精神医学

精神医学 · A-06

重度・軽度神経認知障害(認知症):病因・診断基準・臨床管理

Major and minor neurocognitive disorders (dementia): etiology, diagnostic criteria and clinical management

前提:病態
神経変性疾患・プリオン病
前提:正常
アセチルコリンの合成と代謝学習と記憶(LTP)
疾患
アルツハイマー病血管性・レビー小体型・前頭側頭型認知症など非アルツハイマー型認知症認知症
症状
REM睡眠行動異常症
スコア
MoCA

🧠 全体像:は、以前より低下したをに確認し、日常生活の自立が失われれば重度NCD(認知症)、自立が保たれれば軽度NCDとする。診断ではせん妄を先に除外し、治療可能な原因と病型を見極め、本人・を長期に支える。

重度と軽度の違い

項目 軽度NCD(mild NCD) 重度NCD(major NCD)
軽度だが本人・・検査で確認 明らかな低下を確認
生活機能 は工夫して自立 が日常生活の自立を妨げる
対象領域 、、学習・記憶、言語、、の1領域以上 同左
共通除外 せん妄中だけの症状ではなく、他の精神疾患でよりよく説明されない 同左

「物忘れがある」だけでなく、服薬、金銭、調理、移動、連絡などがどこまで自立しているかが境界を決める。

主な病型

病型 早期の手掛かり 病理・背景
低下、徐々に進行 、
脳卒中との時間関係、低下、局在徴候 ・など
、具体的、REM睡眠行動異常、 ;抗精神病薬過敏に注意
運動症状が認知症より十分先行
早期の人格・行動変化、、、 前頭・変性

その他に外傷、、、アルコール関連、・・、薬剤、代謝・などがある。

診断アプローチ

flowchart TD
    A["本人・家族から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive decline'>認知低下</span>と経過を聴取"] --> B{"急性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluctuating'>変動性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired attention'>注意障害</span>か"}
    B -->|"はい"| C["せん妄として原因を緊急検索"]
    B -->|"いいえ"| D["認知検査+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activities of daily living'>ADL</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='instrumental activities of daily living'>IADL</span>評価"]
    D --> E["薬剤、抑うつ、感覚障害、身体/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological examination'>神経診察</span>"]
    E --> F["選択的血液検査と脳画像"]
    F --> G["病型・重症度を診断し支援計画"]

基本評価

  • 発症時期、進行速度、認知領域、行動・精神症状、運転、転倒、服薬、金銭、・、虐待・脆弱性を確認する。
  • などはスクリーニングであり、教育・言語・文化・視聴覚障害を考慮する。
  • 血算、電解質、Ca、血糖、肝腎機能、、ビタミンB12・葉酸などを臨床に応じて選ぶ。
  • を優先し、腫瘍、、正常圧水頭症、血管病変、萎縮パターンなどを評価する。救急や困難時はが有用である。
  • 急速進行例、若年発症、非典型例では感染・自己免疫・遺伝・髄液・機能画像・を専門的に検討する。

治療

薬物療法

治療 主な位置づけ 注意
、 ;軽度〜中等度のレビー小体型には提供し、重度でも検討 消化器症状、徐脈、失神、体重減少
;レビー小体型では・に不耐の場合に限り検討 消化器症状、徐脈、失神、体重減少
中等度〜重度;レビー小体型では阻害薬が禁忌・不耐の場合に検討 めまい、便秘、
(・) で確認した早期の一部で承認されている12 ARIA、監視、抗凝固薬等のリスク;に従う

には阻害薬・を提供しない。純粋なにも、、、の併存が疑われない限り、これらを提供しない。

行動・心理症状では、痛み、感染、便秘、環境、介護負担などを先に評価し、個別化した非薬物介入を優先する。抗精神病薬は死亡・等のリスクがあるため3、重度の苦痛または危険があり他の方法が無効な場合に、最小量・最短期間で再評価する。では悪化と重篤な過敏反応を起こし得るため、可能な限り避ける。は抗うつ薬であり、抗精神病薬ではない。

💡 の効果量の臨床的意義は議論が続いている。 の第3相試験ではCDR-SB(0〜18点)の18か月時点の悪化が比で0.45点小さかった(95%CI -0.67〜-0.23)4。この差をどこまで「臨床的に意味がある」とみなすかは評価基準によって見解が分かれており、ARIA(脳浮腫・)という薬剤特有のリスク21と比較検討したうえでの適応判断が必要になる。

