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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節

Nontoxic goiter and thyroid nodule

臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicineSurgeryENT
トピック
内科学 S-11:甲状腺結節・結節性甲状腺腫の評価と治療外科学 B/02:甲状腺腫の症状・診断・治療耳鼻咽喉科 48:甲状腺の炎症性疾患・変性疾患・腫瘍
鑑別疾患
バセドウ病胸腺腫甲状腺炎(亜急性・産後・無痛性・リーデル)甲状腺癌甲状腺機能低下症中毒性多結節性甲状腺腫
治療薬
レボチロキシン
症状
呼吸困難嗄声嚥下障害
画像所見
甲状腺結節甲状腺シンチグラフィ集積パターン
スコア
ベセスダシステム
組織像
多結節性甲状腺腫

🧠 全体像:甲状腺の腫大・結節を診たら「機能はどうか(TSH)」「形はどうか(超音波での)」「性質はどうか(細胞診)」の3軸で整理する。はTSHが正常なびまん性・多結節性の腫大そのものであり、それ自体は良性の形態異常にすぎない。個々の結節が癌かどうかは、等)とサイズでFNA適応を絞り込み、で細胞診結果を解釈するという一連のアルゴリズムで判断する。ベセスダVI(悪性)や悪性が濃厚な場合の病理組織分類・・術式の詳細はに譲り、本ノートは主に良性側の評価と管理に焦点を当てる。

定義・分類

  • 甲状腺腫 = 甲状腺の腫大。
  • = TSH・遊離T4など甲状腺機能が正常でありながら甲状腺が腫大した状態。形態から、びまん性(単純性甲状腺腫)とに分けられる。
  • 機能亢進を伴うの甲状腺腫(びまん性の〉)や、甲状腺炎に伴う一過性の機能異常は本ノートの対象外で、それぞれ甲状腺炎(亜急性・産後・無痛性・リーデル)を参照する。
  • = 周囲の甲状腺実質と画像的に区別できる限局性病変。な結節は成人の約5%に、超音波での偶発的な発見()はさらに高頻度にみられる。大半は良性(結節・過形成結節・)だが、一部になどの悪性腫瘍を含むため、評価の目的は「臨床的に重要な悪性腫瘍を見逃さず、かつ良性結節への過剰な侵襲的検査を避けること」にある。

病態・原因

主な原因 要点
世界的にみての最多原因。ヨード不足によるT4合成低下がTSHを軽度に上昇させ、代償性のを来す
家族性・遺伝性合成障害 甲状腺ホルモン合成酵素の遺伝性欠損(ホルモン合成異常症)
甲状腺腫誘発物質・薬剤 作用をもつ一部の食品成分、など
特発性 明らかな誘因なくが過形成と退縮を繰り返す
早期の 甲状腺機能がまだ正常な時期にはとして気づかれることがある(機能低下期の詳細は

💡 単純性は、過形成と退縮を繰り返すうちに濾胞の増殖速度が不均一な部分から結節が生じ、数年〜数十年かけてへ移行していくことが多い。「はじめから多結節性だった」わけではなく、の延長線上に多結節化があると理解すると整理しやすい。

臨床像

  • 多くは無症候性で、健診の触診や他目的の頸部画像検査で偶発的に指摘される。
  • 圧迫症状:気管圧迫による呼吸困難(臥位で増悪)、食道圧迫による嚥下障害、への圧迫による嗄声、進展を示唆する(挙上した両腕を保持するとが生じる)。詳細は外科学B/02を参照。
  • 悪性を疑うべき所見(red flag):急速な増大、硬く固定した結節、頸部リンパ節腫大、嗄声、幼少期の頸部放射線照射歴、/の家族歴。これらがあれば結節サイズにかかわらずFNA適応を積極的に検討する。

診断の進め方

flowchart TD
    A["甲状腺腫大・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid nodule'>甲状腺結節</span>を触知/画像で指摘"] --> B["TSH測定 + 頸部超音波"]
    B --> C{"TSH低値か"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid scintigraphy'>甲状腺シンチグラフィ</span>"]
    D --> E{"結節に一致する高集積(hot nodule)か"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomously functioning thyroid nodule'>自律性機能性結節</span><br>通常FNA不要、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>の治療を優先"]
    E -->|"いいえ"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ultrasound risk stratification'>超音波リスク層別化</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='American College of Radiology Thyroid Imaging Reporting and Data System'>ACR TI-RADS</span>等)とサイズでFNA適応を判定"]
    C -->|"いいえ(正常〜高値)"| G
    G --> H{"FNA適応あり"}
    H -->|"なし"| I["超音波での経過観察間隔を設定"]
    H -->|"あり"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fine-needle aspiration, FNA'>超音波ガイド下穿刺吸引細胞診</span>"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bethesda System (thyroid cytopathology)'>ベセスダ分類</span>で判定"]
    K --> L["I:不適正→再FNA"]
    K --> M["II:良性→超音波で経過観察"]
    K --> N["III/IV:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atypia of undetermined significance'>意義不明な異型</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular neoplasm'>濾胞性腫瘍</span><br>再FNA・分子検査・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnostic lobectomy'>診断的葉切除</span>を個別化"]
    K --> O["V/VI:悪性疑い・悪性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid cancer'>甲状腺癌</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>へ"]

