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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

電子タバコ関連肺傷害

E-cigarette, or vaping, product use-associated lung injury

別名
EVALI電子タバコ・ベイピング関連肺傷害電子タバコ使用関連肺傷害
臓器系
呼吸器
科目
Translational Medicine and PathophysiologyPulmonology and Thoracic Surgery
トピック
病態生理学 2-13:長期喫煙の気道・肺弾性線維への影響呼吸器内科 35:急性呼吸不全
鑑別疾患
市中肺炎類脂質性肺炎
合併症
急性呼吸窮迫症候群
治療薬
プレドニゾロン
症状
呼吸困難咳発熱嘔吐
検査値
白血球数赤血球沈降速度気管支肺胞洗浄
画像所見
すりガラス影コンソリデーション縦隔気腫

🧠 全体像:は「を吸っていた人に起きた、他で説明のつかない」というの枠である。病名の中にが書かれていないのはそのためで、2019年の米国の流行ではが最有力の犯人として浮かんだが、病名そのものはに限定していない。臨床で問われるのは「何が入っていたか」ではなく、の使用歴を聞き、感染症を除外し、低酸素なら入院させるという手順である。

病名が語っていること

(e-cigarette, or vaping, product use-associated lung injury)は「」という語を含む。因果ではなく併存を述べた名前であり、の使用歴に加えて、画像で肺の浸潤影があり、感染症その他の説明がつかないことをもって呼ぶ。診断の枠組みそのものが除外に依存している。

⚠️ 用の・の定義は、診療の指針として作られたものではない1。のための線引きを、目の前の患者を治療するかどうかの基準に流用しない。

2019年に何が起きたか

2019年夏に米国で急増し、2020年1月14日時点で全50州・コロンビア特別区・米領ヴァージン諸島・プエルトリコから2,668例の入院例が報告された2。死亡は2019年12月10日時点で52例3。

項目 値
年齢中央値 24歳(13〜85歳)、76%が35歳未満2
性別 66%が男性2
THC含有製品の使用 使用物質の情報がある2,022例のうち1,650例(82%)2
製品のみ 274例(14%)2
死亡例の年齢中央値 49歳(17〜75歳)——2019年10月8日時点の26例1

⭐ 患者は若く、死亡するのは年長者という乖離がある。発症の中心は10代後半〜20代だが、死亡した26例の年齢中央値は49歳だった1。「若者の病気だから軽い」と読まない。

原因物質——ビタミンEアセテート

16州の患者51例と健常者99例のをで比べた研究で、が患者の94%(48/51)から検出され、健常対照からは1例も検出されなかった4。・・・希釈用といった他の候補物質は、とが各1例に見られた以外はどちらの群からも出なかった4。

💡 はのである。同じ研究で、情報のある50例中47例(94%)にTHCまたはその代謝物が確認されるか使用申告があり、は47例中30例(64%)だった4。闇市場のTHCカートリッジという流通経路が、この流行の疫学を規定している。

⚠️ ただし当局は、を唯一の原因と断定していない。THC含有・非含有いずれの製品中の他のの関与も除外できるだけの証拠は無いとされる2。

⚠️ 類脂質性肺炎ではない

流行の初期には、にが目立ったことから「油を吸い込んだ」という解釈が広まった。病理はこれを支持しなかった。

使用後に発症した男性8例(19〜61歳)のでは、所見はおよび/またはというパターンで、・・・II型・間質の器質化が共通していた5。内のマクロファージは全例に存在したが目立つ所見ではなく、に特徴的な所見は認められなかった5。

⭐ は「油を吸った証拠」ではない。 でも非特異的に現れる。の本体は油のではなく、吸入したによる急性の気道・肺胞傷害として理解する。

臨床像

呼吸器症状・消化器症状・全身症状の3系統が重なるのが特徴で、診療録が完全に得られた症例では呼吸器症状95%・消化器症状77%・全身症状85%だった1。

  • 呼吸器:呼吸困難、咳、胸痛
  • 消化器:悪心・嘔吐、腹痛、下痢——「胃腸炎」として帰されうる
  • 全身:発熱、悪寒、倦怠感、体重減少

⚠️ 消化器症状が前面に出ることが診断の遅れを生む。若年者の嘔吐と発熱を消化器感染症として扱い、を聞かないまま帰宅させると、数日後に低酸素で戻ってくる。

検査は非特異的で、Illinois・Wisconsinの初期報告では11,000/mm³超が87%、30 mm/時超が93%、が50%だったが、これらで感染症と区別することはできない1。

