病態生理学

病態生理学 · 2-7

慢性アルコール症

Chronic alcoholism

応用トピック
ウェルニッケ・コルサコフ症候群アルコール使用に伴う神経学的合併症アルコールSBI(スクリーニングと短時間介入)(roleplay)肝疾患 症例5
薬剤
アカンプロサートナルトレキソン

🧠 慢性飲酒は「栄養なしの」+臓器毒。 (特に)+毒性で、肝は→→肝硬変の一本道を進む。膵も急性/で壊れる。ただし急性期に最も命に関わるのは肝ではない。⚠️ (特に)と⚠️ こそが、見逃すと数日〜数時間で致死的になりうる病態である。

慢性アルコール症

  • 講義での目安:4 単位/日 または 14 単位/週。CYP2E1誘導で↓、過剰が顕著。エタノール = 7 kcal/g(脂質 9 kcal/g、蛋白質・糖質 4 kcal/g)の「栄養なしの」。
  • 💡 この数値は飲酒量の目安であってではなく、閾値は資料と性別で違う。米国のNIAAAは1ドリンクを14 gとし、を男性で1日5ドリンク以上または週15ドリンク以上、女性で1日4ドリンク以上または週8ドリンク以上と定義している1。「1単位」「1ドリンク」に含まれる量も国によって違うので、数値だけを比べない。
  • ⭐ 現行のでは「」「」という別々の診断カテゴリーは廃止されている。・障害・危険な使用・耐性/離脱の4領域11基準のうち該当数で重症度を連続的に評価する単一の診断名、(AUD)に統合された。過去1年間について評価し、該当数が2〜3項目で軽度、4〜5項目で中等度、6項目以上で重度とする2。俗に「」「」と呼ばれてきた状態はAUDに含まれる1。

低栄養

💡 必ずグルコースはと一緒に。 者は低血糖になりやすいが、のままグルコースだけを入れるとピルビン酸→乳酸へ流れ、講義はに至りうると教える。があればピルビン酸を酸化経路へ流せる。⚠️ ただし「一緒に」は低血糖の治療を遅らせる理由ではない——低血糖があればブドウ糖を投与し、を同時に投与する3。

その他

  • : エネルギー効率↓、ALDH含む酵素障害 → 、↑。
  • : 、。

アルコール離脱症候群

⚠️ で急性期に最初に評価すべきは離脱である。 長期・大量飲酒は中枢神経系の作動性抑制を減弱させ、にの興奮系を亢進させる。この適応状態のまま急に飲酒を中止・減量すると、抑制不足・興奮過剰が表面化しを来す。

flowchart TD
  A["長期・大量飲酒の急な中止・減量"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>作動性抑制の減弱+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate-gated'>グルタミン酸作動性</span>興奮の代償性亢進が表面化"]
  B --> C["軽症離脱:最終飲酒後数時間で出現し約72時間でピーク<br>振戦・発汗・不安・悪心・不眠・頻脈"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='withdrawal seizure'>離脱けいれん</span>:8〜48時間に多い<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='generalized'>全般性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tonic-clonic seizure'>強直間代発作</span>"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delirium tremens'>振戦せん妄</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol withdrawal delirium'>アルコール離脱せん妄</span>):離脱の約3〜5%<br>出現時期は資料で幅がある(最終飲酒後数日)<br>注意・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disorientation'>見当識障害</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic hyperactivity'>自律神経亢進</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual hallucination(s)'>幻視</span>"]
  E --> G["死亡率:歴史的には最大20%"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>の進歩と迅速な診断・治療で<br>現在は約1%"]
  • 軽症離脱(振戦・発汗・不安・悪心・不眠・頻脈)は最終飲酒後数時間で始まり、およそ72時間でピークを迎える4。
  • ()は最終飲酒後8〜48時間に多い4。
  • ⚠️ (DT。)は離脱の最重症型で、の約3〜5%が進展する4。・・などの意識変容に加え、頻脈・発熱・発汗といった著明なを伴う。
  • 出現時期は資料によって幅がある。StatPearlsは最終飲酒後3〜8日にリスクがあるとする一方、別の節では中止・減量後3〜5日までのどの時点でも起こりうると書き4、ASAM 2020は同じ文書の中で「通常24〜48時間、遅ければ3〜5日後」と「72〜96時間に出現し通常2〜3日続く」の2通りに書いている5。「何時間目だからではない」と時刻で除外しない。
  • ⚠️ 死亡率は歴史的には最大20%とされたが、の進歩と迅速な診断・治療により現在は約1%とされる4。典型的な時期を外れて出現・悪化した場合も、・感染・低血糖など他の原因を必ず併せて検索する。

