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Drug Atlas · A22 Antidementia drugs / 抗認知症薬

レカネマブ

lecanemab

分類
Antidementia drugs / 抗認知症薬
商品名(日本)
レケンビ
商品名(EU)
Leqembi
科目
Pharmacology
トピック
A22: Drugs of neurodegenerative diseases (extrapyramidal motoric system, nootropic drugs)
承認適応
アルツハイマー病
副作用
輸注関連反応頭痛めまい悪心錯乱脳浮腫
相互作用
アセチルサリチル酸アピキサバンアルテプラーゼクロピドグレルワルファリン

🧠 全体像:は可溶性凝集体()に選択的に結合するで、・のような「症状を底上げする薬」ではなく、病態そのものに介入して進行を遅らせる「」という別枠に属する。適応はによる・軽度認知症に厳密に限定され、またはでの病理確認が投与の前提になる。最大の弱点はARIA()——浮腫型のARIA-Eと出血型のARIA-Hを区別して管理し、APOE ε4・既存の・併用がいずれもリスクを底上げする。運用は国・地域で異なる。

薬効群の中での位置づけ

は対症療法とに大別され、は後者の先頭を切った薬である。

系統 代表薬 標的・機序 目的
阻害でACh↑ 対症療法
NMDA受容体遮断 対症療法
可溶性に選択的結合

標的とする凝集状態は薬剤ごとに異なる。

薬剤 主な標的 承認・開発の経過
可溶性(凝集途上の)に選択的だが排他的ではなく、(プラーク構成成分)にも結合性を示す1 日本・米国で承認済み。欧州も2025年4月15日に販売承認2(ではなく、適応をApoE ε4非保因者・に限定した通常の販売承認)3
凝集した可溶性・不溶性の(線維中心) 米国で後、2024年に販売中止
沈着したプラーク中の修飾型Aβ() 米国で承認済み。除去達成後に投与終了できる設計

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lecanemab'>レカネマブ</span>が可溶性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid beta'>アミロイドβ</span>凝集体<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protofibril'>プロトフィブリル</span>)に選択的に結合"] --> B["神経細胞への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protofibril'>プロトフィブリル</span>結合を阻害"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microglia'>ミクログリア</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fc receptor'>Fc受容体</span>を介した<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid beta'>アミロイドβ</span>の貪食を促進"]
    C --> D["脳内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid beta'>アミロイドβ</span>蓄積量が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dose-dependent'>用量依存的</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serial'>経時的</span>に減少"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synaptotoxicity'>シナプス毒性</span>の軽減"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid PET'>アミロイドPET</span> SUVR/centiloidsの低下"]
    E --> G["CDR-SB等を指標とした<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical manifestation'>臨床症状</span>悪化の抑制"]
    F --> G

薬物動態

項目 値・特徴
(、約1時間)
構造 ヒト化モノクローナル抗体
中心で約3.24 L1
代謝 抗体として()を受ける。代謝を受けない
最終消失相で5〜7日1

⭐ 抗体薬のため肝・腎機能低下例での特別な減量規定はなく、酵素を介した薬物相互作用も想定されない。 相互作用の懸念は後述する出血リスクのに集約される。

適応

による及び軽度の認知症の進行抑制に限定され、次を満たす必要がある1。

要件 内容
病理確認 またはで病理を示唆する所見が確認されていること
病期 による・軽度認知症のみ。中等度以降の認知症には投与を開始しない
除外対象 無症候で病理のみが確認された者には投与しない

⚠️ ApoE ε4遺伝子型の扱いは3極で異なる。

地域 投与開始前のApoE ε4 適応との関係
欧州 実施する。 CEマークの用医薬品を用い、無ければ検証済みの代替検査による2 適応そのものがApoE ε4非保因者とに限られ、は適応外2
日本 ARIAのリスク管理のため、原則としてAPOEの実施を考慮する。 考慮した結果実施しなかった場合も、投与中に必要と考えれば検討する1 適応は遺伝子型で限定されない。保因状況にかかわらず所定の管理を行う1
米国 実施が推奨される。検査を行わなくても投与自体はできる(その場合かどうかが分からないことを患者に伝える)4 適応は遺伝子型で限定されない4

💡 欧州のそれは「」ではない。 SmPC 9項が「Date of first authorisation: 15 April 2025」と記す、全域で有効な通常の販売承認であり、限定されているのは承認の種類ではなく適応集団である。条件付き販売承認(conditional marketing authorisation)は包括的な臨床データが揃う前に与えられる別枠の制度で、適応のとは別の概念——両者を混同しない。あわせて、以外へ処方されないよう中央登録システムを伴う管理下アクセスプログラムが課され、全域のレジストリ研究による市販後安全性調査が義務づけられている32。

