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Disease Atlas · 呼吸器 · 外傷

溺水

Drowning

別名
Drowning injury
臓器系
呼吸器
科目
Forensic Medicine
トピック
法医学 25:浸水死と浸水所見・死後変化とのアーティファクト鑑別法医学 26:溺水の病理診断とアルコールの関与
続発疾患
急性呼吸窮迫症候群
症状
呼吸困難嘔吐
検査値
血糖
画像所見
肺野陰影

🧠 全体像は、液体への・水没によってを来す過程であり、転帰は死亡、後遺障害あり、後遺障害なしのいずれも含む。病態の中心はによる電解質差ではなく、気道閉塞と誤嚥から進む低酸素血症である。したがって救命の優先順位は、救助者の安全を確保して水から出し、・心停止なら人工呼吸を含むCPRを直ちに始め、酸素化・換気、低体温への対応、原因検索へ進むことである。

定義と病態

」は死亡例だけを指さない。が生じた時点で過程に入り、救助後に完全回復した場合もに含まれる。一方、・水没してもがなければ、水難救助ではあってもとは定義しない。

水面下で息こらえが限界に達すると、咳、、液体の誤嚥が起こる。肺胞内の液体はサーファクタントを障害し、の透過性亢進、とシャントを生む。低酸素血症が進むと、、徐脈、心停止、へ至る。

flowchart TD
    A["液体への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immersion'>浸水</span>・水没"] --> B["息こらえ・咳・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laryngeal reflex'>喉頭反射</span>"]
    B --> C["低換気と液体誤嚥"]
    C --> D["サーファクタント障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atelectasis'>無気肺</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar-capillary membrane'>肺胞毛細血管膜</span>障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncardiogenic pulmonary edema'>非心原性肺水腫</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='V/Q mismatch'>換気血流比不均衡</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrapulmonary shunt'>肺内シャント</span>"]
    E --> F
    F --> G["低酸素血症"]
    G --> H["意識障害・徐脈"]
    H --> I["心停止・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxic brain injury'>低酸素性脳障害</span>"]

かで細胞内外への水移動は異なるが、通常の臨床的な量では、その差を根拠に蘇生法を変えない。どちらも低酸素血症の速やかな是正が中心である。

⚠️ 「」「」「」は、病態やを誤解させるため用いない。を伴うか、のない水難救助かを記載し、非致死例では呼吸・重症度と転帰を具体的に示す。

臨床像

重症度の目安 主な所見 重要な対応
軽症 咳はあるが意識清明、増大や低酸素血症がない 保温し、症状と酸素化を反復評価
中等症 持続する咳、呼吸困難、頻呼吸、、低酸素血症、嘔吐、軽度意識変容 酸素、必要なら、画像・血液ガスを含む評価と監視
重症 無呼吸、重度低酸素、、徐脈、心停止、ショック、重度低体温 人工呼吸を含むCPR、気道確保、と高度蘇生

救助直後に会話できても、誤嚥性肺障害があれば咳・呼吸困難・酸素化低下が進行しうる。反対に、呼吸症状も低酸素血症もない人へ「必ず後から肺に水がたまる」と説明するのは不正確である。症状の有無とに基づいて観察・退院を判断する。

を起こした背景も同時に評価する。

  • 飲酒・薬物、てんかん、失神、不整脈、低血糖、
  • 頭頸部外傷、事故、低体温
  • 小児の監視不足、柵のない水域、救命胴衣未使用

診断

診断は「液体への・水没」と、その際に生じたの病歴から行う。単一の検査で確定するものではない。

  1. 一次評価:気道、呼吸、循環、意識、体温を同時に確認する。・心停止なら検査より蘇生を優先する。
  2. 連続モニタリング:SpO₂、呼吸数、心電図、血圧、体温、意識を追跡する。
  3. 検査の個別化:呼吸症状・低酸素があれば血液ガス、胸部X線、電解質などを考慮する。初期X線の陰影の程度だけで予後を断定しない。
  4. 原因・合併損傷の検索:血糖、心電図、外傷評価、必要に応じて薬毒物・関連疾患を調べる。

は全例へ一律に行わず、飛び込み、高所からの、船舶事故、明らかな外傷所見など、損傷が疑われる場合に行う。

的には、水中で発見されたこと自体は死の証明にならない。、外傷、、中毒、を除外し、剖検・現場・毒物学的所見を統合する。などの所見はいずれも単独では決定的でない。

治療

1. 救助者の安全と水からの救出

  • まず通報し、可能なら手を伸ばす・浮く物を投げる・舟を使うなど、救助者が水に入らない方法を選ぶ。
  • 流れ、波、氷、深さが危険な場所へ、訓練・装備のない人が入水してはならない。
  • 水中人工呼吸は、訓練を受けた救助者が安全に実施できる状況に限る。胸骨圧迫は水中では有効に行えないため、速やかに硬い場所へ移す。

