疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 全身 · 外傷

熱中症・低体温症

Heat stroke and hypothermia

別名
熱射病偶発性低体温症
臓器系
全身
科目
Forensic Medicine
トピック
法医学 27:熱傷・熱中症と寒冷障害・低体温症
鑑別疾患
悪性症候群
合併症
脱水
続発疾患
急性腎障害播種性血管内凝固急性肝不全横紋筋融解症
関連疾患
熱傷

🧠 全体像は、の両極で脳・循環・凝固・肝腎機能を急速に障害する救急疾患である。は熱曝露または激しい運動に伴うと中枢神経障害で疑い、40℃未満の測定値だけで除外せず、搬送より先に可能な限り速く冷却する。35℃未満で、意識・震え・循環の安定性から重症度を捉え、重症例・心停止例はを行える施設へつなぐ。

病態

熱射病

産熱が放熱を上回るとが上昇する。が持続すると、直接的な細胞傷害、腸管透過性亢進、、凝固活性化、微小循環障害が相互に増幅し、脳、肝臓、腎臓、骨格筋、心臓を障害する。

病型 典型的背景 特徴
運動、軍事訓練、重労働、防護服 若年でも発症し、急速な、急性腎・肝障害、を伴いやすい
熱波、換気不良、冷房不足 高齢者、乳幼児、独居、心肺疾患、発汗を妨げる薬剤などが危険因子で、数時間から数日で進行し得る

発汗の有無では診断できない。で皮膚が乾燥することはあるが、では大量に発汗していることが多い。

flowchart TD
    A["環境熱・運動による産熱"] --> B["放熱能力を超える"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='core body temperature'>深部体温</span>上昇"]
    C --> D["直接細胞傷害・腸管障壁障害"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Systemic Inflammation'>全身性炎症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮障害</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span>・微小循環障害"]
    F --> G["脳症・肝腎障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyolysis'>横紋筋融解</span>・ショック"]
    H["迅速な全身冷却"] --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperthermia'>高体温</span>の時間を短縮"]
    I --> J["多臓器傷害を抑える"]

低体温症

、濡れた衣服、風により熱喪失が産熱を上回ると、が35℃未満になる。初期は末梢血管収縮と震えで代償するが、冷却が進むと意識低下、震えの消失、徐脈、低換気、低血圧、が進み、心筋は心房細動・を起こしやすくなる。

アルコール・鎮静薬、低血糖、甲状腺・副腎機能低下、敗血症、栄養不良、外傷、脳卒中などは発症または遷延の原因となる。屋外曝露がなくても、乳幼児、高齢者、動けない人では屋内で生じる。

臨床像

熱関連疾患の区別

病態 意識・神経 対応
一過性失神後は速やかに正常化 正常〜上昇 涼しい場所、臥位、補水、他の失神原因を評価
強い感、頭痛、悪心、めまい。中枢神経障害はない 通常40℃未満 熱源から離し、冷却・補水。改善しなければ再評価
、異常行動、失調、痙攣、昏睡など中枢神経障害 典型的には40℃超だが、既に冷却された例では低くなり得る 救急要請、直ちに積極的全身冷却、

⚠️ 熱曝露中の意識変容を「脱水だけ」とみなさない。40℃という単一閾値を待たず、熱曝露または労作と中枢神経障害がそろえばとして冷却を開始する。

低体温症の重症度

段階 の目安 臨床像
軽度 35〜32℃ 意識は保たれ、強い震え、頻脈、
中等度 32〜28℃ 意識低下、震えの減弱・消失、徐脈、低換気、心房性不整脈
重度 28℃未満 昏睡、著明な徐脈・低血圧、、心停止

温度は目安で、がある。臨床では意識、震え、循環の安定性を優先する。呼吸と脈拍が極端に遅く弱いため、一見死亡しているようにみえることがある。

低体温患者を急に立たせる、歩かせる、粗雑に動かすと、冷たい末梢血が中心へ戻る、不整脈を誘発し得る。濡れた衣服を外し、水平位で丁寧に扱う。

診断

熱射病

は現場と救急部で実用的なである。口腔、腋窩、額、一般的な赤外線鼓膜温は高温環境でを過小評価し得るため、の除外に使わない。冷却を温度測定や採血のために遅らせない。

flowchart TD
    A["熱曝露または激しい運動"] --> B{"中枢神経障害があるか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat stroke'>熱射病</span>として直ちに冷却"]
    B -->|"いいえ"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat exhaustion'>熱疲労</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat syncope'>熱失神</span>と他疾患を評価"]
    C --> E["直腸などで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='core body temperature'>深部体温</span>を測定"]
    E --> F["血糖・Na・腎肝機能・CK・凝固・血液ガス"]
    F --> G["低Na血症、敗血症、中毒、脳疾患などを並行評価"]
    G --> H["臓器障害を反復監視"]

血糖、電解質、とくにNa、腎・肝機能、CK、尿検査、血算、凝固系、血液ガス、乳酸、ECGを評価する。臓器障害は数時間から数日遅れて悪化し得るため、初回値が正常でも反復する。運動後の低Na血症、低血糖、敗血症、髄膜炎、脳卒中、てんかん、を鑑別する。

低体温症

低温域まで測れる深部温プローブを使い、重症例では後のが中心温変化を反映しやすい。直腸・膀胱温は中の変化に遅れることがある。血糖、血算、電解質、腎肝機能、CK、血液ガス、凝固、ECGを確認し、外傷、感染、内分泌異常、中毒を検索する。