用法・用量

通常、(遺伝子組換え)として10mg/kgを2週間に1回、約1時間かけてする1。米国では剤形と間隔の選択肢がこれより広く、導入も維持も静注と皮下注()のどちらでも行える——導入は10mg/kg隔週または500mg週1回皮下注、18か月後は導入レジメンを続けるか、10mg/kgを4週毎のまたは360mg週1回皮下注へ移行する4。日本のレケンビの電子添文が定める用法は10mg/kg隔週ののみで、4週毎のの用法は持たない1。投与前に250mLので希釈し、蛋白結合性の低いを通して投与する1。

⚠️ 「日本には皮下注が無い」と読まない。 2026年9月改訂(第6版)で新設された7.3が「製剤から本剤へ切り替える場合、製剤の最終投与から1週間あけること」と定めており、国内に別品目としての製剤があることを前提にしている1。このの電子添文に皮下注の用法が書かれていないのは、皮下注が国内に無いからではなく別品目だからである。皮下注製剤そのものの用量・間隔はこの文書の射程外なので、ここでは断定しない。

禁忌・注意

  • 禁忌(日本):本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者、投与開始前にが確認された患者、投与開始前に5個以上の・・1cmを超えるが確認された患者(いずれもARIAのリスクを高める)——この3項目である1
  • ⚠️ 禁忌の範囲は国で違う。欧州がいちばん広い。 の4.3は上記に加えて、十分に管理されていないと、を継続中の患者への投与開始を禁忌に置き、画像所見の禁忌も「を示唆するその他の所見」まで含める2。一方米国の添付文書の禁忌は本剤成分への重篤な過敏症のみで4、抗凝固薬併用は禁忌ではなくとして扱われる。同じ薬でも「併用してよいか」の答えが国境で変わる
  • ⚠️ ARIA():ARIA-E(浮腫・滲出液貯留)とARIA-H(・・)を区別して管理する。多くは無症候だが、痙攣・など重篤な事象や死亡例の報告もある1
  • ⚠️ 投与開始前に直近1年以内のでARIAを含む異常所見の有無を確認し、投与開始後は5・7・14回目投与前(それぞれ投与開始後2か月・3か月・6か月までを目安)と、それ以降も定期的に検査を行う。3回目投与前のは、日本では「実施することが望ましい」にとどまり、投与開始前からが認められている患者・高血圧症を有する患者などで実施を考慮する1。欧州は3回目投与前も含めて必須である(SmPC 4.2 は “Obtain an prior to the 3rd, 5th, 7th and 14th infusions” と書く)2。⚠️ EMA自身の承認Q&Aは5・7・14回目しか挙げていないが、法的文書である SmPC が優先される32。ARIAは投与開始14週間以内に多く発現する1
  • ⭐ ApoE ε4でARIAの頻度・重症度が高い(本剤群のARIA-E 32.6%・ARIA-H 39.0%、はそれぞれ10.9%・14.0%、非保有者は5.4%・11.9%)が、日本の添付文書は保因状況にかかわらず一律の管理を求める1
  • ⚠️ 抗凝固薬(ワルファリン・ヘパリン・等)・(・等)・(等)との併用は、ARIA発現時にを助長するおそれがある。 を行う前には、神経症候がARIAに起因する可能性を考慮する1
  • 1年以内の・脳卒中・痙攣の既往、持続する高血圧のある患者への投与は、リスクとを慎重に判断し適切なを行う

副作用

頻度 内容
高頻度 (26.1%)、ARIA-H(16.5%)、ARIA-E(12.6%)、頭痛(1.8%)、過敏症(1.7%)1
注意 めまい・、状態、悪心、増加1
重篤・まれ 症候性ARIA-E 2.8%・症候性ARIA-H 1.4%(有害事象としての発現率)1、米国添付文書ではE/Hを分けず症候性ARIA 3%〈29/898例〉・うち重篤な症状0.7%〈6/898例〉4、脳浮腫()、(0.4%)、痙攣・、継続投与期にまたは重度のARIA-E/H併発を発現し死亡に至った症例の報告(これらの事象が死因でない報告を含む)1