非薬物・支持療法

  • 本人の能力と好みに合わせた、運動、、作業活動
  • 転倒、火気、徘徊、服薬、金銭、運転を含む環境安全化
  • 高血圧、糖尿病、脂質、聴力、睡眠、喫煙などなリスクの管理。2024年のLancet認知症委員会報告は、と高コレステロールを新たな危険因子に加え、な危険因子を14項目に拡大した5
  • 教育、、地域資源、意思決定支援
  • が保たれる早期からを話し合う

鑑別の軸:うつ病による、せん妄、薬剤性、感覚障害を「認知症だから」と見逃さない。

まとめ

  • は、が日常生活の自立を妨げれば重度NCD(認知症)、自立が保たれていれば軽度NCDとする。
  • 診断ではまずせん妄を除外し、認知検査・/評価、薬剤・抑うつ・感覚障害の確認、選択的血液検査とで病型を絞り込む。
  • 主な病型は(低下)、(脳卒中との時間関係)、(・・REM睡眠行動異常)、、(早期の人格・行動変化)である。
  • ・は病型ごとに位置づけが異なり、や純粋なには通常提供しない。
  • 行動・心理症状では痛み・感染・便秘・環境要因を先に評価し、抗精神病薬は死亡・等のリスクがあるため最小量・最短期間で再評価する。では可能な限り避ける。
  • うつ病による、せん妄、薬剤性、感覚障害を「認知症だから」と見逃さない。

出典

  1. 1.KISUNLA (donanemab-azbt) injection, for intravenous use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed)・2025)ドナネマブ添付文書が、機序(沈着した不溶性のN末端切断型ピログルタミン酸アミロイドβに対するヒト化IgG1モノクローナル抗体)、適応(アルツハイマー病による軽度認知障害・軽度認知症、アミロイド病理確認が前提)、ARIA-Eが全体で24%(プラセボ2%)、症候性ARIA-EがApoEε4ホモ接合体8%・ヘテロ接合体7%・非保有者4%であることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.LEQEMBI (lecanemab-irmb) injection, for intravenous use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / Eisai Inc.(DailyMed、Updated 2026-07-21)・2026)レカネマブ添付文書が、抗凝固薬単独または抗血小板薬・アスピリンとの併用を受けていた患者での頭蓋内出血の発現率を2.5%(2/79例、プラセボ群は0例)と報告し、ARIAの局所神経症状が出ている状況で血栓溶解薬を使用した患者に致死性脳出血が生じた例があることを確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.RISPERDAL (risperidone) tablets, orally disintegrating tablets, and oral solution — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / Janssen Pharmaceuticals, Inc.(DailyMed)・2026)添付文書のBoxed Warning(Increased Mortality in Elderly Patients with Dementia-Related Psychosis)が、17件のプラセボ対照試験(通常10週間)の解析で抗精神病薬治療群の死亡リスクがプラセボ群の1.6〜1.7倍、10週間の死亡率が薬物治療群約4.5%・プラセボ群約2.6%であったこと、死因の多くが心血管性または感染性であったこと、観察研究では定型抗精神病薬でも同様の死亡率上昇が示唆されることを報告している。本剤は認知症関連精神病の治療に承認されていない閲覧 2026-08-26
  4. 4.Lecanemab in Early Alzheimer's Disease(The New England Journal of Medicine・2023)早期アルツハイマー病1795例を対象とした18か月間の第3相試験(Clarity AD)で、主要評価項目CDR-SB(範囲0〜18、高いほど重症)の変化がレカネマブ群1.21・プラセボ群1.66(群間差-0.45、95%CI -0.67〜-0.23、P<0.001)であったこと閲覧 2026-08-26
  5. 5.Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission(The Lancet・2024)2024年改訂のLancet認知症委員会報告が、2020年版の12項目(低学歴、難聴、高血圧、喫煙、肥満、うつ病、身体不活動、糖尿病、多量飲酒、外傷性脳損傷、大気汚染、社会的孤立)に、未矯正の視覚障害と高LDLコレステロールを新たな危険因子として追加し合計14項目としたこと、この14項目が理論上、認知症の約半数に寄与しうる(人口寄与割合ベース)と試算したこと閲覧 2026-08-26