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Disease Atlas · 神経 · 疾患

脚橋幻覚症

Peduncular hallucinosis

別名
脚幻覚症
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-06:中脳障害の症候群
鑑別疾患
Charles Bonnet症候群せん妄血管性・レビー小体型・前頭側頭型認知症など非アルツハイマー型認知症
症状
幻視

🧠 全体像:は、中脳・視床という「を作る配線」そのものが壊れて生じるである。が「見えなくなった入力を脳が埋め合わせる」病態なのに対し、は視覚入力の経路とは別の場所(脳幹・視床)の器質病変が原因になる。⭐ だから鑑別の決め手は「視力障害があるかどうか」ではなく、でその病変そのものが写るかどうかである1。1922年にLhermitteが報告して以来ほぼ100年、単発の症例報告の蓄積でしか語られてこなかった疾患であり、⭐ 多くは数日〜数週間で自然に軽快するという予後の良さも共通している。

責任病巣——脳幹・視床の「配線異常」

の原記載は、Lhermitteが1922年に報告した72歳女性の症例である。頭痛・めまい・・に続いて、野生動物や色彩豊かな人物のが出現した1。

病変は脳幹(中脳を含む)・視床にあり、機序としてはの破壊が関与するとされる1。ただし機序について確立した合意はなく、より整った形をもつは中脳・に、より単純なは視覚経路構造のに関連するという仮説にとどまる2。

flowchart TD
    A["中脳・視床・橋の器質病変<br>(脳卒中・腫瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brainstem compression'>脳幹圧迫</span>・感染)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticular activating system'>網様体賦活系</span>の破壊"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arousal'>覚醒レベル</span>と感覚処理の調節が乱れる"]
    C --> D["視覚入力とは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unrelated'>無関係</span>に<br>鮮やかで具体的な視覚像が生成される"]
    D --> E["夕方〜夜間に出現しやすい<br>複雑で色彩豊かな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual hallucination(s)'>幻視</span>"]

原因はさまざまな脳幹・視床病変にわたる。ある症例集積(85例)ではに関連するものが43例、腫瘤病変によるものが10例だった2。脳卒中・感染・腫瘍によるが代表的で、橋のや視床のでの報告がある12。

臨床像

は複雑で自然な色彩をもち、主に視覚性で、数分から数時間持続し、特に夕方に出現しやすい1。人物・動物といった具体的な対象が、暗い色調から鮮やかな色彩まで幅をもって現れる2。

⭐ 本人が「実在しない」と分かっていることが多い。 と同様、は保たれ、をと感じないことが多い2。

鑑別——同じ「病識の保たれた幻視」でも分かれ目がある

疾患 分かれ目
自体の診断は複雑な・保たれた・精神疾患やせん妄や認知症の非存在・確認されたの4要件で成立する3。・視力障害を伴わない点でと区別され、は脳幹・視床の器質病変がで確認される1
・進行性の・を伴う。が無くが保たれていればを優先する1
せん妄 急性の意識変容・・を伴う1
(など) との間に正常な精神状態が保たれない(持続的な症状)。は発作性で、は正常である1

⚠️ 鑑別に挙がる疾患の幅が広い。 ・パーキンソン病・片頭痛も鑑別に含まれる1。「が保たれた」という所見だけで安心せず、脳幹・視床を狙ったを必ず撮ることが、との取り違えを防ぐ。

治療と予後

治療は患者への説明と安心づけ、安全対策、基礎疾患(脳卒中・腫瘍・感染)への対処が中心で、抗精神病薬は推奨されない2。

⭐ 予後は一般に良好である。 多くは発症後数日以内に始まり、数週間以内に消退する。まれに数年続く例もある1。ある症例では3日以内に出現し2日で自然消退した2。

まとめ

  • は、中脳・視床・橋の器質病変(脳卒中・腫瘍・・感染)がを障害して生じる、複雑で色彩豊かな視覚性である。
  • ⭐ との分かれ目は「の有無」ではなく「脳幹・視床病変がで確認できるか」である。
  • は保たれ、をと感じないことが多い。せん妄・・とは意識変容・進行性・の状態でそれぞれ区別する。
  • 治療は説明と安心づけ、安全対策、基礎疾患への対処が中心で、抗精神病薬は推奨されない。
  • 予後は良好で、多くは数日〜数週間で自然に軽快する。

出典

  1. 1.A case of peduncular hallucinosis presenting as a primary psychiatric disorder(Annals of Indian Academy of Neurology(Dogan VB et al)・2013)全文を閲覧。脚橋幻覚症がLhermitteにより1922年に初めて報告された疾患であり、原記載は72歳女性が頭痛・めまい・眼瞼下垂・運動失調に続いて野生動物や色彩豊かな人物の幻視を呈した症例であったこと、責任病巣が脳幹(中脳を含む)・視床の病変であり網様体賦活系の破壊が関与するとされること、幻視は複雑で自然な色彩をもち主に視覚性で数分から数時間持続し特に夕方に出現しやすいこと、通常は発症後数日以内に始まり数週間以内に消退するが数年続くこともあること、原因として脳卒中・感染・腫瘍による脳幹圧迫が挙げられ本症例は橋の急性梗塞によるものであったこと、鑑別診断としてナルコレプシー・パーキンソン病・レビー小体型認知症・せん妄・片頭痛・Charles Bonnet症候群・統合失調症・てんかんが検討されたこと、Charles Bonnet症候群とは視野欠損や視覚障害を伴わない点で区別されること、レビー小体型認知症とは皮質萎縮を認めず見当識が保たれていた点で除外されたこと、統合失調症とは幻覚と幻覚の間に正常な精神状態が保たれる点で区別されることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Peduncular hallucinosis after a thalamic stroke(BMJ Case Reports(Shahab M, Ahmed R, Kaur N, Masoud H)・2021)全文を閲覧。脚橋幻覚症が鮮やかで威嚇的でない彩色の視覚性幻覚からなる稀な症候群であり、機序について確立した合意は無いものの、より整った形をもつ幻視は中脳・脳幹の病変に、より単純な幻視は視覚経路構造の脱抑制に関連するという仮説が示されていること、症例集積では脳梗塞に関連するものが85例中43例、腫瘤病変によるものが10例であったこと、本症例では視床の脳梗塞により発症し幻視は3日以内に出現し自己限定的で2日で消退したこと、治療は患者への説明と安心づけ・安全対策・基礎疾患への対処が中心で抗精神病薬は推奨されないこと、予後は一般に良好であることを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Charles Bonnet Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)Charles Bonnet症候群の鑑別診断リストに脚橋幻覚症が名前で挙げられていること(区別の具体的な記述はこの論文自体には無い)、Charles Bonnet症候群自体の診断が複雑な幻視・保たれた病識・精神疾患やせん妄や認知症の非存在・確認された視覚障害の4要件で成立することを確認した。閲覧 2026-09-06