⚠️ 同じ電子添文の中で ARIA-H の数え方が2通りある。 「17. 臨床成績」は副作用として ARIA-H 16.5% と合算で示すのに対し、「11.1.2 重大な副作用」は内訳を ARIA-および 13.6%・ 5.2% と分けて示す(単純に足すと18.8%で合算値と一致しない。1人が両方を発現しうるため)。数値を引くときはどちらの節から採ったのかを明示する1。

有効性の評価とMCID論争

⭐ の(CDR-SB)は統計学的に有意だが、その臨床的意義には議論がある。 Clarity AD試験(301試験)では比でCDR-SB悪化を27.1%抑制した(群間差-0.45点、p<0.0001)1が、CDR-SBの()は患者で0.98点・軽度AD認知症患者で1.63点と報告されており、これをそのまま適用するとの効果量は未満になる。一方でこの基準の算出方法自体に方法論的な問題があり、そのまま適用すると治療効果を過小評価しかねないとの指摘もある5。

まとめ

  • ヒト化抗モノクローナル抗体。 可溶性に選択的に結合し、の貪食促進を介して脳内を減少させる。
  • 症状改善薬ではなく。 ・と異なり、症状の底上げでなく進行そのものを遅らせることを狙う。
  • 適応はによる・軽度認知症に厳密に限定され、または検査での病理確認が必須。
  • ⚠️ 最大の安全性課題はARIA。 ARIA-E(浮腫)とARIA-H(・)を区別し、ApoE ε4・既存の・併用でリスクが上がる。5個以上の等は投与禁忌にあたる。
  • ⚠️ の枠組みは3極で違う。 欧州は2025年4月に通常の販売承認を与えたうえで、適応をApoE ε4非保因者・に限定し(は適応外)、管理下アクセスプログラムを課している——「」ではない。 中の患者への投与開始は欧州では禁忌、日本・米国では併用注意である。

