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Disease Atlas · 神経 · 中毒

急性アルコール中毒

Acute alcohol intoxication

別名
急性エタノール中毒急性酒精中毒
臓器系
神経全身精神
科目
Translational Medicine and PathophysiologyForensic MedicineNeurology
トピック
病態生理学 2-6:急性アルコール中毒病態生理学 2-5:アルコールの代謝法医学 20:飲酒運転とWidmarkの公式神経内科 G1-30:アルコール使用に伴う神経学的合併症
鑑別疾患
イソプロパノール中毒ウェルニッケ・コルサコフ症候群メタノール中毒外傷性脳損傷低血糖(非糖尿病性)毒性アルコール中毒熱中症・低体温症
合併症
アルコール性ケトアシドーシス
関連疾患
アルコール使用障害
治療薬
チアミン
症状
構音障害眼振歩行不安定傾眠意識障害昏睡嘔吐悪心呼吸抑制焦燥
検査値
血糖アニオンギャップ浸透圧代謝性アシドーシスマグネシウム

🧠 全体像:は「エタノールの過量による」という単純な病態だが、臨床の要点は治療ではなく除外にある。⭐ 「酔っている」で片づけた瞬間に、低血糖・・・他の中毒・低体温を見落とす。 特異的なは無く、支持療法が本体である。⚠️ そして血中濃度は症状を予言しない——耐性のある常用者は「重度」域の濃度で歩いて来院し、耐性の乏しい人は「軽度」域で呼吸が止まる。⚠️ 後に起こるとは病態も治療も逆向きなので、両者を混ぜないことが最初の関門になる。

病態(機序)

エタノールは-A受容体の作用を増強し、NMDA受容体を阻害する。抑制を強め興奮を弱めるという二重の作用が、のとして現れる。

flowchart TD
    A["エタノール摂取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>-A受容体の増強<br>NMDA受容体の阻害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dose-related'>用量依存性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central nervous system depression'>中枢神経抑制</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incoordination'>協調運動障害</span>→昏睡→呼吸抑制"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol dehydrogenase (ADH)'>アルコール脱水素酵素</span>(ADH)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetaldehyde'>アセトアルデヒド</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aldehyde dehydrogenase (ALDH)'>アルデヒド脱水素酵素</span>(ALDH)"]
    F --> G["酢酸"]
    D --> H["NADH/NAD+比の上昇"]
    F --> H
    H --> I["ピルビン酸が乳酸へ<br>→ 糖新生の抑制"]
    I --> J["低血糖"]
    H --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty acid beta-oxidation'>脂肪酸β酸化</span>の低下<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty liver'>脂肪肝</span>"]
    A --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral vasodilation'>末梢血管拡張</span>"]
    L --> M["熱の喪失<br>→ 低体温"]

💡 低血糖はエタノールの「副作用」ではなく代謝の必然である。 ADHとALDHの反応はどちらもNAD+をNADHへ変える。NADHが余るとピルビン酸は乳酸へ流れ、糖新生の材料が失われる。摂食不良が重なる飲酒者ではも尽きているため、糖新生が止まると血糖を支えるものが無くなる。

💡 エタノールの代謝はほぼである。 酵素が飽和しているため、血中濃度は時間あたり一定量ずつしか下がらない。⚠️ 輸液をしても代謝速度そのものは速まらない——「で早く酔いを覚ます」は成り立たない。

血中濃度と症状——ただし機械的に当てはめない

おおまかな
0〜0.05%(0〜50 mg/dL) 弛緩、多弁、の低下
0.05〜0.1%(50〜100 mg/dL) 判断力と協調運動の障害
0.1〜0.2%(100〜200 mg/dL) 、、気分・行動の変化
0.2〜0.4%(200〜400 mg/dL) 悪心・嘔吐、低体温、、健忘、、眼振
0.4%超(400 mg/dL超) 呼吸抑制、昏睡、死亡

