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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

バセドウ病

Graves disease

別名
Graves-Basedow病グレーブス病Basedow病
臓器系
内分泌・代謝免疫・膠原病
科目
Internal MedicinePathophysiologyPathologySurgery
トピック
内科学 E-02:甲状腺疾患の症状・診断・治療内科学 L-29:甲状腺機能亢進症病態生理学 I-19:甲状腺機能亢進症の発症機序と症状病理学 C/85:甲状腺炎/甲状腺機能低下・亢進外科学 S-02:甲状腺の良性疾患と治療
鑑別疾患
甲状腺炎(亜急性・産後・無痛性・リーデル)中毒性腺腫中毒性多結節性甲状腺腫妊娠性絨毛性疾患(胞状奇胎・絨毛癌)非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
続発疾患
心房細動骨粗鬆症周期性四肢麻痺
関連疾患
原発性副腎不全甲状腺機能低下症尋常性白斑
治療薬
チアマゾールプロピルチオウラシルプロプラノロールヨウ素ヒドロコルチゾンテプロツムマブ
原因薬剤
アレムツズマブ
症状
筋力低下振戦体重減少動悸発汗不安不眠舞踏運動上輪部角結膜炎眼球突出眼瞼後退
検査値
甲状腺刺激ホルモンTRAb抗TPO抗体
画像所見
甲状腺シンチグラフィ集積パターン
スコア
Burch-Wartofskyスコア
適応薬
チアマゾールテプロツムマブ
禁忌薬
アンフェタミン誘導体

🧠 全体像は、TSH受容体を刺激する自己抗体(TRAb/TSI)が甲状腺を「アクセル踏みっぱなし」の状態にする自己免疫疾患である。の全身症状に加え、という他の原因では説明できない所見が加わるのが特徴で、診断は「TSH低値→FT4/FT3上昇→TRAb陽性、または摂取率スキャンでびまん性高摂取」の順で組み立てる。治療は・手術の3本柱を、・妊娠・甲状腺腫の大きさ・患者の希望で個別化する。

定義と病態

は、TSH受容体に対する刺激性自己抗体(TSH receptor antibody:TRAb、なかでも:TSI)がのTSH受容体を持続的に刺激することで生じる自己免疫性の甲状腺機能亢進症である。甲状腺機能亢進症(原発性に甲状腺自身が合成・分泌を増やす病態)の原因のなかで最も頻度が高く、20〜40歳代の女性に好発する(女性が男性の5〜10倍)。(HLA-DR3など)に、喫煙、ストレス、ウイルス感染、産後などの環境因子が重なって発症すると考えられている。

TRAbには機能の異なる複数の亜集団がある。刺激性のTSI受容体を活性化してホルモン産生・の増殖を促す一方、TSH結合阻害性の抗体はTSHの結合を妨げて機能亢進・機能低下のいずれにも働き得る。同一患者で両者が混在することもあり、TRAbの力価だけで臨床像のすべてを説明できるわけではない。抗体()やも高率に陽性となるが、これらは自己免疫性を裏づける傍証であり、TSH受容体を直接刺激する主因はTRAb/TSIである。

眼窩や皮膚(前脛)にはTSH受容体や(IGF-1R)を発現する線維芽細胞が存在し、TRAbやTリンパ球がこれらを標的にすることで組織の炎症、沈着、浮腫、線維化が生じる。これが(Graves orbitopathy/thyroid eye disease)との機序であり、甲状腺そのものの機能亢進とは別軸で進行し得るため、の活動性は甲状腺機能とは必ずしも並行しない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝素因</span>+喫煙・ストレス・ウイルス感染など"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune tolerance'>免疫寛容</span>の破綻"]
    B --> C["TSH受容体刺激自己抗体(TRAb/TSI)産生"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid follicular cell'>甲状腺濾胞細胞</span>のTSH受容体を持続刺激"]
    D --> E["ホルモン合成・分泌増加+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular epithelium'>濾胞上皮</span>増殖"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse goiter'>びまん性甲状腺腫</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>"]
    C --> G["眼窩・前脛<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bony part'>骨部</span>の線維芽細胞(TSH受容体・IGF-1R陽性)を標的"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycosaminoglycan (GAG)'>グリコサミノグリカン</span>沈着・浮腫・線維化"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid eye disease'>甲状腺眼症</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diplopia'>複視</span>)"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pretibial myxedema'>前脛骨粘液水腫</span>"]