⚠️ 治療の第一選択はベンゾジアゼピン(・・など)である。では静注による投与または固定用量の前倒し投与が適切で、落ち着いて協力が得られるようになれば経口の投与へ移る5。CIWA-Ar(Clinical Institute Withdrawal Assessment for Alcohol, revised、評価尺度)などのスコアに基づき症状の強さに応じて投与量を決める投与を、米国医学会(ASAM)の2020年ガイドラインは入院管理での優先される投与法とし(推奨V.23。持続監視のある短期観察の外来環境でも同様に優先とする)、投与が使えない場合にはスケジュールによる固定投与を適切としている。投与は固定スケジュールより治療期間と入院期間を短くする5。StatPearlsは、肝障害の懸念が大きくなければを第一選択とし、使えなければを用いるとし、を単剤またはとして使いうるとしている4。肝障害のある患者ではが少ないを選ぶなど代謝経路も考慮する。

ウェルニッケ脳症・コルサコフ症候群

⚠️ ・・意識変容の三徴が揃うのは実際には少数(3つとも揃って現れるのは約16%)。揃わないからといってを否定してはならない。3

  • により・ミトコンドリア機能が低下し、・・など特定の脳部位が選択的に障害される(・臨床像の詳細はを参照)。
  • ⚠️ 治療は非経口(多くは静注)を、検査結果を待たずに直ちに投与する。 予防目的で使う少量の経口・筋注では不十分で、治療にはより高用量のが必要である3。
  • ⚠️ ブドウ糖だけを先行させない。 ブドウ糖の酸化がを消費して神経症状を悪化させうるため、非経口をブドウ糖と同時または先行して投与する3。ただし低血糖があるならブドウ糖の投与を遅らせず、を同時に投与する3。
  • 未治療のは死亡するか、・・を特徴とする不可逆的なコルサコフ症候群へ移行しうる。

アルコール性肝障害の型(一本道)

flowchart TD
  FL["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty liver'>脂肪肝</span>:可逆(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sobriety (alcohol abstinence)'>断酒</span>)<br>TAG↑+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very-low-density lipoprotein'>VLDL</span>↓・脂肪滴(lipid droplet)"] --> SH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatohepatitis'>脂肪性肝炎</span>:潜在的に可逆<br>腫大・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spheroplast formation'>球状化</span>した肝細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mallory bodies'>マロリー小体</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil infiltration'>好中球浸潤</span>・壊死"]
  SH --> CI["肝硬変:完全に不可逆<br>CYP2E1誘導→ROS→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stellate cell'>星状細胞</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>→線維化 → 肝不全 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma'>HCC</span>"]

膵臓

急性膵炎

  • 不適切な酵素活性化 → 壊死+炎症(可逆)。
    • 症状:
      • 悪心・嘔吐・発熱・腹痛
      • +リパーゼ↑
    • 病因:
      • アルコール
      • 胆石
    • 重症:
      • ARDS
      • DIC
      • 敗血症
      • ショック

慢性膵炎

  • 慢性炎症 → 進行性外分泌障害+線維化 → 。反復急性発作 → →→線維化。予後=不良。 💡 外分泌障害(↓→・体重減少)と(島細胞の破壊→続発性糖尿病)が同時に進行し、慢性疼痛とリスク上昇も加わるため、単なる「炎症の繰り返し」以上に生活の質と生命予後を損なう。

他の臓器・全身への影響

肝・膵にとどまらず、は複数のに機序の異なる障害を及ぼす。

臓器・系 障害 機序
心臓 アルコール性心筋症(の主要な可逆的原因の一つ) エタノール・の直接的な心筋毒性、、により心筋が障害される。により機能が回復しうる
末梢神経 有痛性・対称性の感覚優位性の末梢神経障害 エタノール・の直接神経毒性に加え、・B12・葉酸などの欠乏が重なってを助長する
小脳 アルコール性(、が主体) 前部を中心とした選択的な。慢性のの関与も示唆される
、、血小板減少 エタノールの骨髄への+葉酸欠乏が重なる。血小板減少は後数日で自然に改善することが多い
悪性腫瘍 、、など がを形成しをもつ。喫煙との相加・が大きい

スクリーニング

再発予防の薬物療法

⚠️ 解毒(離脱を乗り切ること)はゴールではなく、再発予防の薬物療法・心理社会的治療への出発点にすぎない。

薬剤 位置づけ 機序・注意点
第一選択 。飲酒による効果・を抑えて大量飲酒を減らす。現在オピオイドを使用中・依存がある患者では離脱を誘発するため禁忌
第一選択 (NMDA受容体)の興奮を抑えることでの維持を助ける。後に開始し、重度腎障害では禁忌
限られた状況でのみ ALDHを阻害し、飲酒するとが蓄積して・・悪心などの嫌悪反応を起こす。⚠️ を減らす薬ではなく「飲むと苦しくする薬」であり、監視下で服薬確認しなければが低く有効性を発揮しにくい6