出典

  1. 1.レケンビ点滴静注200mg/500mg 添付文書(エーザイ株式会社(医薬品医療機器総合機構 電子添文)・2026)効能又は効果(アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制、アミロイドPETまたはCSF検査でのアミロイドβ病理確認が必須で無症候例・中等度以降には投与開始しない)、用法及び用量(10mg/kgを2週間に1回、約1時間かけて点滴静注、必要量を250mLの生理食塩液で希釈し蛋白結合性の低い0.2または0.22ミクロンのインラインフィルターを通して投与すること。本剤は点滴静注の製剤であり皮下注の用法は持たないが、第6版で新設された7.3が「レカネマブ皮下投与製剤から本剤へ切り替える場合、皮下投与製剤の最終投与から1週間あけること」と定めており、国内に別品目としての皮下投与製剤があることを前提にしている)、薬物動態(中心コンパートメントの分布容積の母集団推定値3.24L[95%CI 3.18〜3.30L]、最終消失相の半減期5〜7日)、禁忌の3項目(本剤成分への重篤な過敏症の既往、投与開始前に血管原性脳浮腫が確認された患者、投与開始前に5個以上の脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症・1cmを超える脳出血が確認された患者)、ARIAの重症度分類、MRIモニタリングを5・7・14回目投与前とそれ以降も定期的に実施し3回目投与前の実施は「望ましい」(投与開始前に脳微小出血が認められている患者・高血圧症を有する患者では考慮する)とすること、ARIAのリスク管理のため原則として投与開始前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮するがApoEε4保因状況にかかわらず所定のMRI管理を行うこと、ApoEε4遺伝子型別ARIA発現率(ホモ接合体でARIA-E32.6%・ARIA-H39.0%、プラセボはそれぞれ3.8%・21.1%)、副作用として「17. 臨床成績」が発現率1%以上の主な副作用を注入に伴う反応26.1%・ARIA-H 16.5%・ARIA-E 12.6%・頭痛1.8%・過敏症1.7%と合算で示し、症候性ARIA-E 2.8%・症候性ARIA-H 1.4%を有害事象発現率として併記する一方、「11.1.2 重大な副作用」はARIA-Hの内訳をARIA-微小出血及びヘモジデリン沈着13.6%・脳表ヘモジデリン沈着症5.2%・脳出血0.4%と分けて示すこと(同一文書内で数え方が2通りある)、国際共同第III相試験(301試験・Clarity AD)でCDR-SBの悪化がプラセボ比27.1%抑制(本剤群1.21 vs プラセボ群1.66、群間差-0.45、p<0.0001)されたことを確認した。⚠️ 2026-09-17に現行版を取り直して上記を全件検算した。以前このノートが持っていた第4版のURL(1190408A1025_1_04)は404で、現行は2026年9月改訂(第6版)の 1190408A1025_1_05 である(PMDAの品目一覧が示すPDFの日付も2026年09月16日)。承認年月日は23.主要文献の社内資料の記載から2023年9月25日、販売開始は2023年12月閲覧 2026-09-17
  2. 2.Leqembi — Annex I Summary of Product Characteristics (EPAR product information)(European Medicines Agency・2026)適応(4.1)が「アミロイド病理が確認されたApoE ε4非保因者またはヘテロ接合体の成人の、アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度認知症」に限定されること、4.2でApoE ε4遺伝子型検査を投与開始前に実施すること(CEマークの体外診断用医薬品、無ければ検証済みの代替検査を用いる)、MRIを投与開始前と3・5・7・14回目の投与前に行うこと、中等度アルツハイマー病へ進行したら投与を中止し、認知機能評価を約6か月ごとに行うこと、禁忌(4.3)が成分への過敏症、十分に管理されていない出血性素因、投与前MRIでの脳出血既往・4個を超える微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症・血管原性浮腫その他の脳アミロイド血管症を示唆する所見、および抗凝固療法を継続中の患者への投与開始であること、4.4で中央登録システムを伴う管理下アクセスプログラムを通じて投与を開始すべきとされること、9項が示す初回承認日(Date of first authorisation = 2025年4月15日。EU全域で有効な販売承認が与えられた日)を確認した。全文に conditional marketing authorisation の定型文は無い(EPARの製品情報の最終更新は2026年8月5日)閲覧 2026-09-08
  3. 3.Approval of the marketing authorisation for Leqembi (lecanemab)(European Medicines Agency・2025)2024年7月25日にEMAが一旦申請を拒否したこと、再審査で企業がApoE4を2コピー保有する患者274例を除外した限定適応を提案し、2024年11月14日にCHMPが「ApoE4を0または1コピーのみ保有する患者」という限定された適応(restricted indication)での販売承認を勧告したこと(限定集団でARIA-E8.9%・ARIA-H12.9%、全体集団ではARIA-E12.6%・ARIA-H16.9%)、勧告されたのは通常の販売承認(marketing authorisation)であって条件付き承認ではないこと、対象集団以外に使われないよう管理下アクセスプログラムが課されることを確認した。⚠️ この文書は2024年11月14日付のQ&A(EMA/63941/2025、2025年2月27日の追記あり)で勧告までを述べたものであり、実際の承認日はここには書かれていない(承認日はSmPC 9項による)閲覧 2026-08-11
  4. 4.LEQEMBI (lecanemab-irmb) injection, for intravenous use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / Eisai Inc.(DailyMed、Updated 2026-07-21)・2026)警告としてARIA(ARIA-E・ARIA-H)とApoEε4ホモ接合体でのARIA発現率上昇を確認、頭蓋内出血の発現率は抗血栓薬(抗凝固薬または抗血小板薬)併用例で0.9%(3/328例)・非併用例で0.6%(3/545例)である一方、抗凝固薬単独またはこれに抗血小板薬・アスピリンを併用した例に限ると2.5%(2/79例、プラセボ群は0%)であったことを確認、用法用量が静注(開始10mg/kgを2週毎、18か月後に10mg/kgを4週毎へ移行可)と皮下注(開始500mgを週1回、維持360mgを週1回、LEQEMBI IQLIK)の2剤形であること、投与開始前のApoEε4遺伝子型検査の実施が推奨されるが検査を行わなくても投与自体は可能であること、禁忌が本剤成分への重篤な過敏症の既往のみであること、Clarity AD(Study 2)で症候性ARIAが3%(29/898例)に生じARIAに伴う重篤な症状は0.7%(6/898例)であったこと、同試験のARIA-Eが13%(113/898例、プラセボ2%)・ARIA-Hが17%(152/898例、プラセボ9%)であったことを確認した閲覧 2026-08-11
  5. 5.Disease severity and minimal clinically important differences in clinical outcome assessments for Alzheimer's disease clinical trials(Alzheimer's & Dementia Translational Research & Clinical Interventions(PMCオープンアクセス)・2023)Andrewsら(2019)が報告したCDR-SBのMCID推定値(MCI患者0.98点・軽度AD認知症患者1.63点)の算出方法に方法論的欠陥があると指摘し、この基準をそのまま適用するとClarity AD試験でのレカネマブの治療効果(MCI群0.35点・軽度AD認知症群0.62点の群間差)の臨床的意義を過小評価しうると論じたことを確認した閲覧 2026-08-11