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Disease Atlas · 全身 · 先天性疾患

ダウン症候群(21トリソミー)

Down syndrome (trisomy 21)

別名
Trisomy 21
臓器系
全身
科目
GeneticsPediatrics
トピック
遺伝学 2.2:染色体異常小児科 3-60:生存可能な染色体数的異常と代表的構造異常小児科 06:染色体異常
鑑別疾患
エドワーズ症候群・パトー症候群(18・13トリソミー)
続発疾患
急性骨髄性白血病急性リンパ性白血病アルツハイマー病先天性甲状腺機能低下症先天性心疾患(非チアノーゼ性・チアノーゼ性)ヒルシュスプルング病十二指腸閉鎖甲状腺機能低下症閉塞性睡眠時無呼吸
関連疾患
セリアック病ターナー症候群先天奇形(分類の枠組み)
症状
伝音難聴睫毛内反内眼角贅皮
画像所見
ダブルバブルサイン

🧠 全体像は21番染色体が過剰に存在することで生じる、ヒトで最も頻度の高いな常染色体トリソミーである。機序は①標準トリソミー21(減数分裂、約95%)、②(約3〜4%)、③(約1〜2%)の3本柱で理解し、どの機序かによって次子の再発リスクが大きく変わる——これが遺伝の中心軸になる。臨床像は特徴的なにとどまらず、心臓(が代表)・消化管()・血液(・白血病リスク)・内分泌()・骨格()・感覚器(難聴・)・神経発達(知的障害、成人期のリスク)にまたがる全身の多臓器疾患として捉える必要がある。診断は・NIPT)と確定検査(・核型/FISH)、出生後は臨床診断+核型確認で行い、管理は単一の薬物治療ではなく、AAPの健康管理ガイドラインに沿った生涯にわたる多臓器スクリーニングが治療の骨格になる。

病態

3つの細胞遺伝学的機序

は21番染色体物質が過剰になることで生じ、機序は大きく3つに分かれる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trisomy 21'>21トリソミー</span>が生じる3つの機序"]
  A --> B["標準トリソミー21(遊離型)<br>減数分裂時の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-disjunction'>不分離</span>"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Robertsonian translocation'>ロバートソン転座型</span><br>21番染色体が別の染色体(多くは14番)と融合"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mosaicism'>モザイク型</span><br>受精後・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cleavage'>卵割</span>期の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitotic non-disjunction'>有糸分裂性不分離</span>"]
  B --> E["両親核型は通常正常<br>再発リスクは主に母体年齢に依存"]
  C --> F{"転座の由来を核型で判定"}
  F -->|"親が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='balanced carrier'>均衡型保因者</span>"| G["次子の再発リスクが著明に上昇<br>(母<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parent-of-origin'>親由来</span>で高くなりやすい)"]
  F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='de novo translocation'>新生転座</span>"| H["再発リスクは一般人口とほぼ同等"]
  D --> I["正常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell line'>細胞株</span>の混在割合により<br>表現型は軽症化しうる"]

標準トリソミー21が全体の90%超を占め、次いで(約3〜4%)、(約1〜2%)と続く。 頻度の内訳と表現型の対応は、topics/genetics/02-2-chromosomal-aberrationstopics/pediatrics6/3-60-chromosomal-abnormalitiesの両ノートで一致して示されている。

💡 常染色体トリソミーの大半が由来である理由。 精子形成は短期間で進み異常なは減数分裂で排除されやすいのに対し、に始まり減数分裂Iで数十年間停止する。この長期停止の間にが弱まり、しかも異常を破棄する機構が減数分裂I後には備わっていない——これがの約95%が由来(母体年齢とともに頻度が上昇)である根拠になる。

核型の基本

  • 標準トリソミー21(遊離型): 47,XX,+21 または 47,XY,+21。46本の染色体に加えて独立した21番染色体が1本存在する。母体年齢が上がるほど頻度が増す(減数分裂Iの脆弱性・長期停止のため)が、若年妊娠でも発生しうる。
  • 21番染色体のが別のを持つ染色体(多くは14番、まれに13・15・21・22番)のと融合し、46本の染色体のうち1本が転座染色体になる。21番染色体物質そのものは3コピー分過剰であるため表現型はトリソミー21と同一。
  • 受精後の期に生じるにより、正常46,XX/XYのとトリソミー21が同一個体内に共存する。正常の割合が高いほど表現型は軽症化する傾向がある。

