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Disease Atlas · 全身 · 症候群

スポーツにおける相対的エネルギー不足

Relative Energy Deficiency in Sport

別名
REDsRED-S
臓器系
全身内分泌・代謝運動器
科目
Internal MedicineObstetrics and Gynecology (Gynecology)
トピック
内科学 L-34:無月経婦人科 02:続発性無月経
続発疾患
疲労骨折骨粗鬆症
関連疾患
機能性視床下部性無月経摂食症(神経性やせ症・過食症)
症状
無月経体重減少倦怠感

🧠 全体像:出発点は(EA)という1つの量である——から運動で使ったエネルギーを引き、残りをで割った値1。ここが足りないと、身体は「今すぐ生きるのに要らない機能」から順に止めていく。生殖機能が止まり、骨形成が止まり、代謝が下がる。 ⚠️ 重要なのは、この病態が「痩せたい女性の話」でも「の背景因子」でもないこと——男性にも起こり、免疫・消化器・心血管・精神まで及び、パフォーマンスそのものを落とす。⚠️ そして枠組みは1つではない——IOC の REDs とはどちらも現行であり、互いに批判し合っている。

⚠️ 「三主徴は RED-S に置き換わった」は正しくない

よくある説明は「・・からなるは、性別を問わない広い概念である RED-S へ再定義された」というものである。この説明は経緯としても現状としても不正確である。

女性・男性アスリートの REDs
提唱 ACSM position stand(1997年・2007年)、Triad Coalition (2014年)、2025年更新2 IOC 2014年・2018年・2023年1
構成 エネルギー状態・生殖機能・骨の健康の3つの連続体2 LEA を中心に据え、・生殖・筋骨格・免疫・・心血管・血液など多系統の転帰1
対象 女性版と男性版が別々のとして存在する 女性・男性を1つの定義に含む1
現行版 2025年更新(思春期女性の新モデルを導入)2 2023年 IOC 1

⚠️ 2つは併存しており、点がある。 Triad Coalition の2025年更新は、REDs モデルに含まれる消化器・免疫の転帰にはとの因果を支持するが無いこと、男性への適用も因果を示すデータが無いまま行われていることを懸念として明示している2。さらに2023年の IOC 更新版は女性・男性アスリートのへの言及を一切削除し、の診断・予防・治療・に特化した臨床情報を含んでいないとも指摘している2。

⚠️ ただしこの「一切削除した」は文字どおりには成り立たない。 IOC の2023年の本文には、教育・啓発の節に「調査された指導者・の半数未満しかの3要素を挙げられなかった」という一文があり、引用文献表にはの(2007年 ACSM position stand、2014年 Triad Coalition 声明、2021年の男性アスリート part 1・2 など)が多数並んでいる1。成り立つのは後半——の診断・治療・に特化した臨床情報を置いていない——のほうである。 する2団体の相互批判は、どちらの側も一次資料に当たって射程を確かめる。

💡 ただしばかりではない。 同じ2025年更新が、の構成要素(・生殖機能の障害・と)は REDs の転帰のうち最もが高く、エネルギー不足との因果を支持する証拠が最も強い部分であり続けると述べている2。実務上は「REDs の最も重い提示がである」と読めば、両者は矛盾しない。

⚠️ 表記も揺れている。 2023年の IOC は、理解と普及のために略号を RED-S から REDs へ改めた1。文献の年代で綴りが変わるので、検索するときは両方を当てる。

病態 — エネルギー利用可能性

(EA)=−\text{(EA)} = \frac{\text{} - \text{}}{\text{}}

として、kcal/kg /日の単位で表す1。⚠️ 総摂取カロリーではない。 摂取が多くても運動で使い切れば EA は低い——「たくさん食べているから大丈夫」は成立しない。

REDs の2023年定義は、「問題となる(遷延したまたは重度の)への曝露によって引き起こされる、女性および男性のアスリートが経験する生理学的および/または心理学的機能障害の症候群」であり、悪影響として・生殖機能・の健康・免疫・・および血液系の健康の低下が挙げられている1。

⭐ 2023年版の要点は「LEA すべてが病気ではない」という区別を導入したことである。

LEA 問題となるLEA
影響 良性で、速やかに可逆なの変化にとどまる 身体諸系のより大きく持続しうる破綻
位置づけ ヒトのの表れ。計画的な調整やとして年間計画に組み込みうる 不適応な反応。徴候・症状を伴って現れることが多い
帰結 REDs ではない REDs

