病理学

病理学 · C/24

肺感染症(結核以外)

Pulmonary infections (except tuberculosis)

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応用トピック
肺炎その他の肺感染症
疾患
市中肺炎類脂質性肺炎

🧠 全体像:肺感染症の病理は、を満たす好中球性滲出、間質主体の単核球性炎症、・膿瘍、肉芽腫というで捉える。大葉性・や「典型・非典型」は連続する形態であり、形態だけから病原体を断定しない。

概要:肺炎の分類

組織学的パターンによる:

  • 線維素化膿性の肺胞滲出物 → 急性
  • 単核球性の → ウイルス性・非定型肺炎
  • 肉芽腫+ → 慢性肺炎

進展パターンによる:

  1. :両肺全体に斑状に分布、気管支・から始まり → 隣接肺胞へ拡大
  2. :の大部分が均質な滲出で侵される古典的パターン。*Streptococcus pneumoniae*との関連が強いが、他の細菌でも生じ、現代のCAP病原体疫学へ固定割合を当てはめない

その他の分類: 急性/慢性、市中/院内/、細菌/ウイルス/真菌、正常/

⚠️ 病理像と病原体は一対一ではない:とは同一患者でも混在し、抗菌薬投与やによって古典的像が修飾される。現代の成人入院CAPではウイルスを含む複数の病原体が関与し、原因未同定例も多いため、「=肺炎球菌」と断定しない。病理・画像パターンから起因病原体を判別すること自体、病原体間の重なりが大きく現在では信頼できないとされる1。

A)市中肺炎

臨床像・治療の全体はを参照。

Streptococcus pneumoniae(重要な細菌性原因)

  • リスク群:慢性疾患(CHF、COPD、糖尿病)、Ig欠陥、・欠如
  • どのにも病変を作り得る。下葉・などへの偏りは、誤嚥の体位と気道解剖を考える文脈で評価する

の4段階:

  1. うっ血期:重く赤くぶよぶよの肺、肺胞内にタンパク質に富む液体+好中球+細菌
  2. :硬い、肺胞が好中球、赤血球、フィブリンで充満
  3. :乾いて灰色・硬い、赤血球が融解、線維素化膿性滲出物が持続
  4. :滲出物が酵素的に消化 → 再吸収・マクロファージによる摂取・線維芽細胞による器質化、胸膜のは消退またはを残す
flowchart TD
    A["うっ血期<br>肺胞内にタンパク質に富む液体+好中球+細菌"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red hepatization'>赤色肝変期</span><br>肺胞が好中球・赤血球・フィブリンで充満"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Grey hepatization'>灰色肝変期</span><br>赤血球融解、線維素化膿性滲出物が持続"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resolution'>消退期</span><br>滲出物の酵素的消化・再吸収・器質化"]

合併症:膿瘍形成、(の膿)、、播種(髄膜炎、関節炎、心内膜炎)

レジオネラ肺炎(レジオネラ症)

  • 起因菌:Legionella pneumophila(詳細は)
  • (肺炎を伴わない自然軽快性の)も起こす
  • 、給湯・配管設備などの人工水系で増殖
  • 感染経路:化した菌の吸入または汚染水の誤嚥
  • リスク:高齢、喫煙、、免疫不全、臓器移植など。固定した年齢閾値だけで判断しない

その他の市中細菌

間質主体の肺炎パターン

  • Mycoplasma pneumoniae、Chlamydia pneumoniae、Coxiella burnetii、RSV、インフルエンザ/パラインフルエンザ、などでみられる。M. pneumoniaeは小児・若年成人や閉鎖集団で重要だが、病原体頻度は年齢・地域・流行・検査法で変わる
  • 痰の少ない咳、頭痛、倦怠感などを伴い得るが、だけで「典型/非典型」を正確に区別できない
  • 発生機序:菌 → の壊死 → 低下 → 二次細菌感染、肺胞へ拡大 →
  • 形態:赤青色のうっ血(肉眼)、+リンパ球・を伴うの拡大(顕微鏡)。やによって肺胞内滲出・硬化を伴うこともある
  • 重症例では、この間質パターンを超えてへ進展しうる。SARS-CoV-2肺炎の(10例)では、人工呼吸を受けていなかった症例を含め形成を伴うの所見がみられ、肺の・毛細血管に血栓症とを伴う出血を認めた2

