病態生理学

病態生理学 · 2-6

急性アルコール中毒

Acute alcohol intoxication

応用トピック
アルコール使用に伴う神経学的合併症
疾患
アルコール性ケトアシドーシス急性アルコール中毒

🧠 重症度は血中エタノール濃度(主に CNS 抑制)で決まる。 の害は ①不均衡(NADH↑)→ 乳酸・・低血糖 と ②の蛋白による組織障害の2系統。特異的はなく対症療法——「酔いを覚ます」薬は無く、輸液も代謝速度そのものを速めるわけではない。⚠️ 者の意識障害を安易にアルコールのせいにして済ませてはならない(鑑別は後述)。

濃度 → CNS 効果

血中 エタノール CNS 効果
10–100 mg/dL 軽い、判断/注意/協調↓、感
100–300 mg/dL 軽度中毒(・・・平衡喪失)
300–400 mg/dL 中等度(傾眠〜・・失禁・反応の著しい遅延〜消失)
400–500 mg/dL 重度(昏睡・循環/呼吸不全・低体温)
>500 mg/dL 死

⚠️ この対応表を機械的に当てはめてはならない。 血中濃度と症状の強さは耐性で大きく変わる。常習飲酒者は誘導(CYP2E1↑)や中枢神経の適応により、表の「重度」域の濃度でも歩行・会話が可能なことがある一方、非飲酒者・耐性の乏しい人(未成年・高齢者など)は「軽度」域の低濃度でも著明な意識障害や呼吸抑制を来しうる。濃度そのものより、その人にとって症状が重すぎないかを評価する。 💡 区分と閾値は資料によって動く——のノートは0.05%刻みの別の区分(呼吸抑制・昏睡・死亡は0.4%=400 mg/dL超)を挙げている。

意識障害の鑑別——アルコールのせいにしない

⚠️ による意識障害はである。とくに①血中濃度から予想される症状より意識障害が強い、②時間が経っても(代謝が進んでも)意識が改善しない、③がある——のいずれかがあれば、以下を必ず鑑別する。

  • 低血糖:低血糖。飲酒は糖新生を抑制するうえ摂食不良を伴いやすく、高頻度に合併する。ベッドサイド血糖測定は原則全例で行う。
  • ():転倒・受傷歴が本人から得られないことが多く、慢性の飲酒は・凝固異常を伴いの高リスク群になる。急性も転倒外傷で生じうる。
  • :と行動性の破綻(に気づかず動けなくなる)で進行しうる。を参照。
  • 他の中毒:オピオイド併用が疑われればの診断的・投与を検討する。・など他のの併用も鑑別に挙げ、疑えばがになる。
  • 肝性脳症:肝硬変の一徴候。慢性の大量飲酒者では基礎に肝硬変を持つことが多い。
  • 髄膜炎:発熱・の有無を確認する。否定できなければのみを理由に評価を打ち切らない()。

その他の症状

  • 悪心/嘔吐(エタノールによる刺激)
  • (。ときに)
  • 低血糖(糖新生抑制)
  • (エタノールと代謝物が血漿中に蓄積)
  • 利尿↑→→低血圧・頻脈
  • 呼吸抑制(重症中毒)
  • 治療: 特異的なし(⚠️「酔いを覚ます」薬は存在せず、輸液をしても代謝速度そのものは速まらない)→
    • ⚠️ 気道確保・誤嚥予防(/で管理し、意識障害が強ければを検討)
    • 体温管理(低体温の是正)
    • IV補液(脱水・の補正が目的)
    • 電解質(Mg²⁺など)
    • ⚠️ をブドウ糖投与の前または同時に投与する(とくに慢性飲酒者では必須。下で糖負荷を続けるとの誘因になりうる)1
    • ⚠️ ただし低血糖があるなら、を待ってブドウ糖を遅らせない。 低血糖にはブドウ糖を投与し、を同時に投与する1。「が先」は投与の順序の原則であって、低血糖の治療を後回しにする理由ではない
    • ⚠️ 意識障害が血中濃度に不釣り合い、または経過で改善しなければ、上記(低血糖・・・他の中毒・肝性脳症・髄膜炎)の鑑別を必ず行う

アルコール性ケトアシドーシス

💡 大量飲酒後に嘔吐して食事が摂れなくなると、+インスリン↓・↑でが進み、高()代謝性アシドーシスを呈する。2

病態機序

代謝効果(酸化還元不均衡が中心)

flowchart TD
  ET["制御されないエタノール代謝"] --> OV["NADH・酢酸・アセチルCoA 過剰(毒性)"]
  OV --> RD["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidoreduction (redox)'>酸化還元</span>不均衡(NADH↑)"]
  RD --> L["→ 乳酸(ECアシドーシス)"]
  RD --> G["→ グルコース分解↓(低血糖)"]
  RD --> F["→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-oxidation'>β酸化</span>↓・TAG合成↑(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty liver'>脂肪肝</span>)"]
  OV --> M["膜障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracellular acidosis'>細胞内アシドーシス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein denaturation'>蛋白変性</span>・ROS"]

酸化ストレス

  • ROS↑(ミトコンドリア:NADH負荷+変性酵素;ER:CYP2E1)、↓(GSH、)→ (悪循環)、蛋白/障害。

アセトアルデヒド血症

💡 は蛋白とを作る → 修復↓、免疫応答↑(肝障害悪化)、結合 → 線維化、結合 → ↓、↓ → 。

  • 健常者では血中濃度は低く保たれる。ALDHのやの誘導があると蓄積しやすく、肝毒性を発揮する。

まとめ

論点 要点
重症度 血中エタノール濃度(主にCNS抑制)で段階づけるが、耐性で大きくずれる。濃度より「その人にとって症状が重すぎないか」を見る
意識障害 は。低血糖・・・他の中毒・肝性脳症・髄膜炎を鑑別する
治療 特異的はなく対症療法(気道・体温・補液・電解質・)。はブドウ糖の前または同時に投与するが、低血糖ならブドウ糖を遅らせずを同時に投与する
血糖正常〜低値の。++が中心で、通常インスリンは不要
機序 不均衡(NADH↑)→乳酸・低血糖・、、の蛋白

出典

  1. 1.Wernicke Encephalopathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)2026年9月24日にWaybackの保存版(2026-06-23取得、Last Update 2026-01-10)で本文を確認した。ブドウ糖を投与する患者にはチアミンを同時またはブドウ糖投与の直前に投与するのが一般的であること(ブドウ糖の酸化がチアミンを消費し神経症状を悪化させうるため)、チアミン欠乏下での持続的な糖負荷がWernicke脳症の誘因になりうること、予防の項で低血糖にはブドウ糖をチアミンと同時に投与するよう述べていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Alcoholic ketoacidosis(Emergency Medicine Journal・2006)アルコール性ケトアシドーシスは血糖が正常〜低値のまま高アニオンギャップ代謝性アシドーシスを呈し、治療はブドウ糖輸液+生理食塩液+チアミン(B群ビタミン)が中心で通常インスリンを要さないことを確認した。2026年9月24日にPMC2564331のHTML全文で、管理の要点としてカリウムの補充(来院時に低いか補液で急速に下がりうる)、治療中のマグネシウム・リンの測定と補充(ブドウ糖投与でリンが大きく下がる)が挙げられていることも確認した。閲覧 2026-09-24