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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

類脂質性肺炎

Lipoid pneumonia

別名
外因性類脂質性肺炎外因性脂質性肺炎誤嚥性脂質肺炎ELP
臓器系
呼吸器
科目
PharmacologyPathology
トピック
薬理学 B25:下剤・止瀉薬と消化促進薬病理学 C/24:肺感染症(結核以外)
鑑別疾患
器質化肺炎電子タバコ関連肺傷害肺癌
治療薬
プレドニゾロン
原因薬剤
パラフィンオイル
症状
咳呼吸困難
検査値
気管支肺胞洗浄
画像所見
敷石状パターンすりガラス影コンソリデーション

🧠 全体像:は「肺胞に脂質がたまる」という一点で括られる病態で、最初に分けるべき軸は脂質が外から入ったか(外因性)、中で生じたか(内因性)である1。本ノートが扱う外因性は、油を誤嚥または吸入して起こる。油そのものは不活性で毒性が低いため急性の症状を出さず、にも乗らないまま肺胞に居座って慢性のを作る——だから「静かに進み、画像だけが派手で、癌と紛らわしい」という臨床像になる。⭐ 診断の鍵は病歴で、油を使っているかを聞かないかぎり画像からは辿り着けない。

外因性と内因性を分ける

同じ「」という名前でも、入口が正反対である。

外因性(本ノートの主題) 内因性
脂質の出どころ 外から入った油(・・動物脂)の誤嚥・吸入2 破壊された肺胞細胞に由来する脂質に富む2
典型的な背景 嚥下障害、、意識障害、乳幼児、油を用いる習慣・職業 気道閉塞(腫瘍・異物)、、代謝異常3
別称 3
病理の違い が主体で、は細胞外に多い 組織像はよく似るが、細胞内のがより多い3

⚠️ 内因性は「閉塞の下流で起きる二次的な変化」なので、内因性を見たら閉塞の原因を探しに行く。 外因性で探すのは病歴であり、内因性で探すのは気道のである——同じ病名でも次の一手が違う。

原因

外因性の原因は「油を飲む・鼻に入れる・吸い込む」の3経路に整理できる。

経路 具体例
内服(誤嚥) ()の下剤としての使用3。ブラジルでは慢性便秘の治療、南アフリカでは乳児の消化補助としてが用いられていた4
経鼻・口腔 スプレーの油性基剤3。サウジアラビア・インドではギー(動物脂)や油を経口・経鼻の洗浄に用いる習慣がある4。アーユルヴェーダで nasya と呼ばれるゴマ油の点鼻、、含有の外用油も報告されている3
吸入 ・周囲に塗った系の気道内化3。として火吹き芸人、自動車整備士、家具磨き、を扱う金属加工3。・(、、香料入りの・混合物を含む)3

⭐ 低粘度の油ほど危険という薬理学的な理屈がある。 やスプレーは粘度が低く、しかもを抑える性質があるため、誤嚥しても気づかれないまま末梢まで達する3。「むせないから安全」ではなく、むせないからこそ肺の奥へ届く。

⚠️ に関連する(EVALI)と本症を短絡させない。 2019年の米国の流行では2,800例を超える確定・が報告され、()でが高頻度に認められたが、検体の94%から検出されたのはであり、これがとして示唆されている3。にがあることは、それだけでの証明にはならない。 使用者のでは、慢性のである本症と、としてのを別々に考える。

💡 年齢分布は二峰性で、第1のピークはTHC・オイルに曝露した青年・若年成人、第2のピークは誤嚥する高齢者である3。頻度そのものは低く、剖検例での報告は成人で1.0〜2.5%、小児で8.8%とされる2。

病態

flowchart TD
    A["油を誤嚥・吸入する<br>(低粘度・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cough reflex'>咳反射</span>抑制でむせにくい)"] --> B["油が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral airway'>末梢気道</span>・肺胞に到達する"]
    B --> C["消化も吸収もされず<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary clearance'>線毛クリアランス</span>にも乗らない"]
    C --> D["マクロファージが油滴を貪食する<br>=脂肪貪食(泡沫状)マクロファージ"]
    D --> E["慢性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foreign body granuloma'>異物肉芽腫</span>性反応<br>細胞外<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesterol clefts'>コレステロール裂隙</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foreign body giant cell'>異物巨細胞</span>"]
    E --> F["緩徐に進む炎症と線維化"]
    F --> G["咳・呼吸困難・画像異常<br>無症状で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chance'>偶然</span>見つかることも多い"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary infection'>二次感染</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nontuberculous mycobacteria, NTM'>非結核性抗酸菌</span>を含む"]