2. 人工呼吸を含むCPR

水から引き上げ、反応がなく正常な呼吸もなければ心停止として、人工呼吸と胸骨圧迫を組み合わせたCPRを開始する。心停止は低酸素が主因なので、胸骨圧迫のみより人工呼吸を含む蘇生が重要である。訓練を受けた救助者は人工呼吸から開始してもよいが、換気器具を待つなどして胸骨圧迫を遅らせない。人工呼吸を行う意思・訓練・能力がない救助者も、救援到着までは胸骨圧迫のみでも直ちに開始し、可能になり次第人工呼吸を加える。

  • 利用可能なら高濃度酸素を人工呼吸に用いる。
  • まず人工呼吸と胸骨圧迫を開始してからAEDを準備し、装着・解析のためにCPR開始を遅らせない。
  • 口腔内に見える異物・嘔が換気を妨げる場合は除去する。水を排出する目的のは行わない。
  • 自発呼吸があるが意識が低下している場合は、気道を監視しつつを考慮する。を見逃さないよう反復評価する。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drowning'>溺水</span>者を発見"] --> B["救助者の安全を確保して通報・救出"]
    B --> C{"正常な呼吸があるか"}
    C -->|"ない・心停止"| D["人工呼吸+胸骨圧迫を直ちに開始"]
    D --> E["酸素を用いた換気・AED準備"]
    E --> F["気道確保・高度蘇生へ移行"]
    C -->|"ある"| G["気道・酸素化・意識・体温を反復評価"]
    G --> H{"呼吸困難または低酸素があるか"}
    H -->|"ある"| I["酸素投与・必要ならCPAP/NIVまたは挿管換気"]
    H -->|"ない"| J["保温し観察・原因検索"]
    F --> K["ROSC後ケア・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung-protective ventilation'>肺保護換気</span>・体温管理"]
    I --> K

3. 酸素化・換気

低酸素血症には利用可能な高濃度酸素を初期投与し、連続SpO₂・血液ガスに基づいて調整する。自発呼吸が保たれる選択例ではCPAPまたはNIVを考慮し、意識障害、、換気不全、難治性低酸素、ではを遅らせない。

誤嚥性肺障害からへ進んだ場合は、低制限、適切なPEEPによるを行う。肺水腫を「水分過剰」と決めつけて一律に利尿薬を投与せず、循環血液量と血行動態を評価する。

4. 低体温と心停止後ケア

濡れた衣類を除去し、風と地面から隔離して乾いた毛布で覆う。中等度〜重度低体温では体幹中心のを行い、乱暴な移動や四肢だけの急速加温を避ける。重度低体温を伴う心停止では、可能ならが可能な施設へ談する。

後は酸素化・換気、血圧、血糖、けいれん、状態を管理し、発熱を予防する。自然低体温が残る患者を急速にしない。

5. 行わない治療

介入 推奨
予防的抗菌薬 初期の経験的投与は行わない。蘇生後も肺炎を示す発熱・喀痰・所見が持続する場合に、喀痰・・血液培養などに基づいて治療する。培養が得られない場合はと曝露した水環境を考慮して抗菌薬を選ぶ
副腎皮質ステロイド そのものに対してルーチンでは投与しない
・逆さ吊り 肺から水を出す目的では行わない。換気開始を遅らせ、嘔吐・誤嚥を増やしうる
別の輸液や 媒体だけで治療を分けない。実測した循環・電解質異常に基づいて補正

予防

  • 乳幼児は浴槽・プール・自然水域の近くで、手の届く範囲から目を離さない。
  • プールを四方から囲む柵、井戸・貯水槽の覆い、適切な救命胴衣を用いる。
  • 飲酒後や鎮静薬使用後に泳がず、単独遊泳を避ける。
  • 年齢に合った水泳・水難安全教育と、救助者のCPR訓練を普及する。
  • てんかん・不整脈などの基礎疾患を管理し、発作リスクに応じて入浴・水泳時の監督を調整する。

まとめ

  • は「・水没によるの過程」で、死亡例だけでなく非致死例も含む。
  • 病態の中心はの電解質差ではなく、誤嚥と肺胞障害による低酸素血症である。
  • 救助者の安全を最優先し、水から出した後の心停止には人工呼吸を含むCPRを直ちに行う。
  • 酸素化・換気を優先し、ARDSでは、低体温では保温・適切なを行う。
  • 予防的抗菌薬と副腎皮質ステロイドはルーチンに用いない。
  • 水中発見遺体では所見だけで死とせず、・外傷・・中毒を含めて総合診断する。