対応関係は上記出典の記述による1。

⚠️ この表を目の前の患者に機械的に当てはめてはならない。 飲酒歴の長い患者では、耐性の無い人なら重篤な症状を来す濃度でも意識清明で会話が成立し、運動障害を欠くことがある1。慢性使用で受容体の数が増え、同じ抑制を得るのにより多くのアルコールが要るようになるからである1。逆に、耐性の乏しい未成年・高齢者・非飲酒者では「軽度」域の濃度でも著明な意識障害や呼吸抑制を来しうる。

💡 濃度は「その人にとって重すぎないか」を判断する材料の1つでしかない。 見るべきは絶対値ではなく、濃度と症状の釣り合いと、で改善するかどうかである。

⭐ 「酔っている」で片づけない——除外診断としての急性アルコール中毒

⚠️ による意識障害はである。 次の3つのいずれかがあれば、必ず他の原因を探す。

  1. 血中濃度から予想される症状より意識障害が強い
  2. 時間が経っても(代謝が進んでも)意識が改善しない
  3. がある
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inebriation'>酩酊</span>様の意識障害"] --> B["気道・呼吸・循環の安定化"]
    B --> C["ベッドサイド血糖測定<br>(原則全例)"]
    C --> D{"濃度に不釣り合い<br>改善しない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal neurologic symptoms'>局所神経症状</span>"}
    D -->|"いずれかあり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head CT'>頭部CT</span>・体温・電解質<br>血液ガス・薬毒物・髄液を検討"]
    D -->|"いずれも無し"| F["経過観察と支持療法<br>改善しなければEへ戻る"]
見落としやすい併存 手掛かりと対応
低血糖(非糖尿病性) 糖新生の抑制と摂食不良で高頻度に合併する。ベッドサイド血糖測定は原則全例で行う1
() 受傷歴が本人から得られない。慢性飲酒はと凝固異常を伴いの高リスク群になる
意識変容・・の三徴がそろうのは初診時で約16%にすぎない2
他の中毒 オピオイド併用、・・など非飲用アルコール1
・ と行動性の破綻で低体温が進む
肝性脳症 肝硬変の一徴候。慢性大量飲酒者では基礎に肝硬変を持つことが多い
発熱・を確認する。否定できなければを理由に評価を打ち切らない

⚠️ 「エタノールが検出された」ことは他の原因の否定にならない。 とくにはエタノールとの併飲が珍しくなく、併飲があると潜伏期がさらに延びる。

その他の合併症

  • 誤嚥:意識障害と嘔吐が重なる。気道管理の最大の理由である。
  • 低血糖:上記のとおり糖新生の抑制による。
  • 低体温:に加え、寒冷をできず動けなくなる行動性の破綻が重なる。
  • 不整脈:心房細動などの。
  • :長時間の同一体位による圧迫。
  • :大量飲酒後に嘔吐して食事が摂れなくなると、にインスリン低下との上昇が重なってが進み、を呈する。⚠️ 血糖は正常〜低値のことが多く、著明な高血糖を呈するとは血糖プロファイルが違う。治療は・・が中心で、通常インスリンを要さない3。

治療

⭐ 特異的なは無く、治療はほぼ支持療法である1。

  • 気道:最優先は気道確保で、主たるは呼吸抑制である1。()で誤嚥を防ぎ、意識障害が強ければを検討する。
  • 血糖:ベッドサイド血糖測定を行い、低血糖があれば補正する1。
  • ⚠️ をブドウ糖より先に、または同時に投与する。 ブドウ糖を投与する患者にはを同時またはブドウ糖投与の直前に投与すべきで、下での糖負荷はの誘因になる2。のある患者への投与が推奨されるのはこのためである1。
  • 輸液:脱水・の補正として広く行われているが、⚠️ ルーチンの輸液を支持する確固たるエビデンスは無い1。代謝を速める効果も無い。
  • 体温・電解質:低体温を是正し、などの電解質を補正する。
  • 経過観察:重症例や合併症のある例は入院とする1。