出典は両者を連続体として描いており、期間・大きさ・頻度と、個人の(性・年齢・遺伝など)によってどちら側になるかが決まるとする1。

⚠️ 「30 kcal/kg FFM/日」を診断基準として使わない

古典的には、座位中心の女性を対象とした研究から45以上を高値、約45を体重維持に足る値、30〜45を減量域、30以下を健康への影響が生じる域とする区分が示され1、ACSM の2007年 position stand も「多くの影響は30 kcal/kg /日を下回る EA で生じるとみられる」と述べていた3。

しかしこの閾値は今は診断に使わない。

  • IOC 2023年版は、この30という値が少数の座位中心の女性を対象とした短期の実験室研究に基づくものであり、診断のではなく指針として意図されたものだと本文で明記している1。
  • 男性の閾値はさらに分かっておらず、概ね9〜25 kcal/kg FFM/日とより低いとみられる1。男性に女性の30をそのまま当てない。
  • Triad Coalition の2025年更新も、の閾値という概念から離れる方向で基準を改訂することを支持している4。

💡 同じに別々の枠組みが到達している。 数値で線を引く時代は終わり、指標の集積で重症度を測る方向へ移った。

臨床像 — 疲労骨折だけを見ない

flowchart TD
    A["問題となる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low energy availability (LEA)'>低エネルギー利用可能性</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothalamic-pituitary-gonadal axis'>視床下部-下垂体-性腺軸</span>の抑制"]
    A --> C["甲状腺ホルモン・代謝の低下"]
    A --> D["骨形成の低下と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone resorption'>骨吸収</span>の亢進"]
    A --> E["免疫・消化管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiovascular'>心血管系</span>への影響"]
    A --> F["精神症状(先行することも結果として生じることもある)"]
    B --> G["女性:機能性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothalamic'>視床下部性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligomenorrhea'>希発月経</span>・無月経<br>男性:テストステロン低値"]
    C --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resting metabolic rate'>安静時代謝率</span>の低下・寒がり・徐脈"]
    D --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low bone mineral density'>低骨密度</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone stress injury'>骨ストレス損傷</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stress fracture'>疲労骨折</span>)"]
    G --> I
    B --> J["不妊・骨量獲得の障害"]
    A --> K["パフォーマンス低下<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='endurance'>持久力</span>・筋力・回復・傷害リスク"]

⚠️ の幅が大きい。 LEA/REDs 指標の推定は女性23〜79.5%、男性15〜70%と報告されており1、これは疾患の稀少さではなく定義と測定法が定まっていないことを反映している。

⚠️ 男性が見落とされてきた。 2018〜2022年の原著研究のうち男性アスリートを対象としたものは20%にとどまる1。「女性の病気」という先入観が、男性の低テストステロン・を見逃す。

⚠️ も高リスク。 パラリンピック準備中の米国選手では62%が競技力向上のため体重・の変更を試み、32%が摂食行動ので病的行動の高値を示し、女性選手の44%がを報告した1。

診断 — IOC REDs CAT2

2023年版は臨床評価ツールの第2版(IOC REDs CAT2)を導入した。3段階の手順をとる1。

  1. スクリーニング(安価で実施しやすい方法でリスク者を拾い上げる)
  2. 重症度/——一次指標・二次指標(、骨密度、傷害歴など)の集積により、green・yellow・orange・red の4段階に層別する
  3. による診断と、を統合した治療計画

⚠️ 一次指標にあたるのは、による続発無月経(女性)・低テストステロン(男性)・低T3・の既往・骨密度の低値・などである1。構成項目そのものと配点は著作権のあるツールなので、ここには転載しない。

層 スポーツ参加の扱い
green 訓練・競技への完全参加
yellow 継続的な監視
orange 集中的な医学的介入と監視
red 全面的な医学的支援と、競技・訓練からの離脱の検討

出典は、この層別化を単独で用いず診断のみに使わないこと、また表の全指標を評価できない場合はが落ちることを注記している1。

治療

治療の第一の目標は、を増やすかを減らすことで EA を回復させることである——これは1997年以来ずっと変わっていない3。IOC 2023年版も、yellow・orange・red に層別された症例を治療対象とし、問題となる LEA とその背景要因を反転させながら、・消化管機能障害・抑うつなどの身体系の機能障害を補助的に治療するとしている1。