診断と初期対応

flowchart TD
    A["呼吸器症状または消化器症状<br>+ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='electronic cigarette (e-cigarette)'>電子タバコ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vaping'>ベイピング</span>の使用歴"] --> B["胸部X線<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral oxygen saturation'>SpO2</span>低下があればとくに必ず)"]
    B --> C["感染症の検索<br>(インフルエンザ流行期は必ず含める)"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral oxygen saturation'>SpO2</span> 95%未満(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='room air'>室内気</span>)<br>/呼吸窮迫<br>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary reserve'>肺予備能</span>を損なう<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comorbidity'>併存疾患</span>"}
    D -->|"あり"| E["入院"]
    D -->|"なし"| F["外来管理も検討<br>(症例ごとに判断)"]
    E --> G["経験的に抗菌薬・抗ウイルス薬・<br>ステロイドを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical setting'>臨床状況</span>に応じて検討"]
    B --> H["胸部X線が臨床像と合わない<br>/重症・増悪/合併症を疑う"]
    H --> I["胸部CT<br>(気胸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinal emphysema (pneumomediastinum)'>縦隔気腫</span>・他疾患の評価)"]

胸部X線は、呼吸器症状または消化器症状のある使用者全員に撮る1。胸部CTは、X線が臨床像と合わないとき、重症・増悪例、気胸やといった合併症を疑うときに追加する1。

入院基準は、での 95%未満、呼吸窮迫、を損なうのいずれか1。実際にで 95%未満だったのは57%(143/253)で、47%(159/342)がに入り、22%(74/338)が挿管・人工呼吸を要した1。

鑑別

相手 分けるもの
・インフルエンザ 感染症の検索が陰性であることが前提。インフルエンザ流行期は検査を必ず含める1
経過が慢性で、油の摂取・点鼻・吸入という曝露歴がある。⭐ のではに特徴的な所見を認めなかった5
別の疾患ではなく、が重症化した先の姿。約半数がに入り22%が挿管に至る1

治療

特異的治療は無い。酸素と呼吸管理という支持療法が土台で、そこに感染症の否定が固まるまでの経験的抗菌薬・抗ウイルス薬と、副腎皮質ステロイドをに応じて重ねる1。ステロイドは88%(252/287)に投与され、投与を受けた症例の82%(114/140)が投与後に改善している1。⚠️ これは対照群のない観察データであって、無作為化試験の結果ではない。

平均は6.7日1。

⚠️ 退院後が危ない

退院後のと死亡が問題になり、推奨が改訂された3。

  • 退院前に、少なくとも24〜48時間に臨床的に意味のある変動が無いことを確認する
  • 初来受診を可及的に48時間以内へ(従来は退院後2週間以内)
  • 呼吸器専門医の受診を2〜4週後および1〜2か月後に設定する
  • ステロイドを投与した症例ではに注意する

⭐ 「2週間後に外来へ」を「48時間以内」に縮めたのが、この改訂の核心である。急性期を越えたように見えても短期間で再増悪しうる。

まとめ

  • は使用歴+肺の浸潤影+他疾患の除外で立てる枠組みで、病名には含まれない。のを診療基準に使わない。
  • 2019年の米国の流行で2,668例の入院例。年齢中央値24歳・66%男性だが、死亡例の年齢中央値は49歳。
  • の94%からが検出され健常対照では0。のという流通経路が疫学を規定する。ただし単一原因とは断定されていない。
  • ⚠️ 病理は(・)で、の所見は無い。を「油の証拠」と読まない。
  • 呼吸器・消化器・全身症状の3系統。消化器症状が前面に出て診断が遅れる。
  • 入院基準は 95%未満・呼吸窮迫・を損なう。約半数がに入る。
  • 治療は支持療法と経験的抗菌薬・ステロイド。ステロイドの根拠は観察データにとどまる。
  • 退院後48時間以内の外来受診。と死亡が退院後に起きる。