低体温では、徐脈、伝導遅延、心房細動、を認め得る。低体温によるは、検体が検査室で37℃に加温されるため通常ので過小評価されることがある。

治療

熱射病:冷却を最優先する

  1. 救急要請と同時に熱源から離し、余分な衣服・装備を外し、気道・呼吸・循環を確保する。
  2. 安全に実施できれば、頸部より下を氷水または冷水へ浸すを第一選択とする。気道を常に保持し、患者を1人にしない。
  3. 水浸ができなければ、全身を冷水で濡らして扇風する、冷水シャワー、氷水を含ませたシーツで包むなど、最も速く実施できる方法を使う。腋窩・だけの氷嚢に依存しない。
  4. 目標温度39℃未満へ、症状認識から30分以内に到達することを目指す。を監視し、約38〜39℃で積極的冷却を止めて過冷却を避ける。
  5. を血圧、灌流、Na、心機能に合わせて投与するが、確保や搬送のため冷却を遅らせず、を避ける。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat stroke'>熱射病</span>を疑う"] --> B["救急要請・脱衣・気道確保"]
    B --> C{"全身水浸が安全に可能か"}
    C -->|"はい"| D["頸部より下を氷水・冷水へ浸す"]
    C -->|"いいえ"| E["全身を濡らして送風<br>冷水シャワー・氷水シーツ"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectal temperature'>直腸温</span>と意識を連続評価"]
    E --> F
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='core body temperature'>深部体温</span>が38〜39℃へ到達"}
    G -->|"いいえ"| I["選択した冷却法を継続・強化"]
    I --> F
    G -->|"はい"| H["積極的冷却を止め<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>へ"]

⚠️ 、NSAIDs、アスピリンなどのは使用しない。 は発熱のような視床下部設定温度の上昇ではなく、熱産生と放散の破綻であり無効である。肝障害、腎障害、を悪化させ得る。には推奨されない。

痙攣、低血糖、電解質異常、ショックを治療し、、不整脈、肺障害を反復評価する。予防的抗菌薬や予防的抗薬をルーチンに用いない。

低体温症:段階的な復温

状態 と搬送
軽度・意識清明・震えあり 風雨から保護し、濡れた衣服を外して乾燥・する。安全に嚥下できれば温かい糖分を含む飲料を用い、体幹へ熱源を加える
中等度または意識低下 水平位で丁寧に扱い、体幹の能動的外部加温、加温酸素、加温を用い、監視下に搬送する。温水シャワー・入浴、四肢だけの強い加温を避ける
重度・循環不安定 気道・呼吸を管理し、中心を行う。が可能な施設へ談・直接搬送を検討する
心停止 直ちにCPRとを開始し、が可能な施設へ搬送する

温かい輸液だけでは十分な法にならないが、輸液による追加の冷却を防ぐ。熱源は皮膚損傷を避けて胸部・腋窩・背部など体幹へ置き、冷えた四肢のマッサージや急な運動を避ける。

低体温性心停止と体外循環式復温

呼吸・脈拍が極端に遅いことを想定して最長1分程度慎重に確認し、生命徴候がなければCPRを開始する。明らかな致死的損傷がなければ、通常体温の心停止と同じ早期予後基準だけで蘇生を打ち切らない。

flowchart TD
    A["重度低体温・生命徴候なし"] --> B["CPR開始・気道管理・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='core body temperature'>深部体温</span>測定"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothermia-modified advanced life support'>低体温修正ALS</span>を開始"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='core body temperature'>深部体温</span>30℃未満で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular fibrillation, VF'>心室細動</span>が持続するか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defibrillation'>除細動</span>回数・アドレナリンは<br>AHAまたはERCの地域指針に従う"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothermia-modified advanced life support'>低体温修正ALS</span>を継続"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracorporeal rewarming'>体外循環式復温</span>施設へ搬送"]
    F --> G
    G --> H["HOPEなどの検証済み予後スコアで適応判断"]
    H --> I["VA-ECMOを優先した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracorporeal rewarming'>体外循環式復温</span>"]

AHA 2025では、30℃未満の成人低体温性心停止で、を1回行い不成功なら30℃以上まで追加を保留すること、アドレナリンも30℃以上まで保留することが選択肢とされる。一方、ERC 2025は30℃未満でも最大3回までし、アドレナリン1 mgを1回投与する方針で、を直ちに開始予定ならその投与を控える。30〜35℃ではアドレナリンを6〜10分へ延長する。両指針には差があるため現場・地域のに従い、危険な救助環境で連続CPRが不可能な場合を除き、中断しない。

次の状況では・VA-ECMO施設へ緊急相談する。

  • 低体温性心停止
  • 心停止前でも28℃未満の重症例
  • 心拍数45/分未満、90 mmHg未満、30℃未満など心停止切迫所見
  • 中に血圧低下やアシドーシスが進行する例

心停止例のECLS適応は、年齢、性別、窒息の有無、CPR時間、、血清Kを統合するHOPEなどの検証済みスコアと判断で決める。血清K単独や常温心停止の蘇生時間だけで救命可能性を否定しない。ECLSでは循環補助を継続できるVA-ECMOがより優先される。

まとめ

  • は熱曝露・労作に伴う中枢神経障害を中核とし、測定時40℃未満でも既に冷却されていれば除外できない。
  • では搬送や検査より急速冷却を優先し、全身氷水・冷水浸漬を第一選択として30分以内に39℃未満を目指す。
  • に用いず、肝腎障害、を反復評価する。
  • ではに加えて意識・震え・循環安定性を評価し、水平位で丁寧に扱い、重症度に応じて体幹からする。
  • 低体温性心停止ではと蘇生を並行し、ECLS・VA-ECMO施設へ搬送してHOPEなどの予後スコアで適応を判断する。