組織病理学

組織病理学 · H2-094A

多結節性甲状腺腫

Multinodular goiter

描出疾患
非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
疾患
濾胞結節性疾患

🧠 全体像:は、長期にわたる甲状腺過形成と退縮のサイクルが繰り返された結果生じる不規則な結節性肥大で、多くはヨウ素欠乏による代償性の上昇から始まる。真の腫瘍ではなくの変化であり、一部は化して甲状腺機能亢進症()に進展しうる。

成立機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iodine deficiency'>ヨウ素欠乏</span>・甲状腺ホルモン合成障害"] --> B["血中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>上昇"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular epithelium'>濾胞上皮</span>細胞の肥大・過形成"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse goiter'>びまん性甲状腺腫</span>"]
    D --> E["過形成と退縮を繰り返す"]
    E --> F["不均一な結節形成"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multinodular goiter'>多結節性甲状腺腫</span>"]
    G --> H["一部の結節が自律機能を獲得"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic multinodular goiter'>中毒性多結節性甲状腺腫</span>(甲状腺機能亢進)"]

原因の分類

分類 特徴
土壌・水・食物のヨウ素含有量が少ない地域に多い
散発性 女性に多く、でT4需要が増す時期に好発。(cassava、キャベツ・カリフラワー・かぶなどラナ科野菜、ヨウ素と拮抗するミネラルを含む飲用水など)の摂取が関与しうる

甲状腺ホルモン合成を妨げる物質()は、単一のだけでなく、水質やなど複数の因子が重なって作用することが多い。

標本で確認される所見

所見 解釈
結節が複数(nodule×3など) 過形成と退縮のサイクルが不均一に繰り返された結果生じる不整な結節性増殖。第5版(2022)は「性結節性疾患」という名で扱う1
出血後の 結節内の出血を示す二次性変化
長期病変の間質にみられる変性
石灰化 の出血・壊死巣に伴う
裂隙 出血・壊死物質の分解産物

これらはいずれも長期にわたる過形成・退縮・出血・修復の繰り返しを反映する二次性変化であり、特定の1つを見ただけで悪性を示唆するものではない。

💡 病理側の名前が2022年に変わった。 内分泌・分類第5版(2022)は、という臨床像の背景にある多発性の/腫瘍性病変について、「」という用語をコンセンサスとして採用した。同じ版で由来腫瘍は良性・低リスク・悪性の3群に再編され、低リスク群に・悪性度不確定の・が置かれている1。臨床では「」「腺腫様甲状腺腫」の呼称が引き続き使われるので、旧称も捨てずに、病理報告書でFNDと書かれたら同じものだと読み替えられるようにしておく。

臨床的注意点

は症状(気管・食道の圧迫、方への進展)や整容上の問題を生じうるほか、長期経過で結節の一部が自律的に機能を獲得すると(、Plummer現象)に至ることがある。

⚠️ の結節は本来、真の腫瘍ではなく結節である。しかし急速に増大する結節、周囲と性状が異なる優位結節(dominant nodule)はとの鑑別のため超音波・による評価が必要である2。「結節が多発しているから良性らしい」という古いは成り立たない——10 mm超の結節に穿刺を行った1,985例の検討で、患者あたりの癌の頻度は単発結節14.8%と多発結節14.9%でほぼ同じだった(P=0.95)。ただし多発例では癌が46%で多発性であり、癌の72%が最大結節にあったため、最大結節だけを穿刺すれば足りるわけでもない(穿刺する結節は大きさではなく超音波所見のパターンで選ぶ)3。についてはを参照する。

甲状腺の炎症性・全般は甲状腺炎/・亢進、腫瘍性疾患はを参照する。

まとめ

  • は長期のによる上昇と、過形成・退縮の反復から生じる。
  • (土壌・水・食物のヨウ素不足)と散発性(女性・若年層に多い、曝露)に分けて考える。
  • 、、石灰化、は長期病変の二次性変化である。
  • 結節の一部は自律機能化して甲状腺機能亢進を来しうるが、急速増大・優位結節はとの鑑別を要する。多発結節であること自体は良性の根拠にならない。
  • 病理側の名称は第5版(2022)で「性結節性疾患(FND)」に整理されたが、・腺腫様甲状腺腫という臨床用語も引き続き使われる。

出典

  1. 1.Overview of the 2022 WHO Classification of Thyroid Neoplasms(Endocrine Pathology・2022)WHO内分泌・神経内分泌腫瘍分類第5版(2022)は濾胞細胞由来腫瘍を良性・低リスク・悪性の3群に分けた。多結節性甲状腺腫の臨床背景で生じる多発性の過形成性/腫瘍性病変については、この版で初めて詳述され、それを表す用語として「甲状腺濾胞性結節性疾患(thyroid follicular nodular disease, FND)」がコンセンサスとして採用された。低リスク群にはNIFTP・悪性度不確定の濾胞性腫瘍・硝子化索状腫瘍が含まれ、乳頭癌はBRAF様、被包型濾胞型乳頭癌と濾胞癌はRAS様の悪性腫瘍として分子プロファイルで層別化される閲覧 2026-08-24
  2. 2.2015 American Thyroid Association Management Guidelines for Adult Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer(American Thyroid Association・2016)甲状腺結節は超音波所見のパターンと大きさに基づいて穿刺吸引細胞診の適応を決め、細胞診結果はBethesda分類で評価する閲覧 2026-08-24
  3. 3.Prevalence and distribution of carcinoma in patients with solitary and multiple thyroid nodules on sonography(The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism・2006)10 mmを超える甲状腺結節に超音波ガイド下穿刺吸引細胞診を行った1,985例3,483結節の検討で、甲状腺癌の頻度は単発結節例14.8%(1,181例中175例)と多発結節例14.9%(804例中120例)で差がなかった(P=0.95)。結節単位では単発結節のほうが悪性の可能性が高い(P<0.01)。10 mm超の多発結節例では癌は46%で多発性であり、癌の72%が最大結節に存在した閲覧 2026-08-24