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Disease Atlas · 皮膚 · 外傷

凍傷

Frostbite

臓器系
皮膚循環器
科目
Forensic MedicineInternal Medicine
トピック
法医学 27:熱傷・熱中症と寒冷障害・低体温症内科学 S-65:低体温症の内科的管理
症状
水疱チアノーゼ皮膚壊死
スコア
Cauchy分類

🧠 全体像は、と同じ「寒冷による皮膚障害」というくくりで語られがちだが、組織そのものが凍結するかどうかという一点で両者は決定的に分かれる。が可逆的な炎症反応にとどまるのに対し、は氷晶形成による直接的な細胞傷害と、融解時に起こるという2相性の組織破壊を経て不可逆的な壊死に至りうる。治療の骨格は「急がず、しかし始めたら止めない」——37〜39℃の温水による急速を、再凍結の危険が去るまで開始しないという時間の管理に尽きる。もう一つの核心は、切断のタイミングを急がないことである。壊死の範囲は数週間かけて確定していくため、壊死境界が明確になるまで切断を待つことが不要な組織喪失を防ぐ。

⚠️ の温水温度は資料により40〜42℃と記載されることがあるが、治療の専門学会であるWilderness Medical Societyの現行ガイドライン(2019年改訂・2024年改訂)が定める温度は37〜39℃である。本ノートはこの現行の一次資料に従う1

病態:2相性の組織障害

の組織障害は、の異なる2つの機序が重なって進行する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cold exposure'>寒冷曝露</span>"] --> B["組織温度が氷点下へ低下"]
    B --> C["細胞外・細胞内に氷晶が形成"]
    C --> D["蛋白・脂質の変性、細胞膜の破綻"]
    D --> E["直接的な細胞傷害(凍結相)"]
    B --> F["融解(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rewarming'>再加温</span>)"]
    F --> G["虚血組織への血流再開"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive oxygen species (ROS)'>活性酸素種</span>の放出"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Reperfusion injury'>再灌流障害</span>(融解相)"]
    E --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue necrosis'>組織壊死</span>"]
    I --> J
    K["不適切な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rewarming'>再加温</span>・再凍結"] --> L["融解-再凍結サイクルの繰り返し"]
    L --> M["進行性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue ischemia'>組織虚血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>"]
    M --> J

⚠️ 組織障害は「凍る瞬間」だけでなく「融ける瞬間」にも起こる。 氷晶形成による直接的な細胞傷害(凍結相)に加え、血流が再開する融解時にはの放出を介した(融解相)が加わる2。この2相性ゆえに、いったん融解した組織を再び凍結させる「融解-再凍結」を繰り返すと、進行性のを来し、初回の凍結単独よりもはるかに重い障害を残す2

深度分類

分類 所見
第1度 知覚、中心の蒼白と周囲の紅斑・浮腫、後に
第2度 紅斑・浮腫を伴う
第3度 皮膚全層の
第4度 深部構造(筋・腱・骨)に及ぶで、患部の欠損に至る

手足では、チアノーゼの及ぶ範囲に基づく(グレード1〜4)も用いられ、範囲が近位に及ぶほど切断リスクが高まる2

治療:再加温のタイミングと方法

急速は37〜39℃の温水浴で、組織が柔らかくなるまで(目安約30分)行う。 温度は温度計で管理し、目安が無ければ介助者の健常な手を30秒以上浸けて熱すぎないことを確認する1。緩徐な自然融解や、たき火・暖房器具などのによるは、加温が不均一・不十分になりやすく、かえって組織障害を増悪させうるため避ける2。全身性の低体温を合併している場合は、患部の加温より先に温輸液などでを35℃以上に引き上げることを優先する2

⚠️ 再凍結の危険があるうちはを開始しない。 いったん融解させた組織が再び凍結すると、融解-再凍結サイクルによる進行性のを招くため、安全にを継続できる環境(医療施設など)に到達するまでは、現場でのを試みるより搬送と患部の保護・固定を優先する21

水疱の扱いは性状で分ける。 白濁した水疱はを含むため穿刺・除去が推奨される一方、は深部の血管損傷を反映しており、感染防御のためそのまま温存することが推奨される2

治療:血流回復を狙う薬物療法

⚠️ 受傷早期のは、切断率を下げうる肢である。 後もが回復しない全層損傷では、tPAによる切断の必要性を減らしうるとされる2であるも虚血を防ぐ治療として用いられてきた2

