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法医学 · 27

熱傷・熱中症と寒冷障害・低体温症

Injury caused by heat. Cold injury, hypothermia

前提:正常
温度受容器・体温調節・皮膚循環の調節
疾患
凍傷熱傷熱中症・低体温症
症状
凍瘡
スコア
9の法則Cauchy分類

🧠 全体像:熱による障害は乾性の熱傷と湿性の熱傷、全身性の(hyperthermia/heat stroke)に大別され、寒冷による障害も(様の等級分類)と全身性のに大別される。いずれも受傷パターン(分布・部位)が事故か(虐待・加害)かを見分ける手掛かりになる。

熱傷(乾性熱)の分類

flowchart TD
    A["熱による損傷"] --> B["乾性熱:熱傷"]
    A --> C["湿性熱:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scald'>熱湯損傷</span>"]
    A --> D["全身性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperthermia'>高体温症</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat stroke'>熱中症</span>"]

熱傷は重症度(損傷の深さ)と範囲(熱傷面積)の2軸で評価する。

重症度(深さ)

度 深さ 色調 局所所見 疼痛
第1度 表皮 発赤 、紅斑 あり
第2度A (乳頭部分。幹細胞は一部温存され表皮再生が可能) 発赤 浮腫、水疱 あり
第2度B (深達性 partial-thickness burn) 発赤〜白色調 水疱、表皮欠損 低下しうる
第3度 白色〜褐色 表皮・真皮・の壊死 なし
第4度 ・筋・骨など皮膚より深部に及ぶ 黒色 組織の炭化 なし

💡 第2度熱傷は浅達性(A)と深達性(B)に分けて評価する。に残る幹細胞から表皮が再生できるかが分かれ目だが、「B型=必ず」ではない。自然治癒の見込みと治癒までの期間、のリスクを踏まえて移植の要否を判断する。

範囲

  • 熱傷の危険性評価には深さより面積が重要な場合が多い。
  • に対する熱傷面積の割合を評価する際は、体表を9の倍数で区分する「(rule of nines)」を用いる:頭頸部9%、上肢各9%、体幹36%、1%、下肢各18%(成人の目安)。
  • 小児では体表比率が成人と異なる(頭部の比率が大きく下肢が小さい)ため、をそのまま当てはめず、年齢別の体表比率を用いる Lund and Browder chart で評価する。
  • ボディチャート上に熱傷部位をマッピングすることも評価に有用である。

熱湯損傷

  • 皮膚の発赤と(皺の寄った表皮に覆われた強い発赤局面)を特徴とする。
  • 小児・高齢者に多い(熱湯から自力で逃れられないため)。
  • のは、こぼれた液体の流下に沿った前面優位の不均一・非対称な分布を示すことが多く、手掌などの限局した小範囲にとどまることもある。
  • なはでよくみられ、熱湯へ強制的に浸すことで四肢に「手袋・靴下状」の損傷パターンを生じる。
  • 非なの典型例は、カップからの熱い飲料のこぼれによるものである。

⚠️ 「手袋・靴下状」の対称的で境界明瞭な分布は、事故によるこぼれ損傷では説明しにくく、虐待を強く疑う所見として重要である。

💡 意図性を評価するな指標は、①熱傷の均一性、②免れた領域(areas of sparing)の有無、③熱傷の部位、④家族歴、⑤受診までの速さの5つである。原因として最も多いのは水道の湯で、米国では入院を要するの4分の1を占める。ただしこれらの指標の根拠自体が偏りを含みうる点にも注意する。1

熱による死後変化

所見 機序
熱による筋の脱水・凝固で屈曲位をとる
の 筋の短縮・収縮による
硬膜が熱で収縮し、静脈洞から血液が滲出することによる(生前のと誤認しないよう注意)

高体温症と熱中症

  • :機構の限界を超えてが上昇する状態。熱が効果的に放散されず、過剰な熱貯留が生じることで発症する。
  • (+による代謝率・産熱の上昇、または発汗抑制)や、基礎疾患(甲状腺機能亢進症など)でも生じうる。

熱中症

  • 生命を脅かす病態で、通常は40度前後以上に中枢神経障害(意識変容、せん妄、痙攣、昏睡)を伴い、頻脈、、低血圧、多臓器障害を呈する。
  • 一般に40度超と中枢神経障害で定義されるが、現場ですでに冷却されている場合は測定体温が40度未満でも否定できず、体温の単独閾値より中枢神経障害と熱曝露歴を重視する。
  • 典型例:軍事訓練中の兵士、長期の熱波にさらされた高齢者、車内に放置された小児。
  • 生前診断:体温とから判断する。
  • 剖検所見:肺・脳・全身の浮腫、心筋変性、限局性腎出血。

熱射病の緊急治療

  • 救急要請と同時に衣服を除き、受動的冷却ではなく能動的冷却を行う。冷水・氷水への全身浸漬が最も速く冷却でき、実施可能な場所では優先する。実施不能なら散水と送風などを組み合わせる。2
  • などのを連続評価し、38〜39度を目安に能動的冷却を止めて過冷却を避ける。搬送のために冷却開始を遅らせない。
  • はの設定温度を下げる発熱への治療であり、には無効で、肝・腎障害や出血を悪化させうるため投与しない。に作用する薬物療法全般を支持する根拠は無く、避けるべきとされている。2