⚠️ 図の縦の連鎖は「油が排除されないこと」を軸にしている。油自体は化学的に不活性で、急性のを起こすとは機序が別である。

症状

発症は緩徐で、咳・呼吸困難という非特異的な症状にとどまる1。を伴うこともあり、画像異常が見つかるだけで無症状の患者も少なくない3。⚠️ 非特異的であることそのものが特徴で、症状から本症を疑うことはできない。

画像

では、()優位の浸潤影が多く、片側性のとして悪性腫瘍や感染症に紛れることもある3。診断に近づけるのはである。

所見 頻度・内容
脂肪濃度(負の値、−30〜−150 )を示す低吸収の浸潤影・ 誤嚥例の約50〜65%3
約20%3
の脂肪濃度結節 追加所見として報告される3

⭐ 肺内に脂肪濃度を見つけた瞬間が、この疾患の診断が動く唯一の場面である。 通常のは軟部組織濃度なので、負の値は他の肺炎ではまず出ない。ただし脂肪濃度が見えるのは半数強にとどまり、見えなくても否定できない。

⚠️ は本症に特異的ではない。をはじめ急性・慢性の多くの病態で生じる形態記述であり、この所見だけで病名を決めない。

⚠️ で集積するので癌の除外にならない。 による本症がを伴う結節として集積を示し、と紛らわしい像を呈した報告がある2。

診断

決め手は病歴と()である。

  1. 病歴を取り直す。 便秘薬・点鼻薬・な油の使用、、、嚥下障害・・意識障害の有無を具体的に聞く。⚠️ 患者は「油」を薬とみなしていないことが多く、の一覧に現れない。
  2. HRCTで脂肪濃度・を探す。
  3. でを証明する。喀痰や・生検でも確認しうる1。検体・でOil-Red-Oやに染まるをもつと、細胞外のを取り囲むが典型である3。
  4. 診断の確実性は、またはで細胞外脂質が細胞診染色や脂肪分析で証明されたときに最も高い4。

⚠️ 、とくにを見落とさない。 小児の系統的レビューでは6研究で Mycobacterium fortuitum/chelonei・M. smegmatis・M. abscessus の感染が同定されている4。油が居座った肺は、これらの菌にとって住みやすい場所になる。

治療

確立した治療プロトコルは無い1。実際に行われているのは次の組み合わせである。

手立て 内容
原因の除去 油の中止が最優先。、ケアでの油性の回避、での3
支持療法 92%超を目標とした酸素投与3
ステロイド 観察研究に基づき広く用いられる。相当を0.5〜1 mg/kg/日で1〜2週間、その後6〜8週かけてする用法が一般的だが、臨床的または画像的な改善が確認できる場合にのみ継続する3
部分/。小児では臨床的改善までの期間が短い傾向が報告されている4
外科切除 ⚠️ 死亡を含む合併症がより多い可能性があり、安易に選ばない4

⚠️ 感染が否定できたら経験的抗菌薬は中止する3。画像が改善しないことを「抗菌薬が効かない」と読み替えてを続けると、本症に辿り着けない。

予防——処方する側の責任

⚠️ は嚥下障害・意識障害・患者・乳幼児では避ける。これは本症を起こさないための禁忌であり、油が不活性であること自体が排除されにくさの原因になる。就寝直前の服用も仰臥位での逆流・誤嚥を招くため望ましくない。⭐ だけが、消化管の外(肺)に副作用の主戦場を持つ——だから適応判断にが組み込まれる。

まとめ

  • はまず外因性(油を誤嚥・吸入)と内因性(気道閉塞などによる内因性の、)に分ける。内因性を見たら閉塞の原因を探す。
  • 外因性の原因は系下剤、油性の点鼻・スプレー、な油の使用、ケアの油性、火吹き芸などの、・。低粘度でを抑える油ほど末梢まで届く。
  • とは別に考える。のは本症の証明にはならない。
  • 症状は非特異的で緩徐。での脂肪濃度(−30〜−150 )は約50〜65%、は約20%で、脂肪濃度が無くても否定できない。集積があり癌との鑑別にならない。
  • 診断は病歴との。細胞外脂質の証明が最も確実で、のを併せて探す。
  • 治療は油の中止が最優先。支持療法にステロイドを加えることが多いが根拠は観察研究にとどまり、改善が見えるときだけ続ける。外科切除は合併症が多い。
  • 処方側の予防が最も効く。嚥下障害・・乳幼児にを使わない。