B)院内肺炎

  • 病院獲得性、患者・人工呼吸・免疫抑制・長期抗菌薬療法に多い。概要は・を参照
  • (HAP)は入院時に潜伏しておらず入院48時間以降に発症した肺炎、(VAP)は48時間超で発症した肺炎と定義される。VAPをの一部に含める用法もあるが、2016年の/ガイドラインはHAPを人工呼吸に関連しない肺炎に限り、両者を別の群として扱う3
  • 重要な原因は腸内細菌目、Pseudomonas aeruginosaなどのグラム陰性桿菌とStaphylococcus aureusで、頻度と耐性は施設・患者背景で異なる。同ガイドラインは施設のを用いて、グラム陰性桿菌の2剤カバーやの経験的カバーの不要な使用を減らすよう求めている3

⚠️ 「医療ケア関連肺炎(HCAP)」という区分は現在はとして用いられない。 透析通院・長期療養施設入所・最近の入院歴などを持つ非入院患者をに近い耐性菌リスクとして扱う区分としてかつて提唱されたが、国際的には定着しなかった1。2019年の/ガイドラインは、HCAPの分類をの選択に用いるのをやめるよう推奨し(強い推奨)、や緑膿菌の経験的カバーは地域で検証された危険因子がある場合に限るとした(同じく強い推奨)4。つまり、個々の耐性菌リスク因子そのものは今も抗菌薬選択で個別に評価する。

C)誤嚥性肺炎

  • 衰弱した患者が胃内容物を誤嚥(意識障害・嘔吐)
  • 胃酸の化学的刺激+細菌 → 肺傷害
  • 膿瘍形成が多い合併症
  • 病原体は口腔・上気道細菌を含むになり得る。では消化管由来の嫌気性菌が他の複数菌種とともに関与し胸膜反応やを伴いうる一方1、現代の入院例では嫌気性菌が常に主要とは限らない。2019年の/ガイドラインは、が疑われても・が疑われなければ標準的な治療へ嫌気性菌カバーをに追加しないよう提案している(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低)4

⚠️ 化学性の「誤嚥性(Mendelson症候群)」と細菌性のは別の病態である。 誤嚥性はが著しく低下した患者で胃内容を誤嚥した後に生じる化学的傷害で、治療は基本的に支持療法である。これに対し(および反復性のびまん性誤嚥性)は嚥下障害のある高齢・衰弱患者に多くに近い像を呈し、と嚥下障害の管理で治療する点で異なる5。

肺膿瘍

D)日和見感染

細胞性免疫が障害された患者(特に感染でCD4数が低下した患者)では、*Pneumocystis jirovecii*によるが重要なとなる。CD4数200/µL未満またはの既往がを開始する目安とされ、CD4数がさらに低下すると想定すべき日和見病原体の範囲も広がる6。

Candida albicans

  • 最も多い病原真菌、口腔・消化管・腟の常在菌
  • 呼吸器検体からの分離は通常は定着であり、それだけでカンジダ肺炎と診断・治療しない
  • 真のカンジダ肺炎はまれで、者のなどで起こり、組織侵襲の証明が診断上重要である

Aspergillus

侵襲性肺、慢性肺(を含む)、は、免疫不全の程度と既存の肺という異なる宿主背景から生じる別個の臨床病型である7。

💡 ポイント:の古典的4段階は、うっ血 → → → 消退である。肺炎球菌との関連は強いが固定割合で断定せず、間質主体の像にも肺胞内滲出が混在し得る。は水系曝露、誤嚥は化学性傷害と感染・膿瘍、アスペルギルスは免疫不全での血管侵襲と既存空洞内の真菌球が重要である。

まとめ

  • 肺炎は組織学的パターン(線維素化膿性の肺胞滲出、単核球性の、肉芽腫+)と進展パターン(・)で分類し、病理像と病原体は一対一に対応しない。
  • はうっ血期→→→の4段階で進行し、肺炎球菌との関連が強いが他の細菌でも生じうる。
  • は・給湯設備などの人工水系に由来し、または汚染水誤嚥で感染する。
  • は胃酸の化学的刺激と細菌感染が組み合わさり、という限局性のを合併しやすい。
  • 日和見感染ではカンジダは検体からの分離のみでは定着と区別できず、アスペルギルスは侵襲性肺炎(血管侵襲)、(既存空洞内の真菌球)、(喘息・嚢胞性線維症患者での過敏反応)の3つの病態を来す。

