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Symptoms · Published

失行

Apraxia

別名
失行症
臓器系
神経
科目
NeurologyRehabilitationAnatomy
トピック
神経内科 G2-17:失認・失行・失読・失書リハビリテーション 05:脳卒中のリハビリテーション:神経・高次脳機能後遺症・目的・チーム医療解剖学 9.8:中枢神経・神経解剖:機能系
関連疾患
アルツハイマー病大脳皮質基底核変性症脳梗塞脳内出血(非外傷性)

🧠 全体像は「動かせるのに、目的ある動作を組み立てられない」状態であり、としての性格が強い。筋力・協調運動・感覚・言語理解・注意のいずれかに異常があればまずそれで動作障害を説明できないか確認し、それでも説明のつかない学習済み行為の障害だけをと呼ぶ。型名(など)を先に当てにいくのではなく、この除外のを踏むことが診療の骨格になる。

定義と用語の整理

は、・失調・感覚障害・言語理解障害・のいずれによっても説明できない、学習済みの目的ある行為(動作の計画・順序づけ・実行)の遂行障害である。患者自身が「がある」と訴えることはまれで、家族やが「箸がうまく使えなくなった」「服を着る順番がおかしい」と気づいて受診につながることが多い。

鑑別 障害される機能 手がかり
麻痺・失調・感覚障害・理解障害・では説明できない、学習済み行為の組み立て 筋力・協調運動・感覚・言語理解・意欲は保たれるのに、動作の計画や順序だけが崩れる
筋力そのもの、運動の協調・タイミング などで異常が出る。ではこれらが保たれる
感覚障害 体性感覚のフィードバック ・触覚の検査を先に行い、感覚障害があればまずそれを除外する
理解障害を伴う 言語命令そのものの理解 言語命令で誤っても、実物を使わせる・模倣させると正しく行える場合は理解障害が主因
対側空間への注意配分、課題への持続的注意 課題の左右非対称な誤り方、注意の転導しやすさから示唆される

💡 「」という診断名は、上記の運動・感覚・言語・注意の障害をひとつずつ除外して初めて残る診断である。順序を踏まずに動作のさだけでと判断すると、本当は理解障害やが主因の症例を見誤る。

病態生理

行為の遂行は、が身振り・使用の運動プログラムを蓄え、それをの運動野へ伝達し、必要に応じてを介して反対側半球へも伝えるネットワークとして働く。

flowchart TD
    A["行為が組み立てられない"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant hemisphere'>優位半球</span>の行為ネットワーク障害"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nondominant hemisphere'>非優位半球</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visuospatial'>視空間</span>ネットワーク障害"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corpus callosum'>脳梁</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span>による半球間伝達障害"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ideomotor apraxia'>観念運動失行</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ideational apraxia'>観念失行</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orofacial (buccofacial) apraxia'>口腔顔面失行</span>"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dressing apraxia'>着衣失行</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constructional apraxia (impairment)'>構成障害</span>"]
    D --> D1["左手だけの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ideomotor apraxia'>観念運動失行</span><br>(右手は保たれる)"]

障害される段階と局在によって、は次の型に整理できる。

特徴 主な局在
の使い方は理解しているのに、命令や模倣で身振りを正しく組み立てられない。実際にを持たせると改善することがある (特に)からへの行為ネットワーク
使用を含む多段階の行為で、手順やの選択そのものが崩れる の広い病変、あるいはびまん性の変性疾患
指先を使う精密な動作の性が失われ、単純な把持動作もぎこちなくなる 病変対側のに近い領域
舌を出す、口笛を吹くなど非性の口腔運動を命令で行えない ・島周辺(と併存しやすい)
衣服と身体の空間関係を組み立てられず、更衣の手順が崩れる
が崩れる。に「構成」と呼ぶがの障害の側面が大きい 、両側性のこともある

病変では、言語野からの命令が右半球の運動野へ伝わらないため、右手は正常に動くのに左手だけがを示すというのパターンが出る。局在を考えるときは、優位・だけでなく半球間の連絡経路も候補に入れる。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ 急性発症のは脳卒中として扱う。 突然出現したは、明らかなを伴わなくてもによる局所神経症候でありうる。の時間枠に乗るかを最優先で判断し、型分類に時間をかけて画像検査を遅らせない。

⚠️ 左右差の強い進行性のを疑う。 を伴う非対称な経過は、を呈する変性疾患の一つであるを示唆する。

⚠️ 麻痺と早期転倒を伴う場合はを疑う。 この疾患で特徴的なのはに瞼を開けられない)であり、四肢のほど前景に立たず左右差も乏しい。対称性の経過、軸性の、発症早期からの易転倒性で区別する。

⚠️ 緩徐進行のは認知症性疾患の一症候でありうる。 記憶障害・など他の認知ドメインの低下を伴って徐々に進行するは、などのを示唆する。急性発症とのの違いが最初の切り分けになる。

⚠️ と誤認されやすい状態を除外する。 理解障害を伴うせん妄うつによるの低下は、いずれも「指示どおりに動作できない」という見かけの所見を作る。麻痺・失調・感覚・理解・注意をひとつずつ確認するを省略すると、これらをと誤認する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["目的ある動作ができない"] --> B["筋力・協調運動・感覚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='level of consciousness'>意識レベル</span>を確認"]
    B --> C{"言語理解は保たれるか"}
    C -->|"障害あり"| D["理解障害を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aphasia'>失語</span>として評価"]
    C -->|"保たれる"| E{"注意・意欲は保たれるか"}
    E -->|"障害あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired attention'>注意障害</span>・せん妄・うつを評価"]
    E -->|"保たれる"| G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>は急性か緩徐進行か"}
    G -->|"急性"| H["脳卒中として画像検査を急ぐ"]
    G -->|"緩徐進行"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropsychological testing'>神経心理検査</span>と頭部MRIで変性疾患を評価"]

(急性か緩徐か)と随伴症状(他の認知ドメイン低下、)を確認し、身体所見で筋力・協調運動・感覚・注意を系統的に除外してから、模倣・実物使用・多段階動作の3水準でそのものを評価する。

対応の考え方

そのものへの根本治療は確立されていない。原疾患が脳卒中であれば急性期治療を、変性疾患であれば原疾患管理を並行して行いつつ、対応の中心はによるな訓練と環境調整になる。動作を細かい手順に分解して繰り返し練習する方法や、実際の・生活場面を使った訓練は、模擬的な身振り課題だけの訓練より生活動作への般化が得やすい。更衣・食事など具体的なADL場面での環境調整(衣服の目印、の配置の単純化)と、への指導(言語指示だけに頼らず、動作を示しながら誘導する)も、による生活障害を軽減する上で重要である。

まとめ

  • は麻痺・失調・感覚障害・理解障害・を除外して初めて残る診断である。
  • は、障害される段階とで整理する。
  • 病変では左手だけのというのパターンが出うる。
  • 急性発症のは脳卒中として画像検査を急ぎ、左右差の強い進行性の経過は麻痺を伴う経過はを疑う。
  • 理解障害を伴う、せん妄・うつによる遂行低下はと誤認されやすく、除外のを省略しない。
  • 対応の中心はによる代償訓練と環境調整であり、根本治療は確立されていない。