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Disease Atlas · 皮膚 · 疾患

特発性後天性全身性無汗症

Acquired idiopathic generalized anhidrosis

別名
AIGA
臓器系
皮膚神経
科目
Medical PhysiologyDermatology
トピック
生理学 8.10:温度受容器・体温調節・皮膚循環の調節皮膚科 1-03:蕁麻疹の病態機序と臨床型
鑑別疾患
Ross症候群
続発疾患
熱中症・低体温症
関連疾患
蕁麻疹
治療薬
プレドニゾロンメチルプレドニゾロン
症状
乏汗症発汗
検査値
温熱発汗試験

🧠 全体像:AIGAは、皮膚・代謝・のいずれにも説明できない後天性の広範な無汗/が、発汗以外の・症候を伴わずに起こる病態である。日本の163で、報告例の大半が日本を含むアジアに集中する。核心は「神経は保たれているのに汗が出ない」という一点——が発汗線維の脱落(神経側の問題)であるのに対し、AIGAの主要病型(特発性純粋機能不全:IPSF)は汗腺側の(CHRM3)発現低下が想定される、という違いで理解する。しばしばを合併し、両者は同一スペクトラムの病態と考えられている。重症ではのリスクを負い、治療は早期のが軸になるが有効性は確立していない。

病態:Ross症候群との違いを軸に

AIGAの病型は、・特発性純粋機能不全(IPSF)・の3つに分けられ、IPSFがAIGA全体のおよそ90%を占める中心的な病型である1。

flowchart TD
    A["汗腺周囲への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocytic infiltration'>リンパ球浸潤</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eccrine sweat gland'>エクリン汗腺</span>のCHRM3(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscarinic receptor'>ムスカリン受容体</span>M3)発現が低下・消失"]
    B --> C["アセチルコリンが汗腺に結合できない"]
    C --> D["無汗・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypohidrosis'>減汗</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distal extremities'>四肢遠位</span>優位、体幹に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypohidrosis'>減汗</span>)"]
    C --> E["アセチルコリンが隣接する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mast cell'>マスト細胞</span>へあふれ出す"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wheal'>膨疹</span>形成(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholinergic urticaria'>コリン性蕁麻疹</span>)"]

⭐ IPSFでは(・腋窩の発汗)が保たれる。 無汗はに強く、は体幹(胸腹部・背部)に多いという分布を示し、・腋窩の発汗はしばしば保たれる1。汗腺周囲のの程度がCHRM3発現の低下度とすることからが想定されているが、抗CHRM3自己抗体が確認されたのは12例中1例にとどまり、はなお仮説の域を出ない1。

💡 「発汗以外の・症候を伴わない」ことが定義に組み込まれている。 のように()やを伴わない——この随伴所見の有無こそが両者を分ける最大の手がかりになる2。

疫学

発症のピークは20〜40歳で、報告例の80%超を男性が占める。報告のほとんどがアジア、特に日本に集中している1。日本国内のはおよそ100〜200人と推定されるが、正確な発生頻度は明らかになっていない2。

診断基準(指定難病163)

日本のは2項目からなり、両方を満たして診断する2。

基準 内容
基準A 明らかな原因なく後天性にの広範な無汗/を呈するが、発汗以外のおよび症候を認めない
基準B を用いたなどによるで黒色にしない領域、もしくはによる領域が、全身の25%以上の範囲にみられる

もによる無汗・低汗病変部の面積を用いて評価し、医療費助成の対象は中等症以上とされる2。

⚠️ 「基準A」はの性格が強い。 薬剤性・代謝性(糖尿病など)・皮膚疾患性・やのような性のを除外して初めてAIGAと呼べる。

臨床像とコリン性蕁麻疹

⭐ AIGA患者では、運動・入浴などで発汗を誘発しようとすると、皮膚のピリピリした痛みや()を伴うことが多い。 これはAIGAとが同一の病態スペクトラムに属すると考えられている根拠の一つで、部でアセチルコリンがCHRM3に捕捉されずへ作用することでが生じるという機序が提唱されている1。

自己免疫疾患(、関節リウマチ、Crohn病、、、など)の合併が報告されており、AIGAをとみなす根拠の一つとされているが、これらは併存の報告にとどまり、AIGAがこれらの疾患を引き起こすというを示すものではない1。

合併症

⚠️ 広範な無汗はを破綻させる。 重症例ではをきたしうる23。運動制限・屋外活動の制限による生活の質の低下もできない1。

治療

⭐ 第一選択はである。 著者らの少数例の報告では改善は4例中3例にとどまり、全例に効くわけではない1。改善する場合は、無汗部が部を経て正常発汗部へ段階的に縮小するという回復パターンをたどる1。

⚠️ 発症から治療開始までの遅れと若年発症は、治療反応性を下げる負の予後因子である。 季節も治療反応・再発に影響する1。後はへ移行しうるほか、が用いられることもあるが、いずれも十分に確立された治療法とは言えない2。

