする錐体路障害とは異なる病態を呈する。

出典

  1. 1.Extrapyramidal System/Symptoms/Signs Should Be Retired(Neurology. Clinical Practice・2024)抄録で、「錐体外路系/症状/徴候」という用語とEPSという略語が100年以上にわたり神経学・精神医学の文献で使われ続けてきたが、明確な臨床的・解剖学的・生理学的定義を欠くという批判が運動障害の専門家から高まっていること、錐体路系と錐体外路系は互いに排他的ではないこと、薬剤性運動障害を指すEPSという略語は個々の運動障害の性質・重症度を伝える特異性に欠けることを指摘し、この用語を学術文献から退けて具体的な現象学的記述を用いるべきだと提言したことを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.The rubrospinal and central tegmental tracts in man(Brain・1982)抄録で、ヒト剖検例10例の検討により、赤核の大細胞部から起こり古典的に「赤核脊髄路」とされる大径線維の数は少なく、脊髄まで達する線維はごくわずかであること、これらの線維は通常上位頸髄より尾側までは追跡できないことを報告し、霊長類における先行文献の比較検討からもヒトの赤核脊髄路は小規模であるという結論を支持したことを確認した(ヒト剖検例に基づく古典的解剖研究)閲覧 2026-08-26