疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

中毒性多結節性甲状腺腫

Toxic multinodular goiter

別名
Plummer病Plummer disease中毒性結節性甲状腺腫
臓器系
内分泌・代謝
科目
HistopathologyInternal Medicine
トピック
組織病理 H2-105A:多結節性甲状腺腫の機能性合併症と圧迫症状・治療選択内科学 E-03:甲状腺結節と甲状腺癌内科学 L-29:甲状腺機能亢進症
鑑別疾患
バセドウ病中毒性腺腫非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
続発疾患
心房細動骨粗鬆症
治療薬
チアマゾールプロプラノロールヨウ素
原因薬剤
アミオダロンヨード造影剤
症状
動悸体重減少振戦発汗
検査値
甲状腺刺激ホルモンTRAb
画像所見
甲状腺シンチグラフィ集積パターン甲状腺結節
適応薬
チアマゾール

🧠 全体像(Plummer病)は、長期化したの一部の結節がTSH受容体シグナルを自律的に活性化し、TSHに依存せずホルモンを産生するようになった状態である。学習の骨格はとの対比に尽きる——が「TSH受容体を刺激する自己抗体」というによるびまん性の暴走であるのに対し、本症は結節自体のによるTSH非依存性の局所的暴走であり、自己免疫を介さないためを伴わない。もう一つの核心は、だけでは自然寛解しないためまたは手術がであり、はあくまでそのにすぎないという位置づけである。

病態

長期にわたり過形成と退縮を繰り返したでは、一部の結節でTSH受容体シグナル経路の体細胞性(TSHやGsαをコードするGNASの変異など)が生じ、TSH刺激とはにホルモンを合成・分泌するようになる。

flowchart TD
    A["長期化した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multinodular goiter'>多結節性甲状腺腫</span>"] --> B["一部結節でTSH受容体シグナル経路が体細胞性に活性化"]
    B --> C["TSHに依存しない甲状腺ホルモン産生"]
    C --> D["血中TSHが抑制される"]
    D --> E["非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic'>自律性</span>の結節・周囲正常組織は相対的に抑制"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic multinodular goiter'>中毒性多結節性甲状腺腫</span>(Plummer病)"]

に次いで甲状腺機能亢進症の原因として2番目に頻度が高い。 好発は50歳以上・女性で、の発症は60〜70歳代でピークを迎える。長期の地域でより多いとする研究があるが、状況証拠にとどまるとされる1。単一の結節だけが自律機能を獲得した場合は「」と呼び、複数結節が自律化した本症とは臨床的意義が近いが病理学的には区別される。

バセドウ病との対比

項目
機序 結節のによるTSH非依存性の自律機能 TSH受容体刺激自己抗体(TRAb/TSI)
好発年齢 高齢者に多い 20〜40歳代
伴わない 伴いうる(自己免疫機序)
TRAb 陰性 陽性
甲状腺の性状 多結節性・不整 びまん性・平滑
多発性の斑状集積(結節部に限局した高取込み+周囲の抑制) びまん性高取込み
臨床像 ・体重減少などがなことが多い 交感神経症状が前景に立ちやすい

⚠️ 自己免疫機序を介さないため、を認めたら本症ではなくを疑う。逆に高齢者で原因不明の体重減少や心房細動があり、典型的な交感神経症状を欠く場合(無欲性甲状腺機能亢進症)は、年齢だけで甲状腺機能亢進症を除外せず本症を含めて検索する。

臨床像

  • 体重減少振戦発汗などの一般的な状に加え、な多結節性の甲状腺腫大を伴う。
  • 高齢者では典型的な症状が乏しく、心房細動や原因不明の体重減少のみで気づかれることがある。
  • 甲状腺腫が大きい場合は気管・食道の圧迫症状(呼吸困難・嚥下障害・嗄声)を来しうる。新規に出現した嗄声は良性のとせずの合併を検索する。

診断

TSH低値・遊離T4/T3上昇でを確認し、TRAbが陰性であることと甲状腺の性状(多結節性)でと鑑別する。診断を確定するのはで、複数の結節に限局した取り込み増加と、それ以外の甲状腺組織における取り込み低下という斑状の不均一なパターンを示す1。単一結節のみが高取込みを示し周囲が抑制されていればを、甲状腺全体がびまん性に高取込みを示せばを考える。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>を疑う症状+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multinodular goiter'>多結節性甲状腺腫</span>"] --> B["TSH低値・遊離T4/T3上昇を確認"]
    B --> C["TRAb測定"]
    C -->|"陰性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid scintigraphy'>甲状腺シンチグラフィ</span>"]
    C -->|"陽性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graves disease'>バセドウ病</span>を疑う"]
    D -->|"多発性の斑状集積"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic multinodular goiter'>中毒性多結節性甲状腺腫</span>と診断"]
    D -->|"単一結節の高取込み+周囲抑制"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic adenoma'>中毒性腺腫</span>"]