⚠️ 「月経が戻ったから治った」としない。 Triad Coalition の2025年更新は、エネルギー不足によるは中等度の摂取増加とわずかな体重増加で回復しうるが、月経の再開だけでは高率の排卵や濃度の上昇には結びつかず、正常長のが連続して複数回得られて初めて回復とみなせるとしている4。

⚠️ 経口避妊薬で「月経を戻す」ことは治療ではない。 ACSM の2007年 position stand は、のアスリートにおいてを十分に回復させ代謝異常を是正する薬剤は無いと述べている3。でを起こしても、根本のエネルギー不足は変わらず、回復の指標であるはずの月経が見えなくなるだけである。

  • 治療は多職種で行う——、、があれば精神保健の専門職。
  • 思春期のアスリートは成人と別に考える。 2025年更新は、思春期の診断・治療・の考え方が成人と異なり、年齢に応じた臨床指針を要するとして新しいモデルを導入した24。骨量のピークを獲得する時期に生じた不足は、後から取り戻せるとは限らない。

鑑別

無月経・体重減少・疲労という組合せは REDs に特異的ではない。REDs は除外を経て診断する。

  • :合併しうるが同義ではない。が無くても REDs は起こる(意図せずエネルギー摂取が消費に追いつかない場合)。逆にがあれば REDs の重症度は上がる。
  • 妊娠、、、、甲状腺機能低下症:の一般的な原因。先に除外する。
  • セリアック病・などの吸収不良:意図せぬ体重減少とエネルギー不足を作る。
  • :パフォーマンス低下・易疲労が重なり、REDs と併存もする。

まとめ

  • 起点は総摂取カロリーではなく(( − )÷ )である。
  • RED-S ではなく REDs が2023年 IOC の表記であり、女性・男性の両方を対象とし、生殖・骨だけでなく免疫・消化器・心血管・精神・パフォーマンスまで含む。
  • ⚠️ 「は RED-S に置き換わった」は誤り。 の枠組みは2025年に更新され現行であり、REDs モデルの因果の証拠水準を批判している。実務上は「REDs の最も重い提示が」と読む(この読み方は Triad Coalition 自身が2025年更新で述べている)。
  • ⚠️ 30 kcal/kg /日をとして使わない。 IOC も Triad Coalition も単一閾値から離れており、男性の値はさらに低いとみられる。
  • 診断は IOC REDs CAT2 の3段階(スクリーニング→ green/yellow/orange/red の層別化→の診断)で行い、層に応じて競技参加を調整する。
  • 治療の第一目標は EA の回復。月経の再開だけを回復の指標にしないし、経口避妊薬で月経を「戻す」ことは治療ではない。
  • 反復する、男性の低テストステロン、の体重操作は、いずれも REDs を疑う入口になる。