⚠️ アルコール離脱と混ぜない

状況 飲みすぎた直後(過量) 常用者が飲酒を止めた後
中枢神経 抑制(増強・NMDA阻害) (NMDA受容体の数と感受性が増した状態でエタノールが抜ける)
主な所見 傾眠から昏睡、呼吸抑制、低体温 振戦、発汗、頻脈、、痙攣、
治療の軸 支持療法。特異的なし ベンゾジアゼピンによる置換と

のある患者ではNMDA受容体の数と感受性が増しており、エタノールが抜けると痙攣・のリスクを負う1。⚠️ 同じ患者が数時間後に反対側の病態へ移ることがある。 中毒で搬送された常用者は、覚めた後に離脱へ入りうるので、意識が戻ったことをもって観察を終えない。⚠️ 逆に、の段階でベンゾジアゼピンを安易に使うと中枢抑制と呼吸抑制をする。離脱の治療薬をそのまま中毒へ持ち込まない。

まとめ

  • 病態は-A増強とNMDA阻害によるので、代謝は酵素飽和によりほぼゼロ次で進む。輸液で代謝は速まらない。
  • ⚠️ 血中濃度は症状を予言しない。耐性のある常用者は高濃度で清明でありうるし、耐性の乏しい人は低濃度で呼吸が止まりうる。
  • ⭐ 「酔っている」で片づけない。低血糖・・・他の中毒・低体温・肝性脳症・髄膜炎を必ず除外する。濃度に不釣り合いな意識障害、改善しない意識障害、が引き金になる。
  • 治療は支持療法が本体で、最優先は気道確保である。⚠️ はブドウ糖より先に、または同時に投与する。
  • ⚠️ (過量)と(後)は病態も治療も逆向きである。同じ患者が時間差で両方を経験しうる。

出典

  1. 1.Ethanol Toxicity(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)飲酒歴の長い患者では、耐性の無い患者なら重篤な症状を来す血中アルコール濃度でも意識清明で会話が成立し運動障害を欠きうること。慢性使用でGABA受容体の数が増え、同じ抑制を得るのにより多くのアルコールを要するようになること。血中アルコール濃度と臨床所見のおおまかな対応(0〜0.05%で弛緩・多弁・巧緻運動低下、0.05〜0.1%で判断力と協調運動の障害、0.1〜0.2%で歩行不安定・構音障害・気分と行動の変化、0.2〜0.4%で悪心嘔吐・低体温・構音障害・健忘・複視・眼振、0.4%超で呼吸抑制・昏睡・死亡)。急性エタノール中毒の治療はほぼ支持療法で、最優先は気道確保であり主たる脅威は呼吸抑制であること。ベッドサイド血糖測定を行い、アルコール使用障害のある患者にはチアミンの投与が推奨されること。ルーチンの輸液は広く行われているが確固たるエビデンスは無いこと。特異的な解毒薬は無いこと。除外すべき病態に外傷・敗血症・中枢神経感染症・痙攣・アルコール以外の中毒・低体温や高体温・甲状腺機能異常・低酸素・代謝異常が含まれ、さらにWernicke脳症・肝性脳症・非飲用アルコール(メタノール・エチレングリコール・イソプロピルアルコール)を考慮すべきこと。アルコール使用障害のある患者ではNMDA受容体の数と感受性が増しており、断酒時に痙攣・幻覚のリスクを負うこと閲覧 2026-09-02
  2. 2.Wernicke Encephalopathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)ブドウ糖を投与する患者にはチアミンを同時またはブドウ糖投与の直前に投与すべきであること。チアミン欠乏下での糖負荷がWernicke脳症の誘因になること。典型的三徴が意識変容・失調性歩行・眼筋麻痺であり、初診時に三徴がそろうのは約16%にとどまること閲覧 2026-09-02
  3. 3.Alcoholic ketoacidosis(Emergency Medicine Journal・2006)アルコール性ケトアシドーシスは血糖が正常〜低値のまま高アニオンギャップ代謝性アシドーシスを呈すること。治療はブドウ糖輸液・生理食塩液・チアミンが中心で通常インスリンを要さないこと閲覧 2026-09-02