機序別の比較と再発リスク

機序 頻度の目安 核型の特徴 次子の再発リスク 両親
標準トリソミー21(遊離型) 90%超 47,+21。減数分裂、約95%が由来 母体年齢に応じて上昇。年齢によるに約1%をするのが目安 通常不要
約3〜4% 46本のうち1本が転座染色体(例:der(14;21))。21番染色体物質は3コピー分過剰 親がなら著明に上昇(母親が保因者でより高くなりやすい)。なら一般人口相当 必須(両親双方)
約1〜2% 正常とトリソミー21が共存 一般に低い(体細胞モザイクで生殖細胞系列は通常正常) 通常は不要(臨床的判断による)

⚠️ は「両親の」の絶対適応である。 保因者の親は次回妊娠の再発リスクが著明に高いため、両親双方のを行わなければ正確なリスク評価ができない(topics/genetics/02-2-chromosomal-aberrationsより)。標準トリソミー21やでは通常この検査は不要である。

臨床像

多発奇形・特徴的がそろえば本症候群を疑う。全身にわたる合併症スクリーニングを前提に臓器別に整理する。

系統 主な所見
・頭頸部 、扁平で幅広い鼻根部、小さい口腔・、後頭部扁平、、短頸
筋骨格・四肢 、短く幅広い手、(第1・2の開大)、関節弛緩、
心血管 が最多
消化管
血液・腫瘍 (特に)・のリスク上昇
内分泌・代謝 ・後年の、1型糖尿病、肥満
骨格・整形外科
感覚器 ・外耳道狭小化)、屈折異常・
神経発達 発達遅滞・知的障害(軽度〜中等度が中心)、による運動発達の遅れ
成人期 早期からの関連病理・認知症リスク上昇

血液・腫瘍:一過性骨髄異常増殖症と白血病リスク

は、の新生児の約10%に生じるの一過性増殖で、多くは生後数か月以内に自然軽快する。⚠️ TAM既往児の一部(約10〜20%)は、乳幼児期にへ進展するため、TAMが自然軽快しても血液学的を継続する必要がある。ではのリスクも一般人口より高い。

内分泌:甲状腺機能低下症

の頻度が一般人口より高いことに加え、年齢とともになど後天性ののリスクも上昇するため、生涯にわたる甲状腺機能スクリーニングが必須になる。

骨格:環軸関節不安定性

(C1-C2)の弛緩・によりを来しうる。⚠️ 無症状の児に対する定期的なX線スクリーニングは、現行のAAPガイドラインでは推奨されていない(後述「治療・管理」参照)——ただし・歩行異常・運動障害・膀胱直腸障害など脊髄圧迫を示唆する症状があれば、画像評価と専門科紹介を行う。

神経発達とアルツハイマー病リスク

21番染色体上にはAPP()遺伝子が存在し、トリソミーによりAPPが3コピー分発現することでの産生・蓄積が促進される。💡 このの増加が、における中年期以降の関連病理の高頻度な出現(多くは40歳代以降に神経が始まる)を説明する分子基盤である——という染色体異常が、成人期にはというのリスク因子として現れる好例といえる。

診断

出生前スクリーニングと確定検査

flowchart TD
  A["妊娠初期〜中期の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quadruple test'>出生前スクリーニング</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='combined first-trimester screening'>コンバインド検査</span><br>(妊娠11〜13週:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuchal translucency, NT'>頸部浮腫肥厚</span>NT+母体血清PAPP-A・遊離β-hCG)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell-free DNA'>細胞遊離DNA</span>スクリーニング(NIPT)<br>母体年齢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='baseline risk'>基礎リスク</span>を問わず全妊婦に提示可能"]
  B --> D{"高リスクと判定"}
  C --> D
  D -->|"高リスク"| E["確定的検査を提案<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorionic villus sampling (CVS)'>絨毛検査</span>(CVS、10〜13週)または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amniocentesis'>羊水検査</span>(15週以降)"]
  D -->|"低リスク"| F["通常の妊婦健診を継続"]
  E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='karyotyping'>核型検査</span>+迅速FISH/QF-PCRで確定診断"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Robertsonian translocation'>ロバートソン転座型</span>と判明した場合<br>両親の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='karyotyping'>核型検査</span>へ"]
  • 妊娠11〜13週に超音波での測定と、母体血清PAPP-A・遊離β-hCGを組み合わせるでは一般にAFP・低下、hCG・上昇というパターンを示し、4マーカーすべてが低下するとは異なる(topics/pediatrics/06-chromosomal-abnormalitiesより)。
  • スクリーニング(NIPT:): 母体血中の胎盤由来DNA断片を解析する検査で、21・18・13トリソミーに対して従来のより高い感度・特異度を持つ。現行のACOG/SMFM Practice Bulletin 226(2020年)では、母体年齢やによらずすべての妊婦にNIPTを提示・相談することが推奨されている。
  • ⚠️ NIPT・はいずれもであり確定診断ではない。 陽性の場合はまたはによるで確定し、スクリーニング結果のみに基づいて妊娠継続の可否など不可逆的な意思決定を行うべきではない。
  • 診断的検査: (CVS、妊娠10〜13週)または(妊娠15週以降)で胎児細胞を採取し、・FISH・で確定する。