寒冷障害・低体温症

全身性はにより分類する。

重症度
軽度 32〜35度
中等度 28〜32度
重度 28度未満

⚠️ の区分だけに依存せず、反応性・呼吸・循環の安定性と心停止リスクを優先して評価する。現場でのの推定は不正確であることが分かっており、改訂スイスは病期の決定にではなく心停止のリスクを用い、評価をスケールによる反応性で単純化し、震え(shivering)を病期を規定する徴候から外した。3

低体温症の緊急対応

  • 35度未満をとし、低値まで測定できる温度計を用いる。測定できない場合は、反応性()と呼吸・循環所見に基づく改訂スイスを補助にする。34
  • 意識不明例では呼吸と脈拍を最大1分かけて確認し、粗暴な体動を避ける。濡れた衣服を除き、し、重症度に応じて能動的体表加温、、気道加温を組み合わせる。
  • 心停止例、または切迫心停止の所見があれば、(ECLS)によるが可能な施設へ直接搬送する。切迫心停止の目安は、若く健康な患者では30度未満、高齢者や複数のをもつ患者では32度未満、心室性不整脈、90 mmHg未満である。4

💡 低体温患者の心停止では、の有無やであっても、正常体温例より生存と良好なの可能性が高い。長時間の搬送では機械的CPR装置を用い、継続的なCPRが不可能な場合は間欠的CPRを行う。4

局所性寒冷障害の等級

等級 所見 転帰
第1度 発赤、、浮腫 瘢痕を残さず治癒
第2度 蒼白、、時に 治癒後にかゆみ、色素沈着、萎縮性皮膚
第3度 蝋様白色、乾燥、硬化、全層 治癒に広範なを伴う
第4度 黒色・紫色、 壊疽

全身性低体温症の危険因子と所見

  • 危険因子:体格・年齢、疲労、慢性疾患、薬物・アルコール(血管拡張、)。
  • 外表所見:の皮膚および/または蒼白、手の紅斑・浮腫。
  • 剖検所見:肺浮腫、限局性心筋変性(脂肪変性)、Vishnevsky潰瘍(とヘマチン形成)、、内出血。

その他の所見

  • :。四肢末端、鼻、耳に紅斑、梗塞、壊死を来す。
  • :低体温状態の人が、強い混乱の中で「暑い」と感じて自ら衣服を脱いでしまう現象。現場所見の解釈で誤解を招きやすいため注意する。

まとめ

  • 熱傷は重症度(深さ:第1〜4度。第3度は皮膚全層、第4度は以深)と範囲の2軸で評価する。面積は成人で、小児ではLund and Browder chartを用いる。・・は熱によるとして生前損傷と区別する。
  • の対称的な「手袋・靴下状」パターンは虐待を示唆する。意図性は、熱傷の均一性・免れた領域の有無・部位・家族歴・受診までの速さで評価し、流下に沿って不均一・非対称に広がる偶発損傷と区別する。
  • はと中枢神経障害で認識し、体温40度未満でも冷却後なら否定しない。能動的冷却(冷水・氷水浸漬が最速)を直ちに行い、体温に作用する薬物は用いない。の病期はではなく反応性()と心停止リスクで評価する(改訂スイス、震えは病期規定徴候から外れた)。切迫心停止・心停止例はによるが可能な施設へ搬送する。

出典

  1. 1.Characteristics of Scald Burns Caused by Child Abuse in the United States: A Systematic Review(Journal of Law, Medicine & Ethics・2025)熱傷の原因として最も多いのが**水道の湯**であり、米国で入院を要する熱湯損傷の4分の1を占めること。小児の熱湯損傷で意図性を評価する伝統的な指標が**熱傷の均一性、免れた領域(areas of sparing)の有無、熱傷の部位、家族歴、受診までの速さ**であること。ただしこれらの指標の根拠が偏りを含みうること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Society of Critical Care Medicine Guidelines for the Treatment of Heat Stroke(Critical Care Medicine(Society of Critical Care Medicine)・2025)熱射病では受動的冷却より**能動的冷却**が推奨され、冷水・氷水への浸漬が最も速い冷却速度を達成するため実施可能な場所では優先すべきこと。**体温調節に作用する薬物療法を支持する根拠は無く、避けるべき**であること閲覧 2026-08-21
  3. 3.Clinical staging of accidental hypothermia: The Revised Swiss System: Recommendation of the International Commission for Mountain Emergency Medicine (ICAR MedCom)(Resuscitation(国際山岳救急医学会 ICAR MedCom)・2021)現場での深部体温推定が不正確であることを踏まえ、改訂スイス病期分類では病期の決定に深部体温ではなく**心停止のリスク**を用いること。評価をAVPUスケールに基づく**反応性**で単純化し、**震え(shivering)を病期を規定する徴候から外した**こと閲覧 2026-08-21
  4. 4.Accidental Hypothermia: 2021 Update(International Journal of Environmental Research and Public Health・2022)偶発性低体温症が深部体温35℃未満への意図しない低下であること。切迫心停止の危険因子を**若く健康な患者では深部体温30℃未満、高齢者や複数の併存疾患をもつ患者では32℃未満**、心室性不整脈、収縮期血圧90 mmHg未満とし、これらの患者と既に心停止している患者は体外循環式生命維持(ECLS)が可能な施設へ直接搬送すべきこと。低体温患者の心停止では正常体温例より生存と良好な神経学的転帰の可能性が高いこと閲覧 2026-08-21