の原因にはなるが悪性であることはまれで、通常はFNAの対象にならない。逆に「=癌」でもない点に注意し、は良悪性判定の第一選択ではなく機能性評価の検査と位置づける。

超音波リスク層別化(ACR TI-RADSの例)

分類 代表的超音波所見 FNA閾値(最大径) 経過観察閾値(最大径)
TR1 良性 通常不要 不要
TR2 非疑わしい 主体の良性パターン 通常不要 通常不要
TR3 軽度疑わしい 卵円形・平滑辺縁、軽度リスク特徴が1つ 2.5cm以上 1.5cm以上
TR4 中等度疑わしい リスク特徴(・非平行配列・不整辺縁・石灰化等)が複数 1.5cm以上 1cm以上
TR5 高度疑わしい 高リスク特徴の組み合わせ(著明な・不整辺縁、被膜外進展等) 1cm以上 0.5cm以上

S-11で例示したEU-TIRADSなど、システムもは同じで、リスクが高いほど小さい結節でもFNAを検討し、リスクが低ければサイズ基準を大きくして経過観察を優先する。閾値の絶対値はシステム間でわずかに異なるため、実地では採用しているシステムの基準に従う。

ベセスダ分類(細胞診)

意味 悪性リスクの目安 代表的対応
I 不適正 検体不十分 およそ5〜20% 超音波で再FNA
II 良性 良性所見 およそ2〜7% 超音波リスクに応じた経過観察
III 良悪性を確定できない軽微な異型 およそ13〜30% 再FNA・分子検査・経過観察/を個別化
IV (疑い) 濾胞増殖が優位での評価が必要 およそ23〜34% 分子検査または
V 悪性疑い 悪性を強く疑うが確定に至らない およそ67〜83% 外科的切除を中心に検討
VI 悪性 悪性 97%以上

⚠️ 上記のパーセンテージはBethesda System for Reporting Thyroid Cytopathology改訂第3版(2023年)による目安であり、施設・)の扱い・分子検査の普及度によって変動する。暗記すべき固定値ではなく、個々の患者では超音波所見・分子検査結果と統合して解釈する。の有無で区別され、細胞診単独では確定できない。

治療(良性側)

  • 無症候性の良性結節・の絶対適応がなければ、定期的な超音波フォローが第一選択である。
  • 地域やを伴う例では甲状腺腫縮小を狙って選択的に検討されることがある。ただしヨード充足地域における良性結節へのルーチンのは、現行のATA 2015年版ガイドラインでは推奨されない。結節縮小効果が乏しく一貫しない一方、無症候性による心房細動・骨密度低下のリスクが利益を上回るためである。
  • 症候性の嚢胞性結節:穿刺による内容液吸引、再発例ではを検討する。
  • :圧迫症状(呼吸困難・嚥下障害・嗄声、)、大きな進展、整容上の問題、悪性または悪性疑いの細胞診、良性結果でも臨床・画像所見と乖離する場合などが適応となる。術式・手術合併症の詳細は外科学B/02を参照。
  • :β遮断薬で症状を抑え、必要時はで甲状腺機能を安定化させたうえで、放射性ヨード治療または手術を選択する。・放射性ヨードの使い方の詳細はの記載を参照するが、機序( vs によるびまん性刺激)は別物である点に注意する。

フォローアップ

  • ベセスダII(良性)の結節は、超音波所見のリスクパターンに応じておおむね12〜24か月後に再評価し、安定していれば間隔を延長する、あるいはフォローを終了するかを検討する(高リスクパターンほど短めの間隔を設定する)。
  • 経過観察中に増大、新規の高リスク超音波所見の出現、圧迫症状の出現があれば再評価・再FNAを検討する。
  • 妊娠中は評価の骨格自体はほぼ同様だが、は禁忌であり、TSHの評価基準や放射性ヨード治療の可否は妊娠週数・授乳の有無を踏まえて個別に判断する。

まとめ

  • はTSHが正常なびまん性・大であり、世界的にはが最多の原因である。
  • の評価は、TSH測定(低値ならを除外)→等)とサイズでFNA適応を判定→で細胞診を解釈、という順序で進める。
  • は通常FNA不要で悪性リスクが低く、逆にも一律に悪性を意味しない。
  • ベセスダIII/IVは再FNA・分子検査・を個別化し、V/VIはに進む。
  • 良性結節・の第一選択は経過観察であり、ヨード充足地域でのルーチンのは推奨されない。圧迫症状・悪性疑い・整容上の問題があればを検討する。