💡 を「TSH受容体を通じて甲状腺と眼窩・皮膚の両方が刺激される全身性自己免疫疾患」と捉えると、甲状腺機能を正常化してもが別のタイミングで悪化し得ることが理解しやすい。

臨床像

甲状腺中毒症の一般症状

  • 暑がり、発汗過多、体重減少(食欲は保たれるか増加)、頻回便
  • 、頻脈、、心房細動
  • 微細振戦、、骨量低下
  • 不安、、不眠、
  • ・無月経、

⭐ 高齢者では典型的な交感神経症状が乏しく、体重減少・心房細動・・抑うつのみを呈する「apathetic hyperthyroidism(無症候性・冷徹型)」を来すことがあり、見逃しやすい。

バセドウ病に特徴的な所見

所見 内容 備考
対称性・平滑な腫大、を聴取することがある を反映する
・遅落、、重症例では 甲状腺機能や治療経過と必ずしも並行しない
脛骨前面のの浸潤性皮膚肥厚 頻度は低いが本疾患に特異的
の軟部組織腫脹と様変化、 まれ。通常は活動性を伴う重症例で出現する

⚠️ による「凝視」自体は交感神経刺激によるもので原因を問わず起こり得るが、浮腫を伴う浸潤性にほぼ特異的であり、他のなど)との鑑別点になる。

診断

診断の進め方

TSHと遊離T4(必要ならT3も)でを確認したのち、TRAb)でを支持できるかを判断する。臨床像やTRAbで診断が確定できない場合に、または頸部で甲状腺自体のホルモン産生が亢進しているか(合成亢進型)、既成ホルモンの漏出によるものか(型)を鑑別する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>を疑う症状"] --> B["TSH測定"]
    B --> C["TSH低値:遊離T4/T3を確認"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>を確認"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse goiter'>びまん性甲状腺腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmopathy'>眼症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pretibial myxedema'>前脛骨粘液水腫</span>の有無を診察"]
    E --> F["TRAb(TSI)を測定"]
    F -->|"陽性"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graves disease'>バセドウ病</span>と診断"]
    F -->|"陰性・所見が非典型"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radioactive iodine uptake'>放射性ヨウ素摂取率</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintigraphy'>シンチグラフィ</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Doppler ultrasonography'>超音波ドプラ</span>"]
    H --> I["びまん性高摂取・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased blood flow'>血流増加</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graves disease'>バセドウ病</span>"]
    H --> J["局所高摂取:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functioning thyroid nodule'>機能性結節</span>"]
    H --> K["低摂取:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='destructive thyroiditis'>破壊性甲状腺炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exogenous hormone'>外因性ホルモン</span>"]

甲状腺中毒症の原因の鑑別

病態 TRAb 特徴
陽性 びまん性に増加
陰性 結節部に限局して増加 な結節、なし
甲状腺炎 陰性 低下 有痛性甲状腺腫大、ESR/→低下期→回復の
無痛性・ 通常陰性(抗TPO陽性のことあり) 低下 疼痛なし、産後に多い、
外因性甲状腺ホルモン摂取 陰性 低下 血清低値が手掛かり
陰性 びまん性に増加 TSHが抑制されない(不適切に正常〜高値)

は結節性病変の評価や血流の確認に有用だが、あらゆるの「」ではない。で高摂取と低摂取を分けることが原因鑑別の要になる。

検査値のまとめ

  • TSH:抑制(低値)
  • 遊離T4・遊離T3:上昇(T3優位に上昇するの亜型もある)
  • TRAb(TSI):⭐ 陽性が診断の中心的な手掛かり
  • :陽性のことが多いが非特異的