出典

  1. 1.2023 International Olympic Committee's (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs)(British Journal of Sports Medicine・2023)略号が理解と普及のために RED-S から REDs へ変更されたこと、IOCが2014年に初めて提唱し2018年に更新したこと、2023年の定義が「問題となる(遷延したまたは重度の)低エネルギー利用可能性への曝露によって引き起こされる、女性および男性のアスリートが経験する生理学的および/または心理学的機能障害の症候群」であり、その悪影響がエネルギー代謝・生殖機能・筋骨格系の健康・免疫・グリコーゲン合成・心血管系および血液系の健康の低下を含むこと、エネルギー利用可能性が(摂取エネルギー−運動エネルギー消費)÷除脂肪量で表されること、習慣的に座位中心の女性を対象とした初期研究では45 kcal/kg FFM/日以上が高値、約45が体重維持に足る値、30〜45が減量域、30以下で健康への影響が生じるとされたが、この単一閾値は少数の座位中心女性を対象とした短期の実験室研究に基づくもので診断の終点ではなく指針として意図されたものであると本文が明記していること、男性の閾値はさらに不明で概ね9〜25 kcal/kg FFM/日と低いとみられること、LEA/REDs指標の推定有病割合が女性23〜79.5%・男性15〜70%と幅広いこと、2018〜2022年の原著研究のうち男性アスリートを対象としたものが20%にとどまること、CAT2が①スクリーニング②一次・二次指標の集積による重症度/リスク層別化(green・yellow・orange・redの4段階)③医師による診断と治療計画、の3段階からなること、緑が訓練と競技への完全参加、黄が継続的な監視、橙が集中的な医学的介入と監視、赤が全面的な医学的支援と競技・訓練からの離脱の検討に対応すること、黄・橙・赤に層別された症例を治療対象とすること、パラアスリートを対象とした調査でパラリンピック準備中の米国選手の62%が競技力向上のため体重・体組成の変更を試み、32%がEDE-Qの病的行動下位尺度で高値、女性選手の44%が月経障害を報告したこと(ペイウォールのため Hacettepe大学の機関リポジトリが公開している同論文のPDFで全文を閲覧した)閲覧 2026-09-03
  2. 2.2025 Update to the Female Athlete Triad Coalition Consensus Statement Part 1: State of the Science and Introduction of a New Adolescent Model(Sports Medicine・2026)女性アスリートの三主徴がエネルギー状態・生殖機能・骨の健康という相互に関連する3要素と定義され、2025年更新で思春期女性アスリートに固有の新しいモデルが導入されたこと、エネルギー状態の連続体に「エネルギー不足」と「代謝的代償」が、生殖機能の連続体に卵巣ステロイドホルモン曝露と機能性視床下部性希発月経・無月経が、骨の健康の連続体に骨ストレス損傷が加えられたこと、本文が「三主徴は RED-S として広く記述される病態の基礎である」と位置づけていること、RED-Sモデルには低エネルギー利用可能性との因果を支持する無作為化比較試験が無い転帰(消化器・免疫)が含まれ、男性への適用も因果を示すデータが無いまま行われているとの懸念を述べていること、2023年のIOC更新版が女性・男性アスリートの三主徴への言及を一切削除し三主徴の診断・予防・治療・競技復帰に特化した臨床情報を含んでいないと指摘していること、それでも三主徴の構成要素(摂食症、生殖機能の障害、低骨密度・骨ストレス損傷)はREDs転帰のうち最も有病割合が高くエネルギー不足との因果を支持する証拠が最も強い部分であり続けると述べていること閲覧 2026-09-03
  3. 3.American College of Sports Medicine position stand. The female athlete triad(Medicine & Science in Sports & Exercise・2007)三主徴がエネルギー利用可能性・月経機能・骨密度の相互関係を指し、臨床的には摂食症・機能性視床下部性無月経・骨粗鬆症として現れうること、アスリートが健康と疾患の間の連続体上に分布し病的な端にいる者でもこれらの臨床像を同時に全て示すとは限らないこと、エネルギー利用可能性が食事による摂取エネルギーから運動エネルギー消費を差し引いたものと定義されること、低エネルギー利用可能性が三主徴において生殖と骨の健康を損なう因子とみられ、意図的・非意図的・精神病理的のいずれでも起こりうること、多くの影響が30 kcal/kg除脂肪量/日を下回るエネルギー利用可能性で生じるとみられること、いずれの構成要素についても治療の第一の目標が摂取エネルギーの増加および/または運動エネルギー消費の減少によってエネルギー利用可能性を高めることであること、機能性視床下部性無月経のアスリートにおいて骨量減少を十分に回復させ代謝異常を是正する薬剤は無いこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-03
  4. 4.2025 Update to the Female Athlete Triad Coalition Consensus Statement Part 2: Clinical Guidelines for Screening, Diagnosis, Treatment, and Return to Play for Adolescents and Adults(Sports Medicine・2026)近年の研究がエネルギー不足の定義と治療の基準を改訂することを支持しており、エネルギー利用可能性の閾値という概念から離れる方向であること、エネルギー不足による月経障害は中等度の食事摂取増加とわずかな体重増加で回復しうるが、月経の再開だけでは高率の排卵や卵巣ステロイド濃度の上昇には結びつかず、正常長の月経周期が連続して複数回得られるまでは回復とみなせないこと、骨の健康の連続体に骨ストレス損傷が加えられたこと、思春期アスリートの診断・治療・競技復帰の考え方が成人と異なり年齢に応じた臨床指針を要すること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-03