用量・(にはと月1回の注射剤がある)やごとの選び方はに譲る。

まとめ

  • 急性期で最も命に関わるのは肝硬変への進行そのものより、⚠️ 離脱(特に)と⚠️ である。
  • は離脱の約3〜5%に生じ、出現時期は資料で幅がある(最終飲酒後数日)。死亡率は歴史的には最大20%、現在は迅速な診断と治療で約1%とされる。治療はベンゾジアゼピンで、ASAM 2020は入院管理で投与を優先する。
  • は三徴が揃わなくても否定できない(3つ揃うのは約16%)。非経口・高用量を、ブドウ糖投与前または同時に速やかに投与する。低血糖ならブドウ糖を遅らせずを同時に投与する。
  • 現行のでは「依存症/乱用」の区分は廃止され、(AUD)に統合されている。重症度は過去1年間の該当基準数で軽度(2〜3)・中等度(4〜5)・重度(6以上)。
  • 臓器障害は肝・膵にとどまらず、心筋症・末梢神経障害・・・悪性腫瘍にも及ぶ。
  • 解毒後は・を中心とした再発予防薬と心理社会的治療につなげる。は監視下でなければ効果が乏しい。

出典

  1. 1.Understanding Alcohol Drinking Patterns(National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism(NIAAA)・2026)2026年9月24日にページ本文(Updated January 2026)を取得して確認した。米国の標準ドリンクを純アルコール14 gを含む飲料と定義し、NIAAAの多量飲酒(heavy drinking)を男性で1日5ドリンク以上または週15ドリンク以上、女性で1日4ドリンク以上または週8ドリンク以上と定義していること、アルコール使用障害(AUD)がアルコール乱用・アルコール依存・アルコール嗜癖・俗称のアルコール症(alcoholism)と呼ばれてきた状態を包含すると述べていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Understanding Alcohol Use Disorder(National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism(NIAAA)・2025)2026年9月24日にページ本文(Updated January 2025)を取得して確認した。医療者はDSM-5の基準でAUDの有無と重症度を評価し、重症度は該当する基準の数で軽度(2〜3項目)・中等度(4〜5項目)・重度(6項目以上)とすること、評価の質問が過去1年間についてのものであることを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Wernicke Encephalopathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)2026年9月24日にWaybackの保存版(2026-06-23取得、Last Update 2026-01-10)で本文を確認した。古典的三徴(意識変容・運動失調・眼筋麻痺)が揃うのは少数で、3つとも揃って現れるのは約16%、初回評価時に三徴のいずれも無いものが約19%であること、非経口チアミンは予防的に用いる少量より高用量が必要であること、ブドウ糖を投与する患者にはチアミンを同時またはブドウ糖投与の直前に投与するのが一般的であること、予防の項で低血糖にはブドウ糖をチアミンと同時に投与するよう述べていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Alcohol Withdrawal Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)2026年9月24日にWaybackの保存版(2026-08-04取得、Last Update 2024-02-14)で本文を確認した。離脱の症状・徴候は最終飲酒後数時間以内に出現し約72時間でピークを迎えること、離脱けいれんは典型的には最終飲酒後8〜48時間に起こること、アルコール離脱せん妄(旧称:振戦せん妄)は離脱の最重症型で最終飲酒後3〜8日にリスクがある(別の節では中止・減量後3〜5日までのどの時点でも起こりうるとする)こと、離脱症候群の約3〜5%が進展すること、その死亡率は歴史的には最大20%だったが迅速な診断と治療により現在は約1%とされること、ベンゾジアゼピンは固定用量(CIWA-Ar高値時の追加投与を含む)または症状のみに基づいて投与でき、肝障害の懸念が大きくなければジアゼパムを第一選択としそれが使えなければロラゼパムを用いること、フェノバルビタールを単剤または救済療法として使いうることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.The ASAM Clinical Practice Guideline on Alcohol Withdrawal Management(Journal of Addiction Medicine(American Society of Addiction Medicine)・2020)2026年9月24日にASAMのサイトで公開されている全文PDF(74頁)で確認した。入院管理の推奨V.23は症状誘発投与をベンゾジアゼピンの優先される投与法とし(持続監視のある短期観察の外来環境についての推奨IV.27も同じ)、症状誘発投与が使えない場合には漸減スケジュールによる固定投与が適切とする。考察は症状誘発投与が固定スケジュールと比べ治療期間と入院期間を短縮すると述べる。推奨VI.16は、アルコール離脱せん妄では静注による症状誘発投与または固定用量の前倒し投与が適切で、軽い傾眠に達し落ち着いて協力的になれば経口の症状誘発投与へ移ることを推奨する。アルコール離脱せん妄の出現時期は、ある節では通常最終飲酒(または減量)後24〜48時間で3〜5日後に生じることもあるとし、別の節では最終飲酒後72〜96時間に出現し数時間〜通常2〜3日続くとしており、同じ文書の中で記載が一致しない。閲覧 2026-09-24
  6. 6.Treatment of Alcohol Use Disorder(Johns Hopkins University(ニューヨーク州保健局HIV/AIDS臨床ガイドラインプログラム)・2023)経口アカンプロサートまたは経口/注射用の徐放性ナルトレキソンをAUD治療の優先薬とすること、ジスルフィラムは渇望を減らす薬ではなく不快な生理反応という心理的な脅しで飲酒を思いとどまらせる薬であり、監視下投与でなければアドヒアランスが低く有効性を発揮しにくいことを確認した閲覧 2026-08-14