出生後の診断

出生後は特徴的ななどのから疑い、末梢球を用いたで確定診断する。は診断確定だけでなく、標準トリソミー21・のいずれかを判定し、遺伝(特に両親の要否)につなげる目的でも必須である。

治療・管理

には単一の治療薬は存在せず、多臓器にわたる構造化されたスクリーニング・が管理の中心になる。以下はの健康管理に関する臨床報告(Bull MJ, et al. “Health Supervision for Children and Adolescents With Down Syndrome.” Pediatrics. 2022;149(5):e2022057010)に基づく代表的なスケジュールである。

領域 推奨されるタイミング
心臓 の有無にかかわらず、生後1か月以内に心エコーを実施(AVSDは無症候性のことがあるため)
血液 生後1か月以内にCBCを確認しを評価、以後は年1回の血液学的フォロー
聴覚 生後1か月以内に耳特異的な聴力評価、生後6か月で再評価、以後は年1回
視覚 生後6か月以内に眼科的評価(閉塞・屈折異常・緑内障・眼振を評価)
甲状腺 結果を確認し、生後6か月・12か月にTSHを測定、以後は年1回(抗甲状腺抗体陽性なら6か月ごと)
睡眠・呼吸 症状の有無によらず4歳までにを実施しを評価
セリアック病 ・消化器症状・原因不明の貧血など症状がある場合に血清学的検査を行う(無症候児への一律スクリーニングは推奨されていない)
無症候性児への定期的なX線スクリーニングは推奨されない・歩行異常・運動障害などの症状があれば画像評価を行う。コンタクトスポーツ参加時・全身麻酔での体位・時は頸部のを避ける

睡眠時無呼吸のスクリーニングは症状の有無で判断してはいけない。 では、いびきなどのは睡眠時無呼吸の存在を予測する指標としてが低いことが知られており、これが症状によらず4歳までの一律のが推奨される根拠になっている。

⚠️ のスクリーニングは2011年のAAP改訂以降、無症候児への定期的なX線撮影から症状ベースの評価へと転換した。 かつてのSpecial Olympics参加要件も、2015年に定期X線撮影から病歴・によるへ変更されている。現在も無症候性であれば画像検査を急ぐ根拠は乏しいが、コンタクトスポーツや全身麻酔の場面では頸部の取り扱いに注意を要する。

このほか、専用のを用いた成長モニタリング、への紹介、発達・学習支援、肥満・2型糖尿病リスクの管理、生涯にわたる甲状腺・聴覚・視覚の年1回評価を継続する。

flowchart TD
  A["出生前後の診断確定"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal period'>新生児期</span>:心エコー・CBC・聴力・甲状腺スクリーニングを1か月以内に開始"]
  B --> C["乳児期:眼科評価(6か月以内)・甲状腺TSH(6・12か月)"]
  C --> D["4歳までに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polysomnography'>ポリソムノグラフィー</span>でOSAを評価"]
  D --> E["生涯にわたる年1回の視覚・聴覚・甲状腺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surveillance'>サーベイランス</span>"]
  E --> F["症状出現時のみ:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atlanto-axial joint'>環軸関節</span>評価・セリアック血清学的検査"]
  F --> G["成人期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive function'>認知機能</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Alzheimer&#39;s disease'>アルツハイマー病</span>関連病理のフォロー"]

まとめ

  • は21番染色体物質の過剰による最も頻度の高いな常染色体トリソミーで、標準トリソミー21(減数分裂、90%超)・(約3〜4%)・(約1〜2%)の3機序に分かれる。は両親の絶対適応であり、次子の再発リスクを大きく左右する。
  • 臨床像は特徴的だけでなく、を代表とするなどの消化管奇形、と白血病リスク、症、、難聴・、知的障害、そして成人期の関連病理まで全身に及ぶ。
  • 診断は・NIPT)と確定的検査(+核型/FISH)、出生後は臨床診断+核型確認で行う。NIPT・はいずれもスクリーニングであり、確定診断にはを要する。
  • 管理は単一薬物治療ではなく、AAPの健康管理ガイドラインに沿った多臓器スクリーニング(の心エコー・CBC・聴力・甲状腺評価、4歳までの、症状ベースの・セリアック評価)を軸とした生涯にわたるである。