鑑別

鑑別 分ける手がかり
・を伴う。汗腺自体ではなく線維の脱落が病態で、瞳孔・腱反射という随伴所見がある
遠位優位・の。異常と他の自律神経症状を伴う
薬剤性 などのの使用歴で見分ける
など先天性の 後天性であることがAIGAの定義に含まれるため、小児期からの無汗の既往があれば除外に働く

まとめ

  • AIGAは、皮膚・代謝・で説明できない後天性の広範な無汗/で、発汗以外の・症候を伴わない。は基準A(的な臨床像)と基準B(で全身の25%以上の無汗/)の両方を満たすことで確定する。
  • 主要病型(IPSF、AIGAの約90%)は汗腺のCHRM3発現低下が想定され、そのものが脱落するとは病態のレベルが異なる。・腋窩のが保たれやすい。
  • をしばしば合併し、同一スペクトラムの病態と考えられている。
  • 重症ではをきたしうる。治療は早期のが軸だが、全例には効かず、発症からの遅れと若年発症が反応性を下げる。
  • との鑑別点は、・という随伴所見の有無である。

出典

  1. 1.Acquired Idiopathic Generalized Anhidrosis (AIGA) and Its Complications: Implications for AIGA as an Autoimmune Disease(International Journal of Molecular Sciences・2021)AIGAが皮膚・代謝・神経学的な直接原因のない全身性の無汗/減汗の急性〜亜急性発症であること、発症年齢のピークが20〜40歳で報告例の80%超を男性が占めること、報告例の大半がアジア特に日本に集中していること、AIGAの病型のうち特発性純粋発汗神経機能不全(idiopathic pure sudomotor failure:IPSF)がAIGA全体の約90%を占め精神性発汗(掌蹠・腋窩)が保たれる点で他の病型と区別されること、無汗の好発部位が四肢遠位、減汗が体幹(胸腹部・背部)に多く掌蹠・腋窩の発汗はしばしば保たれること、エクリン汗腺のCHRM3(ムスカリン性アセチルコリン受容体M3)発現が無汗部で消失し減汗部で部分的に低下しており汗腺周囲へ浸潤するリンパ球数と逆相関すること、12例中1例で抗CHRM3自己抗体が検出されたと報告されるにとどまり自己免疫機序はなお仮説段階であること、コリン性蕁麻疹の合併頻度が高くAIGAとコリン性蕁麻疹(無汗/減汗を伴う型)が同一の疾患スペクトラムに属すると考えられていること、その機序として減汗部でアセチルコリンがCHRM3に捕捉されず隣接するマスト細胞へ作用し膨疹を生じる説が提唱されていること、重症例が熱中症をきたしうること、中枢性尿崩症・関節リウマチ・Crohn病・円形脱毛症・尋常性白斑・Vogt-小柳-原田病・扁平苔癬・Basedow病・肺サルコイドーシス・尋常性乾癬・低ガンマグロブリン血症など自己免疫疾患の合併報告が本症を自己免疫疾患と考える根拠の一つとされること、治療の第一選択がステロイドパルス療法でありその後経口ステロイドへ移行しうること、著者らの少数例(4例中3例)で発汗の改善がみられたと報告されていること、改善する際は無汗部が減汗部を経て正常発汗部へ段階的に縮小すること、若年発症であることと発症から治療開始までの遅れが治療反応性を下げる負の予後因子であること、季節が治療反応・再発に影響すること、治療で全例が改善するわけではないことを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.特発性後天性全身性無汗症(指定難病163)(難病情報センター(厚生労働省 発汗異常を伴う稀少難治性疾患の治療指針作成、疫学調査の研究班)・2015)診断基準が、基準A(明らかな原因なく後天性に非髄節性の広範な無汗/減汗を呈するが発汗以外の自律神経症候および神経学的症候を認めない)と基準B(ヨードデンプン反応を用いたミノール法などによる温熱発汗試験で黒色に変色しない領域、もしくはサーモグラフィーによる高体温領域が全身の25%以上の範囲にみられる)の2項目からなり、A・Bの両方を満たしてAIGAと診断すること、重症度分類が温熱発汗試験による無汗・低汗病変部の面積の評価に基づき医療費助成の対象は中等症以上であること、国内患者数がおよそ100〜200人と推定され発生頻度自体は明らかでないこと、治療としてステロイドパルス療法・ステロイド内服療法・免疫抑制剤が行われているが十分に確立された治療法とは言えないことを確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Revised guideline for the diagnosis and treatment of acquired idiopathic generalized anhidrosis in Japan(The Journal of Dermatology(日本皮膚科学会)・2017)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。AIGAが熱・運動への曝露があっても全身の発汗が得られない後天性障害であり、重症例は熱中症をきたしうること、報告例の大半がアジア特に日本に集中していること、当時は疫学情報が乏しく確立した診断基準・適切な治療法がなかったこと、本ガイドラインが病因・診断・重症度評価・エビデンスに基づく治療推奨を整理し重症度に応じた適切な治療が臨床症状と心理的苦痛の軽減につながりうるとしていることを確認した。閲覧 2026-09-02