2024年改訂のWilderness Medical Societyガイドラインは、これらをより具体的な時間枠で位置づけている——重症の深部Cauchy分類グレード3・4)に対しては受傷後24時間以内の静注またはtPAを、グレード2〜4の深部に対しては後72時間以内、できるだけ早期の投与を推奨する1設備を持たない遠隔地の一次医療機関で早期にtPAを開始したうえで医療機関へ搬送する運用が、切断率を安全に低下させうるとも報告されている1

治療:壊死範囲の確定を待つ

壊死範囲が確定するまで切断を急がない。 による組織障害は受傷直後には過小評価・過大評価のいずれにも傾きやすく、生存しうる組織まで失う早期切断を避けるため、壊死境界が明確になるまで切断を遅らせる方針(受傷後最大6週間)が採られる2。臨床的には、によると壊死境界の形成が受傷後3〜8週で明らかになるとされ、この経過を待たずに切断範囲を決めない2

まとめ

  • は組織の凍結を伴う寒冷障害で、非凍結性のとはこの一点で決定的に異なる。
  • 組織障害は氷晶形成による直接的な細胞傷害(凍結相)と、融解時の(融解相)の2相からなり、融解-再凍結の繰り返しはさらに障害を増悪させる。
  • 深度は第1〜4度(または手足のグレード1〜4)で分類し、範囲が近位に及ぶほど切断リスクが高い。
  • 治療の骨格は37〜39℃の温水による急速で、再凍結の危険があるうちは開始しない。全身性低体温があればの回復を先行させる。
  • 水疱は性状で扱いを分け、白濁水疱は除去、は温存する。
  • 受傷早期のは切断率を下げうる肢で、投与のタイミングが重要である。
  • 壊死範囲の確定(受傷後3〜8週の壊死境界形成)を待ってから切断を判断する——早期切断は生存しうる組織まで失わせる。

出典

  1. 1.Frostbite(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)凍傷の組織障害が細胞外・細胞内の氷晶形成による直接的な細胞膜傷害と、融解時の再灌流に伴う炎症性サイトカイン放出による障害の2つの機序からなること(Histopathology節)、繰り返す融解-再凍結のサイクルが進行性の組織虚血と血栓形成を来すこと(Histopathology節)、深度分類(第1〜4度、および手足の重症度に応じたグレード1〜4)の内容(Staging節)、全身性低体温がある場合はまず深部体温を35℃以上に上げてから患部を加温すること(Treatment/Management節)、白濁した水疱は穿刺・除去を、出血性水疱はそのまま温存することが推奨されていること(Treatment/Management節)、tPA投与により指趾切断の必要性が減少しうること、イロプロストが虚血予防の治療選択肢として用いられてきたこと(Treatment/Management節)、組織生存性の判定を待つ遅延切断(受傷後最大6週)が不要な外科的処置を防ぎうること、壊死境界(demarcation)は受傷後3〜8週で明確になること(Treatment/Management節、History and Physical節)を確認した。なお本ページは再加温の温水温度を40〜42℃と記載しているが、これはWilderness Medical Societyの現行(2019・2024)ガイドラインが定める37〜39℃より高く、現行の一次資料とは一致しない。本ノートの再加温温度は2024年WMSガイドラインの37〜39℃を採用した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.What Is New in Altitude- and Cold-Related Illnesses of Travel: Appraisal and Summary of the Updated Guidelines from the Wilderness Medical Society(International Journal of Environmental Research and Public Health・2025)2024年改訂のWilderness Medical Society凍傷ガイドラインが、37〜39℃に維持した温水中で組織が柔らかくなるまで(目安約30分)急速再加温すること、再凍結の危険を避けることを中等度のエビデンスに基づく強い推奨としていること、再加温が現場で安全に行えない場合は再加温を試みるより搬送・固定を優先すること、イロプロストをCauchy分類グレード2〜4の深部凍傷に対し再加温後72時間以内(できるだけ早期)に投与することを推奨していること、Cauchy分類グレード3・4の重症凍傷に対し受傷後24時間以内の静注または動注tPAを推奨していること、遠隔地の一次医療機関で早期にtPAを開始してから高次医療機関へ搬送する運用が切断率を安全に低下させうるとしていることを確認した。閲覧 2026-08-11