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Disease Atlas · 眼科 · 症候群

Charles Bonnet症候群

Charles Bonnet syndrome

別名
シャルル・ボネ症候群CBS
臓器系
眼科神経
科目
Neurology
トピック
神経学 G2-12:側頭葉・後頭葉障害の症候
鑑別疾患
せん妄脚橋幻覚症血管性・レビー小体型・前頭側頭型認知症など非アルツハイマー型認知症
症状
幻視視力低下
原因となる疾患
加齢黄斑変性

🧠 全体像:は、視覚経路からの入力が減ったこと自体が引き起こすである。病変は目(または)にあって精神にはない。だから診断の核心は「何が見えるか」ではなく、だと本人が分かっていること・が視覚だけに限られること・が確認できることの3点にあり、ここが・せん妄・との分かれ目になる。治療も抗精神病薬から始めるのではなく、説明と安心づけ、そして見えるようにすることから始める。

診断の4要件

要件 中身
複雑で形をもつ反復性の 人物・顔・動物・昆虫・建物・風景・反復する幾何学模様
が保たれている 見えているものが実在しないと本人が分かっている
精神疾患・せん妄・認知症が無い 意識と認知が保たれ、に説明のつく病変が無い
がある 眼またはの疾患による部分的な視力・視野の喪失

4つがそろって初めて診断が成立する1。

⚠️ が保たれていることは付随所見ではなく診断要件に挙げられている。(⚠️ ただし同じ資料の本文は「多くは実在しないと認識する」とも書いており、初期にはが不完全なこともある。)が明らかに失われているなら本症ではなく、せん妄・認知症・を優先して評価する。⭐ 逆に言えば、高度のがある高齢者が「実在しないと分かっている像」を見ると訴えたとき、それを加齢による当たり前の変化として片付けてはならない——本症という名前のついた病態であり、説明するだけで患者の苦痛が大きく減る。

⚠️ 定義の外縁はまだ動いている。 本症はに収載されたが、その定義はを「複雑」なものに限っており、眼科診療で最も多い単純な(幾何学模様や光の点滅)をもつ患者が定義から外れてしまう。2023年の学術シンポジウムの提言は、と複雑の双方を含む定義に改めるよう求めている2。

求心路遮断——「見えない」と「見える」が同居する理由

flowchart TD
    A["網膜・視神経の疾患による視覚入力の減少"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual association cortex'>視覚連合野</span>へ届く<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antegrade'>順行性</span>信号が減る"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual cortex'>視覚皮質</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>され自発活動が高まる"]
    C --> D["外界に対応しない像が生成される"]
    D --> E["視覚入力は失われたままだが<br>認知と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reality testing'>現実検討</span>は保たれている"]
    E --> F["「実在しない像」として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='awareness (subjective)'>自覚</span>される<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insight'>病識</span>が保たれた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual hallucination(s)'>幻視</span>"]

💡 感覚が失われた領域を中枢が勝手に埋めるという点で、や難聴に伴うと同じの一族として理解できる。

⚠️ 機序は決着していない。 興奮性・抑制性神経伝達の不均衡、視覚領の、を欠いたままの逆行性信号、血流変化、の過興奮といった仮説が競合している段階であり、どれかが証明されたわけではない2。上の図は「入力の喪失が引き金である」という共通部分だけを表している。

背景となる眼疾患

視力がおよそ6/18を下回るか高度のが生じた段階で起こりやすい1。

頻度

を対象にした系統的レビュー・(18研究・4,303例超)では、全体15.8%(95%CI 11.0〜21.2%)だった3。

の全体 15.8%(95%CI 11.0〜21.2%)
外来で連続的に組み入れた 7.2%(95%CI 4.3〜10.6%)
施設の利用者 31.6%(95%CI 21.7〜42.3%)

💡 同じ疾患でもどこで測ったかで4倍以上ちがう。を受けている集団で高いのは、より重いが集まっているためだろう。加えて、通常の外来ではを尋ねられることがまれで、そのぶん低く出る——本症は尋ねなければ出てこない症状である2。

鑑別

疾患 分かれ目
・・を伴う()
せん妄 急性の意識変容とを伴い、が失われる
を欠き、聴覚性・触覚性のやを伴う
中脳の病変がで確認される
睡眠と覚醒の移行期または夜間の覚醒に結びついて生じる

・せん妄・・の4つは出典の鑑別節に挙げられている区別である1。の行はによる。

⭐ が視覚だけに限られる(声も触覚も伴わない)ことは、を外すうえで実用的な手掛かりになる1。

治療

⭐ 順番が決まっている。

  1. 説明と安心づけ——すべての患者に、薬物療法より先に行う。症状がの結果であって精神疾患やの徴候ではないと伝えることが、心理的な影響を和らげると示されている12。
  2. 視覚機能の最適化——、、。頻度と強度を減らしうる1。
  3. 環境と行動の工夫——薄暗い照明・疲労・・不活動がを増やすので、照明を明るくし、活動と会話を保つ。発作中にする、視線を素早く動かすといった患者自身の対処法も広く使われている12。
  4. 薬物療法——苦痛が強い例に限る。