治療

甲状腺機能亢進症の根本原因を治すのではなく、①症状コントロール、②甲状腺ホルモン産生の抑制、③根治(寛解導入または甲状腺の除去・破壊)という3つの軸で組み立てる。・手術のいずれも一次選択になり得る有効な治療であり、どれか一つを機械的な第一選択とはしない。

治療 向いている状況 主な注意点
〕を優先) 初回治療、寛解を期待する軽症〜中等症、妊娠中・妊娠希望、や手術を避けたい患者 ・肝障害のリスクを事前に説明する。は重い肝毒性のため、など限られた状況に限定する1
(¹³¹I) 再発例、薬物治療が続けにくい患者、合併例 妊娠・授乳は。中等度〜重度の活動性では原則として回避し、軽度の活動性でRAIを行う場合はグルココルチコイド予防投与を併用する2
・準全摘術 大きな甲状腺腫による圧迫症状、悪性結節の合併・疑い、重症・活動性で速やかな根治を要する例、妊娠中〜第2三半期で薬物治療が困難な例、患者の強い希望 経験豊富な甲状腺外科医が行う。術前にで機能を正常化してから手術し、術後のに注意する

を選ぶ場合、標準的な投与期間はおおむね12〜18か月で、その時点でTSH・TRAbが正常化していれば中止し寛解を試みるという方針が長く教えられてきた。近年の臨床データでは、より長期(数年単位)の継続がより高い寛解率と関連するとの報告が蓄積しており、副作用が管理できていれば12〜18か月で機械的に中止せず、より長期の継続も選択肢として患者と話し合う方向に重心が移りつつある。いずれの期間でも、中止後は再発リスクがあるため経過観察を継続する。

症状コントロール

など)は、頻脈・・振戦・不安といった過剰症状を速やかに軽減し、の効果発現前や診断確定前の橋渡しとしても有用である。喘息・高度徐脈などの禁忌がなければ、原因を問わずの初期対応に広く用いる。

抗甲状腺薬の安全性モニタリング

⚠️ の頻度はで約0.1〜0.3%、で約0.3%とされる1内服中に発熱・が出現したら直ちに内服を中止し、を確認する(の除外)よう、投与開始時にあらかじめ患者へ説明しておく。黄疸、、著明な掻痒などは肝障害を示唆する症状であり、同様に速やかな評価と中止を要する。

甲状腺クリーゼ

は、慢性のが感染、手術、外傷、の中断・不遵守、分娩などを誘因として急激に悪化した生命を脅かすで、はその代表的な背景疾患である。単一のの高さでは診断せず、臨床像で判断し直ちに治療を開始する。

は、(頻脈・心房細動・心不全)、誘因の有無を点数化し、45点以上でが強く疑われる、25〜44点で切迫状態として厳重な観察・治療を要する、25点未満では可能性が低いと判定する臨床診断の補助ツールである。あくまで臨床的可能性を評価する目安であり、点数だけで機械的に確定・除外はしない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid storm'>甲状腺クリーゼ</span>を疑う臨床像<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperthermia'>高体温</span>・意識障害・著明な頻脈・心不全・消化器肝障害)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Burch-Wartofsky Point Scale'>Burch-Wartofskyスコア</span>で臨床的可能性を評価"]
    B --> C["ICUで気道・循環・体温・電解質を支持"]
    C --> D["誘因を検索し治療(感染症など)"]
    D --> E["β遮断薬で交感神経症状を制御"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thionamide (antithyroid drugs)'>チオナミド</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antithyroid drug'>抗甲状腺薬</span>)で新規ホルモン合成を阻害"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thionamide (antithyroid drugs)'>チオナミド</span>投与後にヨウ素を投与し放出を抑制"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucocorticoids'>糖質コルチコイド</span>でT4→T3変換抑制+副腎不全に備える"]