⚠️ ヨード負荷による甲状腺クリーゼ(Jod-Basedow現象)

本症を含むを持つ患者は、などヨードを大量に含む薬剤への曝露で急激なの増悪(を含む)を来しうる。 正常な甲状腺は過剰なヨードに対しで合成を一時的に抑制できるが、自律機能を獲得した結節はこの抑制機構から外れており、供給されたヨードをそのままホルモン合成の基質として使ってしまう()。

による1型誘発性は、この機序の代表例である。など基礎に甲状腺自体の異常がある患者に生じるヨード誘発性の甲状腺機能亢進症であり、正常甲状腺にを来す2型とは機序も治療も異なる(1型は±ナトリウム、2型はグルココルチコイドが中心)2による造影検査も同じ機序でを誘発しうるため、既知の結節を持つ患者への投与は必要性を吟味し、高リスク例では事前の甲状腺機能評価を検討する。

治療

は自然寛解を来さずにならない。 ではによる導入が現実的な選択肢になるのに対し、本症の自律機能結節はTSH刺激を離れて自律化しているため、を中止すれば機能亢進がする。したがってなどのは、または手術というの前に甲状腺機能を正常化するための橋渡し・術という位置づけになる1

治療 位置づけ
前の機能正常化。単独での長期継続は根治にならない
・振戦などの症状緩和
ヨウ素)内用療法 の一つ。より大きな線量を要することが多い
手術(甲状腺・準全摘) 圧迫症状を伴う大きな甲状腺腫、悪性結節の合併・疑いがある場合に優先される

⚠️ 高齢者・心疾患合併例では、の甲状腺機能亢進症だけでなく(TSH低値・遊離T4/T3正常)でもの閾値が下がる。 TSHが持続して0.1 mU/L未満であれば、65歳以上、心疾患危険因子・心疾患・症の合併、症状のある患者では治療が推奨され、これらに該当しない65歳未満の無症候例では治療を考慮するにとどめる。TSHが基準下限〜0.1 mU/L以上にとどまる軽度のでは、65歳以上や心疾患・症・症状を有する患者でのみ治療を考慮する3。本症は高齢者に多いため、この閾値の考え方がそのまま臨床判断に直結する。

まとめ

  • は、の一部結節がTSH非依存性に自律的なホルモン産生を獲得した状態で、に次いで甲状腺機能亢進症の原因として頻度が高い。
  • と異なり自己免疫機序を介さないためを伴わず、TRAbは陰性、は多発性の斑状集積を示す(はびまん性、は単一の+周囲抑制)。
  • への曝露はを介してを誘発しうる。
  • では自然寛解せず、または手術がで、はそのという位置づけである。
  • 高齢・心疾患合併例では、だけでなくでもの閾値が下がる。

出典

  1. 1.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)TSHが持続して0.1 mU/L未満の潜在性甲状腺機能亢進症では、65歳以上・心疾患危険因子や心疾患・骨粗鬆症の合併・エストロゲン/ビスホスホネート非使用の閉経後女性・症状のある患者で治療を推奨し、これらに該当しない65歳未満の無症候例では治療を考慮するにとどめること、TSHが基準下限〜0.1 mU/L以上の軽度潜在性では65歳以上や心疾患・骨粗鬆症・症状のある患者でのみ治療を考慮することを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.2018 European Thyroid Association (ETA) Guidelines for the Management of Amiodarone-Associated Thyroid Dysfunction(European Thyroid Association(Bartalena L, et al.)・2018)1型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は、多結節性甲状腺腫や潜在性バセドウ病など基礎に甲状腺自体の異常がある患者に生じるヨード誘発性の甲状腺機能亢進症(Jod-Basedow現象)であり、正常甲状腺に生じる破壊性の2型(甲状腺炎)とは機序が異なるためチオナミド+過塩素酸ナトリウムとグルココルチコイドという治療法も使い分けること確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Plummer Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)中毒性多結節性甲状腺腫(Plummer病)のシンチグラフィでは、結節部に限局した取り込み増加と背景甲状腺組織の取り込み低下という斑状パターンを示すこと、抗甲状腺薬(プロピルチオウラシル・メチマゾール)は放射性ヨウ素治療や手術までの待機期間・術前処置として用いられ根治治療ではないこと、バセドウ病に次ぐ甲状腺機能亢進症の2番目に多い原因とされ女性・50歳以上に多く(甲状腺中毒症の発症は60〜70歳代でピーク)、ヨード欠乏との関連を示唆する研究があること(ただし状況証拠にとどまるとされる)を確認した。閲覧 2026-08-11