出典

  1. 1.Update: Interim Guidance for Health Care Providers Evaluating and Caring for Patients with Suspected E-cigarette, or Vaping, Product Use Associated Lung Injury - United States, October 2019(Morbidity and Mortality Weekly Report(Siegel DA, Jatlaoui TC, Koumans EH, et al.)・2019)2019年10月8日時点で49州・コロンビア特別区・1準州から1,299例が報告され26例が死亡し死亡例の年齢中央値が49歳(17〜75歳)であったこと、年齢・性別が判明した1,043例で70%が男性・年齢中央値24歳・80%が35歳未満・15%が18歳未満であったこと、症状発現前90日間の使用物質を答えた573例のうち76%がTHC含有製品を・58%がニコチン含有製品を使用していたこと、診療録が完全に得られた症例で呼吸器症状95%・消化器症状77%・全身症状85%(分母339)、室内気でのSpO2 95%未満が57%(143/253)、集中治療室入室が47%(159/342)、挿管・人工呼吸が22%(74/338)、副腎皮質ステロイド投与が88%(252/287)でそのうち82%(114/140)が投与後に改善し、平均在院日数が6.7日であったこと、入院を推奨する基準が室内気でのSpO2 95%未満・呼吸窮迫・肺予備能を損なう併存疾患であること、胸部X線は呼吸器症状または消化器症状のある電子タバコ使用者全員に撮るべきでとくにSpO2低下を伴う場合に強く勧められること、胸部CTは胸部X線が臨床像と合わないとき・気胸や縦隔気腫などの合併症や重症例の評価に有用であること、抗菌薬・抗ウイルス薬・ステロイドの経験的投与を臨床状況に応じて検討すること、サーベイランス用の症例定義は診療の指針として作られたものではないことを確認した。白血球数11,000/mm3超87%・赤沈30 mm/時超93%・トランスアミナーゼ上昇50%は本報告がIllinois・Wisconsinの初期報告(参照文献3)から引用している数値である閲覧 2026-09-05
  2. 2.Update: Characteristics of a Nationwide Outbreak of E-cigarette, or Vaping, Product Use-Associated Lung Injury - United States, August 2019-January 2020(Morbidity and Mortality Weekly Report(Krishnasamy VP, Hallowell BD, Ko JY, et al.)・2020)2020年1月14日時点で全50州・コロンビア特別区・米領ヴァージン諸島・プエルトリコから2,668例の入院例が報告されたこと、66%が男性で年齢中央値が24歳(13〜85歳)・76%が35歳未満であったこと、使用物質の情報がある2,022例のうち1,650例(82%)が何らかのTHC含有製品を使用し274例(14%)がニコチン含有製品のみを使用していたこと、ビタミンEアセテートが本流行と強く結びついており電子タバコ製品に添加すべきでないとされる一方、THC含有・非含有いずれの製品中の他の化学物質の関与も除外できるだけの証拠は無いとされることを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.Update: Interim Guidance for Health Care Professionals Evaluating and Caring for Patients with Suspected E-cigarette, or Vaping, Product Use-Associated Lung Injury and for Reducing the Risk for Rehospitalization and Death Following Hospital Discharge(Morbidity and Mortality Weekly Report(Evans ME, Twentyman E, Click ES, et al.)・2020)2019年12月10日時点で2,409例の入院例と52例の死亡が報告されたこと、退院前に少なくとも24〜48時間バイタルサインに臨床的に意味のある変動が無いことを確認するよう推奨が改められたこと、退院後の初回外来受診を従来の「退院後2週間以内」から「可及的に48時間以内」へ前倒ししたこと、呼吸器専門医の受診を2〜4週後および1〜2か月後に設定すること、ステロイド投与後の二次性副腎不全に注意することを確認した閲覧 2026-09-05
  4. 4.Vitamin E Acetate in Bronchoalveolar-Lavage Fluid Associated with EVALI(The New England Journal of Medicine(Blount BC, Karwowski MP, Shields PG, et al.)・2020)16州のEVALI患者51例(確定25例・疑い26例)と2015年開始の喫煙研究に参加していた健常者99例の気管支肺胞洗浄液を同位体希釈質量分析で比較し、ビタミンEアセテートが患者51例中48例(94%)から検出され健常対照群からは検出されなかったこと、植物油・中鎖脂肪酸トリグリセリド油・ココナッツ油・石油留分・希釈用テルペンという他の優先毒性物質はココナッツ油とリモネンが各1例に見られた以外どちらの群からも検出されなかったこと、検査または疫学情報のある50例中47例(94%)で洗浄液からTHCまたはその代謝物が検出されるか発症前90日以内のTHC製品の使用申告があったこと、ニコチンまたはその代謝物は47例中30例(64%)で検出されたことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-05
  5. 5.Lung Biopsy Findings in Severe Pulmonary Illness Associated With E-Cigarette Use (Vaping)(American Journal of Clinical Pathology(Mukhopadhyay S, Mehrad M, Dammert P, et al.)・2020)電子タバコ使用後に呼吸器症状を来した男性8例(19〜61歳)の肺生検(経気管支7例・外科的1例)を検討し、全例で感染症の検索が陰性で他の成因の証拠も無く、画像で両側びまん性すりガラス影を認めたこと、組織像が器質化肺炎および/またはびまん性肺胞傷害を含む急性肺傷害パターンであり線維芽細胞栓・硝子膜・線維素性滲出・II型肺胞上皮過形成・間質の器質化が共通所見であったこと、全例で気腔内にマクロファージが存在したもののこれは目立つ所見ではなく外因性類脂質性肺炎に特徴的な所見は認められなかったこと、大半がステロイド治療で回復し1例が死亡したことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-05