⚠️ ヨウ素をより先に投与すると、かえって新規ホルモン合成の基質を供給してしまう()。投与から一定時間(目安として少なくとも1時間)をおいてからヨウ素を投与する順序を守る。が不安定な例ではβ遮断薬の種類・用量を慎重に選び、心不全・体温・電解質・肝機能を同時に管理する。

甲状腺眼症の管理

は甲状腺機能の正常化だけでは改善しないことが多く、活動性・重症度に応じて独立して管理する。禁煙はの発症・増悪双方の危険因子として重要で、全例に強く指導する。軽症ではなどの支持療法で経過をみるが、中等症〜重症の活動性では追加治療を検討する。

病期・重症度 主な対応
軽症 禁煙指導、などの支持療法、経過観察
中等症〜重症・活動性 静注グルココルチコイド、または)を中心とした薬物治療
を伴う重症例 緊急の、無効なら緊急
期の などのを病期が落ち着いてから順に検討

は、を伴う中等症〜重症の活動性に対する抗IGF-1受容体モノクローナル抗体である。位置づけはガイドラインで異なり、2022年ATA/ETAコンセンサスはの改善・炎症の消退やの軽減を目標とする場合の第一選択に位置づける一方、2021年EUGOGOガイドラインは静注グルココルチコイド(±系薬剤)を第一選択とし、当時の薬剤アクセス・費用・データのからを第二選択としていた2。2025年6月には欧州でも承認されており3、今後この位置づけが見直される可能性がある。高血糖の増悪、難聴・などの聴覚障害、の増悪といった副作用があり、投与前後のモニタリングを要する。

⚠️ 中等度〜重度の活動性ではを避け、や手術を優先する。軽度の活動性でRAIを選択する場合は、低用量などのグルココルチコイド予防投与を併用する2

まとめ

  • はTRAb/TSIによるTSH受容体の持続刺激を主因とする自己免疫性甲状腺機能亢進症で、甲状腺・眼窩・前脛の線維芽細胞が共通して標的となる。
  • の一般症状に加え、、まれにを伴う点が他の原因と異なる。
  • 診断はTSH低値・遊離T4/T3上昇の確認とTRAb測定が中心で、非典型例ではで合成亢進型()と破壊性・外因性(低摂取)を鑑別する。
  • 治療は優先)・・手術のいずれも有効な選択肢であり、妊娠、の活動性、甲状腺腫の大きさ、患者の希望で個別化する。の投与期間は12〜18か月が目安だが、長期継続がより高い寛解率と関連するとの知見も踏まえて柔軟に判断する。
  • を参考にした臨床診断で、支持療法・β遮断薬・・その後のヨウ素・て行う。
  • 中等症〜重症の活動性にはグルココルチコイドを検討し、甲状腺機能の正常化とは独立して管理する。

出典

  1. 1.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)メチマゾール(チアマゾール)は妊娠第1三半期・甲状腺クリーゼ・メチマゾールへの軽度反応でRAI/手術を拒否する患者を除き抗甲状腺薬治療の第一選択であること、無顆粒球症の発生頻度がメチマゾールで約0.1〜0.3%、プロピルチオウラシルで約0.3%であることを確認した閲覧 2026-08-02
  2. 2.Comparison of the 2021 EUGOGO guidelines and the 2022 ATA/ETA consensus statement for the management of Graves' orbitopathy(European Thyroid Journal(Bartalena et al.)・2025)中等症〜重症の活動性甲状腺眼症では放射性ヨウ素治療を避けるべきであること、2021年EUGOGOガイドラインは静注グルココルチコイドを第一選択としテプロツムマブを(当時の薬剤アクセス・費用・安全性データの制約から)第二選択としたこと、2022年ATA/ETAコンセンサスは複視改善・眼球突出軽減を目標とする場合にテプロツムマブを第一選択とすることを確認した閲覧 2026-08-02
  3. 3.Tepezza (teprotumumab) — EPAR medicine overview(European Medicines Agency・2025)テプロツムマブが2025年6月に欧州連合域内で販売承認を取得し、甲状腺眼症に対するEU初の分子標的治療になったことを確認した閲覧 2026-08-02