出典

  1. 1.Lipoid pneumonia: an overview(Expert Review of Respiratory Medicine・2010)類脂質性肺炎が肺胞内の脂質の存在によって起こり、気道内の脂質・油が外因性か内因性・特発性かで2群に大別されること、発症は緩徐で呼吸困難・咳という非特異的症状にとどまるため診断が見逃され遅れやすいこと、主な画像所見が気腔性の浸潤影・すりガラス影・気腔性結節・敷石状パターンであり癌を含む多くの肺疾患に類似しうること、病理学的には脂肪に対する慢性の異物反応で脂肪貪食マクロファージを特徴とし、喀痰・気管支肺胞洗浄液・穿刺吸引細胞診/生検で脂肪貪食マクロファージを示すことで確定できること、治療プロトコルは十分に確立していないことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03
  2. 2.Lipoid Pneumonia(The American Journal of the Medical Sciences・2022)剖検例での頻度が成人で1.0〜2.5%、小児で8.8%と報告されていること、外因性は脂肪性物質の誤嚥に、内因性は破壊された肺胞細胞由来の脂質に富む残渣の蓄積に関連すること、慢性誤嚥による外因性類脂質性肺炎がスピキュラを伴う結節としてFDG集積を示し浸潤性腺癌と紛らわしい像を呈しうることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03
  3. 3.Lipoid Pneumonia(StatPearls Publishing(NCBI Bookshelf、2026年2月15日更新)・2026)外因性は脂質を含む物質の誤嚥・吸入により、内因性(コレステロール肺炎)は気道閉塞・細胞壊死・代謝異常による内因性の脂質蓄積により生じるという二分法。HRCTで肺内脂肪を示す負のCT値(−30〜−150 HU)を伴う低吸収の浸潤影・すりガラス影が鉱物油誤嚥例の約50〜65%に、敷石状パターンが約20%に見られること。誘因として流動パラフィン系下剤・鼻咽頭スプレー(低粘度で咳反射を抑えるため)、気管切開カニューレ周囲のワセリン系軟膏、火吹き芸人・自動車整備士・家具磨き・金属加工などの職業曝露、電子タバコ/THCオイル(ビタミンEアセテート・中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む)、ギー・ゴマ油の点鼻(nasya)などの伝統的慣行が挙げられること。剖検での頻度は1〜2.5%とされ、2019年の米国EVALI流行では2,800例超が確認・疑い例とされBAL検体の94%からビタミンEアセテートが検出されたこと。青年・若年成人と高齢者に二峰性の分布があること。細胞診では油滴を含む泡沫状マクロファージがOil-Red-Oやズダンブラックに染まり、細胞外のコレステロール裂隙と異物巨細胞を伴うこと。支持療法として酸素飽和度92%超の維持、ステロイドは観察研究に基づきプレドニゾン0.5〜1 mg/kg/日を1〜2週間投与し6〜8週かけて漸減する用法が用いられるが、臨床的・画像的改善が確認できる場合にのみ継続すること閲覧 2026-09-03
  4. 4.Exogenous lipoid pneumonia in children: A systematic review(Paediatric Respiratory Reviews・2020)1967〜2018年の非事故例に限った系統的レビューで13か国・44研究・生後1日〜17歳の489例が対象となったこと、油の使用理由が文化的・医学的・行動的の3つに整理され、サウジアラビア・インドではギー(精製動物脂)とオリーブ油が経口・経鼻の洗浄目的で、ブラジルでは鉱物油が慢性便秘の下剤として、南アフリカでは植物油・鉱物油が乳児の消化補助と便秘予防として用いられていたこと、胸部CTでは下肺野優位のびまん性気腔性・すりガラス影が最も多く、脂肪濃度や小葉間隔壁肥厚・敷石状パターンはより頻度の低い所見であったこと、6研究で非結核性抗酸菌(Mycobacterium fortuitum/chelonei・M. smegmatis・M. abscessus)の感染が同定されたこと、治療が支持療法・ステロイド・油の中止・治療的肺洗浄・外科切除からなり、外科的肺切除は死亡を含む合併症が多い可能性があること、診断の確実性は気管支肺胞洗浄・凍結切片肺生検で細胞外脂質が証明された場合に最も高いとされたことを確認した閲覧 2026-09-03