出典

  1. 1.Pneumonia—Overview(Encyclopedia of Respiratory Medicine(Elsevier)・2022)肺炎の解剖学的分類(気管支肺炎・大葉性肺炎)による浸潤パターンが原因病原体を示すとかつて考えられていたが、病原体間でパターンが大きく重なるため現在はその判別は信頼できないとされていること、医療ケア関連肺炎(HCAP)という区分はかつて非入院の耐性菌リスク患者を院内肺炎に近い扱いとするために提唱されたが国際的に定着せず最新のエビデンスはこの分類の継続使用を支持しないこと、誤嚥性肺炎では消化管由来の嫌気性菌が他の複数菌種とともに関与し胸膜反応や肺膿瘍を伴いうることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Pulmonary and cardiac pathology in African American patients with COVID-19: an autopsy series from New Orleans(The Lancet Respiratory Medicine・2020)COVID-19により死亡したアフリカ系米国人10例(44〜78歳)の剖検シリーズで、人工呼吸を受けていなかった症例を含め硝子膜形成を伴うびまん性肺胞傷害の所見を認めたこと、肺の細小血管・毛細血管に血栓症と微小血管症を伴う出血がみられ死亡に大きく寄与したこと、二次性の肺感染症の証拠はなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Management of Adults With Hospital-acquired and Ventilator-associated Pneumonia: 2016 Clinical Practice Guidelines by the IDSA and ATS(Infectious Diseases Society of America / American Thoracic Society・2016)PMC全文(PMC4981759)で、院内肺炎(HAP)を入院時に潜伏しておらず入院48時間以降に発症した肺炎、人工呼吸器関連肺炎(VAP)を気管挿管48時間超で発症した肺炎と定義し、文献によってHAPにVAPを含める用法と含めない用法が混在するなか、本ガイドラインではHAPを人工呼吸に関連しない肺炎に限り、HAPとVAPを相互排他的な2群として扱うこと、施設のアンチバイオグラムを用いてグラム陰性桿菌の2剤カバーと経験的なMRSAカバーの不要な使用を減らすよう推奨していることを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America(American Thoracic Society / Infectious Diseases Society of America・2019)PMC全文(PMC6812437)で、入院例で誤嚥性肺炎が疑われても肺膿瘍または膿胸が疑われない限り嫌気性菌のカバーを定型的に追加しないことを提案(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低)し、医療ケア関連肺炎(HCAP)という旧分類を広域抗菌薬の選択に用いるのをやめることを推奨(強い推奨、中等度の質)し、MRSAまたは緑膿菌の経験的カバーは地域で検証された危険因子がある場合に限るよう推奨(強い推奨、中等度の質)していることを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.Pulmonary aspiration syndromes(Current Opinion in Pulmonary Medicine・2011)肺誤嚥症候群は誤嚥物の量・性状・慢性度で病型が決まり、代表的な病型として誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎・誤嚥性肺臓炎があること、誤嚥性肺炎とびまん性誤嚥性細気管支炎は嚥下障害のある高齢・衰弱患者に多く市中肺炎様の像を呈し広域抗菌薬と嚥下障害の管理で治療する一方、誤嚥性肺臓炎は意識レベルが著しく低下した患者での胃内容誤嚥後に生じる化学的傷害で治療は基本的に支持療法であり、両者は別の病態であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Table 4, Opportunistic Infection Prophylaxis for Adults With HIV(NYSDOH AIDS Institute / Johns Hopkins University・2025)ニューモシスチス肺炎の一次予防はCD4数200/µL未満または口腔咽頭カンジダ症の既往が基準であり、CD4数がさらに低下すると(100/µL未満でトキソプラズマ、50/µL未満でMACなど)想定すべき日和見病原体の範囲が広がることを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Aspergillosis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America・2016)侵襲性肺アスペルギルス症(好中球減少・移植など重度免疫抑制での血管侵襲・壊死・播種)、慢性肺アスペルギルス症・アスペルギローマ(結核後空洞など既存肺構造異常を背景とする空洞病変)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(喘息・嚢胞性線維症患者でのAspergillusへの過敏反応)が、免疫不全の程度と基礎肺疾患という異なる宿主背景から生じる別個の臨床病型であることを確認した。閲覧 2026-08-27