⚠️ 薬物療法を第一選択にしない。 抗精神病薬・・・がの減少と関連づけられてきたが、根拠は主に症例報告と小規模の症例集積で、無作為化試験は無く、確定的な薬剤推奨は存在しない12。本症に特化した診療ガイドラインも未整備で、施設間で記載と管理にばらつきがある2。

予後

  • の持続は6〜18か月であることが多く、60〜80%の患者が1〜2年以内にまたはを報告する1。
  • が可逆であれば(など)、視機能の改善とともに消退しうる1。
  • ⭐ 精神病や認知症へ進行しない。 この一点を伝えられることが、説明と安心づけが治療になる理由である1。

まとめ

  • 視覚経路のによってがされ、外界に対応しない像が生成されるである。
  • 診断は複雑な・保たれた・精神疾患やせん妄や認知症の非存在・確認されたの4要件で成立する。
  • は純粋に視覚性で、聴覚・触覚を伴わない。数秒〜数分の発作が1日に複数回起こる。
  • が最多の原因で、同疾患でのは全体15.8%、施設の利用者では31.6%と集団によって大きく異なる。
  • 高齢の者が「実在しないと分かっている像」を訴えたら、加齢による変化とせず本症を考える。
  • 治療は説明と安心づけ、視覚機能の最適化、環境と行動の工夫が先で、薬物療法は苦痛が強い例に限る。
  • 多くは6〜18か月で軽快し、精神病や認知症へ進行しない。

出典

  1. 1.Charles Bonnet Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)診断が複雑で形をもつ反復性の幻視・保たれた病識・精神疾患やせん妄や認知症の非存在・部分的な視覚障害の4要件で成立すること、幻視が純粋に視覚性で聴覚要素や触覚要素を伴わないこと、1回の幻視が数秒から数分続き1日に複数回反復しうること、薄暗い照明・疲労・感覚遮断・不活動が頻度を増やし明るい光や能動的な関わりが抑えうること、視力がおよそ6/18を下回るか高度の視野狭窄が生じた段階で発症しやすいこと、原因眼疾患として加齢黄斑変性が最多で緑内障・糖尿病網膜症・網膜色素変性・視神経炎や虚血性視神経症・白内障や角膜混濁・網膜剥離や網膜中心動脈閉塞症が挙げられること、鑑別としてレビー小体型認知症はパーキンソニズムを伴う点・せん妄は急性の意識変容を伴う点・精神病性障害は病識を欠き聴覚性や触覚性の幻覚と妄想を伴う点・脚橋幻覚症は中脳病変を画像で伴う点で区別されること、安心づけと教育がすべての患者に薬物療法より先に提供されるべき第一選択であり白内障手術・屈折矯正・低視力補助具による視覚機能の最適化が頻度と強度を減らしうること、薬物療法は小規模の症例集積にとどまり無作為化試験を欠くこと、患者の60〜80%が1〜2年以内に部分寛解または完全寛解を報告し幻視の持続は6〜18か月であることが多いこと、本症が精神病や認知症へ進行しないことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.From research to action: recommendations for Charles Bonnet syndrome care and policy(BMJ Open Ophthalmology・2025)2023年11月にロンドンで開催された本症初の学術シンポジウムの参加者がまとめた提言論文であり、本症が国際疾病分類第11版に収載されたこと、その定義が幻視を「複雑」なものに限っているため眼科診療で最も多い単純な要素性幻視をもつ患者が定義から外れてしまうこと、精神医学では「視覚性解放幻覚」という語が用いられるなど分野間で用語が割れていること、病態機序として視覚野の興奮性・抑制性神経伝達の不均衡、視覚領の自発発火、順行性入力を欠いたままの逆行性信号、視覚領の血流変化、腹側経路の過興奮といった複数の仮説が競合しており決着していないこと、患者管理が安心づけと教育を主体とし症状が視覚障害の結果であって精神疾患や神経疾患の徴候ではないと説明することが心理的影響を和らげると示されていること、抗精神病薬・抗てんかん薬・抗認知症薬・選択的セロトニン再取り込み阻害薬が幻視の減少と関連づけられてきたが根拠の質は主に症例報告に由来して低く確定的な薬剤推奨は存在せず処方されることはまれであること、患者が瞬目や急速な眼球運動・照明を明るくする・注意をそらすといった対処法を自ら編み出していること、本症に特化した診療ガイドラインが未整備で施設間の記載と管理にばらつきがあること、医療者側にも本症を話題にすることへの躊躇があることを、本文の各節で確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Prevalence of Charles Bonnet syndrome in patients with age-related macular degeneration: systematic review and meta-analysis(Acta Ophthalmologica・2020)加齢黄斑変性患者4,303例超を含む18研究の系統的レビュー・メタ解析で、Charles Bonnet症候群の全体有病率が15.8%(95%CI 11.0〜21.2%)であったこと、外来で連続的に組み入れた滲出型加齢黄斑変性患者では7.2%(95%CI 4.3〜10.6%)であったこと、視覚リハビリテーション施設の利用者では31.6%(95%CI 21.7〜42.3%)であったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03